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宅配!異世界☆ランチ  作者: ほうとう。
14/15

□クァールのカツサンド



夜食食ってから帰るか。

終電には十分時間があるが、疲れが目立つ宵の口。

この会社はなるたけ残業がないようにと心がけてくれてはいるが、どうしても2月に1度くらいはこんな夜がある。

――大体先方の事情で。

ひとつの会社が余裕ないと連鎖的に他の会社にも迷惑がかかるこのご時世。正直明日に回すことが出来ないってその時点で詰んでると思うんだよね。

不満を抱いた感情のせいでどこかに立ち寄るのもしんどいなと、そんな考え方でイスの上で背筋を伸ばす。

今日は弁当をもってきたが、みんなが食べていたいつものお店のいつものメニューはちょっとばかり垂涎なものだった。

かといって自分の弁当を捨て置くほどふざけた行動は出来ないので、センパイからちょろっとデザート味見させてもらっただけ――というのが彼女の現状だった。


でも今は飢えている。ごはんを食べることになんのおかしい理由もない。

そしてなにより。

こんな時のために、彼女はスマホデビューを果たしていた。予定通り、想像通り、異様なことにーー起動させた時点で例のアプリはDLされていた。機動確認を一緒にしていた携帯会社のスタッフが首をひねった上で消そうとしたので慌てて回収して脱兎の如く店を出たのを部署のメンツに話したらあきれた顔をされたものだ。

一回消したらどうなるか試すいい機会だったのに、とか外道か。


「にゅっふふふー」


今日はご飯が選択できない。

その代わりパンの種類が複数ある。

ためらいなく米粉パンを選択し、デザートはロッククッキーを選ぶ。

注文の間に自販機へと向かってカフェオレを選んだあとになんでこの時間にカフェインを煎れるか自分とつっこむ。もうテンションがおかしい。

センパイも上司もいなくなってしまっているからいろんな意味でフリーダムな気分なのか。視られたら軽く死ねると思うけど、とか思いながら、連休前の開放感にくるりと右足軸にまわり――

「あ」

「お」

暗い廊下で、目が合うのはホラーだ。

「しゃ、ちょ」

「おぅ」

小さく手を挙げられ、挨拶の仕草をするその人は着崩れたスーツを纏っている。

仕事が終わって帰るところなのか、自分のように水分をとりにきたのか。それとも寝落ちていたのか生憎社会人経験が短い彼女には想像がつかない。

「仕事終わったなら蕎麦でもたぐらんか?別にやましいこたない」

がんばった社員にご褒美だと社長はからりと言った。不審に思うならもうちょいいい店誘うだろう。この時間、この近辺であいてるそば屋なんぞ立ち食いくらいだ。むしろもうちょいがんばれよ。

「あ、いえ。お弁当が」

「弁当?」

断るにごく自然な言葉だと信じて口にしてーーハタと先日上司が言っていたことを思い出す。その時最終的に社長には素知らぬ顔で押し通そうということに満場一致したので、うまいことごまかさないと。

そう。ごまかs

「あぁ今日はカツサンドだったなぁ。俺も食べたかったんだけど昼飯接待でさ。フランスパン?」

「いえ、米粉パ」

・・・・・・・

「そういや君の所属って」

やっぱり全部上司のせいじゃないか!やっぱ気づかれてたんだ!

彼女は全面的に悪いのは上司という結論にしてその尻拭いだと思いながら愛想笑いをこぼした。



(うっわー、味しなさそーぅ)

彼女が社長と直接顔を合わせたのは入社式の時くらいだ。

それだってたしか5人くらいいた新入社員対1。2年ほど前のことになるが、随分と目が死んでいて将来が心配になったのを覚えている。今とは全く印象がちがうけれども。

会社のトップと自分の部署で食う夜食とかどんな拷問だよと思いながらも、自前の携帯使ってその手ずから同じ商品をフランスパンタイプとトマトスープで注文している人にかみつく程の気力は彼女にはない。当人に悪意がないのであれば殊更の話だ。

どうもこの社長様、例の店の話をしたいとアピってきている印象が彼女にはあった。

それこそセンパイと!是非先輩とお話ししてくださいわりかしマジで。にわかにしても研究者として好奇心だけならば社長以上にあるつもりだが、社会人としてはハードプレイ。

部署にたどり着いたところで社長がテーブルに500円玉を置く。

わずかな時間のあと、その姿が見慣れた箱へと変化する。目の当たりにしても実感がわかないその刹那。

勿論彼女自身の机の上にも、すでに届いていた。

「いつから食べてるんだ?」

「結構になりますよ」

記録は取っているのでせっかくだからと首をひねる社長に差し出したのは例のスクラップに言語研究のノート。ついでに高校生との情報交換や研究報告とありとあらゆるものを差し出す。ぶっちゃけ会話がもたないからデス。

「へぇ」

「なんでここの部長俺にだまってたのかなぁ」

「さぁ」

確かにそういう意味では仲間だし、こっちはこっちで気にはしていたが、それはそれで難易度が高いわけで。上司と部下って複雑な関係である。

それはともかく出来立てを食べないと。2・3日くらいは出来立てと思われるが。


カットされた断面が美しい。ぎっしり4つ。ちらりとみると社長のバケットタイプも美味いこと組み合わせて箱に収まっている。

もっちりした米粉パンの下にはキャベツ的な歯ごたえ。マヨネーズの酸味とフレンチマスタードのぴりりとした辛味。そしてざっくりとしずむ肉の歯ごたえ。

さっきは味がしないかもなぞと思ったが、ひとたび口にすれば意識を総て持って行かれる。

それだけの魅力はここの弁当にある。

分厚いそのカツの味は豚肉に近く感じるが、その肉は驚くほどのジューシーさにのどが潤うような心地よさ。

歯切れのよさのまま口に押し込み、啜るようにして咀嚼すれば様々な味わいが混然一体となって頬をゆるませる。

「やっばい幸せ」

いったいどんな揚げ方したらこんなになるんだと驚きながら、人参タマネギ大根貝割れたっぷりの千切りサラダを一口。オリーブオイル(多分)にほんのり味ぽん。和風ドレッシングというべきか、それともこれは新たなる味わいか。どこか裂きイカのような深い味わいも交じって思える。あ、ゴマ、ゴマが入ってる。小さめのトマトの中身をくり抜いて詰め込まれたマッシュポテトとチーズのオーブン焼きのほのかな酸味の香りはまだ残る夏の気配に参った体を支えてくれる。器のトマトがぐずぐずになっていないのはもう作った人の才能というべきだろう。

「美味いなぁ」

しみじみとした自分とは違う声にはたとここにいるもう一人を思い出す。

あ、はいおいしいですよねグレイトですよね!普段ならいつものメンツとできる会話もなかなか難しい。

「クァールってところでなんだろうな?」

「それなら上司の机に」

回答をするであればなんとかなる。

ちょっと失礼しますと上司の机に手を伸ばし、隅に置いてあるモンスター図鑑を確認する。載っていたところには付箋と日付がついているのですぐわかった。

「触手付黒豹みたいなモンスターみたいですね」

・・・・・・ん?てことはさっきのサラダ……

「そんなのまで用意してるのか」

「まぁ楽しんでいるんで」

「ふぅん」

「休憩時間だけのことですからね?」

朝礼の時も若干話題にはしてるけど、と内心だけでぼそりと呟き、カフェオレと共に次のに意識を向ける。

「いっこ」

「え?」

「交換してくれないか?」

「はぁ」

差し出された弁当箱から、いかにも戸惑って手を伸ばすバケットタイプ。

ついでに自分の分も。上司とおなじくらいの年だったはずだが、どこかこどもっぽい笑顔でありがとうと言われる。上層部がそれでいいのか。いやお礼がいえるのはいいことか。

我慢ならずそのまま手に取ったバケットにかじり付く。

みちみちとした皮部分、中のクラムは米粉のそれよりも若干荒い分、噛みごたえを歯にぶつけてくる。ジューシーさをパンが吸い込みきれず、滴りそうな肉汁を行儀悪く吸い込む。やだもうコレでビール呑みたい。

「へぇ随分印象違うな。これも美味い」

無邪気な社長の声に、そうでしょうそうでしょうとうなづく。やっぱしゃべらないけれど。


それで。

どこでうまーく切り上げて、うまーく帰るにはどうしたらいいかなぁと彼女は心底悩んでいたが、食べ終わると当人は当人で足止めしたみたいで悪かったなといって自分から踵を返した。


・・・・・・やだ漢前。とか今更のように思ったわけだが、やっぱり面と向かうと難しいんだろうなぁと彼女はぼんやり思いながら帰路につくのだった。


社長ミーツ後輩ちゃん(仕事明けテンション)

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