□ ジャッカロールのロール葉物
不穏な空気……
「ロールとロールをかけたのかな」
「っていうかジャッカロールってなんです?」
「いわゆる角ウサギみたいだな」
多分、ロールキャベツ、っぽいもの。葉物という言葉でお茶を濁されるとは思わなかった、というのが全員の意見。
いつもの昼食時、注文した弁当が届くまでは毎日無礼講という空気が部屋には漂う。
上司がモンスター辞典なる本を構えてまじめに調査結果を告げるのも、本日担当の後輩が音程のずれた歌を歌いながらお茶を入れるのも、この部署では馴れた光景だ。
「ウサギって鶏肉味じゃなかったっけ?」
「比較対象が鳥・牛・豚しかねーからなぁ。多分良くも悪くも分類しちまうんだろ」
は虫類も鳥味っていうじゃん。
同僚は飯の前なのにそんなことをいって笑い飛ばして彼女はチョップをその脳天に食らわせる。
「そういえば江戸時代の四つ足の獣食うなって時にウサギって飛ぶように跳ねるから鳥じゃん!食えるじゃん!てなった、というのは聴いたことがあるな」
「なんスかその一休さん」
「いっきゅーさんは戦国時代ですよセンパイ」
「いやそこじゃないと思うんだけど」
お茶を配りながらの後輩からのお言葉に、同僚はぐったりとした声を返す。
まぁ実際なんの話かって話だ。
「まぁそんなことよりちょうどいい」
上司が示唆した先には4つの500円玉ーーが消えて、お重が如く積まれた4つの弁当箱が出現している。脇には小さなカップ。高級そうには見えない。だって新聞紙だ。
「そういえば弁当箱の回収ってないんだよな」
「木製ですけど薄いですしね。リサイクルするにはガサばるんで処分はしてますけど」
「え、もったいない。保温効果抜群ですから納豆とか思いっきり繁殖できますよ」
「は?」
事例がアレだが、まさかの言葉を後輩が言い放ち、他の面々は胸を張ってる最年少をガン視してしまった。
「保温て、木だよね?」
彼女が首をひねると、はい、と大きくうなづいてから、後輩は弁当を全部引き寄せてしてにんまりと笑う。
「確かに食べたあと一週間が限度なんですけどね」
「よくわかったな」
関心よりも空恐ろしさを込めた上司の声がすべてだ。思わずうなづこうというもの。だが後輩はむしろ知らなかったことが驚きとばかり、手際よく新聞を回収し、ちらりと中身を確認してからまずは十六穀米で注文した上司に。同じことを繰り返し、同僚にはバケット、彼女にはキャロットライス、自分に白米と全員に行き渡たらせながら「底に描いてある魔法陣が残ってる内はどうにかなるみたいだ」という情報が公開される。
「処分してたわふつーに」
「ガサばるしね」
しつこく彼女がその点を訴える。
確かに質は悪くなく、再利用を考えてもいいかもしれないが、週に2回程度の後輩とほぼ毎日の彼女では事情も大きく変わっている。
「というか魔法陣は消えるのか」
「あ、はい。徐々に薄くなってきます」
不思議なこともあるもんだ、と今更のように話す面々だが、誰ともなしに口を付けた一口から話題がすり替わる。
どうしてもファンタジーな話題は長続きしない面々だった。
「芳醇な肉汁を包み込むレタスとキャベツの合間のような歯ごたえ」
「しかしトマトソースで青臭さを巧く抱き込んでいる。ミンチ肉に入ってるのは・・・・・・しいたけ?」
「っぽいキノコでしょうけど。私ロールキャベツ?を巻いてるかんぴょう好きなんですよー」
「かんぴょうなのか、コレ」
つっこんだ人間が次につっこまれている。
「植物系はごまかされてる感すごいもんね。今日のはなるほど、悩んだ結果なんだろうな、と」
「いつもっぽい、とか風、とかだもんな」
そういう意味ではトマトかどうかも怪しいのだが、そこまで気にしていたらそもそも常連にはなってはいない。
「サブの人参と大根と椎茸の炒め煮美味いなー。オリーブオイルの香りするけどこういうのもありなんだな。味付け醤油か?合うもんだな」
「こっちのキュウリとツナの和え物とか思いっきりご飯においしい。まぐろかどーかもあやしいけど」
「それ言ってたらキリないだろ。そうだ、怪しいっていえば」
「なんスか?」
ふと。本当に漬け物程度のような調子で上司が口を開く。
「社長も客らしい」
「へー」
「これで案件2つ目ですね。センパイ、なんか共通点あります?」
「社長とー?」
ないわー、と残念がるでもなく、単純に事実と彼女は肩をすくめた。そもそもコミュニケーションがほとんどない人なので顔すらちゃんと出てこないのが本音だ。
「俺も気になった。社長が感染源なのか次世代以降なのかは確認した訳じゃないが、あの様子だと感染源の方じゃないかなー、と」
まぁ勝手な思いこみだけどな。本日のスープである茗荷の味噌汁をすすりながら言う上司になんで?と同僚が首を傾げる。
そもそも店なのだから客の確保を望んでいるのは自然なことだろう。
法則性を求めるのはどうも日本人の癖のようなものなのかもしれないが。
「感染源いうな」
扱いがひどいと口をとがらせる彼女だが、今のところ「見合った呼び方」が出てこないのでこう言われている。すでに例のアプリについてはDLされている上司だが、他の部署、あの時一様にピザをかぶりついていたおっさんズの携帯端末については確認のしようもない。
機能内容オプションシステム。どれも二世代だろうが三世代だろうが関係ないようだが。
「でも社長なんで昼飯おごるなんてことしたんスかね」
ご丁寧にちぎったパンでロールなヤツのスープを掬いながら同僚が首を傾げる。
「実験?」
デザートはプチシュークリーム。
一個だけ食べてあとは夕方前の休憩時間に食べようそうしようと心に決めた後輩は適当なことをいいながらふわふわのシュー生地を指で摘む。行儀は悪いが今更このメンツで取り繕うことをこの娘はしない。
「後輩ちゃんおっそろしいこというな」
「そうですかー?」
ぷちん。とろり。濃厚なカスタードが舌を包み、思わずにんまりとさせられてる彼女。
実験といえば自分もしていたわけなので、今更どうこういわれても、という気持ちがあるのかもしれない。
「で。どうなんです上司?実験された側としては」
「いまいちわからん。実験されたといっても、別に社長は携帯確認してきたわけでなしなぁ」
「感染が起こることを知らないっていう場合もありますしねー」
ほどよく冷めたお茶で人心地を入れた彼女が自分は悪くないという顔をする。
実際困ったとか悪いとかって話は無意味なのだ。
「自分で感染いってるじゃん」
「そこはそれ」
他に伝える表現が難しい。
「今のとこ体調変になった記憶もないしなー」
「そっち関係の実験?だとしたら一回だけじゃダメだろ」
「社長は美味かったからだ、っていってるけど」
一応フォロー的なことをいう上司だが、知ってる人間だからこそどんな顔をするのがいいのかわからないところだ。
「美味いって怖いですねー」
「あぁ、うん。ソーネ」
誰もがなんとなく、何かが起こるかもしれないなと思いながら、かといって何をしようとするでもなく、〆のぬるくなったお茶をすすった。
だが食ってるだけ。




