11.フギラテト
フギラテトの街は瞬く間に広がった。
当然の如く地下に。
地上の地形は風の気まぐれで面白いほど変わり、岩が埋もれるぐらいの山の日もあれば、岩が崖のようにそびえ立つほどえぐれる日もある。
それに合わせて、入り口を至る所につくってみたけれど、それがまたいい。
正しい出入り口の穴ばかりだと、侵入者に対し無防備であることから、行き止まりや、入り口を模した空気孔や、罠も仕掛けている。
ここは隠れ里なのだから、警戒心は強くて当然だ、出入り口に侵入した者に対し槍などの武器で攻撃できる手段や穴も設けた。
また、入り口も岩で作った扉で遮断している。
それは、知るべきものでなければ解らぬように、開閉できぬようにの仕掛けとした。
昼間の眩しい太陽から、洞窟に入って闇がどろりと留まる穴の奥にある扉。
それは簡単に見つけることはできないだろう。
その上、完全な行き止まりではない場所に開口部を設けているものいやらしい感じだ。
行き止まり部分なら、侵入者は注視し、手探り状態でも一応探すだろう。
その開口部もまたくせ者だ。
ある扉は、体をねじ込むようにして這っていかねばならない場所に……。
また、ある扉は、地下に滑り落ちていくような場所にと屈折した場所に設けている。
扉は円形に削り取った岩を横に転がる仕組みだ。
基本的には中から開閉しなくてはならないが、棍棒に見せかけた棒で、鍵となるつっかえ棒を落とし、てこの原理で回せるようにしている。
鍵穴はいくつもあり、余計なことをしていれば、誰かが侵入しようとしていると判断され
鍵穴は追撃用の穴となり、槍を差し入れ、ぶすりと侵入者を刺し殺すことも可能だ。
そんな恐ろしい要塞じみた隠れ里だけれども、見た目はただの砂漠にある岩。
無数に空いた穴は、ちょろりちょろりと砂漠蜥蜴が出入りし安全な住処として利用している。
知らぬものがみれば、穴を利用して蜥蜴が住み着いているだけの場所にも見えることだろう。そこに踏み入れたら最期、蜥蜴たちは、その鋭い爪で侵入者を撃退する。
そんなこともありうるのだ。
ここの住人が砂漠蜥蜴と共存しているのは、蜥蜴が、判別しているというのが1つと、住人たちが、必ず、蜥蜴の好物であるオリーブの実を身につけているからだ。
オリーブは、この世界で普通の食糧であるから、塩漬けしたものをたまた持っていて、時折、だまされる個体もいるが、人の近くを縄張りとした老獪な蜥蜴たちは、逃げるふりをしてその人物の前に身を躍らす。
住人ならば、生のオリーブを見せつけてくる。
狩りをする気があるならば、追いかけてくる。する気がないなら、足早に正しい入り口へと進んで行く。
侵入者ならば、食糧として追いかけてくるか、穴に入り捜索を開始する。
そこを蜥蜴たちは、攻撃する。そしておいしい水気をいただくとなる。
侵入者は、別のタイプいる。
それは、逃げたものたち、風の噂を、日陰や水を求めて岩場にたどり着いたものたち。
体力のあるものは、蜥蜴を追いかけるだろうが、ここまでの道のりは険しくほとんどが、死んだ魚のような目をして蜥蜴をみるだろう。
危険性のないものに対し、蜥蜴たちは無関心だ。
人から出る水気は、蜥蜴たちにとって、そこまでごちそうではないのだ。
その判別をされ、住人達は、侵入者と接触する。
街に適合するならば、はれて住人へ。
適合しないならば、砂漠の砂と化すだけの事。
砂漠のように残酷な街、フギラテト。
なんと、素敵に残酷な、共生した生と死の溢れる街になったことか、そう一人笑う。
笑い声は風に流れる。
彫像の蜥蜴がちらりとこちらをみた気がした。
その蜥蜴の瞳に、白い砂をつけた。君は特別だと評価するように……。
さぁ、満足だ、旅にでよう。
荒い砂を集め、かまくらに入る。錨を上げもう一度、岩しかない街を眺める。
「残酷な世界で、逝きなさい、生きなさい
フギラテトの街の定めの如く」
縷々と流れる落ちる言霊に、何を言っているのかと、一人赤面し、かまくらの中にはいり目を閉じる。
世界は暗転、次の砂の色は、何色だろう




