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現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
第四章:門出!
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第四話:払いたまえ!(4)

続きです、よろしくお願いいたします。

「――待ちやがれ!」


 ――コラキの反応は速かった。


 ふたたび遭遇した忍びのひと。美空からは「もう良い」と言われてはいたが、コラキとしては、このまま負け犬気分を持ち続けることは到底受け入れられない。


「――ニンっ? 借金取りに待てと言われて待つやつがいるものかっ!」


 コラキのタックルを、忍びのひとはひらりとバク転することでかわす。


 忍びのひとは、そのまま二転、三転と体を回転させ、詰められていたコラキとの距離を引き離していく。


「だから……逃がさねえって言ってんだろうが! ――『(アッシュ)』!」


 するりと手のなかから逃げて行く忍びのひとを、コラキは強くにらみ付ける。そしてスキルを発動し、手に持った錫杖の形をバネ状に変えてグッと踏み付ける。


「あ、ちょっと! コラキちゃんっ?」


「悪い、ひっこ! もうちょっと……頼む!」


 背後から呼びかける雛子に対して、コラキは振り向かず答える。


 みるみるうちに自身と離れていくコラキと忍びのひとを、雛子はぼう然と眺め――


「――もう……知らないよっ? 美空さんに怒られるよ? はぁ……『エール』!」


「――っ! サンキュー、ひっこ!」


 あきれ混じりにスキルを発動し、コラキの援護を行うのであった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 夕暮れどきの住宅街。その屋根の上をふたつの影が走っている。ひとつは忍びのひと。もうひとつはコラキ。


 両者の距離は、当初はおとな六人分ほども離れていたが、その距離は少しずつ縮んでいき、いままさに、重なろうとしていた。


「――ふっ!」


「ニンッ? まさか追いついてきたでござるかっ?」


 そして背後から襲い掛かってきたコラキの蹴りを避けながら。忍びのひとは驚きの声を上げる。


「今度こそ……払ってもらうぞ!」


「――はっ! ざれ言を! 貴様はそれがしに死ねと言うでござるか! この金はなぁ……。とある場所(パチ屋)で何倍にも増やすための……重大な資金なんだよぉぉぉ!」


 靴にバネ状の錫杖を装着したコラキの変則的な動きに、忍びのひとは戸惑いと怒りを顕わにしながらもキッチリと対応してくる。


 コラキはそのことに驚きながら。徐々に、徐々にと、靴に装着している錫杖を手元へと集めていた。


 そして拳と脚による両者の攻防が数分続いたあと。――コラキにとってのチャンスが訪れた。


「――ニニッ?」


 コラキの打ち下ろしの右を受け止めた際の衝撃で、屋根の瓦が一枚剥がれ、忍びのひとは足を滑らせてしまう。


 コラキはそれを勝機だと判断する。コラキは右拳を振り下ろした勢いを利用して腰をひねり、そのまま左足のかかとで忍びのひとを狙う。


「――勝った……」


 コラキのかかとと、忍びのひとの後頭部。その距離わずか十センチ。コラキは今度こそ勝ったと感じ、ニヤリと笑う。


 ――しかし……。


「――クク……。『オン・サラ・リー』!」


 忍びのひとは、頭巾の下で笑い、胸もとで『印』を結び――直後。


「――はっ?」


 コラキのかかとは、するりと忍びのひとをすり抜け。屋根に大きな穴を開ける。


「ふははははっはぁ! 忍法『霞』! それは残像だぁ!」


「な……?」


 戸惑うコラキが顔を上げると、忍びのひとはコラキが開けた穴の数センチ先に立っていた。


 忍びのひとは、その額から血を流しながら――


「今度はそれがしの番だな! ――『エア・シュリケン』!」


 忍びのひとは、胸もとで『印』を結んでいた手をするりと動かし、その形を『ごますり』をしているかのようなモノへと変える。


 そして流れるように。左手の上に乗せていた右手をコラキに向けて数度。シュシュッとつぶやきながら、払うように動かす。


「――なっ!」


 コラキはとっさに危険を感じ、その場から一メートルほど後ろに飛び退く。すると、先ほどまでコラキが立っていた場所の瓦がパリンパリンッと弾け、割れる。


「まだまだぁっ」


 飛び退いたコラキに向けて、忍びのひとは二連、三連と『エア・シュリケン』を打ち込んでいく。


「おま……。結局、『スキル』を使うのかよ!」


 コラキはそんな忍びのひとに対して抗議の声を上げるが、忍びのひとはフンッと鼻息をひとつ鳴らし、シュシュッとしながら答える。


「これは『スキル』などではないっ! 師匠直伝の『技』でござる!」


「――そう……かよっ!」


 コラキは、忍びのひとの手の動きから『エア・シュリケン』の軌道を予測しかわす。


「――熱っ……」


 そして忍びのひとが、手の摩擦熱に耐え切れなくなったらしい一瞬を見逃さず、その手を伸ばし、忍びのひとに向ける。


「縛れ……『(アッシュ)』!」


 そして先ほどからひそかに右手に集めていた錫杖を鎖に変えて、忍びのひとへと投げ付けた。


「――ニニンッ!」


 忍びのひとが気がついた時にはすでに、鎖となった錫杖は忍びのひとをギッチギチに絡め取っていた。


 コラキはそれを確認するよりも早く。その場から大きく駆け出す。そして握りしめた拳を忍びのひとへと振りかぶり、獰猛な笑みを浮かべてつぶやく。


「これで……終わ――」


 ――ゴインッ!


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ん……? 柔らかい……?」


 頭に感じるすべすべで柔らかい感触。そしてどこか落ち着く良い匂いのなかで。コラキはゆっくりと目を開けた。


「――あ、コラキちゃん……。起きた? どこか、痛くない?」


 ――「この『枕』良いなあ」とぼんやりと考えていたコラキの頭が徐々にクリアになっていく。


 見上げれば雛子の顔が、コラキの顔をのぞき込んでいる。


「その……。大丈夫なら、起き……なくても良いけど……。その、変な触り方はしないで欲しいかなぁ……」


 夕陽と比べてもなお赤い雛子の顔に、コラキは思わず飛び上がり、雛子からわずかに距離を取る。


「え、えっ? ど、どうして?」


 コラキの記憶が確かならば。コラキは先ほど、忍びのひとに止めを刺すところだったはずである。


 それがなぜか、気が付けば雛子に膝枕されていた。


「えっと……。なにが起きたんだ?」


 コラキは耳に残る柔らかな感触と、匂いに動揺しながら。雛子に質問する。


 問われた雛子は、先ほどまでコラキの頭が乗っていた辺りを寂しげになでながら、ポツポツと語り始めた。


「えっと……。私もコラキちゃんが倒れるちょっと前からしか見てないんだけどね……? コラキちゃんがあのひとを縛り上げてから、走り出したでしょ? その次の瞬間、コラキちゃん……。なんて言うのかな……。こう……。頭を中心にしてグルって回ってた……?」


「――えっ?」


「本当だよ? ――で、その時に『ゴイィィィンッ』って、物凄い音がして……。あのひとはそれから、気絶したコラキちゃんを見て、それから私に向かって『なんとか壁モドキ』って叫んでからどっか行っちゃった……」


 雛子はコラキに「追い掛けなくてゴメンね」と告げると、そっと手を伸ばし、なぜかコラキの頭をふたたび膝に乗せる。


「あの……ひっこ?」


「もう少し、休憩ね?」


 いつになく強引な雛子に押さえつけられ。コラキは仕方なく――多少は喜び――膝枕を受け入れる。


 そして耳に心地よい感触を味わいながら「うん」とつぶやき、考えを巡らせる。


「ひっこ、ちょっと電話かけるから」


「うん。静かにしてるよ~?」


 上機嫌になった雛子に断りを入れると、コラキは携帯電話の電話帳からとある人物を選択し、電話をかける。


『――はいはい? コラキか? どうした?』


 ワンコールでつながった相手は、鼻歌まじりでコラキに声を掛けた。


「あぁ、ちょっと聞きたいことがあってさ。――いま、良いかな?」


『なんだなんだぁ? なんでも聞いてくれよ』


 電話の背後から聞こえる『グニグニ』と、なにかを踏んでいるかのような音を聞きながら。コラキはフゥッと息を吐き、「じゃあ」と前置きして告げる。


「――なんか、忍者っぽいやつと戦って……負けたんだけど?」


 そして訪れる若干の間――


『……………………良かれと思ったんです!』


 電話の相手は、最後に『えへっ』と告げると、そのままブツリと通話を終了させてしまった。


「………………はぁ」


 コラキは大きくため息をつくと、そのまま雛子の膝に顔をうずめる。そして顔を赤くしながら小首をかしげる雛子を見上げると、人生につかれたかのような力ない声でつぶやく。


「ひっこぉ……。次、行こう……?」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 残る家賃滞納者はふたり。


 ひとりは生徒、もうひとりは教師。――ともに『冒険者養成学校』の関係者である。


 コラキたちは現在の時間を確認し、とっくの昔に授業が終了していると気が付くと、急いで『冒険者養成学校』へと向かった。


「ほぁぁ……? コラキ、遅いの……。イグルに置いてかれちゃったの……」


「ぐふふ……。ペリちゃんを借りていました!」


 コラキたちが到着すると、校門前でペリが地面に座り、足を投げ出していた。その隣には、ペリの頬に自分の頬をすり寄せる女生徒――『影平(かげひら)智咲ちさき』が座っており、「非常に有意義な時間でした」と、コラキたちが遅れたことに感謝の意を示していた。


「あ、ああ。待たせちまったな……。本当に申し訳ない」


「いえいえ。私は『ペリちゃん成分(ペリシリン)』を存分に補給できましたから。気にしないでください、コラキ先輩」


「むぅ……。その分のおわびは、私が受け付けるの。コラキ、帰りになにかおごって欲しいの」


 コラキは地面に座り、足をバタバタとさせるペリを無視して、智咲に問い掛ける。


「それにしても……。影平が家賃滞納って、なんかイメージに合わないな。なんか、あったのか?」


「いえ……。私も寝耳に水だったんですけど……。どうやら、あたしが使ってる銀行で、なんだかコンピュータのトラブルがあったらしくて。それで引き落としがうまくできなかったみたいですよ?」


 そう言って「お手数をおかけしました」と頭を下げる智咲に、コラキは「気にするな」と返して、そのままついでだからと智咲をアパートまで送ることにした。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――じゃあ、ここで大丈夫です。ありがとうございました」


 智咲が住むアパート『アパート フォーファン』の玄関口。そこでコラキたちと智咲は別れることとなった。


 智咲は「上がっていきますか?」と尋ねたのだが、コラキは『女性専用アパート』である『フォーファン』に気後れし、またベランダに見える女性特有の洗濯ものなどを目にしてしまったせいか、頑なに「遠慮する」を連呼していた。


「ふふ……。ペリちゃんたちと暮らしてて見慣れてるんじゃないですか?」


 そんなコラキをからかうように。智咲は「ほら、あれですよ」とベランダを指さす。


「――勘弁してくれよ……。ペリたちのは、こう……なんつうか。『お子様用』って感じだからさ……」


 コラキは「ほほぅっ」と目を輝かせている智咲の背中を押すと、「じゃあ」と言って強引にその場を立ち去る。


 そしてなにか言いたげなペリと、クスクスと笑う雛子に挟まれながら、最後の目的地――『ろくざとハイム』へと歩いていく。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「で、最後が『六座頭』なの?」


「ああ、五〇三号室」


『ろくざとハイム』に到着したコラキたちは、一階にある集合ポストの前で、最後の滞納者が住んでいる部屋を確認していた。


 そして滞納者リストの部屋番号と、集合ポストの部屋番号を見比べてから間違いながないことを確認し、階段を昇っていく。


 階段を昇り切ったコラキたちは、目的の『五〇三号室』前まで来ると、そこに掛けられている表札をふと見る。


「あれ……? コラキコラキ、『磯開(いそがい)』って書いてあるの」


「本当だねぇ……。昭代先生って、こう言うの滞納しそうにないから、智咲ちゃんと同じかもね」


 ペリと雛子は表札を見上げながら、「えい」っとインターフォンの呼び出しボタンを押す。


「――はあ、これで最後だな……」


 コラキがため息をつくと同時。――ガチャリと扉が開く。


「は、はぃぃっ? ――って、天鳥(たかとり)兄妹? それに(すめらぎ)も?」


 そして顔を出した『冒険者養成学校』の教師。女子水泳部の顧問である『磯開(いそがい)昭代あきよ』が開いた扉のすき間から顔をのぞかせる。


 昭代の目がコラキの目と合うと、コラキはそれを合図に来訪の目的を告げる。


「あ、夜分遅くに申し訳ありません……。えっと、実は――」


 そして、コラキが用事を告げる前に――


「んんにゃらぁ? コォラキくぅんでなぁいかぁぁっ?」


 地獄の使者がやって来た……。


「えっ? 美空……さん?」


「ちょォッと来い! 来なさい! さあ、みんなきょいっ!」


 戸惑うコラキたちなど知ったことかと。赤ら顔の美空は、まずコラキを。続いて、「ひぃ」と鳴く昭代を捕まえる。


「えっ?」


「み、美空さん、お酒臭いの!」


「ん……むっ? 女の子がこぉぉんな、じきゃんまでであるいちゃダメ……っしょ? さっさとおうちにかえんなしゃい!」


 そして驚きの声を上げる雛子、ペリの目の前で玄関ドア(地獄の蓋)が閉じていく――


「ちょっ? 美空さん? 痛いッ痛い! ひ、ひっこ……。ペリィ……。たす――」


 完全に扉が閉まると、どうやら防音性が高いのか。部屋のなかからは不気味なほどに、なにも聞こえてこない。


「えっと……。帰ろうか、ペリちゃん……」


「そうするの……。私たちは、なにも見てないし、聞いてないの……」


 ――その後。ボロボロになったコラキが、泣きながら「オレ、イライ、カンリョウシタ……」と……。そう雛子に告げたのは、翌日の昼のことであった。

次回、インターミッションです。ちなみに今回、一番の被害者は屋根を壊され、放置された家のひとかなと。

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