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現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
第三章:母来たる!
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第三十四話:初めての共同作業!(3)

続きです、よろしくお願いいたします。

「イグル。記録は?」


「バッチリです」


 薄っすらと、青く輝く森のなかで、コラキたちは息をひそめてソレを見つめている。


「うふぇ……。キーラちゃん、普通の『魔獣』が出来るのは見たことあるけど……。『迷宮』のはなんか、幻想的? だにゃぁ……」


「いやいや……。そんなの、ほとんどのひとが見たことないと思うよ、キーラちゃん」


「ほぁ? 見るのっ!」


 コラキとイグルの背中にのしかかるように。キーラ、雛子、ペリの三人がピョコッと顔を出す。


 そんな彼らの視線の先ではいま。とある現象が起こっていた。


 雛子が『平面階層』と称した『レムリア』の森。なんら変わりのない、普通の森から、透明度が高く、薄っすらと青みを帯びた森へと切り替わった辺り。


 そんな森と森の境界のような場所では、数枚の葉っぱが地面に落ちている。


 ――そこまでは特に、おかしなことはなかった。


「アレは……『レムール(キツネザル型)』か?」


 葉っぱは周囲の土を吸い上げながら、徐々にその形を整えていく。


「あっちは……ん~……? サイ……コロです?」


「えっと、あとはマリモ?」


 コラキの言葉に反応して、イグルと雛子はほかの葉っぱがどんな形をしているか。確認するようにつぶやいていく。


 驚くコラキたちの前で、葉っぱはなお、変化を繰り返していく。


 一枚は『キツネザル型』とされる――通称『レムール』に。


 別の一枚は『サイコロ型』――通称『カルチョ』に。


 さらに別の一枚は『かび型』――通称『コゼット』に。


「ええっと……。つまり、『迷宮』の『魔獣』ってのは、それそのものが『迷宮』の一部ってことか?」


「どうだろ? 分かんないけど、それっぽいよね~……五度?」


 コラキの頭にあごを乗っけながら。雛子は「あとは専門家に任せよう?」と、その場から離れることを提案する。


「そうだにゃぁ……。倒すのがダメなら、さっさと進むのが良いと思うにゃぁ……」


「私も賛成なの。そろそろ日本が恋しいの」


 そして一行は、最後にもう一度生まれつつある『魔獣』たちを撮影し、その場をあとにした。


 それからさらに小一時間――


「ん~……『よっこいしょ』ぉ!」


『ファっ!』


 ペリがその肩に担いだ『棍棒の様なモノ』を、『レムール(キツネザル型)』の腹を目掛けて打ち込む。すると『レムール(キツネザル型)』は驚いたような表情を浮かべて、背後の木へとたたきつけられていく。


「ペ、ペリっ? やるなよ? 絶対にやるなよっ?」


『シーっ!』


 勢いよく吹き飛ぶ『レムール(キツネザル型)』に顔を青くしながら、コラキは錫杖で眼前の『コゼット(カビ型)』をはたき落す。


「ほぁっ? それはふりなの? どっちなの?」


「ペリ、倒しちゃったら美空さんに怒られるですよ? 怒られるんですよ?」


 半透明のスクリーンとにらめっこしているイグルは、焦ったようにペリを怒鳴り付ける。ペリは「しまった」と悲鳴を上げオロオロし始める。


 ――森の様相が変わってからしばらく……。


 ほぼ『魔獣』と遭遇しなかったこれまでとはうって変わって。コラキたちの元に、多くの『魔獣』が襲い掛かってきた。


「――だぁ……もぉっ! こいつら、この間と違って弱すぎるっ!」


 事前の指示で『倒しては駄目』と言われていなければ、コラキたちも冷静に対処できたはずだった。しかし、数日前の『レムール』たちと違う、そのあまりの弱さに。コラキはビクビクしながら……。壊さぬように、殺さぬようにと、錫杖を振るっていく。


 そんなコラキたちにとって、唯一の救いは――


「『魔獣たらし』! ――皆、こっちに引きつけるから、あとはよろしくね!」


「――んにゃあっ! やっぱり、無理っ! イライラするにゃああああああ! ――『ファイブトリックス:一A』!」


 雛子とキーラのコンビであった。


 雛子がスキルを発動させると、それまでコラキやペリたちと向き合っていた『魔獣』が、目を輝かせて雛子へと突撃していく。そしてそれをキーラが、ふたつの巨大ヨーヨーの糸でがんじがらめにしていく。


「――ふぅ……。マジでありがてぇ……。『八咫』……」


 そして交戦していたすべての『魔獣』を縛り上げると、コラキが錫杖で地面をひと突きし、スキルによって『魔獣』たちを眠らせていく。


「ん……にゃぁ。普通に戦うよりか、疲れるし、イライラするけど……。よくよく考えてみたら、ゲームみたいでちょっと、面白かったかも……?」


「ゲームって……。キーラちゃん、すごいねぇ……」


 縛り上げた『魔獣』たちをペリと手分けして空へと放り投げたあと。キーラはその場に座り込み、楽しそうに笑う。


 その隣に座り込んだ雛子は、そんなキーラのことを、目を大きく見開き見つめる。


 そんな風に、ドンドン親しくなっていく少女たちを横目にしながら、コラキはイグルに近付いていく。


「どうだ?」


「ふぉぁ……。取り敢えず、マーキングは出来たですよ。これで帰ったらいろいろと処理して、追跡調査が可能になるはずです」


 そう答えたイグルはグッと背伸びをして、地面にうつぶせになっているペリの上に倒れ込む。


「ほぉぉぁ? イグル、重いの……」


「ちょっとだけです……。普通に戦闘するより、疲れたです……」


 戦闘を行っている内に、気が付けば一行は『レムリア』の中心部へとたどり着いていた。


「まぁ、ともかくこれで、任務完了……で良いのかな?」


「うん。ちゃんと、らせん状に移動してたし……。ドンドン増えていったけど、それぞれの『魔獣』との遭遇ポイントも記録できてるんだよね?」


「うぃぃっ! そこはちゃんとしたですよ……」


 雛子の問い掛けにイグルはペリの上でダレながら、ヒラヒラと手を振って答える。


 そんなイグルをクスクスと見たあと――


「あれ……? なんだろ?」


 雛子はそれを見つけた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ひっこ……。足もと……気を付けろよ?」


「うん。ありがとうね、コラキちゃん……」


 狭い通路をコラキと雛子は手をつないで歩いている。


 ――雛子が見つけたのは小さな扉と、その下に隠れていた階段であった。


 雛子から階段の存在を伝えられたコラキは、細心の注意を払って、三メートルほどの階段を下りていった。そしてなかの様子をうかがってみると、階段から先には細い、ひとが横並びでふたり立てる位の通路が奥へと延びていた。


 コラキたちは念のためにと、美空に定時報告で『地下への階段を発見した』と伝え、現在位置を送信すると、そのまま探索を進めることにした。


「――ボゾアと戦った空洞のこともあったし……。もしかしたらとは思ってたけどな……」


「んなぁ? どう言うこと?」


 慎重に通路を進むコラキのつぶやきに、その後ろを歩くキーラが反応する。


「あのね、さっきも言ったんだけど……。『レムリア』って上の『森』自体が『迷宮』と考えられてて、上下に広がる『階層』がないって思われてるの。――でも、この間の空洞もそうだし、いま私たちが歩いているここを見るかぎりだと……。もしかしたら、『レムリア』も『平面階層』じゃなくて『立体階層』を持った『迷宮』なんじゃないかな? って……。――だよね、コラキちゃん?」


「ああ、そう言うことなんだけど……」


「あぁ……。問題は、どうしていままで見つからなかったのか……ってことかにゃ?」


 コラキ、雛子、キーラは好奇心が大きく刺激されているらしく。通路の壁や天井を見ながら、楽しそうに『レムリア地下』について意見を交わしていく。


 そして取り敢えず、『冒険者ギルド』に報告して指示を仰ごうと言うことで落ち着いた頃――


「――っ」


 コラキ、ペリ、イグルの表情が強張り、先頭を歩くコラキがピタリと動きを止めてしまった。


「コラキ……ちゃん?」


 コラキの額からは尋常でない量の汗が流れており、雛子はコラキとつないだ手の力をわずかに強める。


「ん……にゃ? もしかして、敵の残党か……なにかかにゃ?」


「ほぁ……。分からないの。――でも、これは確実に……」


「――ただの『魔獣』を……超えてるです」


 まるで楽しみだと言わんばかりに目を輝かせるキーラと対照的に。ペリ、イグルはごくりとのどを鳴らし、通路の先を凝視している。


 それから数分。――コラキやペリ、イグルからすれば、感覚的に数時間。


「よし……。行くぞ」


 意を決したように。コラキは進むと告げる。


 そして雛子の顔をジッと見つめ、口を開く。


「ひっこ……。いきなりだけど……アレ……いけそうか?」


 問われた雛子は、少しだけほほを赤く染め、小さく「うん」とうなずく。


「――よし。じゃあ『Sランク『冒険者』――『玉兎(ぎょくと)』』としての初仕事……だな?」


「よっし……。やるよ、コラキちゃん! ――『金烏(きんう)』!」


 そして雛子はコラキの背に手を当て、覚えたてのスキルを発動させる。


 次の瞬間、パキパキパキと。コラキの体から、何かがきしむような音が鳴り始め――


「うぅ……。ウウクゥゥァアアアアアアアアアアアアア――『玉兎(ぎょくと)』ォォォ!」


 同時に、コラキがスキルを発動させ、その全身からまばゆい光を放つ。


「――ギャぁっ! まぶしいのっ!」


「うなぁぁぁぁぁぁ! コ、コラキ? なんの怨みがあるですかぁっ!」


 その余波はペリとイグルの目を直撃し、ふたりは地面をゴロゴロと転がる。


「――んなぁ……。サ、サングラスしててもきついにゃぁ……」


 一方。キーラはその横着な性分が幸いしたらしく。サングラス越しにコラキたちの様子を眺め、ほんほんとうなずいている。


 そして光と絶叫が通路を満たしたあと。コラキと雛子の間に銀色のリードが現れ、光のなかにコラキと雛子。ふたりの影が映し出されていく――


「クァッ!」


 コラキは金色(こんじき)の羽毛を輝かせる三本足の小烏に。


「――えっと……。変身……完了……で、良いのかな?」


 雛子は純白の装束の上に、これまた純白の千早を羽織ったウサ耳の巫女姿に。


 そして姿を変えたふたりの、右手と首を桃色のリードがつなげている。


「クーァ!」


「うん。行こうっ!」


 コラキはひと鳴きすると、パタパタと雛子の頭に飛び乗り、翼を広げ前方を指し示す。雛子はコラキに小さな声で「……ちょっと、爪が痛いよ」と抗議しながらも、通路を駆けだした。


「おぉっ! 速いにゃっ!」


 そしてペリとイグルを介抱するキーラが驚くほどの速度で通路を突き進んでいくと、やがて曲がり角に突き当り、曲がった先から小さな灯りと、物音が確認できた。


「――明るい……? コラキちゃん、奇襲……する?」


「クァッ!」


 雛子の問いに、コラキは「もちろんだっ」と言いたげに翼を広げ、雛子の頭から地面へと飛び降りる。


 そして翼越しに雛子の顔を見ると、ゆっくりと一回――コクリとうなずく。


「――うん……」


 雛子はコラキの首肯に首肯を返し、静かに。桃色のリードを持つ手に力を込める。そのまま、雛子はリードを持つ手を頭上高く掲げると、ヒュン……ヒュン……と。手首をゆっくりと回し始める。


「ク、クァァァァ……」


 当然、リードの先端につながれたコラキは、雛子の頭上周辺で旋回させられ、チッ……チッ……と。狭い通路に頭をかすらせ、冷や汗を流しながら、ギュッと身を縮めていく。


 やがて雛子が、頭上に黄金の円盤――に見えるほど、コラキを回す速度を上げると、雛子はカッと大きく目を見開いた。


「行っけぇぇっ!」


「――ク、クァァァッ!」


 そして投てきされたコラキは、涙を流しながら前方の壁へと向かって行き、壁にぶつかる直前――カクッとその軌道を変え、器用に曲がり角を進んでいく。


「ほぁっ? ホーミング・コラキ?」


「ふぉぉぉ……。でも、なんか「い、いやぁぁぁ」とか言ってないです?」


「んなぁ? そうなの?」


 雛子たちに追いついたペリ、イグル、キーラが「ほほぅ」と言った様子でコラキを見ている間にも。コラキは曲がり角の先――そこに広がるひと際大きな空洞を突き進んでいく。


「――っ!」


 そしてコラキはそれを見る。


『ファァァ……。ファァァ……』


 ――薄明りのなか。ボロボロと涙を流しながら、木製の玉座――に見えるおみこしを掲げる『レムリア』の『魔獣』たち。


 そして――


「………………キュ……。…………もっと速く……」


「ね、ねぇ。パルカさん? 主は? 私の主は?」


『魔獣』たちが掲げるおみこしに座る白いスクール水着の少女――パルカと、その肩に止まるラストワンの姿。


「ク……クァ?」


 その姿を見てしまったコラキは、徐々にその身にまとっていた光を消していき、やがて突き進む速度すら落とし、その場に立ちつくしてしまった。


 そんなコラキに気が付いたパルカは、どこか満足そうに。ニヤリと笑うと、翼を地面についてぼう然とするコラキにひと言――


「………………キュ……。………………おなか空いた、帰ろう……?」


 そう告げて『魔獣』たちを追い払った。


 ――『『魔獣』たちの生態系を調査して!』End――

中途半端ですが、なんか長くなりそうだったので一先ずこんな感じで。『レムリア』の本格探索はまた別の機会を予定しています。

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