第三十三話:初めての共同作業!(2)
続きです、よろしくお願いいたします。
「わぁ……。最初に来た時はゆっくりと見る余裕がなかったけど……。やっぱり、良い景色だねぇ……。砂もサラサラで気持ちいいし。ね、コラキちゃん?」
「おぉ。そうだな」
隣接する小島を出発して、小舟に揺られて三十分ほどかけて。
コラキ、雛子、ペリ、イグル、キーラの五人はふたたび『レムリア』へと訪れていた。
「うぅ……。吐く……出ちゃうの……」
「ペ、ペリ? これお水です。飲むですよ?」
「んっん~……。そう言えば、キーラちゃんも森ばっかりで、海辺には来てなかったにゃぁ」
一行は小船を砂浜に着ける。その美しい光景を見て、雛子とキーラはうれしそうに背筋を伸ばし、コラキへと話し掛ける。
コラキは小舟が波にさらわれないようにと、浜辺から離れた位置に運び込む。
「おぉ。そうだな」
そして雛子の声にも。キーラの声にも。同じように適当に。生返事で返す。
「――もぉっ。せっかくのきれいな景色なのに……。もう少し、気の利いた返事をしても良いんじゃないの? ねぇ、キーラちゃん?」
「そうにゃっ。やた――コラキさまはもうちょっと、キーラちゃんたちに構うべきにゃ!」
浜辺と森の境目辺りに小舟を縛り付けたコラキの元に。サクサクと音を立てながら、雛子とキーラがそろってコラキに詰め寄る。
「えぇ……? そう言われてもなぁ……」
コラキは「いつの間に、こんなに仲良く?」と驚きながら、雛子とキーラにそう返す。すると、そんなコラキたちの元に、波打ち際でペリの船酔いをさましていたらしいペリとイグルもやって来た。
「コラキ……は。もう少し、ろまんちっくを勉強するべき……なの」
「ふぉぉ? ペリが……。ペリが乙女なことをっ? コ、コラキ……。今日の仕事は注意するですよ」
イグルに肩を貸してもらいながら……。ペリは少しだけほほを赤くしてつぶやく。そしてペリの反応にイグルが驚いていると、それを良いチャンスだと感じたのか、コラキが「そうだっ!」と若干大げさな身ぶりで雛子に向き直る。
「むぅ……。コラキちゃん、見え見えだけど引っかかってあげる。なぁに?」
「う……。あの、ですね? 周辺にまだ『魔獣』の気配もないし……。森に入る前に……依頼内容の再確認をしないか?」
しどろもどろなコラキを見上げて、雛子はクスリと笑う。そして地図と依頼内容が書かれた紙を広げると、コラキ、キーラ、ペリ、イグルの顔を順番に見渡して告げる。
「えぇっとね? まず――」
そうして雛子が読み上げた依頼内容――その主な目的は『『魔獣』の生態系調査』。
そして依頼を行う上で、注意事項として事前に指示されたことはみっつ。
――ひとつは『レムリア』の外周部から森の中心部まで。大ざっぱでも良いかららせん状に移動していくこと。その際に遭遇するであろう『魔獣』の種類と個体数を計測。そして遭遇した場所にチェックを入れていくこと。
「あぁ……。これでウチがいるですね?」
「うん。頼りにしてるね? イグルちゃん」
位置情報と個体数の計測。これにはイグルの『鷹の目』を使用することになっており、どこか得意げなイグルに、雛子はサムズアップと笑顔を向ける。
「それで? 残りのふたつって、なんだったかにゃ?」
普段の仕事でも、キーラはほぼ依頼内容を見ない。だいたいは同行する者に任せている。そのことをごまかしつつ。さも『知ってるけど、あくまで確認!』と言った空気を醸し出しながら雛子に続きを求める。
「あ、そうだね。えっと――」
そんなキーラの、内心での焦りに気が付かない雛子は、依頼内容の読み上げを続ける。
――ふたつ目。ここ数日の間に、近隣の『冒険者』資格を持つ『ダイバー』からとある目撃情報が寄せられている。それは――『謎の『魔獣』ライダー』が出没しているというものであった。
「なんだ、それ?」
「ん~……。私もよく分からないんだけどね? 美空さんが――「捕まえてっ! 絶対にっ、問題になる……前にぃ!」って、かなり必死だったから、これは優先順位高いかも?」
出発前におなかを押さえて訴えかけてきた美空を思い出し。雛子はその部分の注意事項を赤丸で囲い込む。
「ほぁ……。美空さんが焦るって、結構な大ごとっぽいの……?」
「そうかも。その『魔獣』ライダーなんだけどね? 特徴が『両耳上のサイドテールと、後頭部からぴょこんとはねるミニポニー。それと白いスクール水着』が印象的なんだって」
雛子は一行に「注意していこうね」と呼びかけると、最後――みっつ目を読み上げていく。
――みっつ目。『魔獣』を倒してはいけません。
「「「「えっ!」」」」
その瞬間。読み上げた雛子以外。コラキ、ペリ、イグル、キーラが声をそろえて「うそっ」と言いたげに。がく然とした表情を浮かべた。
「ど、どどどどう言うことにゃっ? うそ、だよね……ひっこちゃん?」
「え、えっと……。ごめんね、キーラちゃん……。『魔獣』の生息数とか調べないとだから……。倒しちゃったら駄目なんだって……」
「んんんんんにゃああああああああああああああっ」
雛子は、初めてひとが絶望して四つんばいになるまでの一連の動作を目撃し。コラキやペリたちはポカンと口を開けて、そんなキーラの背中をそっとたたき、「ようこそ!」と言っているかのような『サラリーマン』の姿を幻視する。
そして一行は、ほほを目いっぱい膨らませていじけてしまったキーラを引きずりつつ。『レムリア』の本体とも言える森のなかへと入っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ん……む。やっぱり、普通の森にしか見えねぇ……」
「二回目だけど。そうとしか見えないの……」
現在、コラキたちは『魔獣』の襲撃に備えて簡単な陣形を取っている。
前衛としてコラキ、ペリのふたりが先頭に立って歩き。中衛兼調査リーダーとして、雛子が真ん中を歩き。後衛をイグルが担当して最後尾を歩いている。
「なぁ……。そろそろ自分で歩いてくれよ……」
「知~らな~いにゃぁ……」
そしていまだいじけたままのキーラは、コラキとペリとで交互に背負っていた。
「イグルちゃん、『魔獣』の気配は?」
そんなキーラたちを、ほほ笑ましそうに。クスクスと笑いながら見守る雛子は、イグルに『魔獣』が近付いているかどうかを尋ねる。
「ふぉぁ? えっと、周囲一キロ圏内にはいないです。それ以上にはちらほら……です」
「ん、ありがとう。それなら……。まぁ、良いかな?」
雛子はそう言うと、「コホンッ」とひとつ。せき払いをしてから少しだけ恥ずかしそうに。片手はマイクを持つようなしぐさ、もう片方の手は森を手のひらに乗せるようなしぐさで『レムリア』について話し始める。
「えぇっと……。ここ『レムリア』は、『異界化迷宮』のなかでも数少ない。『非階層構造』の『迷宮』と言われていたんですが……。近年では、森の『外周部』から徐々に『内周部』へと進むにつれて同じ『魔獣』でも強さが違ってくることから――『非階層型』ではなくて『平面階層型』とも呼ばれています」
地図上に記した道すじをなぞりながら。雛子はツアーガイドのごとく振る舞う。
コラキたちはその解説に「へぇ」と感心しながら、雛子の手に合わせて右に左にと顔を動かしていく。
そしてキョロキョロと周囲を見渡すうちに。ペリが小さく「あ」とつぶやき直後――元気よく手を上げる。
「はぁい! ひっこちゃん、森の色が変わってきた気がするの!」
ペリの指摘にコラキたちが周囲の木々を注視する。すると、いままでは普通の森――であったはずなのだが、葉っぱの透明性が高く。薄っすらと青みを帯びている。
「あ、ペリちゃん良い所に気が付いたね。――そうです。『レムリア』が『平面階層』だぁって意見が出るのはね、こうやって中心部に近付くにつれて、『魔獣』の強さもそうだけど、森の雰囲気もガラッと変わるからなんだって。それで、雰囲気が変わり始めたら――はい」
「これは……グラサンだにゃ?」
雛子は待ってましたとばかりに、皆にサングラスを手渡していく。
「うん。周りの葉っぱがガラスみたいになってきたでしょ? いまはまだ良いけど……。そのうち、光がまぶしくて目が開けられないんだって。だからここから先は、サングラスを掛けていかないと――「ちょ、ちょっとタンマです!」……ふぇ?」
「どうした、イグル?」
得意げに「なぜサングラス」かを解説する雛子の声を遮って。イグルが慌ててコラキたちに注意を呼びかける。
イグルの慌てように、コラキが落ち着くようにと訴えかける。
「いや、えぇ……。でも――うん。ごめんなさいです。ちょっと変な反応があるですよ」
「――変な反応?」
イグルはすちゃっと。手渡されたサングラスを早速装着すると、コラキたちを呼び寄せて『鷹の目』の半透明スクリーンを見せる。
そこに表示されているのはコラキたちを示すであろう『青い光点』と――
「んなぁ……? 遠くにある赤いのは……『敵』?」
「はい……」
キーラの問いにコクリとうなずいたイグルは、そのままキーラの目線をスクリーンの別の点へと誘導する。
そこに表示されているのは『赤い点滅』であった。
「ほぁ? こんなの初めて……なの」
「イグル。これは?」
「たぶん、ですけど……。『魔獣』が死に掛けている――いえ、生まれかけている……です」




