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現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
第三章:母来たる!
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第二十七話:太陽の啼き声!(4)

続きです、よろしくお願いいたします。

「――んにゃぁ……。婆ちゃ~ん……。置いてかないで~……」


「おや、キーラちゃん? ごめんねぇ? お婆ちゃん、ちょっとはしゃいじゃったわねぇ?」


 小高い丘の上。そこからさらに手押し車に乗ったアロハシャツにサングラス姿の老婆――『田中のお婆ちゃん』。


 そんな彼女の後ろから、膝丈の白いアオザイに、青いくるぶし丈のムートン調ブーツ姿の少女が駆けてくる。


 少女は、長い三つ編みの銀髪を赤いシニヨンキャップから垂らしており。その髪を風に揺らしながら、追いついた田中のお婆ちゃんに、少女とおそろいの三度笠を被せる。


「――んにゃ……。日差しが結構すごいんだから……。これ被ってって……」


「はいはい。キーラちゃんは心配性さんだねぇ? お婆ちゃん、結構頑丈なのよ?」


 カラカラと笑いながら、田中のお婆ちゃんは三度笠をひとなでする。


 ――白髪の老女と、銀髪の少女。


 そんなふたりの和やかな空気に、美空たちは飲み込まれている。


『――ふぉふぉっ!』


 しかし、そんなゆるんだ空気は亀の『複合獣(キメラ)』によって打ち破られる。


「――あっ!」


 ――「危ないっ」と……。美空が叫ぶ間もなく。大量の小さな甲羅が、老女たちへと襲いかかる。


「おやおや……。亀さんかい? これは年明けから縁起が良いねぇ、キーラちゃん?」


「にゃ? キーラちゃん……、カメじゃなくてカラスを追ってきたんだにゃぁ……」


 景色を覆い尽くすほどの甲羅。――しかし、白と銀のふたりは、なんら焦りを見せず会話を続ける。


 そしていよいよ甲羅との距離が数メートル――となった時。


 ――ガッポガッポガッポガッポガッポガッポガッポガッポガッポガッポ……。


「い……れ……ば?」


 今度は美空たちの目にもはっきりと……。


「――あ、やっぱり……。そうです……?」


「ほぁ……。甲羅が食べられてくの……」


 ペリとイグルは、自分たちの見間違いではなかったと……。


「ふふ……。昔っからね? ハジキだろうが、なんだろうが、速いのは横からはたけばなんとかなるってのが、常識なのよぉ? それと皆、ごめんねぇ? 遅くなっちゃったけど、お婆ちゃん、助っ人に来ましたよぉ?」


 手押し車に乗ったまま。田中のお婆ちゃんは、いつもと同じ。『幻想商店街』で日向ぼっこをしている時と同じ笑顔を、美空、ペリ、イグル、玲人、こたつ(レイ)へと向ける。


「にゃぁ……。キーラちゃん、お婆ちゃんのお手伝いと、『八咫烏』サマがいるって聞いたから握手………………って、ああっ! えっと………………。そうだっ、玲人君とレイちゃんだっけ?」


 田中のお婆ちゃんの頭にあごを乗せ、ごろごろとしていたキーラは玲人とこたつ(レイ)の姿を見つけ、パァッとうれしそうな顔になる。


 一方で、突然名前を呼ばれた玲人とこたつ(レイ)は、戸惑いながら曖昧な表情で頭を下げる。


「――あ、えっと?」


『どこか……で?』


 初対面であるかのようなふたりの反応に、しばしキーラはお婆ちゃんの頭の上で、首を左右にかしげ――


「――ん~……にゃっ! そ、そそそうだったにゃ……。素顔では初めましてだにゃぁ……」


 と言って、恥ずかしそうに顔を赤らめて、ぶ厚い眼鏡を掛ける。


「――あっ!」


『トキワ……さんッ?』


 ふたりは一気に青い顔になり、バットと天板を構える。


 キーラはそれを見て――


「にゃ……にゃにゃっ? ち、違うよ? キーラちゃん、ただ潜入してただけだからっ! こっち、こっちが素顔にゃの!」


 ――ふたりからの誤解。つまりは修学旅行での襲撃に関しての誤解を解いていなかったことを思い出したらしい。キーラは慌てて眼鏡を外し、ペコペコと頭を下げる。


 そして田中のお婆ちゃんと、美空からのとりなしもあり。玲人とこたつ(レイ)がホッと胸をなでおろしたころ……。


「そろそろいいかしらねぇ? ――キーラちゃん、指揮をお願いねぇ? お婆ちゃん、ちょっと誤算だわ? この亀さん、ちょっとお婆ちゃんだけじゃつらいわぁ……」


 飛んで来る甲羅をひたすら『入れ歯』で迎撃していた田中のお婆ちゃんから、少し焦り気味の声が掛かる。


 キーラはその言葉に慌てて「ごめん」と告げながら、背筋を伸ばしてその場の状況を確認し始めた。


 やがてひとしきり戦況を確認し終えたらしいキーラは、ニンマリとその猫のような口をつり上げ、イグルへと声を掛ける。


「そこのスレンダーちゃん! キーラちゃんが足場を作るから、それに乗って、亀さんの意識をかく乱するにゃっ! ――『ファイブトリックス:一A』!」


 キーラはスキルを発動すると、両手に持った巨大なヨーヨーを、木とぶつけたり、ヨーヨー同士をぶつけたりと、周囲の空間を――亀の周囲を縦横無尽に走らせる。


 そして徐々に速度が上がり、亀がキョロキョロとし始めると――


「……できる?」


 ――ジィッと……。上目づかいで、ふたたびイグルを見つめる。


「――ふぉあ……。も、もちろんです!」


 イグルは一瞬。なぜだかジュルリとよだれがあふれたが、次の瞬間には気を引き締めて、ヨーヨーの糸や、本体の上を跳び回り、時に亀をおちょくり、時に亀に蹴りを入れつつ、亀の注意を引き始める。


「お婆ちゃんっ! 甲羅は任せていいかにゃ?」


「はいはい。イグルちゃんが頑張ってくれてるからねぇ? ――これくらいなら、ドンパチの時のおハジキより容易いねぇ?」


 キーラはヨーヨーを操りながら、隣のお婆ちゃんへと問い掛ける。お婆ちゃんはほほ笑みながら、手押し車のふたを開き、さらに『入れ歯』を追加する。


 群れる蜂のごとく、宙を飛び回る『入れ歯』を確認すると、キーラは玲人とこたつ(レイ)に視線を向ける。


「――んにゃっ……! じゃあ、レイちゃんと玲人君はお婆ちゃんの打ち漏らしだけ頼むにゃ? ――専務さんはちょっと頑張り過ぎたっぽく見えるから、休んでるにゃ!」


 緊張感を保ちながら。こたつ(レイ)と玲人はキーラの言葉にうなずく。そして美空は「すみません……」と、その場に座り込む。


「――すんません……。俺を守るために……。無理……させたんスね……?」


「気にしないでください……。子どもを守るのは……。背中を見せて格好つけるのは、ボクたち大人の特権ですから。ただ……。ちょっと最近、運動不足かな……?」


 美空はそう言うと、玲人に「あとは頼みますよ」と告げる。


「――はい……。せめて、任されたことは……。これだけはやりきって見せます!」


『玲人君……。頑張りましょうっ!』


「おうっ!」


 美空から励まされたからなのか、美空に対する恩返しのつもりなのか。玲人はいつになく、真剣な表情を浮かべる。


 そして玲人の気合とともに、バットの輝きが強く、強くなっていく。


「――にゃぁ……。まだまだだけど……。いい感じだにゃ? もう二、三年したら、戦ってみたいかにゃ?」


 キーラはヨーヨーを舞わせながら、玲人をチラリと見てつぶやく。そして満足そうにフンスと鼻息ひとつ。そのまま、イグルと協力して亀を足止めする。


「――ふぉっと! さすが『三度笠スケバン』です? 物凄い跳びやすいです……。――『八爪』」


『ふぉぉっふぉぉぉ!』


 苛立たしげに亀は叫ぶ。


 そんな亀の腹を、顔を、甲羅を、腕を、尻尾を――


「――『八爪』、『八爪』、『八爪』………………!」


 ――イグルはその脚で。その脚に付いている透明な爪で切り刻んでいく。


 やがて亀は完全にイグルをターゲットにしたらしく。首を上に向け、甲羅を上に放出していく。


「――いまにゃっ! お乳のでかい子!」


「は~いなの!」


 キーラは、ペリと自分のモノを比べ、小さく舌打ちをしながら、ペリに声を掛ける。


 ――ペリはゆっくりと。ふたたび亀の前に立っていた。


「むふぅ……。今度こそ、やってやるの!」


 いまだに亀はイグルを追い掛けている。ペリはそんな亀を前にして、いたずらっ子のようにニカッと笑い、『棍棒の様なモノ』を大きく頭上に振りかぶる。


 ――狙うは亀の足元。


「――落っこちるのっ! ――『ほいしょぉ』!」


 ――スッコォォォンッ!


 小気味よい音が森に響き渡る。


『――ふぉふぉっ?』


 そして亀がその音に気が付き。次に足元のペリに。最後に自らの、消えた足元に気が付く。


「ほっ」


 ペリはそんな亀に、にこやかに手を振る。


 ――徐々に、徐々に……。


 亀とペリの視線が近付き……。視線の高さが同じになり……。


 やがて亀はペリを見上げるようになった……。


「おぉ……。落としちゃったんだにゃぁ……」


 感心しているキーラに、ペリは「うへへ……」とはにかむ。


 キーラはしばらくペリを品定めするかのように眺めていたが――


「――キーラちゃん」


「にゃっ! そうだった! 皆、総攻撃だにゃ?」


 ――田中のお婆ちゃんに促され、われに返り、「いくにゃ」と叫ぶ。


「分かったのっ! ――『よっこいしょ』ぉ!」


 言うが早いか……。ペリは『棍棒の様なモノ』を穴に向けて振り下ろす。


 すると穴の中から『ふぉ』と言う鳴き声と、なにかがひしゃげたような音が聞こえてくる。


「――あ、ウチ、遠距離攻撃のスキルないですから、『鷹の目(パラ・サイト)』で見てるです」


 イグルはそう言うと、穴の傍で膝を抱える。


「ん~……。ボクは今日はもう無理……」


『ミィも……。穴の底が見えないと、ちょっと……』


 美空とこたつ(レイ)もまた、ペッタンペッタンと『棍棒の様なモノ』を振るうペリを見ながら、その場に座り込む。


「じゃあ、俺は一応――『聖龍斬』!」


 玲人のバットから白銀の『龍』が現れ、穴のなかへと進んでいく……。


「ん~……。キーラちゃんも、縦穴は無理だにゃぁ……」


 キーラは穴の底をながめ、そこで繰り広げられていた『餅つき大会』に、「うへぇ……」と苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。


 そんなキーラの横を、田中のお婆ちゃんが通り過ぎていき、つぶやく。


「じゃあ、お婆ちゃんの出番かねぇ? ――『蛇腹歯』」


 ――ぐしゃぐしゃと、なにかがつぶれる音がする穴に向けて、田中のお婆ちゃんは手を伸ばす。そして、スキルを発動し、自らの武器である『入れ歯』を、ひとつの形へとまとめ上げる。


『カチカチカチカチカチカチカチカチ――』


「おぉ……。さすがお婆ちゃん……。イカしてるにゃぁ……」


 胴体は長く、ヘビやミミズのごとく。頭は巨大な『入れ歯』……。そんな『入れ歯』の怪物は、田中のお婆ちゃんの指先に従うように、ズルズルと穴のなかに進んでいく……。


 ――それから数分後……。


『ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――』


 穴のなかから、亀のものと思われる大絶叫が聞こえてくる。


「………………」


 そして一行が息を飲むなか。その絶叫を最後に、穴からの音が途絶える……。


 それからさらに数分後。


「――あ、終わったみたいです」


鷹の目(パラ・サイト)』で亀の反応を見ていたイグルのひと言によって。その場の緊張がゆるみ、田中のお婆ちゃん、キーラを除く全員が、その場に仰向けになって倒れた……。


「んじゃ、キーラちゃん、『八咫烏』サマを探してきまーっす!」


「はいはい、お婆ちゃん、疲れたから、ここで待ってるからねぇ? キーラちゃん、怪我しないように気を付けていってらっしゃいな?」


 キーラはそんな一同を気にすることなく。「もうここに用事はないにゃ」と告げ、ニパッと笑顔になる。そしてそのまま、田中のお婆ちゃんに「はーい」と手を振りながら、森のなかを走り去って行った……。


 その頃――


「コラキちゃん……」


「――大丈夫だ……。なんとかする!」


「――はっ! 足手まといがひのふのみ? そらぁ、ポジティブ過ぎんだろ? ――なぁ、コラキくん?」


 ――暗い地面の下で。コラキと雛子もまた、戦っていた……。

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