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現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
第三章:母来たる!
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第二十六話:太陽の啼き声!(3)

続きです、よろしくお願いいたします。

「…………♪」


「パルカさん……? その……お姿は?」


 白いゴム生地にも似た、体のラインにピッタリとフィットした鎧。胸もとには四角いネームプレート。刻まれた文字は『ぱるか』。


「…………キュ? …………ないしょ……ね……?」


 その足は水流をかき集め、エメラルドグリーンに輝く尾びれを形づくり、パルカはその尾びれをぴちぴちと動かし、海面を跳ね回る。


「――うっぷ……。ちょ……動き……が、ハゲ……しっ」


 頭上の小人――ラストワンのことなどお構いなしに、パルカは跳ね回る。


『――ディっ?』


 そして右手には白の。左手には黒の。それぞれイルカを模したかのような手甲。


「…………キュッキュッ~♪」


『――ディッ……ディッ!』


 パルカは海面を跳ね、トカゲの『複合獣(キメラ)』をかく乱し、手甲でその腹に穴を開ける。


『ディィィィィィィッ!』


「――っ! さ、再生しましたよっ?」


「…………キュゥ……。…………めんどい……」


 パルカがあけた穴は即座に再生し、パルカはほっぺたをぷくっと膨らませて、トカゲをにらみ付ける。


 トカゲはそれをどう受け取ったのか……。海面のすぐ下を滑るように動き回り、背後からパルカを喰らおうと、その口をクパッと開く。


「ひぎゃっ! パ、パル――」


 いち早くそれに気が付いたラストワンは、目に涙をためて叫ぶ――が。


「…………キュ……。…………おそ……」


 パルカは後ろを振り向かず。そんなトカゲの下あごを、手甲の裏拳で殴り飛ばす。


 首がねじれる程の衝撃を受け、トカゲの体がキリキリとその場で回転するが、パルカはそこでトカゲに向き直り、さらにその両手の手甲をトカゲに向ける。


「…………キュ……。………………イッて……?」


 そしてパルカがつぶやくと、両手の手甲がパルカの拳から勢いよく飛び出し、トカゲの周囲を飛び回りはじめる。


 白と黒のイルカが、トカゲの周囲をグルグルと飛び回る。二匹のイルカの尾びれからは、ジェットのごとく。大量の水が噴き出している。


『ディィィィィス――』


 トカゲを取り囲むような手甲が鬱陶しいのか。トカゲは苛立たしげにひと鳴きして、その手を手甲へと伸ばす。


 しかし手甲の速度はトカゲの手よりも早く。トカゲの手は空を切る。


 ――気が付けばトカゲは、二匹のイルカが噴き出した水によって、その全身を取り囲まれていた。


 パルカはそれまでの様子を、腰に手を当てて、どこか満足そうに眺めていたが、トカゲがジェット水流の檻に囚われたことを確認すると、ふんっと鼻息を荒くしてつぶやく……。


「………………キュ……! ………………ぱぱじきでん…………『どらむしき(シロモノ)』……」


『ディッ? ディィィィィスッ!』


 そんなパルカの表情がかんに障ったのか。トカゲは自分の尻尾を切り落とし、その手に握る。


 すると尻尾は、大きな包丁へと変化する。そしてトカゲはニタリと笑い、その包丁を水流へと――水流を作り出している手甲へと振り下ろす――


『――ディィィィィィィッ! ………………ディィ?』


 ――しかし……。


 トカゲは不思議そうに首をかしげる。その視線は手元に……。


「………………キュ……。………………むだぁ……」


 あくびをしながら、パルカはつぶやく。


 トカゲの視線の先。――そこにあったはずの包丁は……。そして包丁を持っていたはずの両腕が、いまはそこにない。


『――ディィィィィスッ?』


 遅れてきた痛みに、トカゲは叫び声を上げる。


 ――そしてハッとした表情で、周囲を……。周囲の水流を見る。


 トカゲを囲む水流は、徐々にその範囲を狭めていた。


『ディっ……? ディディッ?』


「………………キュッ……! ………………ちょっと、きゅうと……」


「――えっ?」


 オロオロするトカゲに、パルカは目を大きく開く。


 そんなパルカの視線に気付く余裕など、トカゲには存在しないらしい。


 トカゲはオロオロしながら、再生した両腕を水流に突っ込んでみたり、なにがしかのスキルを発動させ、水流へタックルをかますが――


「………………キュ~……あっ……! ………………わすれてた…………『じゃっじめんと』!」


 ――トカゲのうろたえっぷりを傍観していたパルカは、表情を変えず。ふと、なにかを思い出したようにつぶやくと、ぎこちない動作で、親指で首を横に切るように動かし、その後、親指を下に向ける。


 するとトカゲを囲む水流はギュルギュルと回転を速くしていく。


『ディィィィィィィス……。ディィィィィス――』


 許しを請うような鳴き声は、高速回転する水流の音に阻まれ、パルカの耳には届かない。


 ――そのまま、水流が作り出す檻は小さく、小さく……。やがてこぶし大にまで小さくなったあと……。


 パチンと……弾けた。


 パルカは弾けてどこかに消えてしまった水を見送ると、両手に手甲をはめ直す。


 そしてどこかから聞こえてくる戦闘音に、しばし小首をかしげ――


「………………キュ……。………………ついで……」


 ――下半身を覆う、尾びれ型の鎧を浮き輪型へと変える。


「えっ? えぇ……? パ、パルカさん? 他の方の助太刀は――主は?」


「………………キュ……。………………もんだいない……ことしは……かなづちをこくふくする……」


 そして戦闘が終わった海に、パチャパチャと小さなしぶきの音が……。そしてラストワンの叫び声が響いていた……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――一方……。


『ふぉふぉふぉふぉ――』


 亀の『複合獣(キメラ)』が大きく跳び上がる。


「ペペペペペペ『ペイント・レインボウ』! ロロロロロロ『ローリング・アロウ』!」


 虹色に輝くこたつの天板が、宙に舞った甲羅と激突する。


「いいいいいいいいいいいまのうちぃぃぃ――」


 眼前の空間で火花を散らす、こたつの天板と甲羅。こたつ(レイ)はそれを指しながら「たたた退避」と訴えかける。


 こたつ(レイ)の合図で、美空たちは甲羅の予想落下地点から大きく距離を取る。


 次の瞬間。甲羅は地面と激突し、先ほどメンバーを分断させた時ほどではないものの、大地に大きなヒビを入れる。


「――手負いでこれですか……。しかも……『半』」


 眼前の災害に、美空の表情がこわばる。


『ふぉ……ふぉふぉ……』


 ――唯一の救いは……。亀の『複合獣(キメラ)』には再生能力がないらしく。スプリギティスが残した爪あとは、確実に亀の能力を落とさせていた。


 しかし……。それでもなお。亀は速く、硬く、強かった。


 美空とこたつ(レイ)の攻撃はその甲羅で弾かれ。玲人の攻撃は当たらない。


 ――かろうじて……。


「ほぁっ!」


「ふぉぉぉぉぉ!」


 ペリとイグル。このふたりだけが、善戦していた。


「――むむっ? なんかくるっぽいの!」


「美空さんっ! 皆、防ぐです!」


 亀の周りを跳び回るイグルが、声を荒らげる。それを聞いたこたつ(レイ)は、天板を手元に手繰り寄せると、ふたたびスキルを発動する。


「ミミミミミ……ミィが! ペペペペペペペペペペ『ペイント・グリーン』! ワワワワ『ウィンド・ウォール』!」


『ふぉぉぉぉぉ――』


 こたつ(レイ)が天板に風をまとわせ、回転させる。それと同時に、亀の全身から小さな甲羅が、雨あられと、地面に降り注ぐ――


「マジかよ……」


「れれれれれれれれ玲人君! さささささささ下がってて!」


 ――天板とその周囲の風が、小さな甲羅を弾いていく。こたつ(レイ)は思わず立ち上がろうとした玲人の手を引っ張り、自らに引き寄せる。


 思った以上に強い引力に、玲人の体はレイ本体が潜む、こたつ布団の中まで転がっていく。


「――おぉ……。柔い……」


 そして次の瞬間――


『――システム・ブート………………モデル・イヤン………………ロード……OK』


 こたつの中から機械音声が鳴り響き、玲人のバットが勝手に動きだした。


 そしてこたつ布団から白銀の『龍』が現れる。


「れれれれれれれれ玲人君っ?」


「ご、ごめん……。うへへ……って違う! あとで謝るからっ! いまは――『聖龍斬』!」


『――ブート………………『聖龍斬』……』


 にやけた表情のまま。玲人はバットを大きくスウィングする。するとバットの先からはみ出していた『龍』はその口を大きく開き、叫ぶ。


『――ギュォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!』


『ふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉっ!』


 そのまま、『龍』と亀がぶつかり合う――が。


『――ふぉっ!』


「――なっ!」


「へへへへへへ『変龍へんたいさん』がっ?」


 亀はあっさりと、玲人の『龍』を――『聖龍斬』を、その手でペシッと。たたきつぶしてしまった……。


 さらに間の悪いことに――


「玲人先輩っ! 危ないです!」


「――あぇ?」


 ――こたつ(レイ)のスキルが途切れたのか……。亀が放った小さな甲羅。そのうちのひとつが、玲人の前に迫っていた……。


「――『厚塗り』! 重……い――『試着室』!」


 ――ゴインッ……。ベチョベチョベチョと……。真っ白なドロドロとした壁を、甲羅が突き進んでいく。


 美空は壁だけでは防ぎきれないと、すかさず玲人を囲むように白いカーテンを展開する。


「――おぁっ!」


「れれれれれれれれ玲人君! ぶぶぶぶ……無事でよかったです……」


「すみません……。防ぐことすらできませんでした……。怖い思いをさせてしまいました……」


 青い顔をしたまま、美空は白いカーテンを即座に収納し、今度は自分の手元にカーテンを展開して、中から玲人を引っ張りだす。


「い、いえ……。助かったっス」


「――ふぅ……。本当に……あれで『半』……? ――あとでお兄ちゃんに謝らなきゃ……」


 ぺこぺこと頭を下げる玲人に「気にしないで」と告げて、美空はぶつぶつとなにかをつぶやく。


 そうこうしているうちに――


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉぁっと! ――『八爪』!」


 ――イグルが周囲の木々をバネにして、跳ね回る。そして亀と接する時に、その脚にまとった透明な爪で蹴り付ける。


 しかし、亀にはダメージがあまりないらしく。亀は鬱陶しそうに。はえを追い払うかのように。その手をぶんぶんと振り回している。


「ほぁ……。やっと近付けたの――」


 亀は上空のイグルに気を取られ。足元の少女に――ペリに気が付いていなかった……。


 ペリはその肩にハンマー状の名目上『棍棒』――『棍棒の様なモノ』を担いでいる。


「――ん……しょっ!」


 ペリはそのまま――玲人のバッティングフォームを参考に。『棍棒の様なモノ』をフルスイングし、亀の腹を打ち抜く!


『ふぉぉぉぉふぉっ!』


 ――無防備な腹への強烈な一撃。


 亀はその衝撃に逆らうことなく。そのまま数メートル先の岩にめり込んでいく。


『ふぉ……ふぉぉぉぉ――』


「うそですっ? クリチカルだったですよ……?」


「ほぁ……。ビックリしたの……」


 しかし……。亀はスプリギティスに吹き飛ばされた時よりも早く。岩にめり込んだ体を、岩から引きはがし、首をゴキゴキと鳴らしながら立ち上がった。


 その様子からは、大したダメージを受けていないことがうかがえる。


 さすがにペリも、そしてイグルもこれは想定外であり、その表情が凍りついている。


 すると亀は、ふたりの様子がお気に召したのか、ニタリといやらしさを感じさせる笑みを浮かべた。


 そして――


『ふぉぉぉっふぉっふぉぉ!』


 ――先ほどの小さな甲羅を、倍の数ほどに増やし、宙に浮かばせる。


「まず……いです」


「打ちかえすのっ!」


 飛んで来る甲羅を、イグルは蹴り飛ばし、ペリは『棍棒の様なモノ』で打ちおとしていく。


「――こっちにもっ?」


「やっべ……。レイさん……こんな時になんですが……」


「――れれれれれれれれ玲人君? ああああああああああきらめないでっ! ああああとでいくらでも聞いてあげますから!」


「美空さんっ! 逃げるの!」


「それか、弾くです!」


 さすがに、ペリとイグルは、自分に向かってくる甲羅で手一杯らしく。もどかしさに歯がみしながら、美空たちに向けて叫ぶ――


「ミミミミミミィが、やややややややってみます! ペペペペ『ペイント・ブラウン』! ロロロロロロ『ロック・ウォール』!」


 ――こたつ(レイ)は、周囲の土や岩でありったけ。天板に多層のコーティングする。


 しかし、一層、二層、三層と……。あっ気なく岩壁は破られていき、逃げる暇もなく。甲羅は迫ってきた。


「――どうする……!」


「あ、あああああああああ……。ごごごごごごめんなさい……」


「れれれれレイさん! やっぱり、いま言います! おっぱ――」


 そして美空が必死になにかを考え。こたつ(レイ)と玲人が死を覚悟したその時――


「はいはい。ちょっとごめんなさいねぇ?」


 ――ガッポ。


 妙な音とともに、玲人たちに迫っていた甲羅のひとつが消える。


「――へ?」


 そして両手をワシヅメのごとく開いた玲人の、間の抜けた声が出たと同時に……。


 ――ガッポガッポガッポガッポガッポガッポガッポガッポガッポガッポ……。


 妙な音が連続し、次々と甲羅が消えていく。


「これは……まさかっ!」


 美空が喜色を含んだような、ギョッとした表情を浮かべる。


 そして美空が少し離れた、大きな岩が転がり、小高い丘のようになった場所を見上げる。


「なにか……あるです?」


 最後の甲羅を蹴り落としたイグルが、美空の視線の先を追いかける。


「ほぁ? なにか落ちてるの。――これ……歯?」


 ペリは足元に転がったなにかを、ヒョイと拾い上げ、同じく小高い丘を見上げる。


 そして少し遅れて、玲人が、こたつ(レイ)が、丘を見上げる。


「ごめんなさいねぇ? ちょおっと迷っちゃたのよぉ」


 ――申し訳なさそうにはにかむ女性。その装いは、蛍光色の派手なアロハシャツに、顔よりも大きいサングラス。白銀の髪は後頭部でひっつめ、シックな色合いの手押し車に乗っている。


 その女性は、日本が誇る『Sランク』の『冒険者』。


 ――序列は六位。


 その姿をはっきりと確認し、美空は叫ぶ。丘の上にいたのは――


「――田中の……お婆ちゃん!」


 通称――


「はいはい。あら美空ちゃん? おやおや元気だったかい?」


 ――『コンピューターおばあちゃん』。その人だった……。

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