表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
第三章:母来たる!
81/102

第二十五話:太陽の啼き声!(2)

続きです、よろしくお願いいたします。

「――ったくよぉ……。クリッさんから引き継いでみりゃあよぉ……」


 黒髪に細目、執事服姿のボゾアは、苛立たしげに頭をガシガシとかきながら、「……でも」と小さくつぶやく。


「まさかこんなとこで会えるとはなぁ? ――スプリギティスさんよぉ……」


 ボゾアは少し落ち着きを取り戻したのか、頭をかく手を止め、ニコリとスプリギティスに向けてほほ笑む。そのまま、ボゾアはスプリギティスに向けてうやうやしく頭を下げる。


「ずぅっと……。アンタを探してたんだぜ? 俺も……。主も……。クリッさんも……な」


 そして頭を上げたボゾアの表情は喜色を含んでいた。


 コラキ、イグル、ペリの三人は、そんなボゾアに対して警戒を強め、スプリギティスとボゾアの間に立つように、それぞれの武器を構える。


 ボゾアはそんな三兄妹のことなど、気にも留めず。しゃべり続ける。


「――十年前……。あん時、アンタが抜けたせいで、アンタのお守りしてた鳥系の『伯獣』……。その主力四匹もいなくなっちまうし……」


 ボゾアとコラキの視線がぶつかる。


 コラキがどう言う表情を浮かべていたのか……。ボゾアはニヤリと笑う。


「それに続けて、鳥系の『伯獣』は好き勝手散らばりやがるし……。おかげで、俺たちの戦力は大幅にダウン。当時は気にしちゃいなかったが……。いまになって思えば、俺たちがこうして日陰の生活を送ってるのは、アンタのせいだ……。少なくとも俺は、そう思っている」


 ボゾアはほんの一瞬。少しだけ憎しみの目でコラキ、ペリ、イグル、スプリギティスを見ると、すぐに柔らかな表情に戻る。


「――はくじゅう?」


 雛子が不思議そうに吐き出した言葉に、コラキがびくりと震える。


「いまなぁ……? 俺の中には『四伯』が三匹分詰まってんだ……。――あとはアンタがいりゃ、コンプリート……ってやつなんだ。だから……アンタが欲しいんだよぉっ! なぁっ、スプリギティス様よぉ?」


 それまでの柔和な表情とは打って変わり。ボゾアはその細い目を限界まで開き。鋭い歯を持つ口を、限界まで開いている。


「――皆っ!」


 コラキは息をのみ。仲間に警戒するように呼びかける。


「コ、コラキ……。あの糸目……。お前の知り合いか?」


『なんだか、不気味です……』


 玲人はバットを持ち、こたつ(レイ)の前に。こたつ(レイ)は天板を宙に浮かせて玲人の前に。――互いに互いを守ろうと、武器を構える。


「――まあ……。昔のバイト先のひと……かな?」


 実際。コラキは最近までボゾアの存在を知らずにいた。そのため、あいまいな返事になってしまったが、玲人もこたつ(レイ)もそれで納得してくれたらしく。ふたりはそれ以上深く考えなかったらしく。


「お前……。金欠でもバイトは選べよ……?」


『ひっこさん、泣きますよ……?』


 それだけ言って、ボゾアへと向き直った。


 ――一方……。


「あらぁ~……? あらあらぁ~? ねぇねぇ、イグルちゃん? ママ、いま告白されたのかしらぁ~……? やぁん……。「アンタが欲しい」だなんて……。人生初の告白が、こんなに情熱的だなんて~……。ママ、困っちゃう! ――あらぁ~? 初だったかしらぁ? ねぇ、ママどうしましょう!」


 自ら告白してしまったように。スプリギティスは人生初の告白――らしき言葉に舞い上がっていた。


 スプリギティスは「いやんやん」と身をよじりながら、熱っぽい表情でボゾアを見上げる。


「あらぁ~? でも、顔はいまいち? う~ん……。もう少し、犬っぽい感じが良いかしら~……?」


 小声で「三十点……。う~ん……。でも……四十点……?」などとつぶやき、その様子に周囲は……。ボゾアですら言葉を失い、あぜんとしていた。


「か、母さん……? えっと………………どうしたん……ですか?」


 コラキは痛くなる頭を押さえながら。辛うじてその言葉を絞り出す。


 スプリギティスは、キョトンとした表情で――


「――えぇ~? だって、ママ。告白されたでしょ~?」


 ――はにかみながら答える。


「い……いやいやいや!」


「ママっ! それは私でも違うと分かるのっ!」


「落ち着くです! あの糸目、ママの体が目当てなだけですよっ?」


 子供たちの全力否定に、スプリギティスはつまらなそうに口をとがらせ、「え~」とつぶやく。そしてそのまま、スプリギティスはぼう然としたままのボゾアに声を掛ける。


「そうなの~?」


「――えっ? あ、まあ……。だいたい……あってる……かな? ――んんっ……。もちろん、いま、ここでっ! いただくつもりだけど――なっ!」


 ボゾアはスプリギティスに問われ、ぼう然としたまま答えたが、首を左右に数度振り、気を取り直して不敵な笑みを浮かべ、中指と親指でパチンと、弾けるような音を出す。


「――逃がさねぇぜ……?」


「これ……は」


 美空がのどをゴクリと音を鳴らす。


『ガァァァ――』


 ボゾアの背後に、いつのまにか立っている白色の虎。


「さっきのヤツ……? いや、ちょっと違う?」


 玲人はカタカタと震えながら、バットを強く握りしめる。


『ディィィィィス――』


 そこにさらに続けてもう一体。灰色のトカゲ。


『あれ……。さっきのより弱いってこと……ないですよね……』


 天板に表示された文字に、コラキが無言でうなずき、ボゾアがニタリと笑う。


『ふぉ……ふぉふぉふぉふぉ……』


 そして最後に。背中に甲羅を背負った、二足歩行の亀が現れる。


「…………キュ……。……ちゅーとはんぱがみっつ……。そして……いやなこと、おもいだす……」


 その亀を見て、パルカの周囲がビリビリと震えはじめる。


「どうだ? 俺とクリッさんで開発した『複魔獣(キメラ)』だ。さっきお前らが倒した試作品より、

少しだけ完成品に近いやつでな? 速度、防御、生命力に、それぞれ特化させてある。――知ってるやつに分かるように言えば――『半獣士』て感じかな?」


 ボゾアの言葉で、美空の体がびくりと震える。


 そして冷や汗を流す美空を満足そうに見ると、ボゾアはそのまま話を続ける。


「――まあ、本当に『半』なのかどうかは知らねぇけどな? こんだけいりゃあ……。足手まといだらけの、アンタくらい。あっさりと捕まえられんだろ? ――なぁ、スプリギテ――」


 優越感からか、ペラペラと口を動かすボゾア。そのボゾアの横を、なにかが通り過ぎ、風がボゾアの頬を切り裂く。


「え~い」


『――ふぉふぁっ!』


 次の瞬間。亀の『複魔獣(キメラ)』が勢いよく飛んでいく。


「――は……? えっ?」


 戸惑いながらボゾアは、飛んでいった亀を見る。


 亀の『複魔獣(キメラ)』は、背後の大樹にぶつかり、その幹にめり込み、その全身はズタズタになり、ピクピクッと小刻みに震えている。


 ボゾアはギギギ……っと。関節が固まっているかのように。その首を、隣に立つ女性へと向ける。


「んも~……。乙女の純情は踏みにじったらダメなのよ~?」


 ――子供に言い聞かせるように。スプリギティスは頬をパンパンに膨らませ、腰に手を当てて「ぷんぷん」とうなっている。


「あ……。あ、ああっ? ちょ、ちょっとま――」


「――めっ」


 右目をつぶり、ウィンクをボゾアに贈りながら。スプリギティスはその指でボゾアの額を弾く。


「――っ!」


 ボゾアの体はその場でクルクルと。風車のごとく回転し、その後地面に四つんばいになる。


「さあ~! 天罰~!」


「――ヒッ」


 そしてその場の皆があっ気に取られるなか。スプリギティスはその拳を振り上げる。


 しかし――


「え……? かあ……さん?」


 ――その拳は振り下ろされることなく。ピタリと止まっていた。


「しまった……。およそ一カ月……。それが限界……ですか……」


 ギリリと下唇をかみながら。美空は口惜しそうにつぶやく。


「あらあらぁ……。時間切れ……かしらぁ……?」


 スプリギティスは「つまんなぁい」とつぶやく。その体はまばゆいほどの光に包まれており、徐々にその姿が薄れていく。


「ど、どういうことなの、美空さん?」


「マ、ママは……? どうなるです?」


 ペリとイグルは、動揺を顕わに。美空に詰め寄る。


 美空はそんなふたりの頭をなでると、静かに口を開く。


「――『柱』の『守護者』は、外に出歩くことは自由ですが、その活動時間には限界があります。地球でその『外出時間』は不明でしたが……。どうやら約一カ月ほどみたいですね。――そして間の悪いことに……。それが今日――いま、起こってしまいました……」


 美空はさらに「別に死ぬわけではありません」と付け加える。


「――そういや、そんなこと……言ってたっけ……?」


 コラキは錫杖をグッと握りしめ、遠い昔に思いをはせる。


「ん~……。これ、もう触れないのねぇ~……」


 拳をボゾアの顔に、数度突き刺しながら、スプリギティスは「残念だわぁ~」と肩を落とす。


 拳が顔面を通過する度に、ボゾアは「ひっ」と震える。


 スプリギティスはそんなボゾアに興味を失ったのか、今度はクルリとコラキたちへと向き直る。


「じゃあ、ママ行くわね~? またすぐに帰るから~? あと、パルカちゃん。『睨んで』くれててありがとう~? もう、良いわ~? それとこの子もよろしくね~」


 スプリギティスは胸から小人を拾い上げると、ヒョイとパルカの頭に向けて投げる。


 そのまま、まるで「ちょっとそこまでお買い物」のような軽さで。スプリギティスは皆に向けてほほ笑み、手を振り、そして消えていった。


 ――しばしの沈黙。


 それを最初に破ったのはボゾアであった。


「逃げ……られた? は、はは……。逃げやがった……。逃げ……やがった! あの女っ!」


 命からがら。ギリギリで生き延びた安心感と、『自信作』をあっ気なく吹き飛ばされた屈辱感。そんなふたつの感情を、ボゾアは『スプリギティスが逃げた』と口に出し、悔しがることでなんとかごまかそうと、ほえる。


「畜生……畜生……畜生……。――――はぁ……」


 やがてひとしきり叫ぶと、ボゾアは頭をかきむしり、それまでの醜態がうそだったかのように。目を元の細い目へと戻し、背筋を伸ばす。


「さて……。スプリギティスには逃げられたが……。お前らは逃がさねえぞ? ――動けなくして、主の実験体モルモットにでもなってもらう……」


 ボゾアは指を鳴らす。


『ガァァァ――』


『ディィィィィス――』


 すると少しだけ動きづらそうに。虎とトカゲがゆっくりと動きだす。


『ふぉ……ふぉぉ……』


 そして一拍遅れて……。スプリギティスにボロボロにされた亀が立ち上がる。


「――やれ」


「来るぞっ!」


 ボゾアとコラキがほぼ同時に叫ぶ。


『ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――』


 ボゾアの合図で、亀がその身を甲羅に収納し、ギュルギュルと回転を始める。


 そして大きく跳び上がり、コラキたちを目指して落ちてくる――


「皆! よけ――」


 素早くその場から散開する仲間たち。


 しかしコラキはそのなかでただひとり……。


「あぅ……。コラキちゃん……」


 それまでの一連のできごとに、腰を抜かした少女を目に映す。


「――ひっこっ! 『大千世界アクセス』!」


 赤い輝きが周囲を覆い尽くす。


『ふぉっ?』


 その直後。亀は大地に激突し、地面が大きく割れる。


「――コラキっ、ひっこさんっ!」


 風圧に吹き飛ばされながら、美空はふたりに向けて手を伸ばす。


『ふぉぉうっ!』


 しかしその手をコラキたちが握ることはなく。下衆な笑みを浮かべた亀が、飛び付いてくる。


「ペペペペ『ペイント・ブラウン!』」


「レイさん! ――皆、レイさんの後ろにっ!」


 玲人の呼びかけに、ペリ、イグル、美空がこたつ(レイ)の後ろに回り込む。


 するとこたつの天板を中心に、周囲の土や石が集まってくる。


「ロロロロロロ『ロック・ストライク』!」


『ウッふぉぉぉぉぉ!』


 ゴリゴリと。亀と岩がぶつかり合う。


 ――一方、その頃。パルカとその頭に乗っかるラストワンは……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「………………キュゥ……。………………はずれ……」


「うぅ……。目が回るぅ……」


 ――地面が割れた瞬間。


 パルカはその中心部に突撃し、敵っぽいなにかを殴り飛ばしていた。


 その敵っぽいなにかは、森を越え、浜辺を越え。最終的にエメラルドグリーンの海へと落下していた。


「………………キュ……。………………亀のカメさん……つぶしたかった……」


「愛らしい顔で、そんなこと言っちゃダメですよ……」


 しょぼんと肩を落としたパルカは現在。海面で体育座りをして、海面にののじを書いている。


 そしてそんなパルカの背後には――


『ディィィィィィィ――』


 ――トカゲの『複合獣キメラ』がいた。


「………………キュ……。…………はんぱもんがぁ……」


 パルカはスッと立ち上がり、シュシュッと拳で威嚇しながら、海面から頭を現したトカゲを見下ろす。


 そしてプクッと、いじけたように頬を膨らますと、静かに口を開いた……。


「――『大人魚メガリ・ゴルゴンナ』」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ