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現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
プロローグ:学費を稼げ!
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第八話:学費の行方!

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――現在、『天鳥(たかとり)探偵事務所』の所長が座るべきオフィスデスクの上には、一人の小柄な女性が腰かけている。


 その女性は、ニコニコと、入り口に立つコラキ達三兄妹に笑顔を向け、小さく手を振っている。


「お茶です……、どぞです……」


「ん、ありがとうございます。――うん、美味しい……、上手になったね?」


 女性が、精一杯手を伸ばし、イグルの頭を撫でると、イグルは嬉しそうに微笑み、ソファに座り込む。


「あっ、ズルいのっ! 私も私もっ!」


「あー、はいはい、良い子良い子――」


 女性が、先程、イグルにしたのと同じ様に、ペリの頭を撫でると、ペリは、「ふふぇふぇ」と嬉しそうに微笑み、イグルと反対側のソファに座り込む。


 そして、女性が嘆息したのを丁度いいタイミングだと感じたコラキは、入り口から一歩、事務所内に踏み込み、手を上げる。


「――えっと……、美空さん? 何故にここに?」


「ん? 何故って……、これでもボクは、この事務所の大家であり、君達の親代わりのつもりなんですけど? ――来ちゃいけない?」


薬屋美空くすりやみそら』――大企業『ファルマ・コピオス』の若き専務であり、『美魔女』と言うジョブを持つ、日本有数の『Aランク冒険者』でもある。


 因みに、『Aランク』序列九位、『BLOLブロル』の名前でも知られていたりする。


「いやいや、そんな訳じゃないっスけど、この間電話貰ったばっかだし、何でかなぁって……」


 冷や汗を流しながら取り繕うコラキの様子を見て、美空はクスリと笑い、その後、スーツの胸ポケットから小さな赤く輝く、丸いレンズを取り出すと、コラキに向かって放り投げる。


「うわっとっと……っ、み、美空さん……、投げるなら、ちゃんと届かせてくださいよ……」


 手をデスクにぶつけたお蔭で、レンズを投げる事に失敗した美空は、コラキから向けられる非難の目を避ける様に、顔を赤くしながら、椅子を回転させ、誤魔化す様にコラキに背を向けると、何事も無かったかの様に口を開く――。


「――君の『切り札』が、衛府……じゃなかった、寺場博士のメンテナンスから帰ってきたんで、持って来て上げたんですよ。モノがモノだけに、郵送する訳にも、他の人に任せる訳にもいきませんしね?」


「あー、そっか……、態々有難うございます。言ってくれたら、取りに行ったのに」


 コラキが頭を下げると、美空は、人差し指を顎に当て、「んー」と呟き――。


「まぁ、用事はそれだけじゃないんですよね……」


 ――と、鞄から取り出した三枚のプリントを、オフィスデスクの上にスッと置いた。


「うん……、遅くなったけど、成績のお話と、ちゃんと生活できてるかのチェック……ですかね?」


「「「――ッ!」」」


 その瞬間、三兄妹は事務所の出入口を目指して、脱兎の如く、駆け出した――。


「ふ……、『厚塗り』!」


 ――ゴインッ!


「ブッ!」


「こ、これって――」


「ふぁ……、で、出口が塞がれてるの……」


 コラキ達が目指した事務所の出入口は、美空が出したであろう、真っ白で、ドロドロとした物質で覆われていた。


 美空は、目の前に現れた壁を、ドンドンと叩く三兄妹の背後に近付くと、ポンとコラキ、ペリの肩に手を乗せる。


「ふふんっ、ボクから逃げ様なんて、甘いですよ? ――さ、諦めてボクと二者面談しましょうか? ――『試着室』っ!」


 そして、美空が続けて発動したスキルによって、二つのソファとガラステーブルを囲む様に、白いカーテンが展開される。


 美空は、そのカーテンの切れ間をスッと開くと、イグルの顔を見つめ、手招きし始めた――。


 こうして、美空と三兄妹それぞれとで、二者面談が開始された――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ふむふむ……、イグルちゃんは、入学後初めての成績表だよね? ――うん、頑張ってるね……」


 カーテンで仕切られ、防音化された内部で、美空が学校から渡された報告書と、イグルの『学生ギルドカード』を見ながら、イグルの頭を撫でる。


「えへへ……、照れるです……」


 イグルは頬を染め、もじもじとしながら、美空にされるがままになっている。


「うん……、生活面に関しても、問題児二人を、上手くタテ君と連携して、抑えているみたいだねぇ……? うん、何か担任のコメントから、多大な感謝の気持ちが伝わって来るよ……。――ただ……」


「――ふぁ?」


 学校からの報告書を、上から順に読み上げていく美空の顔が、苦いモノになっていく――。


「な、何か悪いこと書いてあったです……?」


「いや……、悪いことと言うか……ね? 担任のコメントに、「もう少し、警戒心を持って下さい」って、書かれてて……」


 キョトンとした表情で、ビクビクとしているイグルに、美空は苦虫を噛み潰したような表情のまま、ため息を吐き、ゆっくりと告げる――。


「えっとね……? その、サイズが合わないと……ね? ちゃんと、合ったモノを……、付けた方が良いよ? ――…………………………しゃがんだ時に、見えちゃったって……」


「? 見えた……? 何……が、で……す? ――っ!」


 美空の視線を追っていくイグルの絶叫が、『試着室』内に響き渡り……、イグルの二者面談は、哀しみの内に終了した……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 絶望に打ちひしがれ、トイレに籠ってしまったイグルと引き換えに、『試着室』へと入って来たのは、ペリであった。


「えっと、ペリちゃん……、前も言ったけど、数学以外も頑張ってね?」


「? 私、頑張ってるのっ!」


 心外だと言わんばかりに、ペリはその胸を弾ませ、ソッポを向く。


 美空は、若干、物欲しげな顔で、その胸を睨んでしまったが、即座に気を取り直し、報告書に目を向ける。


 そして――。


「――うん、ゴメンね? それと、数学に関しても……、出来れば途中式も書いて欲しいって、コメントされてるんだけど……」


「うぅ……、答え分かるの、でも、解き方分かんないの……、ゴメンなさいの……」


 項垂れるペリに、美空はその頭をそっと撫でる。


「ま、まあ、うん、ゆっくり頑張ろう? マークシートなら、問題無いって考えよ?」


「うぅ……、はいの……」


「じゃ、じゃあ、次ね? えっと、ペリちゃんの生活態度に関してなんだけど……」


 内心、ペリに甘いと言う自覚を持ちつつ、美空は何か褒められる所は無いかと、必死に報告書に目を通す。


 そして――。


「――っ! ペリちゃん、担任のコメントで、「何事も一所懸命、素直で宜しい」って書いてあるよっ!」


 すると、ペリはパアッと笑顔になり、何かのリズムを取り、左右に揺れ始める――。


「うんうん、素直で良いよね……。――あ、ただ……、「体育や実習後に、パンツ、もしくは、スカートの履き忘れが多いので、ご家庭でも気を付けてあげて下さい」……って……」


「――えー? それは、嘘なのっ! 私、しっかり者で通っている気がするのっ!」


 そして、不貞腐れたペリは、そのままソファに寝そべった時点で、ペリの二者面談もまた、終了してしまった……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「? 何ですか? この肉達磨……」


「肉達磨じゃないのっ!」


「今、充電期間なんですっ!」


 美空に呼ばれたコラキが、『試着室』内に入ると、そこには寂しくなり、トイレから戻って来たイグルと、不貞腐れたペリが、重なる様に寝そべっていた。


「――うん、まあ、ちょっとね……?」


 蹲るペリの隣にコラキが座り、美空は疲れた様な表情で、コラキの報告書を読み上げる――。


「えっと……、うん、成績、生活態度、共に問題無いね……、これはこれで……、詰まらないなぁ」


「いや……、美空さん、人の成績に面白味を求めないで下さいよ……」


 コラキの抗議の声を他所に、前の二人の影響によって、若干、判断基準が狂った状態の美空が、「むぅ」と唸りながら、コラキの報告書を睨み付けている。


「――あっ! 担任のコメントに、「男子生徒から、コラキの爆発を望む声多数有り、マジパネェから気を付けろ?」だってっ!」


「? ペリ、もしかして……」


「――学校でも、昨日みたいな感じなの……」


 イグルが下段のペリに尋ねると、ペリは「やれやれ」とでも言いたげに、寝そべったまま、両手を持ち上げる動作をとる。


 すると、イグルも「あぁ……」と呟き、納得顔でコラキを見つめる。


 一方のコラキは――。


「? よく分からないですけど……、気を付けてみます」


 ――キョトンとした表情のまま、そう答えた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「さて……と」


 ――三人の面談が終わった後、美空は再びオフィスデスクに座り、「んー」っと、背を伸ばす。


 そして、チラリとカレンダーを見ると、コラキ、ペリ、イグルに手招きをして、近くに寄る様にと告げる。


「えっとですね、夏期休暇の最後の一週間、予定を開けておいて下さいね?」


 すると、コラキは暫く悩んでいたが、やがて――。


「――えっと、ちょっとこの夏は依頼を大量に入れようと考えていたんですけど……」


「? 確かに、家賃は強制徴収しましたけど……。そんなに、生活に困る筈は無いんですが……?」


 コラキに向けて「必要ですか?」と尋ねる美空に対して、コラキは尚も引き下がらず、告げる――。


「えっとですね、実は、後期の学費、払わなきゃって気付いて、今必死で金策してて……」


「――え? だって……、ボク、イグルちゃんが『冒険者養成学校』に入学する時に、お祝い代わりに『ファルマ』の依頼、上げましたよね? その報酬金、今年度分の学費を差し引いてから渡したはずですよ?」


 固まるコラキに、美空は再度「必要ないよね?」と告げる。


「あれ? ボク、言ってなかったっけ? ――あれ? うん……、ごめんっ!」


 そして、美空は逃げる様に事務所を飛び出していき、美空の告白によって真っ白になったコラキ達が我に返った時には既に、美空の姿は無く、オフィスデスクには一枚のメモ帳が残されていた――。


 メモ帳には――。


『何でか、余分に払われてた学費は、来年度分に回したから安心してね?』


 ――と、書かれていた……。


「――力……抜けた……」


「寿命が縮んだ気がするです……」


「余ったお金に、夢が膨らむの……」


 そして、コラキ達は無事、退学の危機を乗り越えたのであった……。

取り敢えず、プロローグはこんな感じで終了です。

今後も、よろしくお願いいたします。

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