第十八話:年明けの遭遇!(2)
長らく更新していませんでしたが、続きです、よろしくお願いいたします。
「たっだいま~です」
「うぅ……。早くおこたにダイブしたいですよ……」
古ぼけたアパート、『二鷹荘』。その二〇二号室の扉を開き、イグルと美空が姿を現す。
「ただいま……。いえ、お邪魔します……でしたか?」
「…………キュッ……。どっちでもいい……」
そのふたりのすぐ後に続いて、ライアが戸惑い気味に、パルカが『勝手知ったる』と言った感じで、二〇二号室へと転がり込む。
「えっと……。コラキちゃ~ん? 来たよ~?」
最後にコラキの同級生である雛子がひょこっと、扉の隙間から顔だけをのぞかせる。
『幻想商店街』での買い出しを終えたイグルたちは、その帰り道で雛子と出会った。雛子を含めた五人はそのまま、『二鷹荘』へと帰ってきたのだが……。
玄関先から声を掛けてもコラキの返事が返ってこない。そんなちょっとした不満を抑えて、雛子は首をかしげ、イグルたちとともに、居間に入りながらもう一度声を掛ける。
「あれ……? コラキちゃ――」
そんな雛子の目に映り込んできたのは――
「Hey!」
「Sa――……」
「――Ha!」
――なぜだかトランクス一丁になったクラスメイト――玲人と、その周囲をグルグルと回るブーメランパンツ姿の異形ふたりであった。
そんな彼らから少し離れた所では、ペリ、スプリギティス、こたつの三人が、まるで吹雪が収まるのを待っているかのように縮こまっている。
「ふぅっ! レイちゃん。私たちはこのままで良いの?」
「あらあら~? ペリちゃんが脱ぐなら、ママも脱いだ方が良いのかしらぁ?」
『ふ、ふたりとも! ダメです! それは……。あっ、良いポーズ……』
ペリとスプリギティスの親娘が、目の前で繰り広げられる祭りを、楽しそうに眺めて参加しようとすると、こたつをまとったレイが、必死でそれを止めようとしている。
「………………」
雛子を含めた買い出し組は、しばらく無言でその状況をながめていたが……。
「…………きゅ……。へんたい……」
パルカのそのひと言で、一斉にわれに返る。
そして目の前の状況を改めて確認した雛子の顔が、みるみるうちに赤く染まっていき――
「い……。いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
――『二鷹荘』に雛子の叫び声が響き渡った。
それから数分後。
ぎゅうぎゅう詰めの室内では喜ぶ者と、嘆く者とが入り混じり、室内の空気をふたつに分けていた。
「いや……。本気でヤバかったぜ……。皇……サンキュー」
玲人はそう言うと涙を浮かべ、雛子に何度も頭を下げる。
「ああ。俺も正直、やられてたからな。ひっこの叫び声がなかったら、完全に堕ちてた……」
コラキは自信の体をかき抱くと、ぶるりと震える。
「す、すみません……。僕では止めることすらできなくて……」
そしてデルフィニはそんな玲人とコラキを一べつすると、申し訳なさそうにうつむく。
そんな三者三様の違いはあるが、コラキたちはそろって互いの無事を喜んでおり、その視線の先には、真っ赤な顔を伏せてコラキたちと顔を合わせないようにしている雛子がいる。
「あッはぁん……。惜しかったわねぇん?」
「いぇあ……。この次こそ……必ず!」
一方。スファーノとポチは、そんなコラキたちと感情的にも物理的にも背を向い合せるように座っている。その視線の先には、黙して椅子に座り、足と腕を組むライアが薄目でそんなスファーノたちをにらんでいる。
ライアと雛子はスッと、互いに視線を合わせる。そしてライアは無言でうなずくと、そのまま大きく息を吸込み、叫ぶ……。
「まずは服を着なさいっ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ライアと美空、雛子からコラキたちがお説教され、下着姿から私服へと着替える。そしてようやく『二鷹荘』の二〇二号室に平穏が訪れ、地球と異世界との交流――『新年会』が始まっていた。
「…………キュ……。……やぁい、怒られたぁ……」
「うぐ!」
そのなかで、パルカとデルフィニの兄妹は仲良く(?)じゃれ合っている。パルカは床にぺたんと座り込むと、満足げにデルフィニの頭をペチペチとたたいている。
ライアはそんなふたりを見ながら、フッとほほ笑んでいた。
「ライアさん……。本当に申し訳ないです……」
するとそこに、グラスをふたつ持った美空が近付き、片方のグラスをライアに差し出すとペコリと頭を下げる。
ライアは差し出されたグラスを受け取り、美空の持つグラスに軽くぶつけ、カチンと鳴らす。そしてグラスの中身を半分ほど飲み干すと、ようやく口を開いた。
「――美空さん……。むしろウチのスファーノがやらかしてしまっているので、できれば本っ当に……気にしないで、忘れていただけるとありがたいです……」
ふたりはコラキや玲人、そして彼らに絡むスファーノやポチを見ながら深いため息をつく。
「……まあ。この様子ならば、異世界間での『交換留学』の件。このまま推し進めても問題はなさそうですね……」
ライアはあきれまじりに、または安堵したように、コラキたちやパルカたちを眺めてからつぶやく。
「そうですね……。先輩が帰って来るのが遅かったせいで、大分計画が遅れてしまいましたけど……。これから忙しくなりそうですね……」
美空もまた、無言でうなずき子供たちをながめ、つぶやく。
「えっ……? 美空さん、いまの話……、本当ですか?」
「あら? コラキ、聞いちゃいましたか?」
すると、ふたりの話が耳に入ったのか、コラキが興味しんしんと言った感じで近付いて来た。
美空はそんな、珍しく目を輝かしたコラキの頭をポンポンとたたくと、「まだ秘密ですよ」と前置きしてから、語り始めた。
美空の説明によれば十年近く前。『サラリーマン一行』が異世界へと渡った際に、異世界と地球――とは言っても日本――との間で、教育水準に大差がないことが分かっていた。そこで当時の『ファルマ・コピオス』の社長が計画したのが、二世界間での『交換留学』との事だった。
しかしこの計画は、『(サラ)リーマン・クライシス』の発生と、その後の『サラリーマン』との音信不通による異世界との交流断絶によって、計画自体が忘れ去られていた。
また、『魔獣』の発生など。地球環境の変化による混乱もあったため、その他の計画も凍結状態になったのだが……。
今年になって発生した『サラリーマン』の帰還によって、さまざまな計画が復活し始めた。そのなかにこの『交換留学』も含まれており、ようやく来年度から開始できるほどに計画が進んだとのことであった。
美空からそれらの話を聞いたコラキ。そしていつのまにか集まっていた、『冒険者養成学校』の現役三年生。雛子、玲人、こたつは、そろって大きく息を吐く。そしてがっくりとした様子で、口々に愚痴をこぼし始める。
「そんな計画が……。もう少し早けりゃ……」
「うっあ……。面白そう……。いいなぁ、来年度かぁ……」
「異世界……。イメージ的には『女騎士』とか? オークとかいるんかなぁ……」
『こたつ文化……あるんでしょうか?』
そんなコラキたちをほほ笑ましげに見据えると、今度はライアが口を開く。
「そう嘆かなくても良いですよ? 今回、私たちや南の獣がこちらに、無事に到着したおかげで、近い将来。旅行なんかもできるようになるはずです」
「へぇ……」
ライアが発した『二世界間での旅行』と言う言葉に、雛子がうれしそうにつぶやく。実家が旅行代理店であり、卒業後、そこに就職予定の雛子としては聞き逃せない情報であった。
ライアはそんな雛子を見て、クスリと笑う。そしてそのまま、話を続ける。
「まあ、まずは安全な航路の確立ですね。使えるならば『五柱の使用』を『守護者』たちに打診しなくてはいけませんし。それに私たちが利用した『サラリーマンのスキル』も、いろいろと検証しなくてはなりませんしね……」
ライアがそう言って美空をチラリと見る。すると美空はチラリとスプリギティスを見た後、口を開く。
「うん。ボクたちとしても、その辺は準備中です。どちらにしても、ひとまずの対象としては、世界各国の『冒険者養成学校』の生徒でしょう。まあ……。向こうでは、『誰かさん』がやらかしたせいで、かなり日本文化が浸透しているらしいですから……。たぶん、日本校の生徒枠は外せないでしょうし、その護衛として『冒険者』が雇われることも必須でしょうね」
美空はこめかみを押さえて、若干表情を引きつらせた後。コラキたちに「だから、君たちが向こうに行くチャンスは必ずありますよ」と言ってほほ笑む。
コラキたちはその言葉でパッと明るくなる。そしてそれぞれが、『異世界』に行ってなにをしてみたいか、どんな所に行ってみたいかを語り合う。
そんな話をしているうちに、気が付けばコラキと雛子は肩を並べていた。
「旅行かぁ……。それもうれしいけど……。やっぱりもう少しだけ早く。そんなことになっていたら、もしかしたら私たち、学生として行けたかもだねぇ……。ん、二度……」
雛子は少しだけ寂しそうに、コラキの頭をモミクシャにしながらつぶやく。
「……そうだなぁ」
もうじき終わってしまう学生生活に、雛子もコラキも漠然とした喪失感を味わい、それを埋めようと無意識に、肩をさらに近付ける。
するとそこに――
「そうよねぇん……。コラキちゃん……。もうしばらく、里帰りしていないんでしょぉん……? それに、まだ『獣――」
――べろんべろんに酔っぱらっているのか。灰色の肌をわずかに赤く染め、紫色に近い肌になったスファーノが近付いて来ていた。
そしてスファーノが続きの言葉を発しようとしたその瞬間。ライア、美空、イグル、デルフィニ。そして……コラキの表情が、ピシリと固まる……。
「――スファーノッ!」
ライアが叫ぶとほぼ同時。デルフィニがいつのまにか、スファーノの背後に立っていた。
「ふぅ……。ちょっと酔い過ぎですよ……」
そしてデルフィニはそうつぶやくと、グデンと力なくうなだれたスファーノを肩に担ぐ。
そのままデルフィニは、ライアに目くばせすると、「お先に失礼します」とあいさつをする。そして「泊まる」と駄々をこねたパルカ以外。ライアやポチを連れて慌ただしく帰っていった。
そんな状況のなかで雛子はしばらく、一連のやり取りを自分のなかで反芻し、コラキに聞くべきかどうか迷っていた。しかし、意を決してコラキに聞こうと口を開いた……その時だった。
「コラキちゃん、いまのって、どう言う――」
突如として、居間のど真ん中に紫色の光がほとばしる。
「ご、ご、ご……ごめんよっ!」
「……え?」
そしてその場にた誰もがポカンとするなか。紫色の光から現れた女性――『寺場洞子』が、コラキの腕を引っつかみ、まくしたてる。
「わ、悪いんだがね……。なにも聞かず、なにも言わず、ついて来てくれたまえ! ――『xx実験』! 『目押し』! ――当たれ、『転送』!」
そして……。『二鷹荘』の二〇二号室に紫色の光がふたたびほとばしる。やがて光が収まった二〇二号室には誰も……いなかった。




