第十七話:年明けの遭遇!(1)
続きです、よろしくお願いいたします。
――『幻想商店街』の片隅にひっそりと建てられたアパート、『二鷹荘』。
いま、そのアパートの二階、二〇二号室ではひそかに、地球と異世界との交流が図られていた。
普段はひとつだけポツンと置かれたこたつ。しかし、今日はふたつのこたつが並んでおり、そのおかげで一辺に四人、座ることが可能となっている。
そのこたつの一辺ではいま、ひとりの少年をはさむ形で三人が並んで座っており、酒に酔った男性らしきふたりが、少年に絡んでいた。
「あっはぁん? 坊や……なかなかにいい筋肉……。飼ってるじゃなぁい?」
少年の左隣に座る灰色の肌の男性――『スファーノ』が、少年の首に手を回す。そして「ぶっふぁ」と、生臭い息を少年に吹きかけながら、その胸に人差し指をはわせていく。
「へぇい……ボゥイ。グッて! そう……筋肉をグッて!」
一方、そんなスファーノの反対側。少年の右隣に座る、人身犬頭の生物――『ポチ』は、少年の右腕を持ち上げ、強引に力こぶを作らせてはうっとりとしている。
「あ、その……はい……」
そして、そんな怪物たちにはさまれ、やたらと筋肉を弄り回されている少年――『梧桐玲人』は、状況に理解がついていかず、対辺に座る親友へと助けを求める視線を向ける。
「………………あっ、雛子? どうだ、来られそうか?」
しかし、そんな少年の親友にして、二〇二号室の主――『天鳥コラキ』は、玲人の視線を気まずそうに受け取ると、スマホからの着信を盾にして面倒事から逃走を始める。
「うふ。怖がらなくてもいいのよぉん? 大丈夫、ウチの教団。怪しい教団じゃないから」
「いぇあ……。寄付金は無用よ、ボゥイ?」
玲人の手元には『ご案内』と書かれたシンプルな装丁の冊子。
「え、えっと……。これ、なんの案内なんスか……?」
玲人は警戒心を最大限まで高めた状態で、両サイドの獣たちに問い掛ける。すると、ふたりはキョトンとした表情を浮かべ、「何を言っているの?」と言いたげに、口を開いた……。
「えぇん? なにって、それは当然――」
「――『ラッセラ教』の入信案内よ、ボゥイ?」
その瞬間――。玲人はその場から立ち上がり、逃げ出そうとするが……。
「んッはぁ……。イイ、いい反応だわっ! 坊や、見どころあるわよ? やっぱり、アナタを入れたいわぁん?」
スファーノはそんな玲人にさらに接近し、腕の関節を極めながら鼻息を荒くする。
「ユー、ノゥプロブレェム。お金はノー。要らないの。ニードなのは、エブリ・イヤーの『お披露目会』。皆に愛される『筋肉』を保つことだけ。ユー、クリアしてるわよ?」
そしてポチはその反対側から、同様に関節をひねり上げる。
「いえ、自分はまだまだっす! ですからこの話はなかったことに!」
玲人はこたつの天板に押さえつけられながらも、ふたりから逃げ出そうと必死でもがく。
「謙虚な姿勢もまたいいわよぉん?」
「まだまだと思うなら、私たちが育ててあげる。へぇい、こっちにいらっしゃい? カモナマイワールド!」
「コラキっ! 助けて!」
玲人は、成立しない会話に恐怖し、こたつの席から立つことも許されない状況で、コラキたちに救いを求めるが……。
「うん……。大丈夫だ、むこうの国教だし……」
「えと……。玲人先輩、ファイトなの! 大丈夫なの、そう言う世界もあるの……」
コラキは親友の、ペリは先輩の悲劇を、それぞれ直視できずに、顔を背けながら「大丈夫」を連呼する。
「あらあら? どこかでお会いしたかしらぁ~?」
そんなコラキの母である『スプリギティス』は、玲人、スファーノ、ポチの顔を何度も見比べながら、「忘れないように」とカメラのレンズを向け……。
『玲人君……。ミィも撮っていい?』
コラキ、玲人の同級生であるこたつ少女――『レイ・ハーン』は、追加されたこたつの天板にそんな文字を表示させながら、カシャカシャと言うシャッター音を響かせ始める。
「あ、あわわ……。ラ、ライアお姉ちゃん……。僕ではこのひとを止めることが出来ないです……。は、早く帰って来て……」
最後に……。スファーノを秘書官とする、異世界からの親善大使――『デルフィニ・オーシ』は、そんな地獄絵図に、ただひたすらうろたえるのみであった……。
「誰かっ! た、たす……マジで助けて!」
この場にいる者は誰も彼も……。玲人に救いの手を差し出すことはしなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
玲人がふたりの化生から勧誘を受けていたその時。『幻想商店街』では、和やかに買い物を行う者たちがいた。
「あ~。バラ、モモ……。鶏肉がお安いですね~。水炊き……いやいや、から揚げ……?」
その中のひとり。コラキの妹であるイグルが、『お買い得』と書かれたポップの下に置いてある鶏肉を、頭を左右に振りながら眺めている。
そんなイグルの後ろでは、『天鳥家三兄妹』の後見人。大企業『ファルマ・コピオス』の専務でもある女性――『薬屋美空』が、二段式の買い物カートに体重を乗せて、前後にゴロゴロと動かしている。そしてふと、思い出したようにイグルに問い掛ける。
「……毎度思うんですが……、君たちは鶏肉を買うことに抵抗はないのですか?」
「ん~? あんまりその辺は、気にしないですよ? おいしいからいっかなぁくらいです」
聞かれたイグルは、両手に鶏むね肉のパックを持ち、左右の重さを比べながら答える。
イグルの答えに美空が「そんなもんですか~」と、カートをもてあそびながらつぶやくと、その美空の隣で同様にカートを前後に動かすひっつめ金髪の女性――『ライア』が補足するように口を開く。
「まあこの子らにとっては、既に別種……と言う認識みたいですからね」
そんなライアがゴロゴロと動かすカートの下段には、ひとりの小柄な少女が座っていた。少女――『パルカ・オーシ』は、ライアの言葉を聞くと、美空にブイサインを見せながら、小さな声でつぶやく。
「…………ごせんぞさん……」
美空は先ほどと同じく「そんなもんですか~」とぼやきながら、パルカにブイサインを返す。
現在、一部の少年にとって地獄と化している『二鷹荘』とは違い、のんびりと買い物を楽しんでいるイグルたちである。
「さあ、早く帰らないと……。コラキたちもきっと、おなかを空かせていますよ?」
「はいです。お肉お肉お肉です!」
悩み続けるイグルに美空がそう告げる。するとイグルは「それなら」とつぶやき、両手に持っていたパックをふたつとも、買い物かごの中に放り込み、満足げにうなずく。
「あ……。お野菜もお忘れなく。どうにもパルカちゃんにしろ、デル君にしろ好き嫌いが激しくて……。こういう楽しい時に改善して行かないと……」
そしてライアはさり気なく。肉一色と言っても良い買い物かごを一べつすると、その中にポイポイと野菜を放り込んでいく。
その様子を震えながら見ていたパルカは、ただ――
「…………キュ。きらいじゃないの、お口に合わないだけ……」
――とだけつぶやくと、苦手なものから身をかばうように、買い物カートの鉄パイプへとしがみつく。
こうして買い出し組は『二鷹荘』へと戻ることになった。
その道中――
「あ、イグルちゃん? それと………………えっ?」
「あ、ひっこさん! もしかして、家に来るです?」
――買い物袋を大量に抱えたイグルたちは、『二鷹荘』に向かう途中のコラキの同級生――『皇雛子』と遭遇した。
雛子は最初、イグルと美空の姿を見つけると、トテテとにこやかに近付いて来たが……。
「ええっと……。もしかして、そちらの人たちって……?」
その表情はパルカとライアの姿を見るなり、ギシリと固まってしまった。
「あれ? ひっこちゃんははじめましてでしたっけ? テレビとかで知っているかもですが、こちら『異世界』からの来賓。『海上国家オーシ』のパルカちゃんと、ライアさんです。ボクの会社の関連でご縁がありまして……。今日もこうして、新年会に参加してもらっているんですよ」
そんな雛子に対して、美空はまくしたてるように説明を始める。そしてライアたちに目くばせをする。
「はじめまして。ライアと申します」
ライアは美空の目線に気が付くと、にこやかに雛子に握手を求める。
「あ、えっと……。どうも、皇雛子です」
その様子を見ていたパルカは――
「…………パルカ……。……はぐ……」
――瞬時に「この人は甘やかしてくれる」と判断し、自己紹介とともにギュッと抱きつく。
「あ…………。うんっ! 私は雛子。ひっこって呼んでね、パルカちゃん!」
雛子が陥落するまでにかかった時間はおよそ十秒であった。
「…………キュ……。……ちょろい……」
雛子に抱きしめられながらそうつぶやいたパルカは、あきれながらシャッターを切るライアに向けて、ブイサインでアピールしていた……。




