第十四話:独り地獄に、鈴は鳴る!(2)
お久しぶりです。
続きです、よろしくお願いいたします。
――女性が去り。コラキたちが依頼を引き受けてから数時間。
「さてと……。取り敢えず、依頼人からいただいた情報を確認するぞ?」
「「「はいっ、コラキさん!」」」
「うん……。お前ら……特にペリ。普段の依頼もそれくらいやる気出してくれ? あと母さん。母さんは別にいいから……」
依頼人の女性が残していった情報を片手に、コラキたちは仕事の準備を始めていた。
「え~……? 私も遊びたいわ~?」
「母さん……。遊びじゃないんですよ。れっきとした仕事ですから」
面白半分のスプリギティスの表情を見ながら、コラキはあきれまじりに、ため息をつく。そしてコラキは、しゅんとなったスプリギティスを見ると、イグルに視線を送る。そして――
「イグル、そろそろいいか?」
「はいですよ。『鷹の目』!」
――コラキの合図でイグルがスキルを発動すると、コラキたちの目の中に、男性の姿が映し出される……。
「えっと、この野郎が『掛川あさひ』。今回のターゲットです」
「この野郎って……。まだ確定って訳じゃないだろ?」
「コラキ、甘いの! 疑わしきはギルティなの!」
いまだに依頼人との話し合いで興奮状態のイグルに、コラキが頭を抱える。しかし、イグルと同様に興奮しているペリに、その発言が封じられる。
「あらあらぁ? 皆、仲良くしなきゃ駄目よぉ?」
「「「はぁい……」」」
そしてスプリギティスに叱られ、再び話し合いへと戻る。
「それで、この人をどうするのぉ?」
興味しんしんのスプリギティスに、苦笑しながらコラキは答える。
「取り敢えず、どう言う人間なのか調べて、さっきの依頼人以外に、付き合っている人がいないか。つまりは、浮気していないのか調べるんですよ」
「あ~。なるほどねぇ~?」
コラキの説明で、一応は納得した様子を見せるスプリギティス。そんな母を見て、コラキはわずかにほっとしていた……が――
「それで後をつけるのね~?」
「そうです」
「じゃあ、後をつけて、どこで殺るの~?」
――あっけらかんと言ってのけたスプリギティスに、コラキの表情が凍りついた。
「よしっ。母さん、ちょっとこっち来てください。一から説明します!」
「あら~……?」
「そうですよ、ママ。いきなりそんな事をやっちゃ駄目なんですよ?」
コラキに引きずられていくスプリギティスに向けて、「いやですよ~」と手のひらを振りながら、イグルはカラカラと笑う。
「そうなの」
ペリも、そんなイグルに同意して、ニコニコとほほ笑む。そしてイグルは告げる。
「殺るのは、クロだった時です!」
「あ~……。そうなのね~」
「そうなの!」
その言葉にスプリギティスは納得し――
「もうやだ!」
――コラキは事務所を飛び出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「いらっしゃいませ……って? あれ? コラキちゃん?」
コラキは『天鳥探偵事務所』を飛び出すと。そのまま、向かいの『皇ツアーズ』に飛び込んでいた。
「ひっこ……。頼みが……。お前を常識人だと信じて頼みがある!」
「ふぇ……?」
コラキの心は、よく分からない恐怖心でいっぱいであった。そして今、この時も、事務所の中で行われているであろう不穏な会議に危機感を感じ……。
「頼むっ! 取り敢えず、あの中に! あの中に鬼がいるんだ! 何とか人に戻してやってくれ!」
「えっ? なに? と、取り敢えず行けば良いのね?」
そのまま雛子の背中を、ぐいぐいと押しながら、事務所へと送り込む。そして雛子の背中を見送ったあと、コラキは再び『皇ツアーズ』の接客テーブルに腰かける。
「ん? おぉ、何だ。遊びに来てたのかい?」
「大樹さん……。俺、いま女の人が怖いッス……」
そして、そんなコラキに気が付いた大樹に、愚痴をこぼし始めた……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ごめんくださ~い?」
扉の外まで響いて来るペリたちの叫び声に、雛子は戸惑い気味に、小さな声で呼びかける。そして、そのまま事務所の中へ顔をのぞかせる。すると――
「あらあらぁ? どなたかしらぁ~?」
「え、あ、あの……ぉ?」
――ひょいと摘み上げるように。その襟をスプリギティスにつかまれ、そのままソファまで連行されていく。そしてスポッと、スプリギティスに抱きかかえられていると、真剣な表情で会議を行っていたらしいイグルが、雛子に気が付き声を掛ける。
「ありゃ? ひっこさん、どうしたです?」
「いや、ちょっとコラキちゃんがお悩みだったから、様子見にきたんだけど……」
モガモガともがきながら、雛子はスプリギティスの腕から逃れようとする。しかし、スプリギティスは、そんな雛子の香りを嗅ぎながら、クゥっとおなかを鳴らし、イグルを見上げる。
「あむ~。イグルちゃん、ママ、おなかが空いちゃったわ~……」
そして空腹をごまかすように、スプリギティスは、雛子の耳たぶにくらい付くと、満足そうに何度ももごもごと、口を動かし始めた。
「ちょ、ちょっと待ってください! 何か、何か作りますから! みゃっ、耳をかまないで! ダメですっ!」
「あらっ? そうなの~? ありがとう~」
そして雛子の叫びに、スプリギティスはパアッと笑顔になり、ようやく雛子を解放する。
「ふぅ……。それでイグルちゃん? 今回の依頼って……?」
解放された雛子は、ぬれた耳をハンカチで拭いながら、イグルに問い掛ける。
「コラキから頼まれたです? なら言っても良いですかね? うん、えっとですね――」
――そして一時間後……。
「悪い、ひっこ! ついつい大樹さんと話し込ん……で?」
コラキが大樹に、ここ数日の肩身の狭さを愚痴り終えて事務所に戻ると……。
「はい! 声が小さい! いくよ! えいえいおー!」
「「「えいえいおー!」」」
説得をお願いしたはずの雛子が、むしろ中心となって、ペリたちを先導している光景が、目に入ってきた……。
「えっと……、ひっこ……さん?」
コラキは、イグルの事務机の上に立ち、拳を突き上げる雛子に、あぜんとしながら声を掛ける。雛子は、そんなコラキに気付いたのか、満足そうにふぅっと息を吐きニコリと笑いかける。
「遅いよ、コラキちゃん!」
そしてコラキに近付き、その髪をくしゃくしゃともみしだく。そして、凍りついたような笑顔を浮かべて、つぶやく。
「やっぱりね常識として、浮気はダメ……だよ?」
「――っ!」
「さあ、皆! 頑張ってやっつけるよ!」
その後、四対一の状況下でコラキに発言権が戻ることはなく。コラキは心の底から、今回のターゲットがシロであることと、ご冥福を祈りながら会議の時間を過ごした……。




