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現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
第三章:母来たる!
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第十四話:独り地獄に、鈴は鳴る!(2)

お久しぶりです。

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――女性が去り。コラキたちが依頼を引き受けてから数時間。


「さてと……。取り敢えず、依頼人からいただいた情報を確認するぞ?」


「「「はいっ、コラキさん!」」」


「うん……。お前ら……特にペリ。普段の依頼もそれくらいやる気出してくれ? あと母さん。母さんは別にいいから……」


 依頼人の女性が残していった情報を片手に、コラキたちは仕事の準備を始めていた。


「え~……? 私も遊びたいわ~?」


「母さん……。遊びじゃないんですよ。れっきとした仕事ですから」


 面白半分のスプリギティスの表情を見ながら、コラキはあきれまじりに、ため息をつく。そしてコラキは、しゅんとなったスプリギティスを見ると、イグルに視線を送る。そして――


「イグル、そろそろいいか?」


「はいですよ。『鷹の目(パラ・サイト)』!」


 ――コラキの合図でイグルがスキルを発動すると、コラキたちの目の中に、男性の姿が映し出される……。


「えっと、この野郎が『掛川あさひ』。今回のターゲットです」


「この野郎って……。まだ確定って訳じゃないだろ?」


「コラキ、甘いの! 疑わしきはギルティなの!」


 いまだに依頼人との話し合いで興奮状態のイグルに、コラキが頭を抱える。しかし、イグルと同様に興奮しているペリに、その発言が封じられる。


「あらあらぁ? 皆、仲良くしなきゃ駄目よぉ?」


「「「はぁい……」」」


 そしてスプリギティスに叱られ、再び話し合いへと戻る。


「それで、この人をどうするのぉ?」


 興味しんしんのスプリギティスに、苦笑しながらコラキは答える。


「取り敢えず、どう言う人間なのか調べて、さっきの依頼人以外に、付き合っている人がいないか。つまりは、浮気していないのか調べるんですよ」


「あ~。なるほどねぇ~?」


 コラキの説明で、一応は納得した様子を見せるスプリギティス。そんな母を見て、コラキはわずかにほっとしていた……が――


「それで後をつけるのね~?」


「そうです」


「じゃあ、後をつけて、どこで殺るの~?」


 ――あっけらかんと言ってのけたスプリギティスに、コラキの表情が凍りついた。


「よしっ。母さん、ちょっとこっち来てください。一から説明します!」


「あら~……?」


「そうですよ、ママ。いきなりそんな事をやっちゃ駄目なんですよ?」


 コラキに引きずられていくスプリギティスに向けて、「いやですよ~」と手のひらを振りながら、イグルはカラカラと笑う。


「そうなの」


 ペリも、そんなイグルに同意して、ニコニコとほほ笑む。そしてイグルは告げる。


「殺るのは、クロだった時です!」


「あ~……。そうなのね~」


「そうなの!」


 その言葉にスプリギティスは納得し――


「もうやだ!」


 ――コラキは事務所を飛び出した。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「いらっしゃいませ……って? あれ? コラキちゃん?」


 コラキは『天鳥(たかとり)探偵事務所』を飛び出すと。そのまま、向かいの『すめらぎツアーズ』に飛び込んでいた。


「ひっこ……。頼みが……。お前を常識人だと信じて頼みがある!」


「ふぇ……?」


 コラキの心は、よく分からない恐怖心でいっぱいであった。そして今、この時も、事務所の中で行われているであろう不穏な会議に危機感を感じ……。


「頼むっ! 取り敢えず、あの中に! あの中に鬼がいるんだ! 何とか人に戻してやってくれ!」


「えっ? なに? と、取り敢えず行けば良いのね?」


 そのまま雛子の背中を、ぐいぐいと押しながら、事務所へと送り込む。そして雛子の背中を見送ったあと、コラキは再び『皇ツアーズ』の接客テーブルに腰かける。


「ん? おぉ、何だ。遊びに来てたのかい?」


「大樹さん……。俺、いま女の人が怖いッス……」


 そして、そんなコラキに気が付いた大樹に、愚痴をこぼし始めた……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ごめんくださ~い?」


 扉の外まで響いて来るペリたちの叫び声に、雛子は戸惑い気味に、小さな声で呼びかける。そして、そのまま事務所の中へ顔をのぞかせる。すると――


「あらあらぁ? どなたかしらぁ~?」


「え、あ、あの……ぉ?」


 ――ひょいと摘み上げるように。その襟をスプリギティスにつかまれ、そのままソファまで連行されていく。そしてスポッと、スプリギティスに抱きかかえられていると、真剣な表情で会議を行っていたらしいイグルが、雛子に気が付き声を掛ける。


「ありゃ? ひっこさん、どうしたです?」


「いや、ちょっとコラキちゃんがお悩みだったから、様子見にきたんだけど……」


 モガモガともがきながら、雛子はスプリギティスの腕から逃れようとする。しかし、スプリギティスは、そんな雛子の香りを嗅ぎながら、クゥっとおなかを鳴らし、イグルを見上げる。


「あむ~。イグルちゃん、ママ、おなかが空いちゃったわ~……」


 そして空腹をごまかすように、スプリギティスは、雛子の耳たぶにくらい付くと、満足そうに何度ももごもごと、口を動かし始めた。


「ちょ、ちょっと待ってください! 何か、何か作りますから! みゃっ、耳をかまないで! ダメですっ!」


「あらっ? そうなの~? ありがとう~」


 そして雛子の叫びに、スプリギティスはパアッと笑顔になり、ようやく雛子を解放する。


「ふぅ……。それでイグルちゃん? 今回の依頼って……?」


 解放された雛子は、ぬれた耳をハンカチで拭いながら、イグルに問い掛ける。


「コラキから頼まれたです? なら言っても良いですかね? うん、えっとですね――」


 ――そして一時間後……。


「悪い、ひっこ! ついつい大樹さんと話し込ん……で?」


 コラキが大樹に、ここ数日の肩身の狭さを愚痴り終えて事務所に戻ると……。


「はい! 声が小さい! いくよ! えいえいおー!」


「「「えいえいおー!」」」


 説得をお願いしたはずの雛子が、むしろ中心となって、ペリたちを先導している光景が、目に入ってきた……。


「えっと……、ひっこ……さん?」


 コラキは、イグルの事務机の上に立ち、拳を突き上げる雛子に、あぜんとしながら声を掛ける。雛子は、そんなコラキに気付いたのか、満足そうにふぅっと息を吐きニコリと笑いかける。


「遅いよ、コラキちゃん!」


 そしてコラキに近付き、その髪をくしゃくしゃともみしだく。そして、凍りついたような笑顔を浮かべて、つぶやく。


「やっぱりね常識として、浮気はダメ……だよ?」


「――っ!」


「さあ、皆! 頑張ってやっつけるよ!」


 その後、四対一の状況下でコラキに発言権が戻ることはなく。コラキは心の底から、今回のターゲットがシロであることと、ご冥福を祈りながら会議の時間を過ごした……。

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