第十話:カムバック!(3)
続きです、よろしくお願いいたします。
「バケモンだぁ? おいおい、さすがに、自分の妹たちを、バケモン呼ばわりたぁ。そいつぁ、チョイとばかし、ひどすぎやしねぇか?」
ボゾアは、コラキの対岸から声だけで、コラキをあざ笑う。
そして、余裕の表情を崩さないコラキに苛立ち、その態度を崩そうと、さらに言葉をつなぐ。
「それによぉ、あそこに向かったのはなぁ。俺の体と。クリスさんのスキル。その二つから作り上げた『量産型ティグリ』――『茶虎部隊』ってやつだ……。お前さんの妹ちゃんたちが、いくら強かろうが、多勢に無勢ってやつだろうなぁ……」
ボゾアは、コラキに「勝ち目はないぞ」と告げる。しかし、それでも、コラキの笑いは、止まらない……。
ボゾアは、そんなコラキに、いら立ちをあらわにして、問いただす。
「なにが可笑しい?」
コラキは、そこでピタリと真顔にもどる。そして、ボゾアの声がする方向を見ると――
「逆に聞くけどさ、『鶏』相手にして、まっとうな戦闘ができると……思うか?」
――心底、あわれむ様な顔で、問い返した。
「なにを……?」
そして、ボゾアがいぶかしんでいると、コラキはさらに、告げる――
「俺たちの母さん、『スプリギティス』。それが、バケモンその一だ……」
「――なっ?」
――そして、その頃。
「アルジ、ノゾム、ワレラ、ウバウ」
「「「「「ウバ」」」」」
――『天鳥探偵事務所』には、茶色い『魔獣』たちが、訪れていた。
「うーん? こいつら、ウチの『鷹の目』に、引っかからなかったです。なんか、みょうちくりんなスキルでも、あるですか? それとも、故障です?」
イグルは、対立している、茶色いトラジマ模様の『魔獣』たちをにらむ。そして、その三白眼を、普段よりもさらに細め、半透明のスクリーンをたたいている。
「あら~? このネコちゃん。どこかで、見たような~?」
「むっ、お、おねえちゃんたち、くるしいよ……」
「ほぁ? 私も、なんか覚えがあるの……」
健祐を両サイドから挟み込んだ、スプリギティスとペリは、そろって頭を抱えている。そうして、頭をかしげるたびに、健祐への圧迫が強くなっていくのだが、二人は、そんな事には気付かず――
「「とりあえず、倒してみる?」」
――と、立ち上がった。健祐を、器用に挟んだまま……。
「ねぇ、みそらちゃん、ぼくは?」
「駄目ですよ? トミ君は、しばらくここで、ジッとしていなさい?」
「はぁい」
そして――
「「『虎噴流罪』!」」
――二匹の茶虎が、その爪を振り上げる。
「ペリ、けんちゃんは、ウチが預かるです!」
「ほい、パスなの!」
「ひぅ!」
迫りくる爪撃を前に、ペリはぽいっと、健祐をイグルに投げ渡す。そしておもむろに、胸の谷間に手を突っ込むと、そこから小さな棒を、取り出す。
「はぁい、オッキするの『棍棒の様なモノ』」
「「――っ!」」
ペリは、茶虎たちの爪を、取り出したハンマーで受け止める。
「あらぁ……、それ、良いわねぇ?」
「ママ、どうせ落っことすですよ。それより、ちゃんと前を見るです!」
スプリギティスが、指をくわえて、ペリのハンマーを、物欲しそうに眺めている。すると、健祐を受け止め、抱きかかえたイグルが、迫る茶虎を指さして、スプリギティスに呼びかける。
「シネ!」
……ゴッと言う、鈍器で殴られたような音が、事務所内に響く。
「ギギッ?」
しかし、鈍器――茶虎の拳は、スプリギティスの顔面に当たっていたものの――
「あらぁ?」
「ヒギィッ!」
――その拳は、破裂したかの様に、無残に飛び散っていた。
「はい、ここから先は、大人になってからです」
「はぇ?」
「トミ君も、見ちゃ駄目ですよ?」
「え~? みそらちゃんのケチンボ!」
そこから先は、一方的であった……。
「ワレ、エグル」
「『ほいしょぉ』」
茶虎が爪を回転させながら、ペリに襲い掛かる。しかし、ペリは、ハンマーを振り回し、その茶虎の胸を、スコンッと打ち抜く。
「ワレ、カジル」
「あらぁ……、き、キッスは、好きな人とじゃなきゃ、嫌なの~」
茶虎が口を大きく開き、スプリギティスに迫る。しかし、スプリギティスは、頬を赤く染め上げながら、茶虎を押し返し、ボウリングの様に、数匹の茶虎をグチャリと押しつぶす。
「ああ、これ……クリーニング代、ボクも負担してあげなきゃ、コラキが泣くなぁ……」
美空は、目の前で繰り広げられる惨劇に、そんな事をつぶやきながら、イクトミをギュッと抱きしめていた……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あちゃ、もう終わった感じか?」
ポチを回収したコラキは、事務所の前まで来ていた。そして、いつのまにか、立ち去っていたボゾアを警戒しながら、事務所の扉を開く。
すると――
「うわ、派手に暴れたな……」
――そこは、壊れた床や、壁の残がいなどで、めちゃくちゃになっていた。
幸いにして、倒した茶虎たちは、動かなくなると、そのまま煙になってしまったらしく、血や、体液などは残っていなかったが……。
「これ、赤字だよな……」
「『オーシ』関連の収入も、チャラになりそうです……」
なんにしても、壊れてしまった物が多すぎた。その修繕やら、なんやらの出費を考えるてしまった、コラキとイグルは、その場に崩れ落ち、涙を浮かべる。
「ま、まあ、ボクも少しは、援助してあげるから……」
美空が、コラキとイグルの肩を、優しくたたき、なぐさめていた、その時――
「ポ、ポチ!」
「キャンっ!」
「わ、ポチ、あのときは、ありがとうございます!」
――コラキの背中から出て来た、ポチの姿に、健祐が駆け寄る。そして、そのあとに続いて、イクトミも、ポチに抱き付く……。
「ハッハッハ……!」
そして、ポチもまた、そんな二人に飛び付き、顔をベロォリと、なめまわす。
事務所内のみんなが、その光景にホッとしていた。
しかし、その時――
「ふ、ふふふ……」
「この声、ボゾアかっ!」
――どこかへ立ち去ったはずの、ボゾアの声が、事務所内に響く。それと同時に、ポチの背中から、モワッと、茶色い煙が、立ち上る。
「動くなっ!」
茶色い煙は、そのまま、人の上半身を形づくっていく。そして、その上半身が、執事服のボゾアになると、ボゾアは、ポチ、健祐、イクトミを、その腕で羽交い絞めにする。
「まさか、アンタがこっちに来てるとはな? タイミングを間違えちまったよ。でも、最後の最後で、こんなチャンスがめぐって来るたぁな……。やっぱ、不屈の心ってのは、重要だよな……」
ボゾアはニヤリと笑う。そして、ポチたちを抱えたまま、体を粒子に変えていく――
「じゃあな「耳をふさぐです!」――あ?」
――が、イグルの、突然の叫び声に、不快そうな声を出す。同時に、コラキたちは指示どおり、耳をふさぐ。
「ママ、いまです!」
「いっくわよぉ……?」
そして、スプリギティスの歌声が、事務所内に広がっていく……。




