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現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
第三章:母来たる!
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第八話:カムバック!(1)

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――『天鳥(たかとり)探偵事務所』の、中央に据えられた、来客用のソファ。


 二台一組の、そのソファの片側には、今、コラキが座っている。


「それで、ポチさんがどうしたって?」


 コラキは、そうつぶやくと、そのまま、対面のソファに座る、幼児の顔をのぞく。


「えっと……?」


 前髪をパッツンとそろえた幼児は、そう質問を投げ掛けられて、チラリと顔を上げる。


「ほぁ? 私の事は、あまり気にするな、なの」


 すると、少年と目が合ったペリが、さも不思議そうに、キョトンと首をかしげる。


「う、うん、でも……」


 幼児の名は、『長崎ながさき健祐けんすけ』。――健祐は、かつて、コラキたちの依頼人であった幼児である。


 その健祐が今、再び、助けを求めて『天鳥探偵事務所』を訪れている。


 そして、健祐は、なぜか今、ペリの膝の上で、コラキに接客されている。


 その状態が落ち着かないのか、健祐は、なんとなく居心地悪そうに、もがいている。


 すると、健祐の隣で、同様に、豊満な女性に、抱っこされている幼児から、声がかかる。


「そうそう、けんちゃん、それよりも、ポチだよ!」


 健祐の友人である、その少年は、ニパッと八重歯を見せると、自分を抱きかかえる女性に向かって、「ね~っ?」と、語り掛ける。


「あらぁ……、この子、どこかであったかしらぁ?」


 少年を抱きかかえているのは、赤い、ストレートの長髪、ペリに及ばずながら、なかなかに豊満な女性――スプリギティスである。


 スプリギティスは、抱きかかえた少年を、じっと見つめていたが――


「ふぅ……、トミ君? 初めて会った人には?」


 ――突如、隣に座っている美空から、そんな声が上がり、視線を美空に移す。


「あぅ……、みそらちゃん……、ごめんなさい……」


 少年は、どうやら、美空に怒られたと思ったのか、ショボンとしながら、スプリギティスに、小さな紙を差し出した……。


「えと、ぼくは、イクトミです、よろしくね?」


「あらぁ……? はい、ご丁寧……にぃ?」


 少年――イクトミが、お手製の名刺を差し出すと、思わず、と言った感じで、スプリギティスは、ペコリと頭を下げる。


 スプリギティスは、不思議そうに、首をかしげていたが――


「みそらちゃん、ちゃんと、できた?」


「はい、良くできました」


 ――イクトミは、既に、そんなスプリギティスから、美空へと、視線を移していた。


「じゃあ、あのね……?」


 そして、イクトミは、隣に座る美空に、おずおずと、その頭を差し出す。


「はいはい♪」


 美空が、イクトミの頭を、これでもかと、なではじめると――


「あ、そうです、ごめんですよ、健祐君、それで、一体、どうしたです?」


 ――それまでずっと、黙っていたイグルが、健祐に、改めて質問する。


「あ、えっと、その――」


 自身も、イクトミたちに注目していた健祐は、突然、話が自分に戻ってきた事に驚いた。


 そして、ソファと自身の間に挟まっているペリを気にしながらも、少しずつ語り始めた。


 ――事の発端は、幼稚園から、自宅に戻った時であったらしい……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ただいま~!」


「おじゃましま~す」


 長崎家の玄関ドアが、勢いよく開き、そこから、二人の幼い声が響く。


「あら、イクトミ君、いらっしゃい」


「はいっ、こんにちは、おくさん!」


 健祐の友人である幼児の、ませたあいさつに、健祐の母は、思わず、吹き出しそうになりながら、笑顔で返す。


 そして、幼児たち二人は、そんな健祐の母に見送られて、健祐の部屋へと入っていく。


「ねぇねぇ? けんちゃん、ポチは?」


「え? どこだろ? さいきん、お庭に、よくいるよ?」


 イクトミは、それを聞くなり、「じゃあ、ごあいさつしたい」と、健祐に告げる。


 健祐としても、それは、友人を呼んだ時の恒例であるため――


「うん!」


 ――と、二つ返事で、イクトミの手を引っ張り、そのまま、庭へと駆けていく。


 そして、ちょこちょこと、二人が庭に出ると、そこには、一匹の犬が居た。


「ポチっ、ただいま!」


 健祐が、元気よく、そう語り掛ける。


 すると、ポチと呼ばれた、白いマメシバは、ずっと空に向けていたであろう首を――


「わぁふっ」


 ――まるで流し目を送る様に、健祐に向けて、ほえた……。


 そんなポチは、健祐の隣に立つ、イクトミを見つけると、再び、健祐に視線を合わせる。


 そして、前脚で、イクトミを指し示すと、さも、「この子は?」と言いたげに、「わふ?」と、鳴く。


「あのね、おともだちの、イクトミ君だよ?」


 そう健祐に紹介されると、イクトミは、その場に正座し、手のひらサイズの画用紙を、取り出す。


 そして、その画用紙を、ポチに向けると、笑顔で告げる。


「イクトミです、よろしくね?」


 ポチは、そんなイクトミを、不思議そうに、眺めていた。


 しかし、ふと、気が付けば、ポチは、その画用紙をくわえていた。


「わ、わふ」


 ポチは、その画用紙を、丁寧に、地面に乗せると、そう一ほえした。


 無事にあいさつが終わると、イクトミは、その両手を大きく広げる。


「わぁ、ちっちゃいね?」


 そして、イクトミが、ポチに抱き付こうとした時、それは起こったらしい……。


「わ、なんだか、かぜがつよいね?」


「ちがうよ、けんちゃん、そゆときは、きょうはかぜがさわがしいなっていうんだよ? パパのおともだちが、おしえてくれた!」


 そうして、二人が、ポチを囲んで、はしゃいでいると……。


『見つけたぜ?』


 突然、茶色い煙が、長崎家の庭を、包み込んだ。


 その煙は、まるで蛇の様に、うねうねと、健祐たちを中心に、漂っていたが――


『来い!』


 ――そう叫ぶと、健祐たち目がけて襲い掛かって来た。


 しかし、次の瞬間……。


「――っ! わふっ!」


「うぁっ!」


「ポ、ポチっ?」


 二人を突き飛ばし、ポチが、その煙の前に立ちはだかる。


 それは、あたかも、二人の幼児をかばっている様であった。


 そしてポチは、煙に襲い掛かられる前に、フイッと振り返り――


「わっふ、わん!」


 ――「さあ、お行きなさい!」と言いたげな鳴き声を出す。


 そしてポチは、そのまま、煙に包まれて、消えてしまったらしい……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ポチ、どこにいったのかなぁ……」


 全てを話し終えた健祐は、悲しげにつぶやくと、周りの人間たちに、すがる様な視線を送る。


「ポチさん……、犬に戻っても、やっぱり漢なの……」


 ペリは、そうつぶやくと、そのまま、健祐をギュッと、強く抱きしめる。


「コラキ……」


 イグルは、コラキの判断を仰ごうと、コラキの顔を、しっかりと見つめる。


 そして、皆の視線が、いつのまにか、コラキに集中していく。


 コラキは、しばらくの間、目をつぶって、そのまま黙っていたが……。


「後の事……、頼まれたしな……」


 そうつぶやくと、ゆっくり目を開ける。


 そのまま、健祐と、イクトミの頭に、手を乗せると、あえて強めになで回す。


「おにいちゃん……」


「いたいよ、コラキちゃん」


 そして――


「探してやっから、良い子で待ってろよ? とくに……、イク!」


 ――そう告げると、スッと、ソファから立ち上がり、ペリとイグルを見る。


「イグル、『鷹の目(パラ・サイト)』の準備、ペリ、二人の護衛」


「はいです!」


「はいの!」


 そして、ペリとイグルに指示を出すと、次にスプリギティスを見て、申し訳なさそうに、告げる。


「母さん、そんなわけで、ちょっと、美空さんと、暇つぶし、していてください」


 スプリギティスは、そんなコラキに対して、ほほ笑みかける。


 そして、イクトミの頭に、あごを乗せると、さも当然と言った感じで、口を開く。


「あらぁ? 良いのよぉ? 何か、お手伝いはいるかしらぁ?」


「いいいいい、いや、さすがに、それは……ちょっと……」


 コラキは、母からの提案に、まるで天変地異でも起こりかねない程に動揺し、遠慮する。


「え~? えん……りょ? なんて、しなくても良いのよ~?」


 スプリギティスは、そんなコラキの態度を見て、不満そうに、頬っぺたを膨らませていたが――


「ティスさんは、ボクと、ペリと一緒に、この子たちの、護衛ですよ?」


「あら? じゃあ、そっちが良いわ~」


 ――と言う言葉に、たちまち笑顔に戻り、コラキに「頑張って~?」と、声援を送り始める。


「さて、先ずは……、ハムスターの所かな……?」


 こうして、コラキたちは、『ポチ捜し』を開始したのであった……。


 ――――『うちのポチ、知りませんか!』Start――――

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