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現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
プロローグ:学費を稼げ!
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第六話:バイトしない? Part1(2)

続きです、よろしくお願いいたします。

今回、若干説明回です。申し訳ありません。

「じゃ、明日の朝、店の前で集合ねっ!」


『異界化迷宮探索ツアー』開催前日の打ち合わせ後、依頼人であり、コラキの同級生でもある『すめらぎ 雛子ひなこ』――通称『ひっこ』から出された指示により、『ツアー』当日の現在、コラキ、ペリ、イグルの三人は、『皇ツアーズ』の店舗前に立っていた。


「ふふんっ、遅刻は有り得ないのっ!」


「――まぁ、目の前だしなぁ……」


「むしろ、どうしてギリギリなんです……?」


 コラキ達の事務所『天鳥(たかとり)探偵事務所』から徒歩数秒――まさしく、目と鼻の先であり、本来ならばギリギリ到着などは有り得ないのだが……。


「いや、だって……、近くだと思ったら、多少のんびりしても良いかな……と……」


「コラキが寝てたから、つい……なの……」


 イグルは、気まずそうに顔を背けるコラキとイグルの、寝起き直後に慌てて整えたであろう髪と服を軽く整えてやると、満足そうに頷き、店の扉を開ける――。


「――あ、時間ピッタリっ! さすがだねぇっ、コラキちゃんっ!」


 開店直後の為か、日頃からそうなのか、客が少ない店内で、ボーっとしていたひっこは、コラキの姿を見るなり、立ち上がり、近付くと、ワシャワシャと、コラキの髪を揉み始める。


「ふふ……、ソレはもう……、時間厳守は基本だからなっ!」


 背後にイグルの視線を感じながら、コラキは胸を張ってそう答えると、冷や汗を流しながら、手を伸ばし自身の髪をワシャるひっこを引き剥がし――。


「んで? 参加者はもう来てんの? 俺達、参加者のリストとか貰ってないんだけど、添乗員みたいな事はしないでも良いんだよな?」


「――んー、十五度っ! ん? あ、そーそ、基本は護衛に集中してて? まぁ、出来ればお客さんとも仲良くねぇ」


 コラキの髪から手を離したひっこは、そのまま三人を手招きし、スタッフルームへと連れ込む。


 そして――。


「お父さん、コラキちゃん達、連れて来たよ」


「はいはいはい、今行くよぉ」


 スタッフルームでコラキ、ペリ、イグルを出迎えたのは、ひっこの父であった。


「やぁやぁ、どうもねぇ? 昨日ぶりっ! じゃ、早速だけど、最終確認しようか?」


「はい、大樹さん、これが俺達三人分の『学生ギルドカード』です」


 コラキは、頭を下げ、目の前の男性――大樹に着席を促された後、三枚のギルドカードを差し出す。


 ひっこの父である大樹は、受け取った三枚のギルドカードを手元の装置にかざし、パソコンで何かを確認した後、笑顔のまま、コラキにギルドカードを渡す。


「んもぉ、お義父さんで良いのに……、まぁ、それはともかく、学校とギルド、双方の承認は無事に下りてたよ? んで、早速で申し訳ないんだけど、移動しようか?」


 大樹の言葉に、コラキ、ペリ、イグル、ひっこが頷き、一同は移動を開始する――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――移動した先には、観光用のバスが一台、停まっていた。


「あれ? 一台だけなんスか?」


「いやぁ……、行き先が行き先なだけにね?」


「あはは……、中々居ないのよ……、物好きが……」


 ――「失敗したなぁ……」と、遠い目をして苦笑する親子の様子に、ペリが頭を捻り、隣のイグルにこそこそと尋ねる――。


「――んー、どれだったの?」


「どれって、行き先の『迷宮』です? ――えっと、確か難易度低めで、一番近い『異界小学校』の一層です」


「それって、兎ちゃんが一杯なとこなの?」


「そっ、正確には一層が通称――『ウサギ小屋』、二層は『金二郎サーキット』だっけ?」


 ゴクリと喉を鳴らし、舌なめずりをするペリに、今度はコラキが、苦笑交じりに答える。


 コラキが確認を取る声に、イグルはコクリと頷いた後、未だに首を傾げ続けるペリに向けて、半透明のスクリーンを出現させ、説明を始める。


「えとですね、ペリ? 良く聞くです……」


 そして、イグルの説明が始まる――。


『リーマン・クライシス』後、世界十八か所に現れた『異界化迷宮』、その内の五つは日本に存在している。


 即ち――。


 始まりの迷宮であり、現在進入禁止でもある、世界最高難度の『○○スーパー』。


 進入難易度が高い、『渦潮海神殿』。


 最北端にある、『雪ダル地獄』。


 最南端にある、『大虎孤島』。


 そして、今回の目的地であり、五層が制覇・確認されている、『異界小学校』。


 ――それらの情報を、地図と画像で説明し終えると、イグルはペリの様子を見て、「はぁ」と嘆息する。


「うーん、取り敢えず、小学校に行くのは分かったのっ!」


「――うん……、もう、それで良いです……」


 そうこうしている内に、ぞろぞろと、参加者らしき集団が近付いて来る。


「あ、皆さんっ、こちらでっすよぉっ!」


「あらあら、ひっこちゃん、今日も小っちゃいわねぇ? ちゃんと、牛乳飲んでる?」


 ――わらわらと、参加者らしきおば様方が、ひっこを取り囲み始め、大樹や、ペリ、イグル達が微笑ましい物を見る様に、笑顔を浮かべる。


 しかし――。


「――おいおい……」


 コラキだけは、冷や汗を流し、その集団の事を、顔を引き攣らせながら眺めていた。


「――ぷはぁ、もぉっ、おばちゃん達、私もぉ高校生なんだってばっ!」


 這いずる様に出て来たひっこは、乾いた笑顔を浮かべるコラキに気が付くと、トコトコと近づき、鬱憤を晴らす様に、コラキの頭を手繰り寄せ、その髪をワシャり始める――。


「どったの? もしかして、体調悪い?」


 コラキの髪を弄る事で、心の平穏を取り戻したひっこは、乾いた笑顔で固まったままのコラキに、尋ねてみる。


「ん? いやぁ、ちょっと聞きたいんだが……、俺達、必要か?」


 そんなコラキの言葉に、ひっこは訳が分からず、キョトンとした顔を浮かべる。


 更に、ひっこのその顔を見たコラキは、「あー……」と呟いた後、気まずそうに、ひっこに向かって、浮かない表情の理由を告げる――。


「あのな? あそこの……、俺に手を振ってる婆ちゃんいるだろ?」


「ん? 田中のお婆ちゃん?」


「そっ、あの婆ちゃんさ……、Sクラス『冒険者』の序列六位なんだわ……」


 ――『冒険者』。


 前述の『リーマン・クライシス』後に採用された『異界化迷宮』や『魔獣』への対処するための制度である。


 異世界から持ち込まれたこの制度は、採用後に地球独自の規約や制度が追加されている。


 その一つが、小説や、映画などのメディアを参考として作られた、『冒険者』の活躍や、実力などに応じて、『冒険者』を評価する『ランク制度』である。


 そのランクは、F~Sまでと、『冒険者養成学校』のクラス分けと同様であるが、学校のクラス分けと違うのは……、同じアルファベットの階級であっても、平均的な能力には、天と地ほどの差がある……と言う事である。


 また、『Sランク』などの、高名な『冒険者』は、個人情報保護の為、世間では『二つ名』で認知されている。


 そして現在、『Sランク』――世界の運命を左右する能力を持つとされる『冒険者』は、十五名存在している。


 元々は十二名であり、その内の最上位三名は、日本在住とされていたが、ここ数か月で更に三名が『Sランク』として追加され、序列の著しい変動が起こっていた。


 即ち――。


 第一位:『おやっさん』。


 第二位:『覇権社員一号』。


 第三位:『恋剣』。


 第四位:『ミーティア』。


 第五位:『八咫烏』。


 第六位:『コンピューターおばあちゃん』。


「――って、感じだ、一応ナイショな?」


「ほふぁ……、田中のお婆ちゃん、凄かったんだ……」


 コラキから受けた説明に、ひっこがその老婆を羨望の眼差しで見ると、当の老婆は、コラキに向かって、しきりに投げキッスを投擲している。


 そして、コラキはそんな老婆に、力無く手を振り返し――。


「だから……、正直、俺……、要らなくない?」


 と、膝を抱えて呟いた。

 

「えっと……、だ、大丈夫だよっ? お、お客さんに守って貰う訳にもいかないし、ね?」


 ひっこは、必死にコラキの髪を描き回しながら、「要る、要る」と、宥め、若干強引に、二人以外が乗り込んだバスに乗り込む。


 するとコラキは、涙ぐみ、ひっこにされるがままになっていたが、やがて、僅かに微笑むと――。


「――微妙なフォローだなぁ……、でも、ありがと……」


 と、言って立ち上がった。


 コラキとひっこは、そのまま最前列の座席に座ると、通路を挟んで反対側の席に座る、ペリとイグルに軽く説明する。


「? 凄いの?」


「あぁ……、まぁ、密度は凄いです……」


 ペリとイグルは、そんな感じで、あまり気にする事無く、「目的地に着くまでは」と、手持ちのお菓子を広げ、後ろの席のおば様方と雑談を始めてしまった。


 ――そして、そんな一行を乗せて、バスは『異界化迷宮』の一つ、『異界小学校』へと到着した……。

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