第三話:案内と研修!(3)
続きです、よろしくお願いいたします。
「それで玲人、お前、どうしたんだ?」
「ん? 博士さんから聞いてないんか? ――何か、『Aランク』はまず専用の特性武器と、スキルを使いこなす事が必須だからうんぬんって、後は先輩に聞いて来いって言われたんだけど?」
――玲人の話によると、寺場博士から、『玲人専用』の装備を渡されたものの、いまだに使いこなす事が出来ず、特に攻撃系の『スキル』に関しては、『襲撃事件』以来、まともに発動する事が出来ないとの事であった。
そこで、事情を聞いて面白――不憫に思った寺場博士が、「なら、知り合いに任せれば良いじゃないか?」と、目を輝かせて提案したらしく、今回の『観光案内』にかこつけて、コラキたち指導の元、武器の取り扱いを学んだらいい。
「――と言う感じらしいぜ?」
「らしいぜ……って、お前……、完全にもてあそばれてんじゃねぇか……」
コラキは、腹を抱えて笑い転げる寺場博士をイメージし、その場にしゃがみ込む。
「でも……、『Aランク』って、皆、こんな『特性武器』をもらってんの?」
コラキがどうしたものかと、頭を抱えていると、玲人が自らの『特性武器』を、バットケースから取り出す。
すると、それまでパルカの写真を撮っていたライアが、急に真面目な顔になり、コラキと玲人の元に近付き、声を掛けて来る。
「――私としても、そのお話は興味深いですね……。あ、スファーノ、こまめに撮影お願いしますよ?」
「んはっあぃ! パルカちゃんっ、デルきゅんっ、アタシを見てっ」
ライアいわく、異世界と地球とでは、『魔獣』が出ると言う一点以外、全くと言っていいほどに、『冒険者ギルド』の在り様や、『適性武具』の扱いが違うらしく、地球よりも『魔獣』の被害が大きいため、参考にしたいらしい。
すると、コラキは「あぁ……」と納得し、スッと立ち上がった。
「えっとですね、『適性武具』に関しては、実を言えば、『Aランク』の序列十五位未満は、そっちと変わんない感じですよ?」
「――そうなのですか?」
「へぇ?」
コラキは、もう何年も昔の事を思い出す様に、眉間にしわを寄せ、頭上を見上げながら、説明を続ける。
「地球だと、『Aランク』の、特に序列十五位以上は、結構大きな……、それこそ、死ぬ可能性が高い案件が回って来るんで、よっぽどの人格破綻者でない限りは生存率を上げるために、『冒険者ギルド』支給の『特性武器』を使うんですよ」
「あぁ、名工に自分用の武器を……ですか、ふむ……」
「良いんじゃなぁい? ――向こうでも、試してみる? はぁい、デルきゅん、おへそ、いってみよっかぁん?」
「そうですね、『二つ名』付きに……試してみますか……って、スファーノ、パルカちゃんの撮影は?」
納得顔のライアとスファーノであったが、撮影対象が偏り気味のスファーノに対して、ライアは怒鳴り散らし、追い返す。
その事がきっかけとなり、玲人とコラキの二人は、何となく、『大使』の少女、パルカに視線を移す――
「……きゅっきゅ……♪」
「パルカ、あんまり……、お洋服を汚さない様にね?」
「……きゅ……」
――そこでは、黒いミニ丈のドレスをまとったパルカが、クルクルと踊る様に、『楽器』型の『魔獣』を打ち砕いていた。
そして、そんなパルカのドレスが汚れない様にと、兄であるデルフィニが、その手のひらから水を出して、汚れを洗い落としている。
「パルちゃん、軽やかなの」
「――何でですかね……、パルちゃん見てると、野生がうずくですよ?」
そして、ペリとイグルも、そんなパルカを見守る様に、その傍で『魔獣』の相手をしていた。
――玲人は、自分より年下である、パルカ、デルフィニ、ペリ、イグルの動きを見て、呆然としていたが、やがて、気を取り直して、コラキに尋ねる。
「な、なあ、ペリちゃん達も、『Aランク』……なんだよな?」
「ああ、ペリが……、確か十二位で、イグルが、十三位……だったけ?」
「そうなの?」
「そうです」
玲人の質問に、コラキはペリ達に確認しつつ、答える。
すると、玲人は次に――
「うん、どう考えても、俺より強くね? ――何で、俺が七位?」
――聞いていいのかどうか分からなかった質問を、思い切ってぶつけてみた。
コラキは、「ああ……」と苦笑しつつ、それに答えて見せる。
「そりゃあ、戦闘力だけで序列が決まるなら、ペリなんかとっくに『Sランク』の三位以内に入ってるはずだぜ? なんせ、俺より強い。――『B』までは、基本的に『魔獣』を狩って名が上がるから、それこそ、戦闘力だけでグングン上がっていくんだ。でも、『A』からは、企業や『冒険者ギルド』、時には政府関連の依頼まであるからな? ――ペリに、その辺……、特に『守秘義務』とか……、俺ら抜きで守れると思うか?」
「――あぁ……」
「むむっ、何と失礼な言いぐさなの! ――私の固定客も、ちゃんと、いるのっ!」
「――『水着撮影』は、『A』の仕事とは、言えねえよ……」
抗議の声を上げるペリを、コラキはそのおでこをたたき、たしなめる。そして、真剣な顔つきになると、再び、玲人に語り掛ける。
「それでな? 『Aランク』になれば、今、ペリが言った『水着撮影』の依頼なんてもんでも、高額な報酬になるんだ……、実際、それで金銭感覚が狂っちまって、上位になった途端、性格も変わって、身を持ち崩すやつも大勢いる……。まあ、以前の七位がそんなやつだったらしいんだけどな? そんな前例があったから、戦闘力だけで『A』の上位に行くって事は、まずないんだ……、まあ、いったん上がったら下がる事もめったにないけどな……」
「ん~……よく分からん……」
「……だからこそ、お前は昇格できたのかもな……」
そこまで話すと、コラキは前提の説明はザックリ終わったと告げる。
そして、『武器』の扱いに慣れるためにも、実践を行おうと提案して来た。
「……きゅきゅ……」
「ん、何々? コラキ、パルちゃんも、興味あるっぽいです」
「そうなんか? じゃあ、見学しますか?」
「……きゅっ……」
――そして、パルカは『魔獣』への蹂躙を、ひとまず切り上げて、ちょこんとその場に座り込んだ。
「見られてると、やりづらいな……」
「気にすんな、それで? どんな感じなんだ?」
珍しくモジモジとしている玲人に、コラキはそう告げて、実際にスキルを発動する様に促す。
玲人は、スゥッと深呼吸して、スキルを発動する。
「――『性・龍・斬』! あ、やっぱり、駄目か……」
スキルを発動した途端、玲人はそうつぶやき、がっくりと肩を落とす。
すると――
『ゲェッへへへへ……ヘァ……』
――いつもの様に、えろい目の『龍』が、いつもより若干、やさぐれた感じで現れた……。
その手には、酒瓶らしきものが握られており、『龍』は、完全に酔いどれていた。
「こ、これは……」
「あっらぁん? スキルが意思を持ってるのぉん? ――視線がアウトだけどぉ、すごいっちゃあ、すごいわねぇん……」
ライアとスファーノは、あきれながらも、感心した様子で『龍』を眺めていた。そして、パルカは、チョコチョコと『龍』に近付くと、そのうろこをペチペチと触り始める。
「……ネチョッて……」
「ああ、パルカ……、ばっちぃでしょ?」
はしゃぐパルカの手を、デルフィニが水で洗い流し、その様子を見ていた玲人が、少しだけ興奮気味に、コラキの顔を見る。
「――な? 今は良いけどよ……、いざっつう時にこれじゃ、困るんだよ……」
「成程な……、って言うか、このスキル……、普通に触れるんだ……」
「智咲が見たら、卒倒しそうなの……」
「タテが見たら、玲人先輩、今度こそつぶされるですよ?」
見れば見る程、奇怪なスキルに、コラキ、ペリ、イグルは、不思議なモノを見る目で、玲人と『龍』を見る。
その時――
「んねぇん? この『龍』ちゃん、どぉにも、視線が……ペリちゃんの大胸筋にくぎ付けみたいなんだけどぉん?」
――スファーノの言葉に、コラキたちが『龍』の視線を追い掛けてみる。
すると、『龍』は、ちょっかいをかけてくるパルカに、やさぐれた感じで、「やぁめぇろぉよぉ」と言いたげに、手を振っていたが、その視線はチラッチラと、ペリの胸、イグルの足、ライアの胸、パルカの足、と視線を移し続けていた。
コラキは、その様子を、うんざりと言った感じで、眺め、そして、ある事を思いつく。
「――まさかな……」
「ん、ん? 何か思いついたか?」
自分の恥部を見られた様な気分の玲人は、わらにもすがる思いで、コラキに尋ねる。
「いや、もしかして、この『龍』、労働の対価が欲しいのかなぁ……なんてさ」
その言葉に、玲人はキョトンと、他の者も、「何言ってんの?」と言いたげな視線を送っていたが――
「……こういうこと……?」
――ペタペタと、『龍』のうろこを触っていたパルカが、スカートの裾を、恥ずかしげに持ち上げて、首をかしげる。
すると――
『――ギュォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!』
――突如、『龍』が白く輝き始めた。
その顔は、先程までのやさぐれた、エロい感じの目ではなく、凛とした、まさしく『聖龍』と呼ぶにふさわしいモノとなっている。
『――システム・ブート………………モデル・イヤン………………ロード……OK』
『――リブート………………『聖龍斬』……』
「えっ? な、何だ、バットが勝手に?」
「れ、玲人……、お前……」
――そして、戸惑う一同をよそに、『龍』は白銀の輝きを放ち続け……。
『――ギュォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!』
そのまま、周辺の『魔獣』を、全て喰らい尽くし、満足気にほほ笑みながら消えていった……。
「……キュきゅ……♪」
――皆がポカンとする中、ただ一人、パルカだけが、いつまでも、いつまでも、『龍』に手を振っていた……。
そして――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「と言う事で、『仮性仁』君のスキルに関しては、使いこなせる様になるまでは、『餌』で釣る事になったよ」
――『天鳥探偵事務所』に戻った一行を出迎えた寺場博士は、そう告げると、玲人に白い、小さな水晶を投げ渡して来た。
「これは?」
「うん? うん、せっかくだからね? ――お友達同士、仲良くおそろいな感じが良いかなって、気を使ってみたんだよ? ――その水晶の中に、『餌』が詰まっているから、君専用の武器、『Night Bat:ディック』を使用する時は、それを読み込ませると良いよ?」
「はぁ……?」
そして――
「なかなかに、勉強になりました……」
「また来ると、良いです」
ライアはそう告げると、「現像を、頼みます」と、イグルにカメラを手渡し。
「んふっ、次は……、アタシのお部屋にいらっしゃぁい?」
「――はは……、検討を重ねつつ、慎重に回答しますよ……」
スファーノは、舌なめずりをしながら、コラキのあごを持ち上げる。
「――では、また……」
「はいはーい、パルちゃんと、仲良くするの」
そして、デルフィニは目に涙を浮かべ――
「……きゅ……また、みにくる……」
「へっ? 俺っすか?」
――パルカはスカートの裾を摘み上げて、玲人に向けてペコリと頭を下げる。
こうして、コラキたちの、嵐の二週間が始まりを告げたのである。
――――『案内よろしく!』End――――




