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現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
第二章:双子の偶像大使!
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第二十一話:インターミッション(10)

続きです、よろしくお願いいたします。

「――そっから……、何とかサイン渡して逃げ切ったんだ」


 ――『大使』達の来訪、そして、黒服達の襲撃が終わって約半日。褐色肌のツリ目少年、コラキは、『幻想商店街』にある『天鳥(たかとり)探偵事務所』の来客用ソファに、背中を押し付ける様に座り込み、ため息混じりに対面のソファに座る人物――『冒険者養成学校』の同級生にして、親友である、白く輝く丸坊主を持つ少年、玲人に向かってそう語った。


「何つうか……、お前も苦労してたんだなぁ……」


「――まぁ、これからは先輩もその苦労を背負って貰うですよ~?」


 そんな玲人の前に、コラキの妹、長身の三白眼少女、イグルがポニーテールの尻尾をチラつかせながら、コトリと淹れたてのコーヒーを差し出す。


「はぁ……」


 玲人はチラリと自分の新しい『武器(バット)』に目をやると、コーヒーを啜りながら、コラキの横に座る、コラキのもう一人の妹、白髪ふわふわショートボブのたれ目巨乳少女、ペリを恨めし気に見つめて、ポツリと呟く――。


「――どうして、こうなったんだ……?」


 ――それは、黒服達の襲撃開始後の事だった……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――キャァァァァ!」


「ほぁぁ……、タテ、どうするの?」


「まずは、一般の方を避難させましょう……『風壁』!」


 タテは横笛を構え、メロディを奏でると、黒服達が集まっている場所と、一般市民しかいないであろう場所を分ける、風の壁をスキルで作り上げると、ペリに向き直る。


「――で、不本意ですが……、アノ方も連れていきましょう?」


「ほぇ? アノカタ? 誰………………あ、玲人先輩なの……?」


 ペリが、ふくれっ面のタテが指差す方向を見ると、そこには、あんぐりと口を開けて、黒服達の襲撃を見つめている玲人が居た……。


「玲人せんぱ~い! お~い」


「んがっ? え、何、これ……夢? って、あれ? ペリちゃん? ……と、あれ? 一年の……?」


 戸惑う玲人の前に、ペリは弾みながら近付いていく。――玲人は、そんなペリに驚きつつ、背後に控えているタテにも気が付き、更に混乱する……。


「ほぅほぅ、玲人先輩、ご機嫌ようなの、時にこたつ(レイ)ちゃんは?」


「――は? レイさん? レイさんなら、今頃、皇と買い物の筈だけど、って言うか、レイさんは『D』だし、居ても向こうだろ?」


 玲人は、タテの『風壁』で隔てられた一般市民の集団を指すと、ペリの質問の意図が分から無いと言った感じで、首を傾げながらそう答える……。


「――ほぁ……、居ないの? う~ん、戦力ダウンなの……」


「仕方ありませんね、まずは雑魚を片付けましょうか?」


「え? いや、俺としちゃ、ペリちゃんと、一年坊主がここに居んのも、アレ? って感じだけど……、なぁ、聞いてっか?」


 面倒臭そうな表情を浮かべるペリと、やれやれと言った表情を浮かべるタテに、玲人は「え? え?」と、動揺しつつ、質問を続けるが――。


「――話は後です。来ますよ?」


 タテの言葉で、三人が揃って振り向いた視線の先では、五名の黒服達が『武器』を構えて三人に迫りつつあった。


「――ほぁ……、メンドイの……オッキするの『棍棒の様なモノ』!」


 タテが横笛を唇に当て、ペリと玲人に警戒を促すと、ペリは胸の谷間から取り出した小さな玩具に声を掛ける。すると、その玩具はムクムクと大きくなっていき、やがて大きなハンマーへと変化する。


「お、おい?」


「――ペリちゃん、乗ってっ! 『呂音』!」


「ほいさ!」


 戸惑う玲人を他所に、タテはスキルで小さな竜巻を発生させる。――そして、その竜巻を足場にして、ペリは高く舞い上がる。


「――ちっ、あいつ等……『B』以上だ、気を付けろ!」


 黒服の分隊長らしき男が、他の四人に警戒を促すと、四人は無言で頷き、その場に立ち止って、二人は空中のペリを、二人は横笛を構えるタテを注視する。


 ――そして、分隊長らしき男は……。


「悪いな少年……これも、借金地獄から抜け出して、ウハウハする為に……仕方ねぇんだ!」


 スラリと細長い刀を取り出すと、玲人と向き合った……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「はっ、嬢ちゃん、空中に飛び上がったのが、間違いだったな! ――『天辺ラストシュート』!」


 空中のペリを見上げた黒服の一人は、チラつくペリのスカートによって、僅かに出血しながら、ペリに狙いを付け、手に持った銃の引き金を引く――。


「――ケッ、落ちぶれちゃいるが、オレァ、こう見えて『Aランク』の序列二十位前後だ……、メスガキなんぞに負けるかよ……『底辺アンカー』!」


 一方、ペリを見上げるもう一人の黒服は、生唾を飲み込みながら、フック状の左手を突き出し、そのままフック部分をペリに向けて射出する――。


 ――そして、ハンマーを振り上げた格好のペリはと言うと……。


「下手くそなのっ」


 飛んで来た銃弾を、身体を捻って避け、続いて飛んで来たフックを――。


「――んんっ!」


 ――背中から白い、モコモコとした翼を生やし、そのまま翼を器用に動かし、空中で旋回してヒラリと躱す。


「――なっ?」


「て、天使……?」


 空中での連撃を苦も無く躱し、今も翼を羽ばたかせるペリの幻想的な姿に、黒服二人は口をあんぐりと開けて見惚れていたが……。


「――『どっこいしょ』ぉっ」


「「――ガッ?」」


 そのまま、ペリが振り下ろした『棍棒の様なモノ』によって地面に埋め込まれてしまった。


「ほぁ……、あぁぁぁ、また背中破いちゃったの……、イグルに怒られるのぉぉ……」


 ――その後には、二本の男柱と、背中にポッカリと穴が空いたセーターを涙目で見つめるペリだけが残っていた……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――んだぁ? これ……」


「あ……、が?」


 ペリが『棍棒の様なモノ』を振り回していたその時、タテと相対していた黒服達は、その膝を地面に着け、だらしなく涎を垂らしていた……。


「――あ、まだ意識があるんですか? 流石、『B』とか『A』っぽい人達だ……、でも、それもこれまでです……『風音(リンリン)』!」


 タテが横笛を吹き始めると、その横笛から、本来出て来そうにない、キィィンと言う甲高い音が響く。


 すると、黒服達の身体が緑色の膜に覆われ始め――。


「あ、だ、ダメだ! チョーク黒板だけは……オラ、オラァァァ!」


「キュ……は、風船の……キュ……は……」


 ――直後、糸が切れた操り人形の様に、その場にガクリと崩れ落ちてしまった。


「――風船は……、俺も苦手ですよ? さて、どうしましょうか……、センパイを助けるべきか、念の為にパルカちゃんの様子を見に行くべきか……」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「はっ、どうした少年! こんなとこに居る以上、お前も高ランクじゃねぇのかっ?」


「――ざっけんなっ、こちとら、『昇格試験』中だっつうのっ」


 ペリとタテが、それぞれ黒服達を片付けていた頃、玲人は黒服の分隊長相手に、苦戦――いや、善戦していた。


「中々、頑丈なバットだな? ――だが……、『抜刀』!」


「――なっ、俺と同じスキルかよっ! ――『抜刀』!」


 ――分隊長の刀と、玲人のバットがぶつかり合い、火花を散らす。しかし、地力の差か、経験の差か、玲人は競り合いに負け、吹き飛ばされてしまう……。


「――グゥ……」


「本当に頑丈なバットだな……」


 当然、玲人が善戦出来ているのは、玲人が『昇格試験』に至った経緯を面白がった、とある『マッドサイエンティスト』が作った『特製バット』のお蔭である。


「だが、得物が良くても、使い手が雑魚じゃ話にならんな……『執刀(ノーモア・カップル)』!」


「クッソ……、このまま……死んでたまるかよ! ――『性・龍・斬』!」


 振り下ろされる刀に、玲人は一か八かの賭けに出る……。


『――ゲヘェェェェェェェェェ………………ハァ……?』


 そして、呼び出される『龍』は、眼前の『敵』――黒服を見て、この世の終わりの様な表情を浮かべる……。


「――な、これは……『聖剣使い』の? い、いや……違う……か?」


「で、出た……、何とか出た……、後は……えっと、『音声認識』! 『目覚めろ、騎士のバット』……『Night bat』!」


『――システム・ブート………………モデル・イヤン………………ロード……OK』


 玲人が羞恥に顔を真っ赤に染めながら、バットに向かって叫ぶとバットから機械音声が流れ、白く輝き始める。


『――ハァ……っ? ゲヘ……ゲヘヘヘヘヘッ!』


 そして、その光の輝きが強くなる程に、『龍』の様子が、変わっていき――。


『――リブート………………『聖龍斬』……』


『――ギュォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!』


「――はぇ?」


 ――やがて、白銀の輝きを放ち始めた『龍』は、その咢で眼前の分隊長をパクリと飲み込んでしまった……。


『――システム・スリープ……』


「――か、勝った?」


 そして、大きく抉れた地面と、そこに丸裸で転がる分隊長を見て、玲人はヘナヘナと座り込んだ――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――凄かったですね? あれ、一応……、元『Aランク』の十番台ですよ? どっかで見た覚えありますし……」


「ほぉぉぉ、コラキの嘘じゃ無かったの……」


 タテとペリは、助太刀しようと駆け付けた先で、玲人が分隊長を倒す様子を、信じられないと言った様子で眺めていた。


 そして、気絶した黒服五人をタテの『風壁』で閉じ込めると――。


「それは良いんだけどよぉ……、俺、何で引き摺られてんの?」


 ――腰を抜かした玲人をズルズルと引き摺り、ステージ裏を目指していた。


「――ん? 私、知らないのぉ……、タテがイクって聞かないの」


「心配ないとは思うんですけど……、まあ、友達……? いや、兄妹? そんな感じなので、様子を伺おうかなと……」


「えぇ……、俺は置いてけよぉ……」


 ――そして、ペリとタテ、二人に引き摺られる玲人が、『大使』達が避難したと思われるステージ裏へと到着すると……。


「――え?」


「何……これ……」


「ん? 皆、無事っぽいの」


 そんな三人の目に入って来たのは……。


「……キュ……」


「も、お、ゆどぅじで――」


 まずは地面に倒れ、『大使』パルカに、背中の上をピョンピョンと楽しそうに跳ねられている黒服と……。


「パ、パルカ……、その辺でもう……勘弁してやれば?」


 そして、それを心苦しそうに止めようとする、『大使』デルフィニと……。


「……キュゥ……?」


 その兄からの忠告を「何で?」と、首を傾げて不思議そうにするパルカと……。


「――ふぁおっ、良い……、良いわ、パルカちゃん! こっち見てっ! 目線……、ライアお姉ちゃんに、目線頂戴?」


「……ブイ……」


 そんなパルカを興奮気味に撮影する『秘書官』ライアと……。


「んッはぁ……、お、お兄さん……、こっちいらっしゃい? このスファーーーーーノ様が、お相手してあげるわぁん?」


 黒服の服を剥ぎ取り、ステージ裏の更に裏に引っ張り込もうとしている『秘書官』スファーノと……。


 ――『異世界』からの『大使』達一行による、黒服蹂躙劇の様子だった……。


「……キュッキュッ……♪」


 そして、パルカが黒服の上で飛び跳ねる事を止め、その髪をブチブチと抜き始めると――。


「あ、あわわ……、パ、パルカ様ぁ……、おやめ下さいぃぃぃ」


 ――スーツにフルフェイス姿の、恰幅の良い男性が泣きそうな声で、パルカに縋り付いた。


「あ、佐竹さんの声なの!」


「「「「「――っ!」」」」」


 そして、そのフルフェイスの声が知り合いの声だと気付いたペリが、思わずと言った感じで呟くと、それまでペリ達の存在に気が付いていなかった、蹂躙劇の参加者達の視線が、一気にペリ達へと注がれる……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――本当……どうして、こうなったんだろう……?」


 玲人は再びため息を吐く。


 そして、手元の『誓約書』と書かれた紙切れに視線を落とす……。そこに書かれているのは……。


『――襲撃者の撃退と、大使を守った功績により、『梧桐玲人』の昇格を認め、『Aランク』とする。尚、『Aランク』の昇格に伴い守秘義務が生じる。具体的には、大使護衛の際に得た、如何なる情報も、外部の人間に漏らす事は許されない――』


「――まぁ要約すると、『Aランク』にするから、漏らすなよ? 見張ってるぞ? って感じか?」


 コラキは、自分のカップに口を付けると、笑いを堪えながら、玲人に告げる――。


「どうして……」


「ほぁ……、序列抜かされたの……」


「ふぉぉ……、ズルいです……」


 落ち込む玲人とは対照的に、ペリとイグルがニヤニヤしながら、『誓約書』を眺める。


 そして――。


「――ようこそ……、『高ランク(不自由)』の世界へ」


 ――親友に対する『秘密(Sランク)』が一つなくなり、スッキリとしたコラキは、心底嬉しそうに、玲人の肩をポンッと叩いた……。


「まずは、二つ名だよなっ! 博士から『勇者(仮)』か、『仮性勇者』のどっちが良いかって、来てんだけど――」


 この日、新たな『Aランク』、序列七位が誕生した……。

彼の出世街道はまだ続くかもしれません……。

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