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現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
第二章:双子の偶像大使!
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第二十話:双子大使!(4)

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――バッサバッサと、コラキはその背中から生やした翼を懸命に動かして、ビルの屋上へと舞い降りた……。


 そして、その腕に抱えた、膝丈のアオザイを着た分厚い眼鏡の銀髪少女――『トキワ・コーラ』をそのまま地面に下ろすと、ヘルメットのバイザーに手を当てる。


「――イグル……、ちゃんとキャッチしたぞ? これからどうすりゃ良いんだ? まさか、このまま予定通り、『大使』さん達を迎えるのか?」


『ふぅ……、コレクションが溜まったです……って? あ、ああ、ちょいと待つですよ? おっちゃん連中に聞いてみるですから』


 イグルは、偉い人を探す為なのか、ガサガサと、その場から動いているらしく、コラキの耳にはイグルが動く際の衣擦れや、椅子を動かす音、イグルが『ねぇ!』と叫ぶ声などが響いており、『八咫烏』のヘルメットの中で、コラキはその顔を顰める。


『――あ、捕まえたです! どうするで――』


 一分程、そんな雑音しかしていなかったが、漸く誰かを発見したらしく、イグルが、その誰かに呼びかける声が聞えた所で……。


「――『ファイブトリックス:二A』!」


「んぉっ」


 背後から鉄球が飛んで来た――。


「な、何しやがる!」


 コラキは、その鉄球の持ち主……、先程空中でキャッチした少女、トキワを睨み付け、錫杖を構える。


「んニャッはっは……」


 振り返った先では、分厚い眼鏡で、瞳の中は見えないものの、トキワがその口を三日月の様に歪めて笑っていた。


「――い、一位は逃がした? っちゅうか、逃がされた? ――だけど、まさか、『冒険者ギルド』の広告でおなじみの、五位――『八咫烏』に出会えるなんて……、感激だにゃぁ……」


 ――ヒュンヒュンヒュンと、トキワは先に鉄球が繋がれた鎖を手先で回しながら、そう呟くと、右手の鎖鉄球を、コラキに向けて振り下ろす。


「あっそんでにゃ!」


「――あっぶ!」


 コラキは眼前に迫った鉄球本体を、錫杖の柄で受け流しながら、背中の翼から数枚の羽根を、トキワに向けて放つ。


 ――トキワは、カウンター気味に、顔面目がけて飛んで来た黒い羽根を、紙一重で躱す。すると……。


「あぁ……、高かったのにぃ……」


 パキンと言う音と共に、トキワの眼鏡が砕け散る……。


「なっ、アンタ……」


 メット越しで、その表情はトキワには見えなかったが、『八咫烏』の中のコラキは、驚愕の表情でトキワを見ていた。


「あん時から、まさかとは思ってたけど……」


 口調に髪型から予想はしていたが、少女――トキワが、以前、『コタツ博物館』で出会った人物であった事に、コラキは少なからずショックを受けていた……。


「――んにゃ? どっかであったかにゃ? ――『ファイブトリックス:一A』!」


 ――しかし、そんなコラキの動揺を、トキワが察する事は無く、トキワは左手に持った鎖を振り回して鉄球を操り、コラキの周囲をその鎖で取り囲もうとする。


「チッ、取り敢えず……、今はっ!」


「――ビックリ……、その装備……ズルいっ」


 コラキは翼を広げて空に舞い上がり、鎖と鉄球の包囲網から抜け出し、トキワを見下ろす。――トキワは、その目をランランと輝かせながら、コラキを眺め、キャーキャーとミーハーな叫び声を上げていた。


「――生憎……、自前だ……よっ! ――『(アッシュ)』!」


 コラキは、黒目の中にハートが浮かんでそうなトキワに、若干引きながらも、スキルを発動し、錫杖に付いている遊環ゆかんをシャラシャラと回転させる。


「んにゃ? 武器がボロボロだ……よ? って、速っ?」


「――『金剛牙』!」


 ――コラキは形状を崩し始めた錫杖を握り締めたまま、トキワ目掛けて急降下していく。その間にも、錫杖の形は崩れていき、やがて、その形は、手持ちの電動サンダーの様に、短い柄、鋭い刃の外縁輪を持つ形状となる。


「こわっ、それ……、形が怖いっ」


 迫り来るコラキと、その手に握られた錫杖に、トキワは慌てふためきながら、バックステップする。


「――んもぉっ! そんなもん、乙女に向けちゃだめだよん?」


「大丈夫……、避けるって信じてたからっ」


 コラキは、トキワに向けて親指を立てると、そのまま腰を低くして、錫杖を構える……。


 一方のトキワは、そんなコラキに警戒しながら、体勢を立て直し両手の鎖鉄球を手元に手繰り寄せる。


「んにゃっは……、遊び相手じゃなきゃ、良い言葉なんだけどにぇ……って……、きゃあああああっ!」


「――なっ!」


 ――すると……、先程の錫杖の刃が掠っていたのか、アオザイの胸元がパックリと裂け、薄っすらと赤い筋が広がっていた。


「な……、にゃ……、な?」


「――大丈夫だ……俺は、何も『レコーディング・サクセス!』……見てない」


 ――トキワとコラキ、両者の間に数秒の沈黙が訪れる……。


「ふ……、ふにゃっはぁ……? ――ファンだから……、ファンだったから……、サイン位で手打ちにしようかにゃあ……なんて思ってたけど……。――くたばっちゃえっ! アサ、ミヤ、偽装解除!」


 涙目のトキワが叫ぶと、その手元の鉄球からクパッと音が響き、それぞれの鉄球が真っ二つに分かれ、その中から――。


「――ヨ、ヨーヨー?」


 ――二つの巨大なヨーヨーが現れた。


「――『ファイブトリックス:一A』!」


 正体を現したヨーヨーは、鉄球の姿だった時とは段違いの速度で、地面、空中を問わず、正に縦横無尽に駆け回り始めた。


「うぉっ! だ、だから、狙ったわけじゃ無いっつうの!」


「んにゃあんっ! だったら、あの機械音声はにゃんなのさっ!」


「あ、アレは……………………気のせいだ!」


 縦横無尽に動き回るヨーヨーを、コラキは背中の翼を器用に動かしながら躱していく。そして、まずは、相手を取り押さえなければと判断し――。


「――んにゃろっ! ――『縛』!」


 ――錫杖の杖頭に備え付けられた輪っか……、その内輪部から赤い光の縄を取り出し、トキワに投げ付ける……。


「いやぁぁぁっ! し、縛ってどうする気!」


「――だぁ、人聞きの悪い事言うなよ……、暫く眠ってて貰うぞっ!」


 ――そして、トキワの身体に赤い縄が食い込み、縛り上げた所で、コラキは、トキワに肉薄し、その錫杖を振り上げ……。


『はいっ! ストップ、ストップですよ!』


 イグルからの通信で、その手を止めた。


「? イグル、どうした?」


『――はい、ちょっとドタバタしてたです……、止めるのが遅くなってごめんなさいです。えっと、先程、公園内で『大使』方を襲っていた集団ですが、一人を除いて全員、無事に確保終了したですよ? んで、事前情報と、捕まえた奴等の情報から、『大使』方を欲しがってた連中の確保に成功したです。――と言う訳で、お二人供、お仕事終わりですよ?』


 ――ビルの上……、正確にはビルの屋上の床から、『鷹の目(パラ・サイト)』越しにイグルの声が響くと、頬を染めたままのトキワが両手の平を開き、ヨーヨーを手放した。


「え? え?」


『はいぃ……、コ……、『八咫烏』も戦闘態勢解除するですよ』


 そして、混乱する頭のまま、コラキは錫杖のスキルを全て解除する。


 ――赤い縄から解放されたトキワは、ふくれっ面のまま、地面に落ちていた鉄球の殻を拾い上げると、ポチっと何かのボタンを押す。


『システム・スリープ……』


 すると、機械音声と共にヨーヨーがガシャガシャと音を立てて、手の平サイズまで小さくなっていき、続けて、四つの鉄球の殻は一つに重なり、鋼色の硬質的な質感から、木目調の柔らかな質感へと変わっていく。


 そのまま、トキワが『元・鉄球の殻』の埃を掃い、頭に被ると、再び、地面からイグルの声が響く……。


『――えっと、『Sランク』、序列十位の『三度笠(スケバン)』さん、だそうです』


 ――そして、『三度笠(スケバン)』はそのまま、『八咫烏(コラキ)』の前まで近付くと、ニッコリと微笑む。


「――どぉもっ! ――この度、ちょっくら潜ってました、『三度笠(スケバン)』のキーラ・コトワです。 以後、よろしくにゃ?」


「えっ? こ、この子が? ――例の……? 婆ちゃんの名付け親……?」


 コラキは、内心で「どう言う事?」を連呼しながら、そのまま「あ、どうも……」と返す。


 すると、トキワ――キーラは、その目を糸の様に細め、口を小文字の『オメガ』の様な形に歪めると、両手に持った四角い板を、コラキに向けて突き出し――。


「ん?」


「――取り敢えず、アレ(録画)は水に流すから、サイン下さいにゃっ!」


 ――そう言って、猫の様な笑顔を浮かべた……。

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