第十七話:双子大使!(1)
続きです、よろしくお願いいたします。
――『冒険者養成学校』の修学旅行が終わり、週末を挟んで空けて月曜日……。
『砦が丘』の上に存在する校舎から、昼を告げる鐘の音が鳴り響き、『冒険者養成学校』の生徒達は皆、思い思いに弁当を広げたり、食堂に走ったりと、その腹を満たす為にさまよい始める――。
それ自体は、『冒険者養成学校』の昼食風景として、いつも通りであるのだが、今日は……、少しだけいつもと違う雰囲気が校舎内に漂っていた……。
――『異世界からの大使』……。その訪問がいよいよ今週末に迫り、生徒達の話題はそれがメインとなっており、当然……、コラキのクラス『三年S組』でも、その話題で持ち切りであった……。
「――ねぇ? どんな人なんだろねっ? コラキちゃん……」
「ん~……? さぁなぁ……?」
雛子は、今朝方購入した週刊誌の特集ページを開いて、コラキに見せつけながら、「楽しみだね」と、コラキの髪に小さなリボンを取り付けている最中である。
コラキは、そんな雛子にされるがままになりながら、パックの牛乳をストローを使わずに、開いて飲みながら、その週刊誌の、「大使は双子?」と書かれた見出しをチラリと見て、教室を見渡す。
「――にしても……、少ねぇな……」
「あ~……、結構、大怪我した人多かったらしいよ……」
現在、コラキのクラスを始めとして、『冒険者養成学校』の三年生には、教師、生徒共に欠席が多い。
――と言うのも……。
「――そりゃ……、あんなんに襲われたら……なぁ?」
『そう……ですね……』
先週実施された『修学旅行』で、『Aランク七位』と、『分厚い眼鏡』の『冒険者』達に襲撃された結果、かなりの教師、生徒が病院送りになってしまった為である。
――幸いにして、『首謀者である』とされる元『Aランク七位:ダグ・ドルド』は逮捕されたのだが、かと言って怪我人がすぐ動けると言う訳も無く、三年生の教室がある階は少しばかり寂しい雰囲気となっている。
そんな状態ではあるが、辛うじて『学級閉鎖』等にならず、動ける生徒達は登校し、「次こそは」と、『Aランク』レベルの襲撃者に出会った事で、寧ろ奮起している。
――そして、三年生達の大きな意識改革とは別に、小さな範囲で、一つの意識改革が起こっていた……。
『あ、玲人君、これ、私とひっこちゃんで作ったプリンですけど……、どうですか?』
「お、おっふ……、い、頂き……ます……」
「ああああああああああああああ~ん……」
白いコタツから、白い手がニュゥッと伸びて来て、スプーンで掬ったプリンを、玲人の口に運んで行く……。
「――なぁ……、何があったんだ……?」
玲人とこたつ……、眼前の二人から放たれるぎこちないオーラに、コラキはたまらず椅子をガタガタッと引き、髪をモシャる雛子を見上げ、尋ねる。
「ん……、おやおや、コラキちゃん……、親友のリア化にお焦りかなぁ?」
「い、いや……、そんなんじゃねぇけど……」
「ん~、何か……、前から『コタツ姿しか見てないのに、好意を持ってくれてる』って、気にはなってたみたいなんだけどね? この間の『頑張り』が、何だかどストライクだったみたい」
雛子は「梧桐君、頑張ってたもんね?」と付け加えると、初々しい二人に生温かい視線を送る――。
「ん……、そ、そう言うひっこはどうなんだ? ――やっぱ、あん時の玲人に……」
「ん? 何々? コラキちゃん、イイとこ持ってかれて拗ねてる? ――ふふ……、大丈夫だよぉ? 私、コラキちゃんが、玲人君を守ってくれたのも、私を守ろうと何か投げてくれたのも……ちゃあんと、知ってるからね?」
「――っ! お、おぅ……」
――そんな、何とも言えない空気の中、二対二での昼食は進んでいく……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――一方、二年生の教室がある階でも、当然、話題は似た様なモノで……。
「はい、あ~ん……」
「――あんっ!」
二年生の教室が並ぶ、『冒険者養成学校』の校舎二階にある『二年B組』の教室では、ペリがその口をあんぐりと開けて、ひな鳥の様に食材が口に運ばれるのを待っていた……。
「んっふっふ……、今日も良い食べっぷりだよね? ――あぁ……、私、ペリちゃんとの子供なら、今生んでも良いっ!」
「――? 智咲……、女の子同士じゃ子供は作れないの、私でも知ってるのっ!」
「大丈夫……、大丈夫だからっ! ――私、絶対、その『スキル』を発現して見せる!」
ペリの同級生であり、女子水泳部部長であり、ペリの親友である智咲は、ペリ用にと作って来た弁当を、ペリの口に運びながら、ハァハァとシャッターを切っていた。
「ん~? よく分から無いけど、応援するの!」
「――っ! してっ! 応援してしてっ!」
――『二年B組』の昼休み恒例行事となってしまった、『智咲アタックタイム』を、周囲のクラスメイト達は、「触らぬ神に祟りなし」と、ツッコミたい気持ちを抑えて箸を進める。
「――それにしても、『異世界の大使』かぁ……、どんな人なんだろうねぇ?」
「ん~……、私は会った事無いけど、雑誌とかに情報が出てると思うの!」
智咲が何気なく呟くと、ペリはそう言って、ぐちゃぐちゃになった週刊誌を取り出す。
「んもぉ、ペリちゃんったら……、今回が『初来日』……いや、『初来地』なんだから、そりゃ会った事無いよ……」
「ほぁっ! そ、そうだったの……、えっと、そ、そうなの、智咲、何て書いてあるか読んで欲しいの!」
――ペリはその額からダラダラと汗を流しながら、取り出した週刊誌を智咲にグイグイと押し付け、「読んで」とせがむ……。
「ん? んもぉ、ペリちゃんは甘えん坊だねぇ……、じゃあ、読むよ? ――えっと……」
そして、智咲は声を上げて、週刊誌の記事を読み始める――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――歳は十五歳、小さい頃から『国の子』として育てられた為、国内での人気は絶大……?」
――一方、一年生の教室がある校舎一階、その中の一室『一年S組』では、ペリが持っていた物と同様の週刊誌を、イグルの同級生であるピトが読み上げていた……。
「ふふぇ? ――同い年です……?」
イグルは、ピトから入手した情報に、ポカンと口を開けて驚いていた。
「うん……、懐かしいなぁ……」
「あれ? 羽衣は知ってるです?」
箸を口に咥えながらしみじみと呟く羽衣に、イグルが尋ねると、羽衣は「うん」と答え、口を開く。
「――アソコも回ったからねぇ……」
「よく、姫と父上の頭上を争ってましたね……」
「むむ……、それは……、ライバルの予感がするです……」
「ピュ……、流石に十年近く経ってたら、あんなおっさん………………ねぇ?」
羽衣とタテがしみじみとしながら、箸を進める中、イグルとピトは、若干、頬を引き攣らせながら、「「ねぇ?」」と、言い合う。
そして、互いの事情を良く知っているイグル、羽衣、タテ、ピトは、イグルが今週の来訪時に『周辺警護』を担当すると聞き、羨ましがりつつ、話に花を咲かせる――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――そして、その頃……。
「――旦那さん? 準備はよろしおすか?」
「おう、急に召喚して悪かったな? んで、俺はオッケー……だけど……」
日本から遠く、遠く離れた土地では、雪景色の中にポツンと建つ城の中で、緋色の女性と、スーツ姿の男性が、見つめ合っており、その足元には、黄色と黒色……二色で構成された『大極図』が浮かび上がっている。
そして、そんな男女の元に、新たに四つの人影が現れ――。
「……キュイ……」
「……行ける……」
「うふ……アタシは、オゥルウェイィィズ! イケるわよぉん?」
「はぁ……はぁ……、二人供、決まっていますよっ! ――はい、こっちっ! 目線っ、目線頂戴!」
「――んじゃ、行くかっ! ――『浪漫飛行』!」
――その直後、光が六人を包み込んだ……。




