第十四話:北の迷宮から!(6)
続きです、よろしくお願いいたします。
――『第四階層:ユキンニク教団』。
白いボディビルダーを模したかのような『雪だるま』達が、ゴロゴロと雪を転がし大玉を作っている。――温厚な『魔獣』であり、大玉作りを邪魔したり、攻撃したりしなければ襲い掛かって来る事は無い。
そして、そんな『ユキンニク』達がキャッキャウフフと大玉を転がす中――。
「何ボォッとしてやがるっ!」
「――っ!」
――『第三階層』から上がって来たばかりのコラキ達は、目の前で繰り広げられている状況に、息を呑んでいた……。
雪で真っ白な地面には、ボロボロになり、うめき声を上げながら地面にうずくまる、『冒険者養成学校』の同級生達……。
「――響け! 『轟雷』!」
「――っはぁ? っめ、っに、っんっこっかっよっ! (訳:んなぁ? 貴方は、本当に、教師ですか?) 『ステアウェ』!」
――そして、そんな生徒達を庇う様に立つ、三年S組の担任――『幸敏行』と、相対する様に立つ、巨躯と矮躯、金と銀、対照的な男女の姿があった。
普段は七三分けの担任は、それまでの戦闘が激しかったのか乱れており、グレーのスーツは所々が破れている。
一方、向かい合う白いタンクトップに、黄色いタイツを履いた巨躯の男は、衣服こそ破れてはいないものの、あちこちから出血し、その下唇一杯に付けた金環は、焦げ付き取れ掛かっている。
そして――。
ただ一人、無傷なストレートロングの銀髪を風に靡かせる、分厚い眼鏡の少女は、巨躯の男から数歩後ろに下がって傍観している。
「ったくよぉ……、このデカブツはともかく……」
担任は雷撃を放った後、その雷撃を弾いた巨躯の男の背後……、銀髪の少女をチラリと見ると、背後のコラキ達に再び声を掛ける……。
「――コラキィッ! お前達は、そこで倒れてる奴らを回収しろっ! んで、コレで各階層で待機してるはずの先生達に連絡しろっ!」
担任は目前の敵から目を離さず、後ろに向けて通信機を放り投げる。
「え? お、おぁっっとっ!」
突如、担任から投げられた通信機を慌てて受け取ると、コラキはバッと担任の顔を見る。
「っんっだっなっ! っなっら、っでに、っおったっぜっ? (訳:残念ですね! その方々なら、既に、倒しましたよ?) ――『ホーミータイト』!」
「――何言ってっか分かんねぇよっ! ――って、ぬぉっ? 引き寄せられる?」
巨躯の男が両腕を広げると、担任の身体がズルズルと巨躯の男に向けて引きずられる。
「あ、通じないようですにゃ…………なので、教えてあげます。――その先生達なら、今頃夢の中……だと思いますよ……?」
「――チッ……、そう言う事かよ……パネェな……穿て! 『鉄槍』!」
「――っ!」
担任の手から三本の鉄槍が放たれると、巨躯の男は驚きに目を見開いて飛び退く。
「――今のうちだっ! 早くっ!」
「「「『は、はいっ!』」」」
そして、巨躯の男がジャンプした瞬間、担任は叫び、コラキ達は漸く硬直から解放される……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「こ、コラキちゃん……、どうしよう……?」
「お、俺らも加勢した方が良いんかなぁ……?」
我に返った雛子と玲人は、青ざめた顔でコラキに指示を仰ぐ。――「加勢した方が良いか?」と聞かれたコラキは、チラリと戦闘中の担任達を見ると、小さく顔を横に振る。
「いや……、担任の言う通り、倒れてる奴らの救護を優先しよう……」
『――そう……ですね、後ろの方が気になりますが………………あの男の人では、先生に勝てないと……思います。それよりも、邪魔にならない様に……、負傷者を回収しましょう』
コラキに続けてのこたつの意見に雛子と玲人も頷き、行動を開始した。
「ペペペペペペペペペペペペ『ペイント・グリーン』……、『ウィンド・パンサー』!」
こたつがスキルを発動すると、コタツの天板が宙に浮き、四倍程の大きさになる。
『この上に皆さんをっ!』
「わ、分かったよっ!」
「――の、載るか……?」
『大丈夫ですっ! 百人載っても……ですっ!』
コラキ達はその言葉に安堵し、怪我の酷い生徒達から順に天板の上に載せていく。
しかし――。
「んにゃぁ……?」
――それを面白そうに眺める目が在った……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――チっ! パない頑丈さ……だべなっ! 吹き渡れ! 『風霜高潔』!」
「んっっぎっ! ス、『ステアウェ』!」
巨躯の男は、吹き飛ばされそうになる足を踏ん張り、吹き荒れる風を凌ごうとするが、生徒達が居なくなり、遠慮の無くなった担任のスキルに、徐々にその足を浮かされ、吹き飛ばされそうになる。
「――ふぅ……、舐めた事してくれやがって……。――必殺!」
しかし――。
「――アサ、ミヤ、展開……、『ファイブトリックス:一A』……」
「チッ……、やっぱ……、黙って見てるつもりはねぇか……」
「――っだっらぁ? (訳:何ですか、貴女)」
――担任が止めを加えようとした時、遂に傍観していた少女が動き出した……。少女は、いつの間にか取り出していた鉄球を、担任に投げつけていた。
鉄球は担任の周囲を縦横無尽に走り回り、担任を鉄球に取り付けられた糸で取り囲む。――生き物の様に動き回る鉄球に、担任も、そして、助太刀された巨躯の男までもが驚愕の表情を浮かべ、少女を見ている。
「ふふ……、このオッチ…………殿方は、私が引き受けますから、ダグさんは、あの子達を……お願いするに…………お願いします」
「ご? お、あ、ったぁ……。(訳:え? あ、はい、分かりました……)」
有無を言わせぬ、と言った感じの少女の微笑みに、ダグと呼ばれた巨躯の男は、ワタワタと、雪で滑りそうになりながらも、この場から去って行った生徒達の後を追い始める……。
「――チッ! 行かせ「だぁめっ!」」
担任は、ダグを行かせまいと一歩踏み出すが、そこに再び鉄球が襲い掛かる。
「――はぁ……、やっと行ったにゃぁ……、さってさて……、『一位の戦友』……、まっさか、こんにゃとこで会えるなんて……、ツイてるにゃあ♪」
「チッ、ソレ知ってんのかよ……、少なくとも『A』なんかじゃあ……ねぇよなぁ……?」
「んにゃっはぁん♪ 一応、今日は公称『C』! ――退屈な依頼だけど……、これ位の楽しみあっても……良いよね~ん!」
――そして、上位『冒険者』同士の激突が始まった……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――どうだ、ひっこ、連絡取れたかっ!」
コラキは周囲を警戒しながら、横を走る雛子に声を掛ける。
「ん、駄目みたい……、うめき声しかしないよ……」
雛子は先程からずっと青ざめたままの表情で、担任から渡された通信機を耳に当て、フルフルと首を横に振る。
すると、大量の生徒を天板に載せたこたつから、ピコンッと音がして、天板の端に文字が表示される。
『死んではいないみたいですね……、でも、いつ『魔獣』に襲われるとも限りません。――外には……?』
「――あ、それなら、俺、ホテルの番号控えてっぞ?」
そして、玲人はズボンの中からメモの切れ端を取り出すと、それを雛子に渡そうと、手を伸ばす。
「――『ホーミータイト』!」
「あれ? 梧桐君、早く頂戴……? って、何か浮いてるよっ?」
玲人の身体はふわりと浮きあがり、徐々に後ろに向かって行く――。
「――え? ええっ?」
『皆さんっ! 後ろです!』
こたつがピコンッと警戒音を出し、コラキ、雛子は後ろを振り返る。すると、そこには傷だらけで、僅かに息の上がった巨躯の男――ダグが立っており……。
「っがっかっ! (訳:逃がしませんよっ!)」
ダグはその両腕を大きく広げ、近付いて来る玲人を迎えようとしていた。
「な、ひき、引き寄せられる? い、嫌だ……」
玲人は宙に浮きながら、必死にクロールで前に進もうともがく、しかし、玲人の意志とは無関係に、その身体はダグの両腕目がけていく。
「嫌だぁっ! あんな、オッサンの腕に抱かれるなんてっ! は、始めてはこたつさんって決めてんだぁぁぁっ!」
「玲人っ!」
――次の瞬間……、その場の誰もが、気が付かない程に……、何時の間にか玲人とダグの間に飛び出していたコラキが、玲人の身体を受け止め、元の位置まで投げ飛ばしていた。
「コ、コラキっ? 何時の間に……?」
しかし――。
「っおっ? ぁっ、『ホーミータイト』!」
――突如現れたコラキに、ダグは一瞬迷ったが、すぐにスキルを発動し直し……。
「――『ディヴィ』!」
「ガッ、ガァァァァァァァァァァァァッ!」
「コラキちゃんッ!」
コラキにラリアットを喰らわせた――。




