第十二話:北の迷宮から!(4)
続きです、よろしくお願いいたします。
今回、キリの良さげな所で切ったので少し短めです。
「――貴様の血は……何色だぁっ!」
「ハイハイ……っとっ!」
足元から融け崩れ、右手を伸ばしながら怨嗟の声を上げる『雪だるま』に、コラキは錫杖を突き立てて、止めを刺す――。
「――梧桐君っ! 足元っ!」
「ぬガァッ! んにゃろっ!」
「――ぬぅ……、僥倖っ! 良い太刀筋である!」
――コラキと少し離れた場所では、玲人が別の『雪だるま』を相手に黒光りするバットを振り回していたが、突如、足元から氷柱が生えて、『雪だるま』への止めを刺せずにいた。
「ペペペペペペペペペペペペ『ペイント・クリムゾン』……!」
そして、更に少し離れた場所では、こたつが、コタツの色を真紅に染め上げ、天板をクルクルと回転させている……。
「「ぬ……ぬぬ……、卑怯な……、何をする気だ……」」
『――脚固定完了!』
「フフフフフフフフ『フレア・ブースト』ォォォゥ……」
コタツは、その脚をズドンッと地面に突き刺すと、回転し続ける天板と、コタツ布団の隙間から、真紅の炎を噴射し、その炎は、『雪だるま』達を、怨嗟の声を上げさせる間もなく消し去っていく――。
「よっとっ……、これで……こっちはラストっ!」
「「「おぉのぉれぇ……、たと――」」」
「――悪いな……、聞き飽きた」
コラキは錫杖を、バトンの様に振り回し、『雪だるま』達の胴体を突き崩すと、最後に、グルリと三体の頭部を吹き飛ばし、自分の担当分を片付ける。
コラキ達は現在、『雪ダル地獄』、『第二階層:クリスタル・ウッド』で予定外の足止めを喰らっていた。
敵自体は『第一階層:ベーシック』同様に、口だけの『雪だるま』が相手なので、それ程苦労はしないのだが……。
「――キャッ!」
――この様に、足元から突如生えて来る『氷の樹』や、『氷の枝』によって、行き道を塞がれたり、軽い怪我を負ってしまってりする為、移動速度を下げて警戒せざるを得ず、進行が大幅に遅れてしまている。
「――ひっこっ!」
「だ、だいじょ~ぶっ! 枝が生えて来ただけ~っ!」
雛子の悲鳴に、コラキが急ぎ駆け付けると、雛子は太ももを『氷の枝』が掠ったらしく、僅かだが、破れたスカートに血が滲んでいた。
「――大丈夫じゃねえだろ……、少し休んでろ……、玲人の援護行ってくるっ!」
「はいはい~、ちょっと座って『エール』送る事にするよ」
そして、コラキは雛子を中心に、コラキ、玲人、こたつを頂点とした、三角形のフォーメーションを崩し、何故か『氷の枝』が頻発している玲人の元に向かう。
「――玲人っ! 大丈夫かっ?」
「おぉぉぉぉ? ――大丈夫じゃねぇよっ! 何か、俺だけ――身体の中心狙いの『枝』が一杯来んだよっ! ――ほらぁっ!」
コラキが声を掛けると、玲人は足元から生えて来た『氷の枝』を避け、コラキに「助けて、いや、代わって」と言いながら、泣きつく。
「――おま……、いや、取り敢えず片付けるぞっ!」
「おぅっ!」
コラキは、小さく「『八咫』」と呟くと、錫杖を一振りし、『雪だるま』達を幻惑に掛ける。
「「「ぬぅぅぅぅぅ? 銭かっ!」」」
「――うっしゃっ! ――っどぁっ!」
幻惑に掛かり、足元の雪を拾い始める『雪だるま』達に、玲人が突進するが、その足元から再び『氷の枝』が生えて来る。
コラキは、その様子を一瞬、訝しんでいたが、すぐに気を取り直し――。
「スキルは使おうとするなっ! 『武器』だけでいけっ!」
「これは……、拙者のっっぜ――」
そう叫んで、目の前の一体を頭上から突き崩す。
「? おぅっ! せっいっ!」
「「豪遊じゃぁぁ――」」
そして、玲人が残り二体をバットで叩き潰すと――。
『――あ、終わりましたか?』
「お疲れ~」
カサカサと音を立てながら、こたつが、その天板に雛子を乗せてやって来た。
「おぅ、お疲れ……、ひっこ、脚……大丈夫か?」
「うんっ! レイちゃんが止血とかしてくれたし、こうして暫く運んでくれるってっ!」
「ありゃ? 皇、怪我したんか? どれ? 俺に見せてみろ……、こう見えても、俺は部……活ででででででっ! 冗談っ、コラキ、冗談だからっ!」
ペチンと、包帯を巻いた太ももを雛子が叩くと、玲人がその目を『への字』に曲げて近付く……が、その背後から現れたコラキが、その頭をガシッと掴む――。
「――はっはっは……、大丈夫……、俺も冗談だ……?」
「ちょ……、疑問形? ってててててっ! あ、ごめん……、ごめんって――」
『二人供……、じゃれてないで先行きますよぉ?』
――そして、四人は再び『クリスタル・ウッド』の中を進み始める……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――またソコ狙いか……よっ!」
「――よっ!」
コラキと、玲人が襲い来る『氷の枝』を砕いて道を開き、その跡を、雛子を乗せたこたつが通って行く。
「しっかし……、第二入って結構経つけど……、今、何時だ……?」
「――ちょっと待ってて~?」
コラキは、徐々に暗くなっていく空に焦りを感じながら呟くと、雛子は何やらこたつの天板を見つめたかと思えば、「有った」と天板を叩く。
「えっと……、今、五時……だね。――って事は、この空、一応、外とリンクしてるのかな……?」
『あ、結構時間経ってるんですね……?』
「――やっぱ、『枝』が多過ぎだよなぁ……」
雛子、こたつ、玲人が、コラキに続いて空を見上げ、口々に呟く。
そして、コラキは暫く空を見上げながら黙っていたが、やがて、大きくため息を吐くと、三人に向けて声を掛ける。
「どうする……? ――俺は、少なくとも、今日の内に次の階層に行った方が良いと思うけど……」
コラキに問い掛けられた三人は、その進行方向に迷う様子はないものの、思考はこの階層の何処かで一夜を過ごすか、それとも進んでから何とかするかで迷っていた。
「――俺……も、次行きたいかな……」
玲人は、足元から生えて来る『氷の枝』を砕きながら、そう答える。そして、次の回答バトンを渡すかのように、天板上の雛子を見る。
すると雛子は、「うーん」と首を傾げながら、自分の記憶を辿る様に、ポツポツと答え始める……。
「? 私……? そうだねぇ……、確か……、次は『北のうさぎ小屋』だったよね……? ――なら……、『雪うさぎ』の小屋を確保すれば……寝床は確保出来ると思うんだけど……?」
『? 『雪うさぎ』の小屋……ですか?』
「「何だそりゃ?」」
こたつ、玲人、コラキが、雛子の言葉に、首を傾げ返すと、雛子は両手の人差し指をこめかみに押し付けながら、「ちょっと待ってねぇ」と呟き、更に記憶を辿り始める――。
「――えっとね……、実家の仕事柄……って言うか、今企画中のツアー絡みで、色んな『異界化迷宮』の情報を見たんだけど……、確か……、『北のうさぎ小屋』って、外をうろつく『雪うさぎ』と、小屋を建ててくつろぐ『雪うさぎ』の二タイプが居る筈なんだよね……、で、小屋の中の『雪うさぎ』を何とかしちゃえば……、そこが安全圏になる……筈なんだよねぇ……」
「――筈……って……」
「でもまぁ……、その情報はありがたいな……」
玲人とコラキは、既に流れ作業になってしまった『枝砕き』を続けながら、「屋内で寝られるかも」と、頬を緩ませる。
『――私は、『雪だるま』を相手しないで良いなら……』
一方、こたつは今日一日で、『雪だるま』相手の(精神的な)面倒臭さから解放される事に喜んでいた。
そして、一行の結論は――。
「「「『じゃ、次の階層へっ!』」」」
――と、満場一致で決まり……。
「――おぉぼえてうぉれぇ~っ!」
その後、次の階層への入口を見つけ、その前に立ち塞がった『雪だるま』達を片付け――。
「――うわ……、思った以上に小屋だらけだな……」
――『第四階層:北のうさぎ小屋』に、足を踏み入れた……。




