第十一話:北の迷宮から!(3)
続きです、よろしくお願いいたします。
――『雪ダル地獄』。
日本最北の『異界化迷宮』であり、四層までが確認されており、その四層の探索も、少しずつ進んではいるが、未だに五層への入口や、進入方法が見つかっていない事もあり、五層の存在自体が疑われている。
そして、その確認済みの四層とは――。
――第一層:通称『ベーシック』……、世間一般でイメージされる様な、雪と炭と人参、そして、マフラーで出来た『雪だるま』達がうろついている。
――第二層:通称『クリスタル・ウッド』……、その名の通り、水晶の様に輝く森である。しかし、その幻想的な光景とは違って、第一層から引き続き現れる『雪だるま』や、突如足元から生えて来る『氷の樹』が、侵入者を拒む様に存在している。
――第三層:通称『北のうさぎ小屋』……、『異界小学校』の第一層が、『ウサギ型魔獣』がうろつく『ウサギ小屋』であるのに対して、こちらは『雪うさぎ型魔獣』がうろつく、ファンシーな階層である。――但し、『雪うさぎ』の危険度は『ウサギ小屋』の『魔獣』程低くはない。
――第四層:通称『ユキンニク教団』……、この階層に和みは無く、ただただ不快な光景が広がっている……。
――第五層以降:到達報告は無し。
そんな白い迷宮の入口である、『氷島』に設置された港では今、『冒険者養成学校』の三年生達、各企業や大学からの見学者達が、船からゾロゾロと上陸し始めていた。
「うっわぁ……いよいよだねぇ……」
「おぅ……」
そんな混雑の中、雛子とコラキは、船と桟橋の間に掛けられたタラップを歩きながら、『氷島』から見える『雪ダル地獄』の入口を眺めていた。
『雪ダル地獄』の入口は、朝日を反射し、玉虫色に輝き、不気味な雰囲気を醸し出している。
「しっかしまぁ……、お前ら良いよなぁ……、就職、自分ちだろ……?」
雛子とコラキが、ゴクリと息を呑むと、二人の後ろから玲人がため息混じりに、そんな事を呟いた。
玲人は、緊張しているせいか腹を押さえており、頭部からの白光も弱々しくなっている。
「いや……、私の所も、コラキちゃんと所も、ここでアピールしないと、新規のお客様ゲットが遠のくからねぇ……、これでも大変なんだよ?」
「そうそう……、怖い目が見てんだよ……」
雛子はガックリと肩を落とし、コラキは未だ船上にいる美空を見て、ほぼ同時にため息を吐く――。
そんな二人に、玲人は「お前らも大変なんだな……」と呟くと、無言でチラリと隣のこたつを見て、もう一言呟く――。
「――頑張んなきゃな……」
『?』
――そして、四人は、『雪ダル地獄』へと足を踏み入れた……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あれ? 他の皆……いないねぇ?」
――『班ごとに手を繋いで』との説明通りにして、コラキ達が玉虫色の入口に足を踏み入ると、周辺にはコラキ達四人以外、どの班も居なかった。
雛子の言葉でその事に気が付いたらしく、玲人は右手を額にかざし、キョロキョロと探る様な仕草を取り、口を開く――。
「本当だ……、結構居たのにな……」
『えっと……、確か次元がズレる説とか、実は入ったパーティ毎に階層が違う説とか、実は精神世界だ説とか有りますけど……』
「――要は分かってないって事か……」
――こたつが天板に、情報を表示すると、コラキと玲人がそれぞれ、「へぇ」、「ほぉ」と唸りながら、興味深そうに頷く、そして、天板の文字をスクロールさせ、他の学説を面白がっていると、雛子が――。
「取り敢えず……進も?」
――と、苦笑しながら先を指差す。
そして――。
『――前方、敵五体ですっ!』
「分かったっ! ひっこ、頼む!」
「あいあ~いっ! 『エール』!」
こたつの天板がチカチカと、赤く点滅し、警告の文字を表示させると、雛子がその手に鈴付きのボンボンを持ち、小躍りしながら振り回す。
「――っしっ! まずは俺から――『抜刀』っ!」
リンリンと鳴り響く鈴の音と共に、音符が玲人、コラキ、こたつを取り囲む。すると、溢れ出る力を感じ取った玲人が、背中からバットを取り出し、スキルを発動する――。
「――……あれ?」
――しかし、玲人のバットは黒く光りはするものの、それ以降、うんともすんともせず、玲人はその頭を傾げる。
「――馬鹿っ! お前、『ジョブ』と一緒に『スキル』も変わったんだろ? ――俺が時間稼ぐから、『生徒手帳』か『ギルドカード』確認しとけっ!」
コラキは錫杖を振り回し、スキルを発動すると、前方目がけて駆け出す――。
「「「「「――その意気やよしっ!」」」」」
「喋ったっ?」
――コラキの視線の先では、五体の『雪だるま』が、その顔の炭を器用に動かし、ニヒルな表情を作り出している。
そして、ほぼ同時に武人の様な雰囲気を醸し出して、声を上げる。
雛子、玲人、こたつはその様子に驚いていたが、コラキはその足を止めず、『雪だるま』を目がけて錫杖を横一閃に振り抜く。
「――喋る『魔獣』位いんだろっ! ボケっとすんなっ!」
「えぇ……? そんなの聞いた事…………あ、『音楽室』とかそうだっけ……?」
雛子は、コラキと会話しながら、ボンボンを振り続け、足を振り上げ、必死に『エール』を発動し続けている。
そして、そうこうしている内に、コラキが『雪だるま』に取り囲まれる――。
「「「「「互いに恨みっこなしっ! 正々堂々と勝負だっ!」」」」」
「ペペペペペペペペペペペペ『ペイント・ブラウン』、ロロロロロロロロロロロロロロ『ロック・ストライク』ゥゥゥゥゥ!」
――しかし、そんな『雪だるま』達目がけて、茶色い岩が転がっていく。
「「「「「むむっ! 二人がかりとは卑怯なりっ!」」」」」
「――どの口がほざきやがるっ! 『性残想』!」
『雪だるま』達が、岩を避け、悔しそうに叫ぶと、そこに『スキル』の確認を終えたらしい玲人が、黒く輝くバットを振る。
「――ぬぐぁっ! こ、この……ウラミ……、死して……忘れて……なる……モノ……かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
バットから放たれた、三連の斬撃は、岩を避けて体勢を崩した『雪だるま』の一匹を、見事に斬り伏せる。
「「「「――ぬぅ……、見事なりっ!」」」」
「ひぃ……、ヒィ……、コラキちゃぁん……、そろそろ限界ぃぃ……」
『雪だるま』達が、融けていく仲間を一瞥し、玲人を睨み付けると同時、雛子が汗だくで限界だと告げる。
「ペペペペペペペペペペペペ『ペイント・イエロー』……ササササササササ『サウンド・ウェイブ』ゥゥゥゥゥゥ!」
「「「「ぐぁぁっ! 強力な攻撃をするとは……卑怯なりぃぃ!」」」」
コタツからの音波は『雪だるま』達の身体を外側から削っていき、その動きを止める――。
「――俺……、もう、こいつ等の相手したくねぇ……」
コラキは、錫杖を振り、牽制しながらボソリと呟く――。
しかし、そんなコラキとは逆に――。
「ふ……ふふふ……、この口だけ達磨共がっ! 『性・龍・斬』っ!」
――相手が弱い事で今までの緊張が解けたのか、玲人が新しく覚えた『スキル』を放ち、黒く輝くバットから、白い、龍の様な斬撃を解き放つ……。
「『――キャッ!』」
『――ゲヘェェェェェェェェェェェェェェェェェッ!』
バットから放たれた『龍』は、その両の眼を『へ』の字にして、こたつ、雛子の周囲をグルリと周ると、その咢を大きく開き、『雪だるま』達を飲み込んでいく。
「「「「ぬぁぁぁっ! た、例え……我等が朽ちようと……、我が同輩は……常に……、お前らを見て……グァァァァッ!」」」」
そして、『雪だるま』達は怨嗟の声を上げ、斬撃に飲まれながら、ドロドロと融けていった――。
「フッ……、決まったぜっ!」
――融け切った『雪だるま』達を見届け、玲人はやり遂げた顔でバットを背中のケースに仕舞う。
「――後味悪ぅ……」
『――あ、ニンジンゲットですよ?』
しかし、雛子とこたつは、何とも得言えない後味の悪さから目を逸らし、『雪だるま』が落としたニンジンを摘み上げていた。
「――もうちょっと……ちやほやしてくれよ……」
「玲人……、俺は……うん、格好良かった様な気がするぞ……? うん……、お疲れさん……」
そして、四人は先へと進み始める――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ペペペペペペペペペペペペ『ペイント・ホワイト』……!」
「おぉ……、温かい……、温かいわぁ……」
スポンッ、スポンッと言う音と共に、コタツの中から『冒険者養成学校』の制服を着た、金髪ロングのウェーブヘアー少女、レイが現れる――。
「――っ! あ、あれ? こたつさんは? 俺の……こたつさんは?」
「――えっ? 玲人……、お前……そこまで……?」
――最初の戦闘から、暫く進み、数度の戦闘を終えた後、次の階層の入口を見つけたコラキ達は、その入口がある洞窟で、こたつの武器『ホワイト・ハウス』の『ペイント・ホワイト』を展開し休憩していた。
そして、虚ろな目でこたつを探し続ける玲人に、コラキが涙していると、不意に雛子が呟く――。
「――そう言えば……、梧桐君……、悪いけど、新しい『スキル』……なんかいや……」
「ああああああああの龍……めめめめめめめめ目が……、ススススススススケベです……」
籠に乗っていたミカンを掴みながら、雛子はジト目で、レイは少しいじけた様子で、玲人の『スキル』について苦情を入れる――。
すると、こたつを探していた玲人は、「はぁ」とため息を吐くと、コタツに足を突っ込み、ミカンを手に取る。
「いや……、そうは言うけどよ……、あれ、元々は別の誰かの『スキル』……だろ? ――俺に言ってもしゃあねぇべ? なぁ? コラキ」
「…………………………」
――そしてポイッと一房を口に放り込んで弁解し、コラキに同意を求めるが……、コラキは何も言わず、黙って視線を逸らす。
「? コラキ……? お~い、何かフォローしてくれよぉ?」
「…………………………」
コラキは逸らした視線の先に降り積もる雪を眺めながら、「何か違うんだよなぁ……」と、玲人の『スキル』状態に頭を傾げ、お茶を啜る――。
――そして、最終的に「ピンチになるまでは『龍』は控える」様にと、女性陣と玲人の間で契約が交わされ、四人は次の『第二階層:クリスタル・ウッド』へと足を踏み入れた……。




