第十話:北の迷宮から!(2)
続きです、よろしくお願いいたします。
「いんやぁ……、ありがとねぇ?」
――コタツカフェから出たコラキ達は、銀髪の少女から涙ながらに礼を言われていた。
少女――『トキワ・コーラ』は、一緒に行動していた連れがいたらしいのだが、とある事情でその連れと別行動しなくてはならなくなり、この『コタツ博物館』で人を待っていたらしいのだが……。
「にゃっはぁ……、そいで用事が終わったから、一服一服ぅ――って余裕ブッコイたのがマズかったぁん……」
トキワは、ガックリと項垂れると、スカートを摘み上げ、バッサバッサとスカートをはためかせる。
「――おぉ?」
「――で、気が付いたらお財布が無いんだよぉ……」
頭部から白光を放つ玲人にウィンクすると、トキワはスカートのポケットを裏返し、そこに何も無い事をアピールする。
「まぁ、困った時は、お互い様だよっ! ――ね? コラキちゃんっ?」
「ん? あぁ……、そうだな?」
コラキは、雛子の言葉に同意しつつも、首を傾げてトキワを見る。
「――なぁ……」
そして、コラキが何かを言い掛けると、ピコンッと言う音と共に、こたつが天板に文字を表示させる――。
『――トキワさん……、何処かでミィと会った事ありませんか?』
「ん? う~ん? 流石に……、コタツと知り合いはいないかにゃぁ……?」
こたつの問いに、トキワは気まずそうにそう言うと、再度頭を下げる。
「ま、何にしても、助かったよんっ? ――お金はちゃんと返すから、連絡先聞いても良いかにゃ?」
「ん? よいよっ?」
どうやら、今すぐは無理だが、近々収入が有るらしく、コラキ達は『冒険者養成学校』の場所と、コラキの『天鳥探偵事務所』の住所、雛子の『皇ツアーズ』の住所を教える事にした。
「フンフン……、コラキ君に、雛子ちゃん、玲人君に、レイちゃんだね? ――んにゃ、覚えたよんっ!」
「まあ、返せる時に返してくれりゃ良いさ」
「――コラキちゃん……、お土産代くらいは貸したげるからね……?」
『ん~? どこかで……?』
「お礼はから――」
そして、コラキ達は玲人を締め上げると、トキワに別れを告げ、『コタツ博物館』から去って行った――。
残されたトキワは、その手を振り続け、コラキ達の背中を見送りながら、ポツリと呟く……。
「んにゃぁ……、アレが、こっちの『冒険者養成学校』の生徒かぁ……、何かヌルイ感じだにゃぁ……? まぁ、それでも――」
トキワはコラキ達の姿が殆ど点にしか見えなくなっても、手だけは振り続けていた。しかし、その表情は何時の間にか、ニコニコとした微笑から、ニヤリとした冷笑へと変わっており、そして――。
「――どこにでも猫を被ってる奴……この場合はタヌキかにゃ? まあ、そんな奴って、居るんだにゃぁ?」
――そう呟いた後、トキワはその場から姿を消してしまった……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
トキワと別れたコラキ達四人は、その後、観光しながら翌日に控えた『迷宮探索』用の準備を整えていた。
「――いやぁ……、人形みたいな美人さんって初めて見たぜ……」
そして、現在はホテルに戻り、ロビーで雑談を交わしていたのだが、話題がトキワについてとなった時、玲人は鼻の穴を膨らませて興奮気味にそう語った。
「んはっ、梧桐君はいつも初めてだねぇ……」
雛子は外の風で乱れたコラキの髪を、手櫛で梳きながら苦笑する。
すると、コラキはそんな雛子を見上げると、呆れ顔で玲人を指差し、口を開く。
「ひっこ……、こう言うのは、節操ないっつうんだよ……」
「――なっ! 人聞きの悪い事を言うなよっ! 俺はっ、全方向に恋してるだけだっつぅのっ!」
『――あはは……、ま、まあ、一種の博愛だと思えば……うん……、有り……かなぁ?』
コラキが玲人の、白く輝く頭に人差し指を押し付け始めると、玲人の隣に座るこたつが、ピコピコと音を立てて、社交辞令的にフォロー文を表示させる。
そして、コラキと玲人の間で口論が始まり――。
「ほらっ! レイさんだって、こう言ってくれてんじゃんっ!」
「いや、お前、どう考えても社交辞令じゃねぇかっ!」
「いやいや、男は多少強引な方が良いんだって、――なっ、皇だって、少しは積極的なコラキが見てえだろ?」
「んっ? ……………………黙秘します……」
――そして、ギャアギャアとコラキ達が騒いでいる内に、時間は過ぎていき……。
「――今日はこんな所か……、コラキ、お前……やるじゃん……」
「フッ……、玲人、お前もな――ってなるかっ! アホっ! お蔭で送れたじゃねぇかっ!」
『あ、あの……お二人供……、静かにしないと、また怒られますよ……?』
「そうそう……、何で、二人に巻き込まれて、私達まで……」
四人は、夕食の集合時間に遅れ、何故か、輪になって夕食を食べる引率教師達に囲まれての夕食となっていた。
「はっはっは、気にすんな皇、連帯責任、連帯責任っ!」
「え~……、先生、勘弁して下さいよぉ……」
「この円陣……、何か意味あるんスか……?」
主任教師が、麦汁を飲みながら喋ると、雛子とコラキは揃って不満気な表情になる。――すると、三年生の各クラス担任から口々に声を上げ始める。
「そら、お前……、俺らだって、青春の空気を懐かしみたいんだよっ!」
「――婚活の寂しさを知らない……、そんな時代が、私にも有ったんだなって……、感じたいのよっ!」
「オレは早く、家に帰りてぇ……」
――特に、独り身で酒量の多い教師達には、色々と思う所がある様で、遅刻の罰――と言うよりは、その殆どが日頃の鬱憤や、やっかみに近い様であった。
そして、そんな教師達が作り上げた怨陣と、その中央に座すコラキ達四人を他の生徒達は「触らぬ神に――」とばかりに目に入れようとせず、箸を進めていた。すると――。
「ん……、あ、ああ……、パネ……、お前ら……そろそろ明日の予定、言っとくぞぉ?」
――僅かに顔を赤らめた、三年S組の担任――『幸 敏行』が、マイクを手に取って食堂の前方に立ち、生徒達に向けて声を掛け始めた。
「――明日から二日間、お前らお待ちかねの……、『雪ダル地獄』での『迷宮探索』だぁ……、はい、盛り上がっていこう……、って訳で、事前に渡したプリントをよく読んで、明日の朝、六時にロビーに集合だぁ……、遅れんなぁ……って事で、各自解散っ!」
幸が手をパンパンッと叩くと、食事を終えた生徒達は、殆どが班ごとにまとまって食堂を後にし始める。
そして、その流れに乗って、コラキ達四人も怨陣から抜け出す事に成功し、再びロビーのソファに腰掛ける。
「――何だったんだ……あの羞恥プレイ……」
「あはは……、社員旅行のお世話とかしてると良く見るよ……」
「俺……、先生の視線で、何かゾクゾクし始めたんだけど……」
『――ソレは……、風邪じゃないですか? お薬、飲みますか? 出しますよ?』
「え? い、いやっ、冗談ッス!」
四人は少しだけ落ち着いて来ると、コラキの提案で明日の予定――『雪ダル地獄探索』について、事前に分かっている情報を確認して、その日は解散する事にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして翌日――。
「うわ……、綺麗……」
雛子は、甲板に設置された柵に手を置き、コラキに支えられながら、その身を乗り出していた。
「――ひっこ……、危ねぇぞ?」
「う~ん? ちゃんと、持っててよ?」
現在朝六時半……、コラキ達『冒険者養成学校』の三年生達はホテルから出ている『氷島』への直行船の上に居た。
船は出発してから三十分間、海の上を滑る様に進んで行き、船上から見える『氷島』は、既にハッキリとその姿をコラキ達の前に出現させていた。
「アレが……『雪ダル地獄』……」
『その入口ですよ? 玲人君……』
生徒達は、それぞれが、初めて挑む『雪ダル地獄』に……、初心者向けの『異界小学校』では無く、かなりの危険が伴う『異界化迷宮』に……、そして何より……、『ファルマ・コピオス』を始めとした、自分達の将来を握る、企業から来た見学者達の視線に緊張しながら、『氷島』を見つめていた……。




