第九話:北の迷宮から!(1)
続きです、よろしくお願いいたします。
――空港の到着ロビーの手荷物受取所では、到着したばかりの飛行機から降りて来たブレザー姿の少年少女達が、ざわざわざわとお喋りをしながら、自分達の手荷物が出て来るのを待っている。
「く、首痛え……」
そんな少年少女達の一員である、褐色肌のツリ目少年――『天鳥コラキ』は、右手を首の左側に当て、揉み解しながら疲れた表情を浮かべていた。
「んっ、あぁっ! 良く寝たぜ……」
そんなコラキの横に立つ、坊主頭でスケベ顔の少年――『梧桐玲人』は、両腕を思いっ切り空に向けて突き上げ、欠伸まじりに背伸びをし、その頭から淡い白光を溢れさせる。
「私はお尻が痛いよ……、何か良い『スキル』持ってない? レイちゃん……」
そして、コラキ、玲人のすぐ後ろでは、二人の少女が立っており、その内の一人、赤みがかったショートの茶髪をツーサイドアップに纏めた小柄な少女――『皇雛子』は、自らのお尻を揉み解しながら、隣の少女、いや、コタツに声を掛ける。
『――ミィは、『ホワイト・ハウス』を取り上げられて、生きた心地がしなかったです……』
声を掛けられた、白いコタツ――『レイ・ハーン』は、コタツの天板に「ウヘェ」と言いたげな顔文字を表示させると、雛子に『そんな『スキル』は持ってないです』と、謝罪文を表示させ、上下に揺れる。
現在、コラキ達『冒険者養成学校』の三年生は、修学旅行の最中である。
――『幻想商店街』がある街から、バスで最寄りの空港まで約一時間、そこから飛行機に乗って一時間、乗り継ぎの飛行機で約二時間、更に乗り継ぎの飛行機で約一時間、最後にバスで約三十分、その他乗り継ぎ間の待ち時間も含めて、総計約九時間三十分程かけた結果……。
「いたた……って、あっ! コラキちゃん、コラキちゃん、アレ……、そうだよね? ね?」
「ん? 何だ……って……、ああ、そうか……、多分、そうだな……」
「ありゃ、夫婦揃ってどしたん?」
『アレが……、日本最北の迷宮…………』
――彼等『冒険者養成学校』の三年生は、日本最北の『異界化迷宮』、通称『雪ダル地獄』が存在する氷の島――が見える、『氷島前空港』に到着していた。
四人が、到着ロビーの窓から見える青白い島を見て、静かに感激していると、手荷物受取所に、今回の修学旅行の引率教師が現れる。
「――チィっす! おめーら、自分の荷物は受け取ったか? 受け取ったら、ここから出て直ぐの広場に集まれ~?」
教師の指示を聞いた生徒達は、それぞれ手元の荷物を再確認すると、手荷物受取所から出ていき、指定された広場へと向かう。
「――じゃ、俺らも行くか……?」
「ほいよ、コラキちゃん」
そして、コラキ達四人も、その流れに乗って広場を目指す――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おぅ、全員揃ったか? ――一応、各班の班長は点呼して報告しろよぉ?」
――広場に生徒達が集まり始めて約五分、教師は集まった生徒の数を、途中までは数えていたらしいが、やがて面倒臭くなったらしく、そう言って各班に委ねた。
各班の班長から、点呼の結果を伝えられた教師は名簿の人数と、各班から申告された人数が合っている事を確認すると、口の周りを手の平で覆い、大声で話し始める。
「――良いか? これから、今日の宿泊先に向かう……つっても、空港の目と鼻の先だ、万が一はぐれても迷うこたぁないから、安心しろぉ?」
そして、『冒険者養成学校』の生徒達は、教師の後に続いて、空港前のホテルへと進んで行く。
「寒っ!」
空港から一歩出ると、その風の冷たさに、思わずと言った感じで、玲人がその頭を両手で抑える。
『? そうですか? レージさんは寒がり何ですね?』
「ふひゃっ? あ、そ、そーなんですよっ! レイさんッ!」
そんな玲人の挙動が可笑しかったのか、こたつは笑顔の顔文字を表示させながら、そんなテキストを天板に表示させ、それを受けた玲人が更に挙動不審となる。
「――いや、ハーンさんはそうだろうけど……」
「まぁまぁ、よいと思うよ? コラキちゃん」
そんな二人を、何とも言えない表情で見ていると、雛子が訳知り顔で「うんうん」と頷きながら、コラキの髪を両手でまさぐる――。
「ん~、寒いけど五十度っ! ――さ、早くホテルに入ろう?」
雛子はそう言って、すっかり暗くなって来た空と、そんな中で明るく光るホテルを指差すと、コラキの手を引っ張り、突き進む。
「じゃ、じゃあ、俺達もイきましょうかっ? レイさんっ!」
『? そうですね』
コラキ達が、仲良く手を繋いでホテルに向かう姿を見て、玲人もまたこたつに手を差し伸べるが、こたつはそんな玲人の心中を察する事無く、その手を通過し、カサカサと一人、ホテルに向かう。
――そして、玲人の攻撃が躱されてから数分後……。
「んじゃ、今日はもう遅ぇから、夕食後は交代で風呂入って、寝ろ~? 間違っても、異性の部屋に行くんじゃねぇぞ? じゃあ、夕食の時間まで解散っ!」
引率教師の指示で、生徒達は取り敢えず解散の運びとなり、多くの生徒が、割り当てられた部屋へと向かう中、コラキ、玲人、雛子、レイの四人はロビーのソファに腰掛け、今後の予定を確認し合っていた……。
「今日は、移動だけだろ? んで、明日は……あれ? 自由時間だっけか?」
「うん、そうだよ~?」
コラキがA三のプリントを広げて確認すると、コラキの隣に座る雛子が、手帳を広げてコラキに、日程が合っている事を伝え、「正解~♪」と、コラキの髪をワシャる。
そんな二人の向かい側では――。
「レ、レイさんっ! ――もし、良かったら明日の自由時間、一緒に『コタツ博物館』に行きませんかっ?」
『――っ! そんな素敵な場所があるんですかっ? ――是非っ! 皆で行きましょうっ!』
――玲人とこたつによる、そんな会話が行われ、何故か四人で『コタツ博物館』なる場所を訪れる事になった……。
その後、予定確認と、ちょっとした雑談を終えた四人は、他の生徒達からは少し遅れて、コラキは玲人と、雛子はこたつと、それぞれ相部屋となり、四人は男女別に割り当てられた部屋へと向かった。
そして、そのまま夕食も終了し、入浴時間となった時――。
「ふぅ……、コラキ……、ちょっと覗かねぇ?」
――玲人は部屋の窓から見える、夜の『氷島』を見つめながら、そう呟いた。
「――おま……、何でそんな格好良く格好悪い事言えんだ……?」
「フン……知れたこと……、それは俺が……、俺が『漢』だからだ!」
呆れ顔のコラキに、玲人は「フッ」とニヒルな笑みを浮かべ、その頭を白光で輝かせながら、その質問に答えた――。
「――お、おぉ……、これで目的が『覗き』じゃなかったら……、俺も素直に「おぅっ!」って、言えるんだけどな……」
コラキが更に呆れてそう呟くと、玲人は――。
「――皇も……いる……かもよ?」
――エサを投げるっ!
しかし、そのエサは、コラキにとってはNGであったらしく……。
「よしっ、表出ろっ!」
「――フンっ! 偽善者めっ! お前だって見てぇんだろぉがよぉっ!」
「「――くたばれっ!」」
その後、二人は入浴時間が過ぎ去り、消灯時間が過ぎ去り、朝が来るまで一晩中、殴り合い続けていた――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――明けて翌日……。
「――どったの?」
「ああ……、ちょっとな……」
『大丈夫ですか? ――今日はホテルにいますか……?』
「い、いえっ、大丈夫ですっ!」
目の下にくまを作ったコラキと玲人に、雛子とこたつが驚き、心配そうに尋ねる。――理由が理由だけに、「大丈夫」としか言えないコラキと玲人は、朝方までの争いが無かったかの様に、「理由は内緒」と言うアイコンタクトを成功させる。
そんな四人は、大中小、色とりどりのコタツに囲まれた博物館へと立ち寄り、(主にこたつが)楽しみ、はしゃぎ、そのまま昼食を取るために博物館内の食堂へと足を運ぶ――。
「おぉ……、コタツカフェ?」
「メニューは……、鍋コーヒーとか、鍋サンドウィッチ……? ――『鍋』って付けば良いと思ってるっぽいねぇ♪」
コラキと雛子は、一つのメニュー表を覗き合いながら、何を注文しようかとはしゃいでいる。
「――よし……、俺だって……」
そして、玲人は、そんなコラキ達の様子を見て、何かを決意すると、隣で白い足を出してカフェのコタツに足を突っ込むこたつを見ながら、スッとメニュー表を差し出す。
「な、中々美味しそうですよね?」
『――ジー……カタカタ……。――あ、本当だ、美味しそう』
「そっ、そうですよね!」
そして、注文を終えた四人が、それぞれ隣同士で話に花を咲かせていると――。
「んにゃっ? 財布がにゃぃぃぃぃっ?」
――隣で叫び声が上がる。
「「「『ん?』」」」
そこには――。
「ち、違うんだよぉん? けして、決して……、食い逃げじゃにゃいんだぁ……。だからぁ、店員さん……そんな怖い顔しちゃやぁん……」
――コタツから出した生足であぐらを組み、涙を浮かべて店員と対峙する、猫の様な雰囲気の銀髪少女が居た……。




