第七話:燃えよ!(3)
続きです、よろしくお願いいたします。
「おはようございますっ!」
――早朝の『二鷹荘』、『天鳥家』の玄関口に少年の声が響く。
「はいはい……、今出るで――」
「――いらっしゃいなのっ!」
欠伸まじりにイグルが自室から出ると、その前を横切って既に制服に着替えたペリが、ダダダッと、短い廊下を駆け抜けて行く――。
「――ふぉぁ?」
――時間は七時、普段ならば……いや、コラキがいない今であれば、ペリは制服に着替える所か、布団の中で二度寝を開始する時間である。
「良く来たのっ♪」
「あ、ペリさん、朝早くにすいません……、何時に来たら良いか聞きそびれてしまったので……、もう制服に着替えてるなんて……、しっかりしてるんですね? ――僕なんか、普段はまだ二度寝しようかって時間ですよ……」
「いやいや、この位、当然なのっ!」
少年――涼斗は、「申し訳ありません」と、何度も頭を下げながらペリに謝ると、その手に持っていた買い物袋をペリに差し出す。
ペリは、その買い物袋の中身、涼斗が「作って貰うばかりは心苦しい」と、用意して来た食材を受け取ると、そのまま涼斗を居間へと案内し――。
「ちょっと、イグルを呼んで来るの」
と言って、未だにあんぐりと口を開けている、イグルの部屋へと入っていく。
「ん? イグル、どうしたの?」
「い、いえ……、ペリが、早起き過ぎて……、驚いてたです……」
「ふっふんっ! 私の依頼人だから、ちゃんと責任持つのっ!」
――そして、ペリ、イグル、涼斗の三人は、『ダイエット作戦』二日目、朝の部を開始する……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――朝はしっかりとっ!」
「はいっ! ――思えば……、朝食はゼリーの奴とかが多かった気がします……」
「あぁ、あんまり良くないらしいですね……」
そんな感じで、ダイエット関係無しに食事を行っていたのだが、話はやがて、涼斗の『ジョブ』と『スキル』についてに変わっていく。
「――ダイエット開始したからなのか、食事を気にしだしたからか分から無いんですが、今朝から何となく制御が出来る様になって来てて」
「ん~、『スキル』は結構、ノリとか、勢いとか、意識の変化とかで変わるですからね~」
「――それで? どうなったの?」
イグルとペリの興味を引いたのが嬉しかったのか、涼斗は少し顔を赤らめながら、両腕を前に突き出し、両手の平を、向き合う様な、何かを包み込む様な形にすると、スキルを発動する――。
「――『六味』……、『甘味』!」
――すると、涼斗の手の平と、手の平の間の空間から、ピンク色の気体がモワモワと現れる。
「これっ! い、良い匂いです……」
「もしかして……、味を変えられるの?」
「はい、多分……、昨日、イグルさんが「口に入れたくない」って言ってたのが、何となく頭の中に残ってて……」
涼斗がそう言うと、ペリは「ふーん」と呟きながら、その気体をすくい取り、口に運ぶ――。
「――ほぉぉぉぉぁっ?」
カッと大きく目を見開いたペリは、そのまま硬直する――。
「えっ? あの……、ペリ……さん?」
「ど、どうしたです?」
――ペリは、二人に声を掛けられて、漸く意識を取り戻すと、涼斗の肩を強く掴み、目を血走らせて、興奮気味に口を開く。
「こ、これ……、他の味は? で、出来るの?」
「は、はい……、何となく、組み合わせとか……直感的には出来そうな気がするんですけど、まだ……」
申し訳無さそうな顔で涼斗が告げると、ペリはガックリと肩を落とす。
「……そんなに美味しいです……?」
「――良い砂糖を使った綿菓子って感じだったの……」
「あはは……、取り敢えず、組み合わせで再現出来る味は、コツコツ研究していきますよ……、取り敢えずは、リンゴとか、イチゴとか、後は、桃とかで再現出来ないか、試してみます」
そんな話をしている内に、時間は過ぎていき――。
「あ、そろそろ行かないと……」
「あぁ、そっか、ここから結構距離あるですよね?」
イグルが、人差し指を顎に当て、考える様な仕草をしながら呟くと――。
「じゃあ、麓までは一緒に登校するのっ!」
――そう、ペリが提案し、三人は『冒険者養成学校』のある『砦が丘』の麓までは、進む方向が同じだと言う事で、一緒に登校する事に……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして、『砦が丘』の麓に着くと――。
「じゃあ、僕はここからは自転車なので……」
「はいはい、また後でです」
「お昼、連絡するのっ!」
「はいっ、じゃあ、また後でっ!」
――そう言うと、涼斗は自転車に跨り、自身が通う高校に向けて出発した。
そして、残されたペリとイグルは……。
「――ペリ……、何時までも手を振ってないで、もう行くですよ?」
「ん~……、まだ見えるの、ちゃんと責任持って、依頼を遂行するの……」
「ペリ……、ソレは……依頼の範囲外です……」
呆れた様な表情を浮かべたイグルは、そのままブンブンと手を振り続けるペリの襟を掴み、引き摺る様に『砦が丘』の坂を上り始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「じゃあ、智咲先輩……、何時もの様にお願いするですっ!」
「はい……確かにっ! じゃあ、行くよっ、ペリちゃん……って……、ちゃんとしてるっ?」
校舎の下駄箱に辿り着いたペリとイグルを待っていた、ペリの同級生――『影平智咲』は、コラキ達が居ない、この数日間の恒例となったペリの引き渡し現場で、いつもならダラッとした格好のペリが、優等生よろしく、制服をキッチリと着こなしている姿に驚いていたが……。
「――まあ、これはこれで……グヘへ……」
そう呟くと、ペリの手を引いて教室へと駆けていった。
「うーん……?」
ペリと智咲を見送ったイグルは、首を傾げつつ、自らもまた、同級生達が待つであろう教室を目指して歩き出した。
そして、昼休み――。
「………………」
「ん? どうしたの、ペリちゃん?」
チラチラと携帯を見ながら、食事が進んでいない様子のペリに、智咲は体調でも悪いのかと心配そうな表情で、ペリの額に自身の額をくっつける。
「ほぁ? いや、依頼人からの連絡を待ってるの……」
「依頼人……? そっかぁ……、学校来てまで大変だねぇ……?」
「ま、まぁ……、私の依頼人だから、ちゃんと責任を持つのっ!」
「おぉ……、何と頑張り屋さんな……、ほれ、ウィンナー食べる?」
智咲が「あーん……ハァハァ……」と、箸でウィンナーをつまんで、ペリの口に運ぼうとすると、ペリも「あーん」と口を開ける。
その時――。
「――っ! はいなのっ!」
ペリの携帯電話から、ピリリと言う着信音が鳴り響いたかと思えば、ペリは勢いよくバッと、携帯電話を手に取ると、その勢いのまま通話ボタンを押し、智咲に「ごめんなの」と告げて、席を立ってしまう……。
そして、息を荒げて差し出された智咲のウィンナーが空を切り――。
「――このウィンナーの行方は……?」
――智咲の嘆きを他所に、ペリはその昼休みの大半を、電話に費やしていた。
そんな『ダイエット作戦』の依頼も、あっという間に二日が過ぎていき――。
「えっと……、何て言うか……」
イグルは『天鳥探偵事務所』に訪れた涼斗を見て……、正確には、涼斗が乗った体重計を見て、その頬をヒクヒクと引き攣らせていた……。
そこに表示されている数値は、『ダイエット作戦』開始前と比べると、『プラス五キロ』……、あからさまな失敗であった……。
「あ、あはは……、まあ、仕方ないですよ……」
涼斗は、ソファに座り込んで、しょぼくれるペリと、目の前で頬を引き攣らせているイグルをチラリと見ると、「気にしないで下さい」と言って封筒を差し出す。
「これは……?」
「今日までの依頼料です」
「えっ? で、でも……失敗したですし……」
「そうなのっ……、貰えないの……」
驚くイグルとペリに向けて、涼斗は微笑み、首を横に振る。
「いえ、元々依頼は『手伝って下さい』なので、成否は関係ないと思います……期間も短かったですし……、それに……、僕のスキルも制御出来る様になって、将来の可能性も広がりました、総合的にはこれじゃ、足りない気もしてるんです……」
涼斗はそう言うと、「それに……」と続ける……。
「その……、お恥ずかしい話なんですが、僕がダイエットしてると知った、例の好きな人が……あの時の発言は、そんなに悪い意味では無いって言ってくれて、もし気にしての事ならダイエットは止めて……と……」
――『ダイエット作戦』の切欠となった、涼斗の好きな人の言葉は、涼斗を親しく感じた上での友人としてのからかいであったらしく、今日の昼に謝罪を受け取ったらしい……。
「健康の為にも、ダイエット自体は続けるつもりですが……」
「うん……、まあ、そう言う……事なら……仕方……ない……の……」
ソファ上のペリは、体育座りのまま、涼斗の顔を見ずにそう言うと、そのまま手を上げ、ヒラヒラと涼斗に向けて手を振る。
「――ダイエット……続けるなら……、偶には遊びに来るの」
「――っ! はいっ、是非っ!」
――そう答えて、涼斗は満面の笑顔で事務所を去っていった……。
事務所の玄関から涼斗を見送ったイグルは、そのまま、プクッと頬を膨らませて、ペリに近付き、口を開く――。
「もうっ! ペリ、お客様が帰るとき位、ちゃんと顔見せて見送るですっ! 全く……、「責任を持つ」宣言はどこ行ったです……か……?」
――そこで、ペリの顔を見たイグルは、ギョッとして固まる。
「ペ……リ……? どうしたです……?」
何とも言えない、複雑な表情をしたペリに、イグルは戸惑い、どうしたのかと声を掛けるが、ペリはそのまま、ボーっとして――。
「? 分かんないの……」
――そう言うと、再び膝を抱え始めた。
そして、イグルは、そんなペリに何か声を掛けようと、手を伸ばすが……。
「今帰ったぞぉ……」
「ペ――って、コラキ? もう帰ったです……って、ボロボロじゃないですかっ! ど、どうしたです……?」
――ボロボロになり、あちこち傷だらけで帰宅したコラキに驚き、そのまま、この件はウヤムヤになってしまった……。
――――『ダイエットを手伝って!』End――――
因みに、彼は再登場予定です。
コラキ達については、IMを挟んでからになります。




