表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
プロローグ:学費を稼げ!
4/102

第四話:インターミッション(1)

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――コラキ達が去った後のスーパー跡地……。


 ペリによる大破壊の痕跡が残る駐車場を、三人の男が歩いている。


 三人の内、一人は欧米風の顔立ちであり、短い金髪を逆立て、黒いティーシャツにジーンズ姿、パッと見では、好青年に見える。


 もう一人は、見た目は特徴の無い、日本人らしき容貌に、細い目を薄く開け、黒の執事服をぴっちりと着こなしている。


 そして、最後の一人、金髪と黒髪に挟まれた男性は、見た目初老と言った感じで、髪を茶色に染めており、スーツの上に白衣を着込んでいる。


 三人は、破壊の爪跡が最も激しくなっている場所まで来ると、何事かを話し合い、やがて、金髪の男性がその場にしゃがみ込み、底の見えない穴を覗き「うわぁ……」と呟きながら、白衣の男性の顔を覗き込む。


「――始末されたっぽいな……、どうすんだ? 栗井さん……」


 栗井と呼ばれた初老の男性は、「ふむ」と少しだけ悩む素振りを見せた後に、大きくため息を吐き、金髪の男性に向かって告げる――。


「ブローカーには、取り敢えず、そのまま報告するしかないでしょうね? ――まぁ、大丈夫でしょう……。人工的な『魔獣化』についてのノウハウは、今のところ秘匿とされて、私と彼女達位しか知りませんし、ブローカーとしても、私の機嫌を損ねる様な真似はしないでしょう……」


 栗井が肩を竦めると、金髪の男性は「そっか」と立ち上がり伸びをする。


 その後、三人は自分達に繋がる様な痕跡が無いかを確認した後、その場を後にした――。


 ――そして、依頼達成から二日後の夕暮れ……。


 事務所最奥に設置された焦げ茶色のオフィスデスクには、褐色肌の少年――コラキが……、オフィスデスクの左手前に設置されたえんじ色のソファには、ポニーテールの三白眼少女――イグル……が、ガラステーブルを挟んだ対面に設置された同色のソファには、ふわふわショートボブのたれ目少女――ペリが……、それぞれ真剣な面持ちで、手元の書類に目を通している。


「――確認したいんだが……」


 右手の中指と親指で、こめかみを押さえながら、コラキはペリに対して、声を掛ける。


「んー? 何なの?」


「この……『クレープ代』って、何?」


 すると、ペリは暫くの間、キョトンとした後に――。


「どしたの? 私の字、汚かったの? あっ、眼鏡なの? 取って来るの? 新調する?」


 ――と、オロオロしながら、コラキの周りをちょろちょろし始める。


 すると、コラキは、手を顔の前で組み、大きな……、大きなため息を吐き、ペリの頭にチョップを叩き込み――。


「お前は……、何で猫の捜索と、クレープが関係すんだよっ! せめて調査員費用に紛れ込ませろよ……」


「えぇ……? 自腹なの……?」


「ああ……、違うです、そのまま書いちゃ駄目って事です」


 不安気にオロオロとするペリに、苦笑いを浮かべながらイグルが書き直した書類を手渡す。


 すると、不安気だったペリの表情に安堵の色が浮かび、ソファにポフンと座り込む。


 そして、コラキを恨めし気に見つめながら――。


「なら、そんなに怒る事ないと思うのっ!」


 と、頬を膨らませてそう言った。


「違うから……、お前……名目上でも『調査員』だろ? こう言う事もちゃんと覚えないとな? まぁ、強く言い過ぎたのは……ゴメン」


「ウム……、許すの」


 それから暫くの間、黙々と作業は続き、やがて終わり掛けた頃。


 ふと、思い出した様にイグルが顔を上げ「あ……」と呟いた。自分の分担がほぼ終わったコラキは、破れたペリの服を繕いながら、その声に反応する。


「んー、どうしたぁ?」


「いや、ちょっと思い出したですけど……、ペリ……、アレ……、何だったんです?」


 イグルがペリに向かって問い掛けると、ペリは持っていたペンの先を顎に当て、「んー?」と首を回し、伸びをすると――。


「――アレ?」


 と、イグルに「何の事?」と、問い返す。


「えっと、昨日振り回してた武器です」


「――あっ、アレっ! ドクトリーヌに貰ったのっ!」


 その瞬間、コラキとイグルが立ち上がり、そして――。


「にゅ、入出金明細、確認して来いっ!」


「行ってくるですっ!」


 迅速に動き始めた。


 そして、コラキはポーッとするペリを放置し、イグルを見送ると、そのまま、携帯電話を手に取り、とある人物へと電話を掛ける――。


『はい、はいはい? どなた……、おぉっ、カラス君かい? 昨日送って貰った子猫ちゃんなら、その内立派なネコミミにしてあげるから、もう少し待っ――』


「――寺場さん……、アンタ、ペリに何を渡した?」


 電話に出た女性の声を遮り、コラキは震える声で問い掛けた――。


『ん? んん……? ――あっ、そうだった、アレ、はと胸ちゃん使ってみたんだ? どう? どうどう? アレはねぇ、『ジョブ』と『適性武具』の紐付けを――』


 その女性――『寺場洞子』は、異世界関連技術の第一人者であり、コラキ達と古馴染の科学者である。


 彼女は『リーマン・クライシス』時に、異世界間を行き来し、得た経験を元に、『ジョブ』や『スキル』を活かした技術、発明によって、現在の地位と名声を獲得し、その名を世界に轟かせてている。


 因みに、イグルのスキル『鷹の目(パラ・サイト)』使用時に浮かぶ、半透明のスクリーンも、彼女の発明である。


 そんな感じで、日夜、新しい技術開発と発明を繰り返している彼女であるが、そんな彼女には、欲望のままに開発、即人体実験と言う困った癖があり、コラキ達が事務所を開設して以来、コラキ達は各種実験のターゲットとして認識されている。


 つまり――。


『――と言う訳でね? 普通なら『適性武具』以外を、戦闘時に使用したら、身体に重大なダメージがある筈なんだがね? もし……、仮に……、『適性武具』じゃないモノを『適性武具』として認識できたとしたら、どうだろうか……と、思ってしまってね? 候補として挙がったのが、『柱』のコケ子ちゃんと、はと胸ちゃん――と言う訳さっ!』


 ――『適性武具』……、『戦闘職』と区分けされた『ジョブ』の者が扱う事の出来る武器、防具、道具の事である。


 通常、持つだけならともかくとして、『適性武具』でないモノで、スキルを行使するなどした場合、発動失敗、もしくは、身体への重大なダメージが発生する。


 今回、ペリが使用した武器――『棍棒の様なモノ』は、様々な機能を持たせた上で、ペリに「これは棍棒」だと言い聞かせ、思い込ませた結果、見事にノーリスクで『適性武具』として扱えた……と言う事らしい。


 しかし、今回、コラキが気にしているのは――。


「――妹の将来が心配だ……けど……、衛府――じゃない、寺場さん……、アレ、作るのに幾らかかった?」


 コラキの脳裏には、イグルが半透明のスクリーンを手に入れた時、自分が『切り札』を手に入れた時と、それぞれの悪夢が、再生されていた――。


『ん? 大丈夫、大丈夫、分割払いで大特価の五百万円だよっ!』


 コラキが恐れるモノ――その名は『借金』。


「――へぇ……」


『あ、それと、はと胸ちゃんに、真実を告げちゃ駄目だよ? 知らない人に言われるならともかく、カラス君とか、タカ目ちゃんに言われたら、多分、裂けるよ? じゃねっ!』


 通話を終えたコラキは、ゆっくりと、ペリの顔を見る。


 その顔は、今の通話が聞こえていなかったせいか、キョトンとしたまま、コラキが何かの言葉を発するのを待っている。


「やられた……、怒れないし……、何回払いなんだろう……」


「? よく分から無いけど、元気出すのっ」


 机に突っ伏すコラキの頭をポンポンと叩き、ペリは「大丈夫、大丈夫」と宥める。


 そうこうしている間に、イグルが戻り、今のところは何の引き落としも無い事、残高は変わりない事を、コラキに報告し、コラキはコラキで、博士から聞き出した事を小声でイグルに伝える。


 そして、一人、事情を把握できていないペリを前に、コラキとイグルはため息を吐き、危ない部分を伏せ、『借金返済地獄(インフェルノ)』に突入した事を伝える。


「うぅ……、ごめんなの……、「お買い得」って言ってたからつい……」


「まあ、次は相談してくれりゃいいさ……」


「そうそう、何だかんだで、ウチとコラキの時も、迷惑掛けたですし、金額で言ったらコラキのが一番きつかったですから、気にしないで良いですっ」


 そして、三人は虚ろな瞳で事務所を出ると、鍵を掛け、ドアノブに『クロウズ』の札を掛け、帰り道を歩き出した――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ