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現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
第二章:双子の偶像大使!
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第六話:燃えよ!(2)

続きです、よろしくお願いいたします。

「――で、どうするです?」


 欠伸混じりに、イグルは胸を張るペリに尋ねる。


「フッ……、ちょっと待つがいいの……」


 答えると、ペリは携帯電話を取り出して、何処かに電話を掛け始めた。


「えっと……、奄美さん……です?」


「――あ、はい……」


 イグルは、ペリが誰かと電話している間、流石に依頼人を放っておく訳にはいかないと、ソファに腰掛けている依頼人、『奄美涼斗あまみりょうと』へと声を掛ける。


「ウチが言うのも何ですけど……、本当に良いです?」


 イグルはペリを指差して、本当にペリに任せても大丈夫か? と訝しみながら尋ねた。


 すると、涼とは苦笑しながらも、その首を横に振り――。


「――結局は、自分次第だと思うので……、ただ単に、一人だと挫けそうだから……、一緒に励んでくれる人が欲しいなって位なので、気にしないで下さい……」


「んん? 結構、依頼料取るですよ?」


「――ウッ……、ぶ、分割でお願いします……」


 冷や汗を流す涼斗に、イグルはクスクスと笑いながら「学生料金にしとくです」と言って、見積もりを作り始める。


「――ん?」


 その時、イグルは何かを感じて、鼻を引くつかせ様としたが……。


「お待たせなのっ!」


「あ、ペリっ! お客様を待たせるとは、良い度胸なの……」


 ジロリと、イグルが三白眼を、更に鋭く尖らせてペリを睨み付けると、ペリは「チッチッチ……」と、怯まずに――。


「私は、ただ電話をしたわけじゃないの……、智咲にちゃんと、ダイエットのコツを聞き出していたのだのっ!」


 珍しく、手際の良いペリに、イグルはポカンと口を開けて感心していた。そして、ペリはイグルの顔を満足そうに眺めた後、涼斗に向き直る。


「――と、言う訳で今日から行動開始なのっ!」


「は、はいっ!」


 目を輝かせる涼斗に、ペリはむず痒いモノを感じながら、早速、智咲に教えて貰ったと言う事を発表する。


「えっと……、そうなのっ! ま、まずは、ご飯の管理なのっ!」


「おぉっ! 早速、王道ですねっ!」


「ほ……、な、なので、今日から……えっと……、イグル……、コラキが帰って来るのは何時だったの?」


 ペリは、コソコソとイグルに耳打ちすると、コラキ達が修学旅行から帰って来る筈の日付を尋ねる。イグルは、少しだけ顎を上げ、宙に視線を彷徨わせると――。


「――何も無ければ、二日後……です……」


 ――そう答えた。


 ペリは、それを頭の中で何度か反芻すると、目を輝かせたままの涼斗から、僅かに視線を逸らして、告げる。


「――今日から二日間っ! あ、朝、昼、夜は、私達とお食事するのっ!」


 涼斗は暫くの間、ふんふんと頷いていたが、やがて、ある事に気が付く。


「あ、昼も……ですか? ――昼は、流石に学校が……」


 ペリは、小さく「あっ」と声を上げると、難しそうな表情で腕を組み――。


「――なら、メールするのっ! お昼ご飯の写真を撮って、送るのっ! それで、私達がけーさんして上げるのっ!」


「えっ! い、良いんですか? そこまでして貰って……」


「良いのっ! この依頼は、私が引き受けたから、ちゃんと責任を持つのっ!」


 再び胸をポヨンッと叩くペリに、涼斗は感謝の、イグルは懐疑の視線を向ける。


 そして、イグルは、ペリの首根っこを捕まえて、再びコソコソと話し始める。


「ちょっと……、大丈夫です? ――ペリ、カロリー計算なんて出来るですか?」


「だ、大丈夫なの……、智咲が居るから……」


「そんな人任せな……」


 心配するイグルを他所に、ペリは「大丈夫」と主張し続け、結局はイグルが何かあった場合のサポートを頑張ると言う、ある意味いつも通りの体制を整え、ここに『ダイエット作戦』は開始したのであった……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ささっ! 入るのっ!」


「お、お邪魔します……」


「はい、いらっしゃいです」


 ――あれから、ペリ達は、今日はもう依頼が入ったからと事務所を閉め、早速、ダイエットの始めの一歩、夕食編へと移行する事になった……。


 取り敢えずは、ペリの主張通りに、今日から二日間、コラキ達が帰って来るまで、涼斗はペリ達と三食を共にする事となった。


 そんな訳で、涼斗は、現在、『幻想商店街』の中にひっそりと建つ、二階建てのアパート『二鷹荘』の、『天鳥(たかとり)家』の部屋にお邪魔していた。


「今、お食事の準備するですから待ってるです、出来上がるまでは、ペリで遊ぶと良いですよ?」


「え? で? あ、はい……」


 涼斗は、イグルが台所に入っていくのを見届けると、ソワソワキョロキョロしながら、居間にポツンと正座する。


 すると、荷物やら着替えた制服やらを自室にポイして来たペリが、ペタペタと居間にやって来た。


「あれ? イグルは?」


「あ、ご飯の用意をする……って……」


 瞬間、涼斗の口がぽっかりと開き、その顔が真っ赤に染まる――。


「きゃああああああっ!」


「ほぁ? どうしたの?」


「――どうしたです? ってっ、ペリ……お客様の前でその格好はNGです……」


 イグルが「きゃあきゃあ」と叫ぶ涼斗の声を聞きつけて様子を見てみると、ペリは既に就寝モードに入っており、寝巻き代わりのキャミソールに下着姿と言う格好であった。


「あ、しまったの……」


 自らの格好に気付いたペリは、そのまま、気まずそうに自室に戻り、数分後、あずき色のジャージ姿に変身する事となった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「まずは……、お野菜から食べるのっ!」


「は、はいっ! ペリさんっ!」


 未だに顔を真っ赤に染めている涼斗は、ペリと視線を合わせない様にする事で、何とかペリの指示に答える事が出来ていた。


 ペリはその事に若干、不服そうではあったが、モリモリと鍋から野菜を取る涼斗を見ると、満足そうに頷く。


「キャベツ、大根、ゴボウのローテーションでいくと言いのっ!」


「はいっ!」


「――意外とまともな事を言ってるです……」


 二人の食事ペースに軽く引きながらも、言ってる事は間違ってはいない……のかな? と、イグルはゆっくりと、自分のペースで鍋を突く。


「――ふぅ……、次は……あれ? えっと……、あっ! そうなのっ、バランスが大事らしいから、次はお肉なのっ!」


「はいっ!」


「ん? ――えっ?」


 イグルは、「バランス……」の辺りまでは、コクコクと頷いていたが、その次の瞬間に、ペリが大量に投入した豚肉を見て、その目を大きく見開く。


 ――先程は、野菜を食べると、大皿五枚分のキャベツ、大根、ゴボウを二人で……、二人だけで平らげていた……。


 そして、今度は同量の豚肉が、鍋へと投下されていく――。


「ちょ、ペ、ペリっ? 待つです――」


 イグルが止める暇も無く……、豚肉は物凄い勢いで、二人の口に運ばれていき――。


「――バランスよくっ、締めはお雑炊なのっ!」


「はいっ!」


「だ、駄目っ! それ、絶対駄目ですっ!」


 ――最後の一汁まで、ペリと涼斗は喰らい尽くしたのであった……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「うぅ……、赤字かもです……」


 泣きながら洗い物をするイグルを他所に、『ダイエット作戦』はまだまだ続く。


「さあ、次は運動なのっ!」


「運動……ですか……」


「そうっ、ウォーキングするの」


 ペリは、携帯メールを読み上げながら、次はウォーキングだと告げる。


「この辺りを……えっと……? そおっ、三十分程、トコトコするのっ! ――その後に、軽く身体を動かすのっ!」


「運動……、苦手ですけど……分かりましたっ!」


 そして、二人は夜の『幻想商店街』へと出発した。


「――ペースは私に合わせるのっ!」


「は、はいぃぃ……」


「む? ペースがよく分から無いなら……………………、そうだっ、私の手を握るのっ! ――こうして、一緒に歩けば、その内ペースも身に付くと思うのっ!」


「――は、はいっ!」


 やがて――。


「たっだいまなのっ!」


「はぁ……ぜぇ……はひぃ……」


「あ、お帰りです、お疲れ様です……?」


 ――ウォーキングから始まり、結局、夜の公園でご近所さん達も巻き込んで、太極拳、エアロビを終えた二人は、ペリはツヤツヤ、涼斗は汗だくと、質感の違う輝きを放っていた。


 イグルは、そんな二人にタオルを手渡そうとしたのだが……、涼斗に近付いた時に、ソレに気が付いた。


「んん? さっき……、事務所でも思ったですけど……」


 イグルは鼻をスンスンと動かし、涼斗に近付く。


「あ、ああ汗臭い……ですか?」


「いえ……、その、何と言うか……、甘い……です?」


 グビッと涎を飲み込むと、イグルは暫く涼斗の臭いに集中する。


「――あ、そうか……、すいません、多分ソレ……、僕の『ジョブ』のせいです……」


「『ジョブ』……ですか? 良ければ教えて貰えるです?」


 涼斗は、イグルから受け取ったタオルで、汗を拭きとると、コクリと頷く。


「まあ、非戦闘職なんで、特に役に立たないんですけど……、僕のジョブは『美食材』って奴でして、その……僕の感情とか、体調次第で『スキル』が勝手に発動しちゃうみたいで……」


「? 『美食家』じゃあ、無いです?」


「はい……、それならまだ……、そっち方面の就職とかあったんでしょうけど……」


 ――涼斗が言うには、『美食材』のスキルは『六味ロックミー』……、使用者の感情や体調次第で、使用者の汗や吐息、体臭や体液の味が変わるらしい。


「一応、確認出来てるのは『甘味』、『酸味』、『塩味』、『苦味』、『旨味』、『カルシウム味』って奴らしいんですけど……、本当に使い道が無いし、制御出来ないし……、身体測定とかだと、病気の疑いまで……」


「――確かに……、食欲はそそるですけど……、流石に口に入れたくは無いです……」


 残念そうに呟くイグルとは対照的に――。


「――ひ、一口なら……?」


「あ、その…………勘弁して下さい……」


 ――ペリは涎を止める事無く、その目を光らせて、涼斗から流れ出る汗に狙いを付けていた。


 因みに、本日の成果は二人合わせて『プラス四キログラム』であった。

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