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現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
第二章:双子の偶像大使!
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第二話:後輩達の奮闘記!(2)

続きです、よろしくお願いいたします。

「――クックック……、我の、死の吐息……喰らうがいいっ! ――『口弾』」


 白いシャツに青のスパッツ――『冒険者養成学校』の体操服に身を包んだピトが、両手の平を目一杯、こめかみの横で開き、その口から紫色の光線――いや、毒の涎を射出すると、毒涎は紫色の軌跡を宙に残しながら、ピトの前に迫る灰色の、体長二メートル程もある、金属で出来た兎を貫く――。


「ピ……ガガガガ……」


 金属兎は、その胴体に野球ボール程の大きさの穴を開けられると、ギシギシと軋む音を出しながら、その穴を見つめて、悲しそうにピトの顔を見た後……。


「ピンガガガァァァ……」


 爆発してしまった……。


「クックック……、我、大勝――痛っ!」


 ピトは、金属兎の爆発を見届けると、そのまま左手をチョキの形にして顔の横に、右手を腰に当て、腰を捻り、背後の仲間達にドヤ顔を浮かべた所で、担任に「メっざます」と、拳骨を喰らっていた。


「――ピトさん? 貴女の『口弾』……、その特性は、何ざます?」


「ぴゅうぅ……、痛いよぉ……、高速で射出出来る事です……」


 ピトが担任の質問に、そう答えると、担任は首を横に振って、それを否定する――。


「違うざます……、ちっがぁうざます……。――確かに、射出速度は時に必要ざます……、で・もっ! 貴女の『口弾』の真価は、その涎が『毒性』を持つ事ざます! 撃ち貫いてしまっては、折角の『毒』も、敵に回る事無く、通り抜けてしまうざまぁすっ! ――なので、次は、敵の装甲を貫き、且つ、敵の体内に涎が止まる様に気を付けるざます……」


「ぴゅ……、はい……」


 ピトがガックリと肩を落とすと、担任は逆三角眼鏡をクイクイッと持ち上げ、「次ざます」と、四列に並んでいる生徒達に声を掛ける。


「ふふふ……ドンマイです、ピトちゃん。貴女のドヤ顔は忘れないですっ♪」


「ぴゅむっ! 次こそ……、わ、我に同じ失敗はあり得………………ない……と、思う……よ? ――多分……」


 ピトと入れ替わりで、列の最前線に立ったイグルは、肩を落とすピトの背中をポンと叩くと、「行ってくるです」と、前に出る。


 ――『スキル』実習室……。その名の通り、『冒険者養成学校』の生徒達が、自分の『スキル』を『魔獣』を模したロボットを相手に試し、その特性や、使い方を体感し、教師に指導して貰う為の施設である。


 イグル達、一年S組の生徒達は現在、この『スキル』実習室にて、主に兎型の『魔獣』ロボット相手に、攻撃、もしくは補助スキルの練習を行っている。


『ジョブ』や『スキル』を得て間もない上に、退屈な座学が多い一年生にとっては、この『スキル』実習室を使える、数少ない時間は、半分遊び感覚の時間であり、楽しみでもあった。


「――次、第三列、いくざますよっ!」


 ――イグル達、一年S組の担任である、逆三角形の眼鏡女性は『江夏えなつまなみ』、普段は『ファッションざぁます』と呼ばれ、その母性溢れる性格から、生徒達に慕われている彼女も、生徒達が怪我する危険性が高い、この『スキル』実習室を使う時間だけは、厳しく目を光らせている。


「はいですっ! ――って、隣はタテです?」


「あ、イグルさん、よろしくお願いいたします……、で、どうしますか? 折角だし、組みますか?」


「う~……、今回はやめとくです」


「そうですか? ――じゃ、また後で……」


 そして、ピトとタテは会話を終えると、ロボットが出て来るゲートに集中する。


『――スタート』


 ブーっと言う警告音と共に、ゲートから一人当たり二匹、計八匹の金属兎が、それぞれのターゲットを目指して跳ねて来る。


「「ピピッピガァァッ!」」


 イグルは、十メートル程離れた位置にいる金属兎を、その三白眼で睨み付け、どう対応したものかと考える。


「――この距離なら、『鷹の目(パラ・サイト)』を使う必要も無いです……。――よしっ! 『武爪』!」


 イグルがスキルを発動すると、両脚のくるぶしから先が、前方三本、後方一本で構成された薄っすら黄色く光る、透明な爪に包まれる。


「「ピガァッ!」」


 エンジンが暖まって来たのか、徐々に走行速度を上げて近付いて来る金属兎達に向かって、イグルもまた、チャッチャッチャと、爪が地面を掻く音を響かせて走り始める――。


「――ピッ!」


「見え見え……ですっ!」


 金属兎の内一匹が、もう一匹よりも前に出て立ち上がると、長身であるイグルの更に上から、その前足を振り下ろす……が、イグルはその前足を捻って躱すと、逆にその前足を伝って、金属兎の頭上まで一気に駆け上がる――。


「――おぅ……、一匹を隠れ蓑に……ジェットなストリーム擬きです……? でも……、纏まってくれてるならっ! ――『八爪』!」


 サーカス芸人の様に、ひらりと金属兎の上に舞い上がったイグルは、攻撃して来た金属兎の背後に、もう一匹が隠れている姿を見て、少しだけ驚きながらも、スキルを発動する――。


「「ピ……?」」


 二匹の金属兎は、頭上で大股開きしているイグルを不思議そうな目で見上げていたが、イグルはそんな金属兎達を、憐れむ様に一瞥すると、二匹の金属兎の周囲を、残像が出る程の速度で跳ね回る――。


「――終わり……です」


 金属兎達の周囲を飛び回っていたイグルは、滑る様に二匹の背後に着地すると、そう呟いて指をパチンと鳴らす。


 すると、金属兎達の身体に、ピシピシと亀裂が入り――。


「「ピガガガッ!」」


 ――そのまま、バラバラになって地面に崩れ落ちてしまった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あ、もう終わってる……」


 一方、イグルと共にスタートしたタテは、金属兎達の攻撃をスキルで受け止め続けていた。


「「ピピッガガァッ!」」


「――うん、強度も上がってる……かな? じゃ、そろそろ…………『風塵』!」


 タテは、それまで口に付けていた横笛を、スッと口から離して呟くと、再び、横笛に口を付け、今度は別の曲を奏で始める――。


「「ピガッ? ガガガガ――」」


 ――不思議な事に、その曲は、他の者達には聞こえておらず、金属兎達にしか聞こえていない様であった。


「「ガ……ガ……」」


 金属兎達は、その身体を、足元から徐々に、徐々に『風化』する様に、砂状に変えていき、やがて、成す術も無く、風に流されてしまった。


「――はい、そこまでざますっ!」


 タテが金属兎を片付けると同時、担任(まなみ)から終了の声が掛かり、ブーっと言う警告音が再び鳴り響く。


 ――警告音と共に、生き残っていた金属兎達は、「チッ、見逃してやらぁ」と言いたげに、イグルとタテ以外の二人の生徒達に唾を吐きかける。


 そして生徒達は、担任(まなみ)の元へ、アドバイスを貰いに駆け寄る――。


「――貴方は、もう少し良く狙うざます。で、次にタテさん? 流石に見事なお手並みざましたけど、もう少し防御スキルを『受け止める』だけじゃなく、『受け流す』方向でも試してみるざます」


「――あ、そう言えば……父上にも言われた様な……」


 アドバイスを受けたタテは、ブツブツと神妙な顔つきになりながら、「ありがとうございます」と言って、列の後方に移動していく。


「最後は、イグルさん? 貴女、「あの距離なら『鷹の目(パラ・サイト)』を使う必要は無い」と考えたざますね? ――それは、ある意味正しいざますが、複数の敵を相手にするならば、出来る限り、全ての敵の位置情報を把握する癖をつけた方が良いざます」


「――あっ……、はい……です……」


 先程、一匹の背後にもう一匹いた事を思い出したのか、イグルは得意満面だった顔を、真っ赤にして、列の後方へと移動する。


 すると、イグルの前列に控えているピトが、ニヤニヤしながら、イグルに話し掛けて来る。


「ピュピュピュ……、わた……じゃない、我の仲間……いや、眷属入りだよ? イグルちゃん?」


「ぐぬぬ……、さっきのウチを殴りに行きたいです……」


 そして、二人は互いにさっきの事は忘れようと協定を結び、次の順番が回って来た四人を見る。


「――あ、羽衣です」


「ピュゥッ! うーいっ!」


 二人が声を上げて声を掛けると、羽衣はニパッと笑い、ヒラヒラと手を振る。


 そして、先程と同じく、ブーっと言う警告音と共に、再びゲートが開き始める……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――始めるざますっ!」


 担任の掛け声で、羽衣はゲートに集中する――。


「――あれ? 先生、ボクの所、ロボちゃんが出て来ませんよ?」


 ――しかし、待てど暮らせど、ゲートから金属兎が出て来る様子はない。


「あら? 故障ざますか? ――少し、中止にするざます、皆さんは、少し待ってるざますよ?」


 流石におかしいと感じたのか、担任は既に出ていた他の六匹の金属兎をサクッと破壊すると、実習室に備え付けてある内線電話のある場所へと向かう。


「何? 羽衣、壊したです?」


「ピュピュピュ……、こちら側(恥ずかし組)へようこそ、羽衣……」


 イグルとピトは、担任が去って行く姿を確認すると、ニヤニヤしながら羽衣の元へと忍び寄り、その肩をポンと叩く。


「いやいやいや、ボク、それこそ何にもしていないじゃないっ! い、言い掛かりだよ?」


「そうですよ、二人供……、姫はソレは……まぁ、問題児ですけど、今のところは無罪ですよ?」


 慌ててイグル達の言葉を羽衣が否定すると、いつの間にか羽衣の隣に控えていたタテが、苦笑しながら、羽衣の援護射撃を行う。


「――そうだよっ! ボク、悪くないじゃんっ!」


 羽衣は、タテの援護を受けると、プンプンと頬を膨らませてイグル達に抗議する。


「あはは、ゴメンです」


「ジョークだよ?」


 イグルとピトが、両手を合わせて「ごめんごめん」と言うと、羽衣は頬を萎ませて、笑顔で口を開く――。


「――でも、あれだね? 昔の映画とかだと、こう言う状況の時、ロボちゃん達が暴走したりするよね~♪」


 ――キュインッ!


「「「――あっ……」」」


 ――カラカラと笑いながら、羽衣が口を滑らせると、その途端、イグル達の顔色がサァッと青くなっていく……。


 その時だった……。


『――ミ……ツケ…………タ……』


 何処かから、ノイズの混じった声がしたかと思うと、突如、ブーっと言う警告音が鳴り響く。


「――何だ?」


「え? ゲートが開いていくよ……?」


 担任が戻るまでと、だらけていた生徒達から、口々に不安気な声が上がり始める。


「――っ! 故障……、直ったです?」


「ぴゅぅ……、状況的には……なさそうだよ?」


「――姫、発言には気を付けて下さい……」


「うぅ……、ごめんよぉ……」


 ――イグル、ピト、タテ、羽衣は、響き続ける警告音と、開き始めるゲートに集中し、ジト目で羽衣を見ると、それぞれの『武器』を取り出し、構える。


 やがて、四列全てのゲートが開くと、そこには――。


「兎の次は……亀……です?」


「――ピュッ……、でっかいね……」


「――姫、下がって援護お願いしますっ!」


「――うぅぅぅ……、ホント、ごめんよぉ……」


 ――四体の巨大な、金属製の亀が居た。


※2014/11/02:誤字修正

 『光速』を『高速』に直しました。ご指摘、ありがとうございます。

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