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現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
第二章:双子の偶像大使!
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第一話:後輩達の奮闘記!(1)

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――日曜、朝五時。


 まだ薄暗い空の下、寂れかけた『幻想商店街』の中にひっそりと建つ、二階建てのアパート『二鷹荘』は、点滅する街灯に照らされて、辛うじてその輪郭が浮かび上がっていた。


 今、その一室――正確には一室の玄関先で、一組の兄妹達が、別れの時を迎えていた……。


「――良いか? 戸締りはちゃんとしろよ? イグル、お前は……、しっかりしてっけど、打たれ弱いからな……、何があっても慌てるなよ? ペリ、お前は………………もう少し、他人の目……、特に野郎共の視線と行動に注意しろよ?」


 玄関の敷居を境に、内と外に隔たれた兄妹……、その外側に立つ褐色肌のツリ目少年――『天鳥(たかとり)コラキ』は、眠そうに目を擦る二人の妹達に向かって「分かってんのか? 大丈夫か?」と、念を押しながら、再び、戸締りの重要性を教えている。


「んぁ……んぁ…………、分かってるのぅ…………、ちゃんと、誰か来たらブラ………………つけたつもりになるの……」


「そうか? それなら………………って、それ、着けるつもりないだろっ! ――ったく、そんな下着同然の格好で玄関まで出て来るし……」


 コラキに肩を掴まれ、特に念を押されている、白いふわふわショーボブの巨乳少女――『天鳥(たかとり)ペリ』は、その、のほほんとしたたれ目を、眠気のせいか更に垂れさせ、寝巻き代わりのチビ丈キャミソールの肩ひもを、肘近くまでずれさせた状態で、鬱陶しそうに、コラキの顔を押し返している。


「ほらぁ……、二人供あんまり騒ぐとご近所迷惑です。――コラキも……、そこでひっこさんとレイちゃんが待ってるですよ?」


「え、お、おぉ……、もうそんな時間か……」


 呆れ顔で、コラキとペリを引き剥がすと、ショッキングピンクのパジャマに身を包んだ、茶髪の長身スレンダー少女――『天鳥(たかとり)イグル』は、『二鷹荘』の入り口で、寒そうに手を擦り合せる少女達を指差し、コラキをその鋭い三白眼で睨み付けると、「早く行くです」と、着替え等が入ったスポーツバッグを投げ渡す。


「――じゃ、行ってくるっ! 戸締りだけは」


「分かったから、早く行くです!」


「お土産は、恋人のお菓子…………白い奴が良いの……」


 ――こうして、コラキは『二鷹荘』の入り口でコラキを待っていた、赤茶の髪をリボンで括り、ツインアップにした小柄な少女――『皇雛子すめらぎひなこ』、腰まで伸びた緩い、金色のウェーブヘアーを胸元で握り締めている碧眼の裸足少女――『レイ・ハーン』の二人と合流し、旅立っていった。


 ――何故、こんな早朝からコラキ、雛子、レイの三人が出掛ける事になっているのかと言うと、コラキ達『冒険者養成学校』の三年生は、本日から四泊五日の修学旅行である。


『冒険者養成学校』では、三年生のこの時期、企業や大学のお偉いさん、人事担当者、入試担当者等も招いた修学旅行――と言う名の進学、就職活動を行っている。


 各企業は、将来性の有る生徒達を専属『冒険者』として雇う為の、各大学は『ジョブ』や『スキル』の研究を行う為の、それぞれ『冒険者』の青田買いを目的としており、生徒達も旅行を楽しみにしつつ、『武器』や体調管理をしっかりと行って、この『修学旅行』にある意味、人生を賭けて臨んでいる。


「――やっと行ったです……」


「…………寝るの……」


 ――そして、日本最北を目指すコラキを見送った二人の少女は、大きな欠伸と共に、再びヌクヌクを求めて、部屋の中へと戻った……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――ペリっ! しゃんとするです!」


「んぅ……、今日は休むの……」


「駄目ですっ! 美空さんに言い付けるですよっ!」


 ――翌日、普段から小言係であるコラキ不在の為か、ペリは早速だらけ切っていた。


「ほら、ちゃんとはくです……」


「ふぅ……、わふぁっふぁふぉ(分かったの)


 片足を上げて、イグルにされるがままとなっていたペリは、トースターをくわえながら、仕方なしと言った感じで制服に袖を通す。


 そうこうしている内に目が醒めて来たのか、ペリはもう一枚パンを焼き――。


「――行くのっ!」


「ペリっ! スカートっ!」


 ――イグルと共に、学校へと向かった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ペリとイグルが、『砦が丘』の坂を上り校舎の下駄箱に辿り着いた時は、既に遅刻ギリギリの時間となっていた。


「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」


「イグル、大丈夫? 辛いなら、お家帰るの」


「ど……、どの……口が…………」


 イグルは、頬を引くつかせた後、スーッと深呼吸して息を整えると、携帯電話を取り出し、誰かにメールを送信する――。


 すると、一分としない内に……。


「――お待たせっ! 行くよっ、ペリちゃんっ!」


 ペリの同級生、健康的な小麦色の肌が艶めかしい少女――『影平智咲かげひらちさき』が突如現れ、ペリの制服の襟を、がっしりと掴む。


「ほぁ? 智咲……? え、ちょっと待つのっ! ま、待って、おへそ見えるのぉぉぉぉぉぉ――」


 そして、そのままペリを引き摺りながら、智咲は校舎の二階、二年B組へと走っていった。


「――ふぅ……、コレで良いです……って、急がないと、ウチが遅刻ですっ!」


 一仕事を終えて、満足気にほくそ笑んでいたイグルは、ふと校舎の時計を見て、朝のホームルーム時刻が迫っている事に気が付くと、慌てて自身の教室へと向かった……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――『一年S組』。


 イグルは、教室入り口に掲げられたプレートをチラリと見て、確認すると、そのままソォッと教室内の様子を伺う……。


「――? 何してるの、イグルちゃん?」


「ふぉぁっ!」


 イグルが、顔だけを覗かせてキョロキョロしていると、そんなイグルのすぐ横、教室最後尾の席に座る少女から声を掛けられる。


 少女は、両手で肩口の毛先を握り締め、ぱっつん前髪の下から、くりくりっとした大きな目を覗かせて、キョトンとイグルを見つめていた。


「ふぉ、ふぉぉ……。羽衣ですか……、脅かしちゃ嫌です……」


「え、え? どっちかって言うと、ボクの方が驚かされた様な?」


 イグルの同級生である少女――『素灯羽衣すあかりうい』は、肩を竦めて「やれやれです」と安堵しているイグルに、首を傾げて戸惑っていたが、やがて「まぁ良いや」と呟くと、改めてイグルに声を掛ける。


「おはようっ! 今日は遅かったね? ――何となく、予想は付くけど……やっぱり、ペリ姉ちゃん?」


「――そうです……、コラキが居なくなって一日でこのザマです……」


 ガックリと肩を落としたイグルは、そこで、ふと、いつもなら羽衣の背後、もしくはサイドに控えている筈の同級生がいない事に気が付いた。


「あれ? ――タテは、どうしたです?」


「知らない。――さっき、また呼び出されてたから、どっかの女の子と、仲良くお話してるんじゃないかな? うん」


「ふぉぁ……、ご、ゴメンです……」


 笑顔を浮かべる羽衣の、有無を言わせぬ迫力に、イグルはその身を震わせ、何故かその場に正座していた。


 そして、羽衣が「やだなぁ、気にしないで」と言った、その時、ガラガラと教室の扉が勢いよく開き――。


「――誤解ですっ!」


 ――一人の髪の長い少年が、土下座をしながら、イグルの隣に滑り込んで来た。


 羽衣は、少年の顔を、目が笑ってない笑顔で見つめると、首を傾げて少年に問い掛ける。


「ん? 何が誤解なの? 言ってくれないと、ボク、分から無いよ? タテちゃん?」


「い、いえ、先程の人は、どうやら俺を女性だと間違えてたらしく、「私の彼に色目を使うな」と、張り手を喰らってしまっただけでして…………、決して……、その、姫が誤解する様な事は……」


 少年――『薬屋くすりやタテ』は、二房に纏めた藍色の長髪が床に付く程に頭を下げると、その髪とお揃いの藍色の瞳を潤ませて、羽衣を見上げている。


 暫くの間、そんなタテを無言の笑顔で見つめていた羽衣は、やがて、自らもちょこんと地面に正座すると、「プッ」と吹き出し――。


「ご、ゴメン……、ちょっとからかっただけだよ? ――ほら、立って? って言うか、何でイグルちゃんも正座なの?」


「え? いや、何でです?」


 そして、三人が揃って頭を傾げ、周囲のクラスメイト達が、「またか」と苦笑していると、教室の……今度は前の扉がガラリと開き、イグル達『一年S組』の担任が入って来た。


 逆三角形の形の眼鏡を掛け、白い肩がモッコリとしたブラウスに、あずき色のスカートをはいた女性教師は、優雅にしなりしなりと歩いて生徒達に着席を促すと、その手に持った教鞭を、ゆっくりと……、なるべく音を立てない様にと注意しながら、教卓に向けてトントンっと当てて、生徒達に告げる。


「はい、ホームルーム始めるざますよ?」


 そして、担任によって、三年生が『修学旅行』中である事や、その間の、三年生の教室の清掃割振り等を説明し、今日の授業の予定を確認しようとした、その時――。


「――ふ……ふぁぁふぁっふぁあっ! わた――我……、参上っ!」


 ――黒地の髪に橙のラインを走らせた、ショートカットの少女――『さちピト』が、教室の扉をそっと開け、ビクビクオドオドしながら、教室に入って来た。


「――あら? ピトさん? ………………遅刻ざますよ? どうしたざますか?」


 担任が背の低いピトに合わせる様に、腰をかがめてその目を見つめると、ピトは気まずそうに、恥ずかしそうに、ぼそぼそと口を開き始める。


「――ピュッ! その……、パ、パパが……『修学旅行』で……、ママが……「寂しい……、もうちょっとギュッとさせてっ!」って、その……、中々……」


 そこまでを聞くと、担任は「ふぅ」と、大きなため息を吐き――。


「貴女も大変ざますねぇ……。幸先生の奥様には、あたくしから説明しておくざます……。――さ、席に着くざますよ?」


 ――そう言って、ピトの頭を撫で、出席簿に目を通すと、大げさな動作で驚きの声を上げ、よろよろとその場に崩れ落ちる。


「――あぁ……、何て事ざますっ! あたくし、出欠を取り忘れてたざます……、皆さん、申し訳ありませんが、今から出欠とるざますよっ?」


「「「「「はいっ!」」」」」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――出欠を取り終えた担任は、フッと柔らかな笑みを浮かべた後、眼鏡をクイッ持ち上げ、生徒達の顔を見渡す。


 そして、柏手を一打ちし、生徒達の注目を集め、告げる――。


「――今日から暫くの間、三年生が居ないので、『スキル』実習室が、多めに使用可能ざます……と言う訳で、模擬戦闘を含めた実習の時間を多めにするざます」


 ――その瞬間、一年S組の教室が歓声に包まれた……。

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