第二十二話:玉×2の行方!
続きです、よろしくお願いいたします。
――『冒険者養成学校』が、その日全ての授業終了を告げる鐘を鳴らし始めてから、十五分程経った頃。
『砦が丘』の麓にある喫茶店では、六人の少年少女が、『冒険者養成学校』の制服を緩めつつ、コーヒーや、ジュースを啜っていた。
その中の一人、たれ目を普段より更に垂れさせた、白いふわふわショートボブの少女、ペリは、その手に数枚の……、マルとバツ――ほぼバツ――が記されたプリントを眺め、ストローを通して、ジュースに空気を送り込んでいた……。
「理不尽なの……」
「――お前……、どの口が……」
「ったぁ……」
ペリから、大きく『三十五』と書かれたプリントを奪い取ると、褐色肌のツリ目少年、コラキは、ペリの頭にチョップを食らわせ、こめかみを指で押さえて、大きくため息を吐く。
「だから、あれ程、「大丈夫か?」って、聞いたのに……、美空さんに怒られても、俺……、知らねぇぞ? ――マジで……」
「ほぁっ! そ、そんな……妹を捨てると言うの? ――イ、イグルっ! イグルなら、私を助けてくれ――」
恐らく、『怒られる』と言う事態を想定していなかったペリは、サァッと血の気が引く様に、表情を固めると、隣の席に座る、茶髪ポニーテールの長身三白眼少女、イグルに顔を向ける。
「――あ、ウ、ウチも知らないです……」
イグルは、汗をダラダラと流し、「自分、無関係です」と、縋って来るペリの顔面を押し返し始める。
すると、そんな二人の少女の様子を見て、ツインアップの小柄な少女、雛子がクスクスと笑い始め――。
「――仲良いよね、ペリちゃんとイグルちゃん……」
「え? そうかぁ? ありゃ、雷の押し付け合いにしか、見えねえんだけど……?」
「いやいやいや……、美少女がくんずほぐれつ……、それだけで色々……仲が良いって、思えるぜ? 俺はっ!」
雛子の意見に、コラキが訝しんでいると、丸坊主のスケベ顔少年、玲人が「チッチッチ……」と、人差し指を振り、息を荒くしながらそう答える。
コラキは、そんな親友を見て、「何でコイツと親友なんだ?」と呟きながら、ペリ同様に玲人の頭にもチョップをお見舞いする。
「――ったぁ……、お前……、これ以上、俺がエロ以外考えられなくなったらどうすんだよ?」
「そう思うなら……、まず、ソレを何とかしろよ……」
コラキは大きく息を吐くと、玲人がテーブルに広げた、バツだらけの『二十』と書かれたプリントを指差す。
「ん、そだねぇ……、梧桐君……、外出禁止が延長になったって言うから、私達、ここで追試用の勉強会してるんだよ?」
「――面目ねぇ……」
――『冒険者養成学校』は、先日、無事? 中間試験を終え、今日、コラキ達の手元に答案が返却されていた。
『冒険者養成学校』では、定期試験の赤点ラインが『六十点』と設定されている。――当然、そこに届かない者は追試、追々試と、用意されている。
「あははっ! 玲人先輩、来年は同級生になるかもなのっ――痛っ!」
「――お前も、同じ立場ってのを忘れるな?」
――と言う訳で、本日、コラキ達は、見事に赤点を獲得してしまった、ペリと玲人を救済する為の勉強会を、『砦が丘』麓の喫茶店『サンザシ』にて開いていた。
『皆さんっ、少し静かにしないと……、怖そうなマスターがこっち睨んでます……』
――コラキ達が、玲人とペリを叱りつけていると、ピコンッと言う音と共に、コラキ達の隣の席に座る――と言うよりは、席そのものである、白いコタツの天板に文字が表示される。
「――っと、すまねぇ……っつうか、マスター……多分、ハーンさんを見てるんじゃないか……?」
コラキがチラリと、坊主頭のマスターを見ると、マスターの視線は、白いコタツ……、コラキ、雛子、玲人の同級生である留学生、レイに向けられていた。
「まぁ……、コタツがミックスジュース吸ってたら……、見るよ……」
「見るの」
「見るです……」
「貴女だけ見つめてるっ!」
『えぇ? そう……ですか? 日本では、コタツはどこにでもあるって……、ドクトリーヌが言ってた様な……?』
「多分、それ……、「どの家庭にでも」……の間違いだと思うけど……、あの人なら……言いかねないのがまた……」
こたつは、皆からの答えにショボンと項垂れると、天板に無数の『の』を表示させ、いじけてしまった。
「――あ、そう言えば、コラキ、甲賀君に話聞いて来たの」
こたつを何と励ましていいか分から無くなった空気を、ペリが変える。
「おっ! で、どうだって……?」
「あれから、スッパリサッパリ、不快な事が無いって言って、喜んでたの」
ペリのその言葉に、コラキとイグルが、安堵した様に大きな息を吐く。
――数日前、ペリの同級生である『甲賀 陸人』の依頼で、コラキ達は陸人の妹を付け狙うストーかを逮捕に至るまでに撃退したのだが、警察と『冒険者ギルド』から、当の犯人が居なくなったとの報告を受けていた。
念の為にと、それから数日、甲賀家周辺を警備したのだが、結局、犯人は現れず仕舞いであった……。
「――じゃあ、やっぱり、美空さんが言うみたいに、海外……です?」
「そうかもな……」
「次来たら……、ポチみたいに変身させて上げるのっ!」
イグルが「マーキングしておけば……」と呟く横で、ペリが鼻息を荒くしていると、玲人がポカンと口を開けて――。
「何か……大変そうだなぁ……? ――何か、そんな時に付き合わせてわりいな?」
――そう、ショボンとしながら呟いた。
コラキは、そんな玲人を見て、ニヤリと笑みを浮かべると、再び玲人の頭にチョップをお見舞いし、「なら、頑張れ」と告げた――。
――それから二時間……。
「――だぁっ! コレで……最後だぁ!」
玲人は、今回の試験で間違った部分を、コラキの指示で誤答ノートとして纏め終えると、何かをやり遂げた様な、爽やかな表情で、シャープペンシルをテーブルの上に放り投げる。
「あぁっ! 玲人先輩に負けたの!」
雛子に教えを請いながら、玲人が先に苦行を終えた事に嘆き、悔しがり、涙目を浮かべるペリに、若干の興奮を覚えた玲人は、ブルブルと頭を振ると、何か雑談をしているらしい、コラキ達の様子を伺う事にした。
コラキは、こたつ、イグルと何かを話し合っており、コタツから伸びる、こたつの白い手には、赤色と青色の、飴玉が乗っていた。
『これ、どうしますか?』
――飴玉の正体は、件のストーカー犯から、コラキが抜き出した『スキル』と『身体能力』の結晶であった。
当初、カラス像であったそれらは、洞子博士の説明通り、いつの間にか玉となっており、取扱いに困ったコラキ達は、結局、こたつに預かって貰っていた。
「――どうすっかなぁ……、取り敢えず、次、何かあったら使ってみるか……? ――でも、何も試さないっつうのも怖いしなぁ……」
「厄介です……」
三人が、二つの玉を見て、大きなため息を吐いていると――。
「ど、どうしたんですかっ! レイさんっ!」
――何を思ったのか、突如、話に割り込んで来た玲人が、コタツから伸びる白い手をギュッと握り、震える声でそう尋ねた。
「ひひひひひひひひひひひゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
突然、男性に手をギュッと握られたレイは、コタツから伸びた、白い手足をバタバタさせると、そのまま喫茶店を飛び出して行ってしまった。
「「――え?」」
残されたコラキとイグルは、ポカンと口を開き、こたつが去って行く姿を見送り、続いて、当たって砕けた……かの様に見える玲人を見る。
すると、ショックで固まっているのか、玲人は口をあんぐりと開けており――。
「「――あっ!」」
「あぁ……?」
コラキとイグルが気付いた時には既に遅く、玲人の口に、二つの玉が、ヒューッと飲み込まれていった……。
「んっがんっぐっ!」
――ゴクン……と、玲人が喉を鳴らし、玉を飲み込む。
「えほっ! げほっ! な、何だコレ? 飴じゃなくて……、ガムかよ……、しかもしょっぺぇっ!」
玲人は、玉の感触が気持ち悪かったのか、慌てて目の前のコーヒー……ではなく、こたつが飲み残していたミックスジュースを飲み干す。
「お、おい……、玲人……大丈夫……か?」
「――ペッって、ぺってするです!」
「ん~っ! ん~っ!」
コラキとイグルが、玲人に駆け寄り、その背中を擦ったり、叩いたりして、心配そうな表情で玲人に玉を吐き出す様に促すが、玲人は「大丈夫」と言わんばかりに、手の平をコラキ達に突き出す。
そして、玲人が再び、ゴクンっと言う、喉に引っかかっていたモノを飲み込む音をさせた、その時――。
「マズイ……けど、レイさんが握ってたと思え……ばぁぁぁぁぁぁぁぁ? 何じゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
――玲人の口から、鼻から、耳から……そして、頭から、白い光が溢れ始めた。
「え? え? ご、梧桐君? 梧桐君、今、最っ高に輝いてるよ?」
雛子は、突如、光り出した級友に、戸惑いながらも励ましの声を送り――。
その声にツッコミを入れる事も忘れ、コラキは必死の形相で「玲人ぃぃぃ」と叫び、イグルとペリは、呆然とその様子を見つめていた――。
「あ、もしもし……、そうッス……、はい……はい、お願いするっス……」
――ただ一人、喫茶店のマスターだけが、冷静にサングラスを掛け、何処かに電話を掛けていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――駄目ですね……、『ヒットマン』が消えてます……」
数時間後、取り敢えず雛子を家に帰したコラキ、ペリ、イグルは、玲人を連れて『冒険者ギルド』を訪れていた。
どうやら、あの玉を飲み込んだせいで、何らかの影響があったらしく、玲人は自分の『ジョブ』である、『ヒットマン』を失っていた。
「――っ! そ、そんな……」
愕然とする玲人の後ろでは、顔を歪めたコラキ達三兄妹と、ギルドマスターであり、『冒険者養成学校』の校長でもあるウピール、そして、玉について、現状では一番詳しいであろう、洞子博士が立っていた。
「博士……、どう思います?」
「ん? んん……、そうだねぇ……、私としては、この独特の空気……、覚えがあるんだがねぇ……」
洞子博士がそう言うと、ウピールもまた、苦笑しながら頷く。
「――まぁ……、元が、元ですし……、大抵の事は……」
ウピールは、そう呟くと、小さく「よしっ!」と気合を入れ、玲人の肩をポンと叩く。
「――こぅちょぉ……」
「大丈夫です、ちょっと静かに……………………うん……多分、間違いなさそうです」
涙ぐむ玲人を励ます様に、その頭を撫でると、ウピールはそう言って、洞子博士の顔を見て頷く。
すると、洞子博士は、玲人の前に座るギルド職員に、ニヤニヤしながら告げる――。
「君、君君ぃ……、ちょっと、彼に『天啓』してみてくれ」
「――え? は、はぁ……」
そして、ギルド職員が精神を統一させると――。
「――えっ? あ、『ジョブ』が……?」
「は?」
コラキ、ペリ、イグル、玲人がポカンとする中、洞子博士は玲人のギルドカードをヒョイっとギルド職員から受け取り、「クック」と、笑い始める。
そして、ニヤニヤと玲人の肩に手を置くと、笑いをこらえる様に告げる――。
「クッ……、よっぽど相性が良かったのか……、何か君とこの『ジョブ』を結び付ける何かがあったのか……、詳しくは調べてみない事には分からんが………………」
息を呑み、洞子博士の言葉に耳を傾ける玲人を見て、洞子博士は堪え切れなくなり「ぶふっ」と吹き出すと――。
「――おめでとう……、君は今日から『漢』だっ!」
――嬉しそうにそう告げた……。
ん~、突貫作業……。思い付いたら書き直すかもしれません。




