第二十一話:インターミッション(6)
続きです、よろしくお願いいたします。
※本日(10/29)投稿分、三話目です。ご注意ください。
一話目:「第十九話:凶愛者に明日は無い!(2)」
二話目:「第二十話:凶愛者に明日は無い!(3)」
――コラキ達が目を覚ますと、既に日は暮れ、『天鳥探偵事務所』は赤く照らされていた。
「コラキちゃんっ! 生きてるっ?」
すると、そこに現れたのは、赤茶の髪を、リボンでツインアップに纏めた小柄な少女――『皇雛子』であった。
「ああ……、ひっこか……」
「うぁぁぁ……、身体が痛いです……」
褐色肌のツリ目少年――コラキと、三白眼の長身少女――イグルが、もぞもぞと机の上で蠢き、距離が離れた雛子にも聞こえる程のバキバキと言う骨の鳴る音を響かせて起き上がる。
「おい……、ペリ、起きろ……」
「んぁ……ん? も少し……寝たいの……」
そんな、三兄妹がダラダラと蠢く姿を見て、雛子は頬を引き攣らせると、スッと鈴付きのボンボンを取り出し――。
「起きろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
――左右で微妙にタイミングがずれたボンボンを振り鳴らし、兄妹達の意識を覚醒させた。
そして、意識がハッキリしてきたコラキ達は、それから暫くの間、雛子に「依頼で夜遅くなって、そのまま寝てた」と正直に伝え、恐る恐ると、その顔色を伺う。
「――ん、事情は分かったけど、それならそれで連絡くらい欲しかったよ?」
「――スマン……」
「ゴメンです……」
「もうしないの……」
雛子は普段、コラキが使っているオフィスチェアで足を組み、腕を組み、呆れた様に苦笑しながら、勢いで床に正座した三人を見まわすと、「ふふ……」と微笑み、口を開く。
「取り敢えず、帰ろう、コラキちゃん? ――多分、レイちゃんがお腹空かして待ってるよ?」
「「「――あっ!」」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――雛子に諭されたコラキ達は、未だに残る疲れもそのままに、這う這うの体で『二鷹荘』へと戻った。
「レイちゃんから電話来てビックリだったよ? ――皆と連絡取れない、お外怖いって、大変だったんだから……」
コラキ達と一緒に『二鷹荘』について来た雛子は、そう言うと、コラキ達より先に、『二鷹荘』の玄関扉をノックする。
「レイちゃん……、私だよ?」
――ドタドタドタ………………。
室内から慌てて駆け出す様な足音が聞こえたかと思うと、次の瞬間――。
「――ひひひひひひひひっこさぁんっ!」
――扉が開くと、その中から、腰まで伸びた金色のウェーブヘアーを、その腰に巻き付けた碧眼の少女――コタツをキャストオフした『レイ・ハーン』が飛び出し、雛子の腰にタックルをかました。
「――ゴフッ………………、ナイス……タックルだよ、レイちゃん……って……、あっれ? レイちゃん? レイちゃん、本当にレイちゃん?」
「えええええええええ……? ほほほ本当にレレレレレレレイですよ?」
「え~? じゃあ、問題っ! 北のはんた――」
口端から涎を垂らす雛子の頭に、コラキのチョップが振り下ろされる。
「――ったぁ……、コラキちゃん、痛いよ……」
「古いし、ハーンさん、知らないと思う」
雛子がコラキ以外の三人を見ると、ペリ、イグル、レイはキョトンとした顔で、コラキと雛子を見つめていた。
「――ブぅ……」
そして、コラキ、ペリ、イグルの三人は、漸く『二鷹荘』へと帰り着き、居間に入るなり、力尽きた様にその場に座り込んでしまった。
「――今日は布団で寝るの……」
ペリがそう呟いたのを切欠に、コラキとイグルも、無言で頷き、疲れを吐き出す様に、盛大なため息を吐く。
それを「仕方ないなぁ」と、苦笑して見ていた雛子は、そこで――明かりの中で、漸く、レイの素顔を目撃した。
「……………………………………コラキちゃん?」
「ん? 何だぁ、ひっこぉ……」
「――レイちゃんって、確か、居候するんだよね?」
「? そうだぞ? まぁ、何処かの部屋が空くまでだけど……」
「ですです」
「そうなのっ!」
――三人の回答を聞いた直後、雛子の表情と動きが、ピタリと止まる。
そして、「ポクポクポク……」と、音が聞こえてきそうな沈黙が、暫し続いた後――。
「だ、だだだだ駄目だよっ?」
血相を変え、頬を引くつかせ始めた雛子は、素早く携帯電話を取り出すと、何処か――態度から恐らく自宅に電話を掛け始めた。
「――駄目だったら、お父さんじゃ話にならないよっ! お母さん出してっ! ――そう……、あ、お母さんっ! あ、あのね――」
やがて、話が付いたのか、雛子は携帯電話を仕舞うと、クルリとコラキ達を睨み付け、スッとその場に正座する。
何となく、その雰囲気に当てられたコラキ達もまた、正座をする。
「――コラキちゃん、私は、兄妹でも無い男女が、保護者がお留守の状態で、一つ屋根の下で過ごすのは、ひじょーに、不健全だと思うよ?」
「え? そ、そうか「そうなのっ!」……だよなっ!」
雛子は、キッとコラキを目で抑え付けると、そのまま「コホンッ」と咳払いをして続ける。
「――なので、レイちゃんはウチで預かりますっ! こ、これは、レイちゃんの身を案じてなので、決定事項ですっ!」
「ふぇ? でも、コラキはそんなこんじょ「預かりますっ」…………ですね!」
雛子は、続けてイグルを抑え付けると、一仕事終えたかの様にスッキリした表情を浮かべる。
「? ???」
そして、当事者であるレイは、超速で自分の住まいが決められていくのを、不思議そうに眺めていた――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――そして、その日はレイの、一応の『二鷹荘』からの送別会をしようと、ペリが駄々を捏ね始め、そろそろ寒いね、と言う事で鍋にする事になった。
「玲人は、何か駄目ってさ、中間近いから、親に外出禁止って言われたらしい」
「――うぁ……、ご愁傷様だねぇ……」
コラキがメールを読み上げると、冷蔵庫を漁りながら、雛子がそう呟く。
その二人の会話を聞いていたペリが、「うぅ」と冷や汗を流し、その嫌な話題を反らす為に、レイに話し掛ける。
「そ、そう言えば、レイちゃん、コタツって、何なの?」
「ははははははははははははいぃぃぃ? えええええっと、ミィの『武器』です」
――その話を聞いていたらしい雛子が、ふと、思い出した様に、レイに尋ねる。
「そう言えば、あのコタツ、『武器』なんだっけ? ――今、どこに置いてるの?」
「え? でも、レイちゃん、ウチに来た時、リュックサック位しか、持ってなかったです」
「? どうだったか、忘れたの……」
「あ、そういや、あの日、朝までは普通だったよな?」
四人から、興味津々と言った視線を受けたレイは、その視線にビクビク、オドオドしながらも、自分の『武器』について聞かれるのは悪い気がしないらしく、鼻の穴を少し膨らませて――。
「ちょちょちょっと、ままま待ってて下さひっ!」
そう言って、自分のリュックサックから、四本の棒――コタツの脚を取り出して来た。
「フフフフフフフフ、いいいいいいいいいいいいきますっ! ――『ホワイト・ハウス』!」
レイがドヤ顔で叫ぶと、四本の脚は、それぞれ直立し、一メートル前後の距離を取り始める――。
『――システム・ブート………………モデル・パラダイス………………ロード……OK』
「「「――ん?」」」
その機械音声と、文言に聞き覚えのあるコラキ、ペリ、イグルは、若干、顔を顰める。
――そうこうしている内に、四本の脚は、レイをその正方形の中心に据えて、白く輝き始める。
「こここここれが……」
『私の『武器』、『ホワイト・ハウス』です』
――やがて、光に包まれながらレイが口を開き…………、その言葉の続きが、完全にコタツとなったこたつの天板に表示される。
「「「「おぉぉぉぉっ!」」」」
コラキ達からの拍手喝采を受け、こたつがペコペコと上下に揺れる。
そんな中、ペリは真剣な顔つきになり、ペコペコするこたつに尋ねる――。
「――それ……、普通のコタツとしては使えないの?」
「え……?」
ペリの一言に、雛子は「それ、聞いていいの?」と言いたげな表情になり、コラキも、イグルもまた、同様の表情を浮かべる。
しかし、ただ一人……、尋ねられた張本人であるこたつだけは、天板に『ふっふっふ……』と不敵な文字と、顔文字を浮かべていた。
『――お見せします。私の究極のスキルをっ!』
――ザワッ!
「ペペペペペペペペペペペペ『ペイント・ホワイト』……!」
ガシャンっと言う音と共に、コタツが白く輝く――。
そして、スポンッ、スポンッと言う音が続けて鳴り、コタツの四辺――その内の一つから、キャストオフしたレイが、キャミソール姿になった上半身を覗かせる。
「おぉ……、コレ……、私達も入って……?」
「どどどどどどどうぞっ!」
雛子が恐る恐ると言った感じで、レイの反対側からその中に潜り込む――。
「――っ!」
「ど、どうした? ひっこ……」
衝撃的だと言いたげな表情を浮かべた雛子に、コラキが近付き、その肩に手を伸ばすと、雛子はそんなコラキの手をグイッと引っ張り、もう一つの辺に座らせる。
「――っ!」
「え? コ、コラキ? どうしたの?」
ペリは、無言で最後に残った辺を示すコラキと雛子の様子に怯えつつも、その指示に従い、コタツに足を踏み入れる――。
「――ほぁっ!」
「ペ、ペリ?」
ただ一人、最後に残ったイグルは、コタツに入ってしまったコラキ、ペリ、雛子、そして、所有者であるレイの様子に恐れ、じわじわと後退る――が……。
「入れば……分かるの……」
「ヒィッ! だ、ダメですッ! ――何か、ソレは危険な感じが……、い、嫌です……。――い、いやぁぁぁぁぁぁっ!」
――ペリに引き摺りこまれ、その隣にスッポリと納められてしまった……。
「――っ! こ、これは……まるで……、夏場にガンガン冷房効かせる中、ヌクヌクの布団に包まれてお昼寝する様な………………」
「キュキュキュキュキュキュ……究極の贅沢……です……」
「「「「あああああああっ!」」」」
――そして五人はそのまま、ちょっとだけ、暫くの間、鍋が煮えるまでと、暖を取り続け……、目を覚ました時には、チュンチュンと雀が鳴いていた……。
本日(10/29)投稿分はこれで終わりです。遅くなりまして、非常に申し訳ありません。
因みに、次話で第一章終了予定です。




