表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
プロローグ:学費を稼げ!
3/102

第三話:私の猫を探して!(3)

続きです、よろしくお願いいたします。

 同時刻、異なる二か所で、三白眼の少女の声が響く――。


「「中断はもう、出来そうにないです。――なので、とっととこっち来るですよ……」」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――少し、遠いけど……、ここで脱ぐわけにもいかねぇし、仕方ねぇか……」


 猫の鼻汁で湿った指先をハンカチで拭き取りながら、コラキは自分の背中を確認する様に首を捻り、その後、周囲の人混みにウンザリし、ため息を吐くと、スーパー跡地を目がけて走り出した――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「えっと……、スーパー跡地って、どっちなの……?」


 人差し指で、包み紙越しに、クレープ屋店長の鼻を連打し続けるペリは、首を真横に傾け、キョトンとしていたが、やがて、何かを決めた様に、一際強く店長の鼻を叩き――。


「――上から見れば良いのっ!」


 ――パァッと笑顔になったペリは、「うーん」と、力む、するとその直後、ノースリーブのサマーセーターの背中側袖口から、白い、モコモコとした羽が広がっていく――。


 そしてペリは、徐々にその羽を羽ばたかせ始め――。


「あ、少し袖口破れたの……、後で、コラキに直して貰わないとなの……」


 少しだけ項垂れた後、夜空を駆け出した――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「マズイです……」


 現在、イグルの前には、黒い靄の様な、繭の様な球体が浮かんでいる。


 ――その中心では、黒い子猫がふわりと浮かび、小さな目を光らせて、イグルを見つめている……。


 子猫は、やがてその小さな口を、大きく開くと、息を吸う様に、身体を反らし――。


「フゥナァァァァッ!」


 周囲に広まった黒い靄を吸い込み始めた。


 黒い靄を吸い込むごとに、子猫の身体は、徐々にその体積を増していき、浮いていた身体は、地面に近付いていく。


「ニャァオォォォォォンッ!」


 やがて、周囲の靄を、全て取込み終えた子猫は、それが第二の産声であるかの様に一鳴きすると、額に新たな目を生やし、その尾を二つに分け、爪を大きく尖らせていく――。


「――まだまだ、可愛さは残ってるですから……、このまま依頼人さんに、引き渡せば……」


『魔獣』となってしまった子猫を前に、イグルは頭を抱えて、ブツブツと呟いている。


 一方の、『魔獣化』し、若干の全能感を感じてしまった、元子猫の『魔獣』は、目の前のイグルが、獲物(玩具)と重なって見えてしまい、その結果――。


「ニャッ!」


 大きく、鋭い、前足の爪を、イグル目がけて振り下ろした。


 ――ガキィィンッ!


 振り下ろされた爪は、『魔獣』に肉を抉る感触を与える事無く、『魔獣』の全身に黒板を引っ掻いた時の様な、ゾワゾワとした感触を伝える。


「ニャッ?」


「うーん……、意識までは『魔獣化』してないです……? なら、殺すわけにもいかないですね……、大人しく、二人を待つ事にするです……」


『魔獣』の背後で、イグルが「うん」と呟いている。


「ナゥッ♪」


 ――『魔獣』が爪を振るうが、イグルはそれをヒラリと躱す。躱された魔獣が、再び視界に入ったイグルに爪を振り下ろす。


 そんな攻防が暫くの間、繰り広げられ――。


「――何か、段々愛しくなってきたです……」


 じゃれる『魔獣』に、愛着が湧いて来たイグルが、躱したついでに『魔獣』の背中をそっと撫でた時――。


「あっぶないのぉぉぉぉぉぉっ!」


「ふなっ?」


「ペ――」


 遥か上空から急降下して来たペリが、コンクリートの地面を、粉微塵に粉砕し、イグルと『魔獣』の前に現れた。


 煙が晴れ、その全貌を顕わにしたペリは、夏だと言うのに、僅かに凍ったサマーセーターとバブルスカートに付着していた霜をパンパンと払うと、背中の羽を何処かに収納し、スッと握り締めた右手を真横に伸ばす――。


「えへへ……、何でイグルちゃんが苦戦してたか知らないけど、ここからは、私がお相手するのっ! ――『棍棒の様なモノ』」


 ペリが、握った右手を開くと、その手の平には小さな玩具が乗っていた。


 その玩具は、ペリの声に反応する様に、ムクムクと大きくなっていき――。


「ペ、ペリ……? ちょっと、何する――」


「そぉいっ!」


 イグルが、ペリの真意を問い質す前に……、ペリの手に握られた『棍棒の様なモノ』――と言うよりも、形状はまるっきりハンマー――が、『魔獣』の爪を、バキバキと砕いていく……。


「――フカァッ!」


 音も無く、いきなり近付いていたペリと、砕かれた自身の爪に驚いた『魔獣』は、全身の毛を逆立てながら、大きく飛び退き、ペリと距離を取る。


「まっだ、まだ……なのっ!」


 ペリは、ニコニコと嬉しそうに『棍棒の様なモノ』を肩に担ぐと、再び無音で『魔獣』に近付いていく。


 それまで、呆気に取られていたイグルは、怯える『魔獣』が発した、再度の鳴き声で我に返り、慌ててペリを羽交い絞めにして叫ぶ。


「だ、駄目ですっ! 依頼人の子猫を殺す気ですかっ!」


 すると、ペリは「はっ」とした表情を浮かべた後、忙しなく視線を泳がせ、『棍棒の様なモノ』を手の平サイズまで縮める――。


「――どうしよう?」


 と言って、首を傾けた……。


「うーん……、取り敢えず、気絶させる……です?」


「イグルちゃん……、私、手加減出来そうにないの……、イグルちゃんは?」


 イグルとペリが、互いに目を泳がせ、頭を抱えていると、それまで全身の毛を逆立て怯えていた『魔獣』が、「あれ? 来ないの?」と言いたげに、二、三度首を傾げ、チャッチャッチャと、音を立てながら二人の少女に近付き――。


「――ニャッ!」


 ――その爪を振り上げた。


 イグルとペリは、一瞬遅れて『魔獣』の接近に気付いたが、躱せる距離ではないと判断し、身構える。


 ――シャンッ!


「――っ!」


 しかし、『魔獣』の爪は二人を襲う事は無く、爪を振り上げていたはずの『魔獣』は、突然聞こえて来た、鈴の鳴る様な音に怯え、キョロキョロと首を動かしている。


 ――シャン……、シャンッ!


「フ……フシャァッ!」


 ――シャンシャンシャシャンッ!


 徐々に大きく……、テンポアップしていく音に、『魔獣』は完全な恐慌状態となり、イグルとペリを全く見なくなり、何かを探す様にキョロキョロと、空中に視線を彷徨わせている。


 イグルとペリが、そんな『魔獣』の様子をポカンと見つめていると――。


「――ぜぇ……、ぜぇ……、お前ら……、油断……し過ぎ……、鈍ッてんぞ……」


 汗だくのコラキが、右手に持った錫杖を支えに、二人の前に現れた。


「遅刻して来たコラキに言われたくないですっ」


「汗だくのコラキも、人の事言えないのっ」


 イグルとペリからの反撃に、コラキは不機嫌そうに「ったく……」と呟き、ガクガクと震える『魔獣』を一瞥する。


 そして、それまで小刻みに地面を突いていた錫杖の動きを止めると、そのまま錫杖をポンと肩に乗せ、『魔獣』に告げる――。


「――これで悪夢は終わりだ……、お疲れさん……」


「…………………………ニャッ……」


 その瞬間、糸が切れた様に『魔獣』が地面に倒れ込む。


「――さて、と……」


 コラキは倒れた『魔獣』の上に腰かけると、イグル、ペリの顔を、順番に見つめ、視線を泳がせながら、二人に――。


「どうしよう?」


 と、告げた――。


 それから、イグルとペリも『魔獣』の背中に座り込み、三人は頭を捻り、この『魔獣』をどうするか……、どうやって依頼人に説明するかを考える。


「――もう、正直に言うしかないと思うです……」


 と、イグルが呟くと……。


「その場合……、依頼達成になんのかなぁ……」


 と、コラキが呟く……。


 やがて、「これ、どうしようもなくない?」と、結論が出ようとした所で――。


「――取り敢えず、飼えれば良いと思うのっ!」


 と、ペリが立ち上がり、『魔獣』の背中から飛び降りると、名案が浮かんだかの如く、腰に両手を当て、ドヤ顔でそう叫んだ。


「飼えれば良いって……、そうかもしれんが……、どうする気だ?」


「――こうするのっ!」


 尋ねるコラキに、ペリは大きくした『棍棒の様なモノ』を見せつけ、そのまま――。


「――『ほいしょぉ』!」


 力の限り、振り下ろした――。


「「あ……、あ……、あ……」」


 金魚の様に、パクパクと口を動かすコラキとイグルを他所に、ペリは次々と地面を叩き、穴を開けていく……、その全てが、『魔獣』の顔面スレスレになるように――。


「ニャ……、ニャァァァッ!」


 コラキの手によって、その場から立つ事が出来ない『魔獣』は、自分の顔スレスレに打ち下ろされていく鈍器と、ソレによって地面に空いていく穴を見つめ、恐怖に涙を浮かべ始めている。


 やがて、『魔獣』が鳴き声すら上げずに震え始めると、ペリは『棍棒の様なモノ』を仕舞い込んでから『魔獣』の顔を覗き込み、ほんわかとした笑顔で――。


「大人しくしてるの、ねっ?」


 そう言って、『魔獣』の頭を撫でた。


「ニャニャニャッ!」


 笑顔のまま、『魔獣』の反応を伺っていたペリに対して、魔獣は何度も何度も頷き、そして――。


「――あ、小っちゃくなったです……」


「えぇ……?」


「やっぱり、コレ(調教)が正解なのっ!」


「フミャァ……」


 ――『魔獣』は、その姿形を……、『魔獣化』前の子猫サイズまで戻し、怯える様にイグルの懐に潜り込んだ……。


「んー、尻尾は戻らないみたいです……」


「まぁ……、それ位なら……なぁ……」


「今時、珍しくもないのっ」


 ブルブルと震える、二尾の子猫を抱いて……、三人は依頼人の家へと向かった――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そして、依頼人――『山手玲奈(やまで れいな)』――の家に辿り着いた一行を出迎えたのは……。


「す、すいません……『ラ・権三郎』……、帰ってきました……」


 ペコペコと頭を下げる玲奈と、黒い子猫であった……。


「「――っ」」


 コラキとペリが、「どういう事」と言いたげに、イグルを見ると、イグルは二人と視線を合わそうとせず、汗をダラダラと流しながら――。


「――く、暗かったせいですっ」


「あ、イグルちゃんっ、待つの!」


 そう言って、二尾の子猫を抱いたまま、その場から逃げ出してしまった。


 ペリも、逃げたイグルを追い掛け、駆け出してしまい――。


「あぁ……、い、依頼が……」


「あ、えっと、そ、そうだ、ちゃ、ちゃんと調査費はお支払いしますよ?」


 その場で膝をつき、置いてけ堀となってしまったコラキに、玲子はしどろもどろになりながらそう告げた。


「――え、で、でも……」


「良いんですよ……、この子も無事に帰ってきましたし……」


「――っ! ありがとう……ございますっ!」


 涙ぐむコラキに、玲子は苦笑しながら財布を開き、そこから取り出した三枚のお札を差し出す――。


 そして、コラキはキョトンとしながら……。


「これ……は……?」


「――え? 確か……、契約書には『成功報酬三千円』と書いてあったかと……、もしかして……、違いましたか?」


 スッと、玲子から差し出された契約書には……、見慣れた……自分の筆跡で書かれた四桁の数字――。


「い……、いえ……、大丈夫だす……」


 ダラダラと流れる汗もそのままに、コラキは山手家を後にすると、帰宅後に訪れるであろう、妹達の罵声に恐怖しながら、一人寂しく歩くのであった……。


 ――――『私の猫を探して!』End――――

※暫くは、こんな感じで方向性を探りながらになると思います。

今のところ、基本方向は、エマージェンシー、アクション、(ノット)パーフェクト、ゲットオンな感じです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ