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現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
第一章:二足の草鞋を履いてやる!
28/102

第十九話:凶愛者に明日は無い!(2)

続きです、よろしくお願いいたします。

※遅くなり、申し訳ありません、本日一話目です。

 ――日が沈み、周辺店舗の明かりもとうの昔に消え、寂しげな雰囲気を醸し出す、寂れかけた商店街の中、古ぼけたベージュ色の三階建てビルの二階――『天鳥(たかとり)探偵事務所』からは、未だに明かりがさしており、窓からは三つの影がチラチラと見えている。


「――イグル、『鷹の目(パラ・サイト)』は?」


 その三つの影の内の一つ、『天鳥(たかとり)探偵事務所』所長であり、天鳥(たかとり)家長男でもある、褐色肌のツリ目少年――コラキは、『冒険者養成学校』の制服から、仕事用の服である白のワイシャツ、黒で揃えたジャケット、スラックス、ウェストコートへと着替えていた。


 コラキは赤いネクタイを首に引っ掛け、焦げ茶色のオフィスデスクでノートパソコンを広げ、誰かとチャットをしながら、三白眼の少女に問い掛けている。


「大丈夫です、ちょっと目が痛いですけど、星奈ちゃん達の許可取って、部屋を中心に死角無しで埋め尽くしてるです……」


 三白眼の少女――イグルは、コラキ同様に制服から、灰色のチューブトップにブラウンのカーディガン、デニム生地のホットパンツ、赤色のグラディエーターサンダルと言った仕事用の服へと着替え、充血した目で半透明のスクリーンと睨めっこしていた。


「今のところ、スヤスヤしてるです」


「ん……、ちょっとは安心してくれたって事かな……」


 イグルの報告に、コラキは少しだけ頬を緩めて呟く。そして、そのまま、三つの影の、最後の一人に視線を移す。


「――ペリ、準備は?」


 そう尋ねられた、柔らかい雰囲気のたれ目少女――ペリは、白いふわふわのショートボブヘアーを櫛で梳かしながら、コラキの顔を見る。


「ほぉ……、後は着替えるだけなの、イグルゥ……、ちょっとホック留めるの手伝ってなの」


「ちょっと、待つです」


「――早くしろよ……?」


 そして、イグルに手伝って貰い、白いモコモコのノースリーブセーターに、バブルスカート、靴は茶色のブーティに着替えたペリは、そのまま事務所の玄関口に向かう。


「それじゃ、行ってくるの……」


「ああ、よろしく頼む」


 ――コラキ達は、最悪の事態が起きない様に、『鷹の目(パラ・サイト)』での監視、ペリによる身辺警備を、事件解決まで行う事にしていた。


「まずは、相手の特定だな……」


「いけそうです? じっくり時間掛ければ、『鷹の目(パラ・サイト)』で特定出来ると思うですけど……?」


 ペリを見送った後、コラキとイグルは姿を見せない敵をどうやって特定するかを検討していた。


「いや、相手はもう、犯罪レベルまで来てる、余り時間を掛けると、あの子が精神的にもたないし、下手すれば命も危ない……。出来れば早めに片を付けて、相手を二度と、近付けない様にしたい…………それに、目途はついてるしな……」


「そうなんです? ――じゃあ、どうするです?」


「――少し、出掛けて来る。その間、しっかり見張っててくれ!」


 そう言うと、コラキは赤いネクタイをしっかりと結び直し、事務所を飛び出していった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「うぅ……、寒いの……」


『――だから、もう少し厚着すれば良かったです……、まだ少し暑いとは言え、夜は寒いです……、ノースリーブとか、只の露出狂です』


「うぅ……、心も冷えるの……」


 現在、ペリは依頼人である『甲賀(こうが) 陸人(りくと)』の家の前にある電柱の天辺に座り込んで、足をパタパタと懸命に動かして身体を温めながら、警備対象である依頼人の妹、『甲賀(こうが) 星奈(せな)』の部屋を見張っている。


『もしかしたら、ペリに気を取られて下手な手出しはしないかもですし、なるべくシャンとするです』


「ほぉ……、ラジャなの……。――そう言えば、コラキはどうしたの?」


 寒さに意識を持っていかれない様にと、ペリは必死で話題を探し、イグルに話し掛ける。イグルは、そんなペリに内心で「お疲れ様」と思いながら――。


『んー? 何か、出掛けるって言ってたです。――何なら、繋ぎますか?』


「――いや、よしておくの、何となく、ピリッと『シッ!』…………来るの……」


 ペリが頭を振ると、イグルが緊迫した声音で、ペリに沈黙を促す。


『…………………………ペリ、周辺警戒です……』


「ラジャなの……」


 現在、イグルの視覚と聴覚、ペリの視覚には、怯える星奈の姿が映っている。


 恐らく、今、彼女は不気味な視線を感じ、同時に周囲に不快な息遣いを感じているのであろう……、キョロキョロと周囲を見渡し、口をパクパクとさせている。


『うん……、やっぱり、誰かのスキルっぽいです。――周辺の『魔素』が、ちょろちょろと動いて……って……、あれ?』


 イグルが事務所で半透明のスクリーンを弄り回していると、その結果を待つ為に口を閉じているペリの足元、電信柱の根元でコラキが手を振っていた。


「悪ぃ……、待たせたな? ――イグル、そのままスキル使用者の位置を特定しろ」


「りゃ? コラキ、何してたの?」


 イグルに対して、指示を出したコラキに、ペリがそう問い掛けると、コラキは「ちょっと、忘れ物と、情報を取りに」とだけ告げ、そのまま電信柱に背を預ける。


『さて、コラキ……どうするです? ウチとしては、もうこれ以上、見てられないです……』


「私も……なの……」


「そうだな……、思ったより相手が間抜けだし、警察で掴んでた情報も入手出来たし……イグル、位置は?」


 コラキは視線を星奈の部屋がある方角に、チラリと向けると、そのままイグルに問い掛ける。


 イグルが、コラキに『もう少しです』と告げると、ペリは足をパタパタと動かしながら、コラキに問い掛ける。


「――警察……、犯人知ってたの?」


「ん~、怪しいって目星は付けてたらしいんだが……、中々尻尾を掴ませなかったらしい……、『魔素』を捉えられるスキル持ちって少ないしな……」


 ペリが「ほぁ……」と、返事だか欠伸だか分から無い様な返しをすると、コラキとペリの耳元にイグルの声が再び響く――。


『それっぽいの、いたです。――ここから十キロ程……、東の公園っぽいです』


「ん、了解……、じゃあ行ってくる。ペリは引き続き警備、イグルは…………相手のマーキングはまだ無理だろうから……、ちょっと、頼まれ事を――」


 ――二人からの返事を待たず、コラキは東に向かい始めた……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「やぁ……、月が綺麗ですねぇ?」


「――野郎に言われて、死にたいとかは思わねぇなぁ……」


 コラキが公園に到着すると、公園のほぼ中央のブランコに、一人の青年がいた。


 青年は、デニム生地のズボンに、赤いティーシャツ、ベージュのジャケットを羽織っており、至って普通の青年と言った雰囲気であったが、唯一つ……、その手に持った大剣だけが、その青年の怪しさを匂わせていた。


「はは……、いや、私もそんな趣味は無いよ? ――こんな時間に、どうしたんだい?」


 青年はコラキを心配する様に問い掛けるが、その目は……笑っていなかった。


 ゆっくりと、コラキはその青年の全身を確認する様に見つめ、やがて、ポツリと呟き始めた――。


「――『冒険者ギルドxx支部』の、『高野(たかの) 直師(なおし)』さん……だっけ?」


「――っ!」


 コラキの一言に、青年の笑顔がギシリと止まる。


「って言うか……、アンタ、バレバレだったらしいね? ――ストーキングの開始時期に、ジョブ情報の把握、住所、電話番号……、家族以外、親しい友人以外だと……、まぁ、『天啓』を担当した職員位しかいないよな?」


 呆れた表情のコラキに対して、青年――直師の表情は徐々に、感情を映さないモノへと変わっていき、やがて、コラキを、汚物を見る様な視線で睨み付け、口を開く。


「君……、今日、私の『聖女』と、仲睦まじ気に話してたクソガキ……だよね?」


 直師はブランコから立ち上がると、無感情だった表情を、今度はニコニコとした微笑みへと変えると、ゆっくりコラキとの距離を詰め始める。


 コラキは、そんな直師を小馬鹿にする様に、「はっ」と鼻で笑うと、なるべく見下していると取られる様に口を開いた。


「ん? あぁ……、どっかの狂った野郎が鬱陶しいって、弱ってたんでな? ちょっと、慰めただけだけど?」


 しかし、直師はコラキの挑発にも動じずに、軽く大剣を二、三度振ると、その切っ先をコラキに向けて、告げる――。


「――彼女に近付くな……、アレは私のモノだっ!」


 コラキは暫くの間、直師を睨み付け……やがて――。


「――一応聞くが……、お前……、自分がやった事……、理解してるか?」


 ――最後の確認だと言わんばかりに、直師にそう尋ねた。


「はっ! 当たり前だ、自分のモノを見守ってやってるんだっ! ――全く……、そのありがたみを理解しようともせず……、こんなガキを……」


 直師の、頭の痛くなりそうな答えに、コラキはため息を一つ吐くと、錫杖を取り出し、肩に乗せる。


「お前……、話し合いが出来るかもと期待したけど……、予想以上の馬鹿だったな……、何処かの……、白衣着た誰かさんを思い出すよ……」


「――? はっ! 馬鹿って言う方が馬鹿なんだっ! それに……その錫杖……、お前、もしかして、この私に暴力で言う事を聞かせる気か……? この――」


「――『聖剣使い』に対して……か?」


 コラキの回答は当たっていたらしく、直師はキョトンとした表情を浮かべ――。


「ギルドが……? ジョブの情報を……?」


 ――そう呟き、信じられないと言った表情でコラキを睨み付けた。


「そりゃな? ――ほぼ、犯罪者確定なんだから当たり前だろ?」


「――馬鹿なっ! 有り得ないっ! ――私は、ギルド職員でっ、戦闘能力だって『Aランク』相当でっ、もうじき、名実共に『Aランク』になる筈でっ! そんな私の情報を、ギルドが、探偵だか何だか分からんガキと、警察に開示する筈が無いっ!」


 直師は、そう叫ぶと、手に持っていた大剣を、コラキの頭目掛けて振り下ろす。コラキは、その斬撃をスッと横に避けると、視線を直師から外さずに『鷹の目(パラ・サイト)』で見ているであろうイグルに向けて、口を開いた。


「――イグルっ! まだかっ?」


『さっき、ペリの前を通過したですっ! ――もう少しで……あっ!』


「――お前とっ! あのじじい(駐在)と、あのガキ(陸人)を消せばっ!」


 イグルの声と、直師の声が、重なり……。


「――『聖斬爪』!」


 直師が、そのスキルを、コラキに向けて発動する――。


『――コラキ、頭下げるですっ!』


「――っ!」


 ――コラキの頭上から迫る斬撃を前に、コラキは避けようとはせず、イグルの指示に従って頭を下げる。


 すると、コラキの頭上で金属と金属がぶつかり合う音が響き、直後、直師の「ガァッ」と言う呻き声が聞こえて来る。


「――な、これは……なんだ? 板……?」


 コラキと直師の間には、正方形の板――コタツの天板が、回転しながら地面に突き刺さっていた。


 呆気に取られている直師を他所に、コラキ側に向いた天板の面に、スゥッと文字が浮かび上がる。


『――『ペイント・グリーン』、『ウィンド・パンサー』……、お届け物です』


 コタツの天板がパカッと開き、そこからコラキに向けて、小さな赤く輝く、丸いレンズが放り出された。コタツはそのまま、再び回転を始めて、来た道を引き返していく。


「――ありがと……なっ!」


 コラキがそのレンズを受け取ると同時、直師が斬りかかって来るが、コラキはその斬撃を、錫杖の柄で受け流すと、そのまま大きく一歩下がる。


 その様子を確認したのか、今度は、イグルの声がコラキに響く――。


『えっと……、洞子博士から伝言です。――『前は、直接『魔素』を取込もうとして、上手くいかなかったから、今度はあるスキルを参考に、スキルをセットして『魔素』を――』………………ともかく、使用時にスキルを込めろだそうです』


「――おっ、省略感謝……、後は感覚でやるから……、記録と、ギルドへの通報だけ、よろしくっ!」


 コラキは、流れる様な直師の斬撃を躱しながら、イグルにそう伝える。


「――クッ……、しぶといガキだ……」


「アンタ……、道理で『A』になれないわけだ……」


「あ?」


 苛立ちを隠せなくなってきた直師に、コラキは「クックッ」と笑いながら、錫杖で大剣を弾く。


 直師は、僅かにふらつくと、そのまま数歩後退り、両手で大剣を構え直し、コラキを睨み付けた。


 直師との距離が空いた事を丁度良いと判断したコラキは、直師の睨みを受けながら、「うーん」と背筋を伸ばし、肩幅に足を広げ、手に持っていた錫杖を地面に突き刺す――。


「――じゃ、改良版試すか……、『午王宝印(ごおうほういん)』……起動」


『――システム・ブート』


 コラキがそう呟くと、その手に握ったレンズ――『午王宝印ごおうほういん』が、機械音声と共に、赤く点滅し始めた――。


「――なっ! 何をする気だ……?」


「ん? ブートしただけ? ――あ、さっき、何か言ってたっけ? んじゃあ……『八咫』!」


『スキル………………セット………………モデル・クロウ………………ロード……OK』


 ――「ブゥン」と言う音が、夜の公園内に響き、『午王宝印ごおうほういん』の輝きが強くなる。


「グ……、何をするつもりか知らないけど……、このまま黙って見過ごす筈がないだろうがっ!」


 直師が、大剣を水平に振り抜き、コラキの胴を狙うが、その斬撃は『午王宝印ごおうほういん』の輝きと共に生じた衝撃波によって弾かれる。


 そのまま、輝きは帯状の形を取り、コラキの身体に纏わり付いていき、徐々に……、黒い、革の様な質感を持つモノへと変わっていく――。


「――今度は……ピッタリだな………………『大千世界アクセス』!」


 そのキーワードを切欠に、コラキの身体を覆い尽くした黒革の所々に、赤い線が走っていき、やがてコラキの姿は、黒いライダースーツを着込んだ様に変わっていく――。


 そして、コラキが肩幅に開いた両脚と、地面に突き立てた錫杖、頭部を覆う鋭いバイザー、その首から背面に向けてたなびく、二房のマフラー……、その全てが一つの影を作り上げ、月明かりと街灯に照らされた、夜の公園に映し出されていく。


「三本足の………………カラス…………」


 直師の呟きと同時……、夜空に『Sランク』序列第五位、『八咫烏』が舞い上がった……。

今日の投稿は、後二話です。

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