第十六話:迷宮実習に行こう!(4)
続きです、よろしくお願いいたします。
「うわ……、相変わらずうるさいね? コラキちゃん」
「え? 何だってぇっ?」
――第三層:通称『メタル音楽室』。
本来であれば、生物のみが『魔獣化』すると言うのが、世間一般での認識であったのだが、この『異界小学校第三層』では、生物ではない『ピアノ』や、『木琴』、『アコーディオン』など、生物型でない『魔獣』が存在している為、研究者達の間では、「素材が樹木だから」、「罠の一種だから『魔獣』ではない」など、様々な仮説が飛び交っている。
そんな『メタル音楽室』の『魔獣』達は――。
『♪♪♪♪♪♪♪♪』
――絶賛、演奏会中であった。
「う・る・さ・い・ねって、言ったのっ!」
「ああっ!」
雛子は、コラキの耳を引っ張り、その耳元で先程言った事を再度繰り返し叫ぶ。
コラキは、それで漸く「分かった、そうだな」の意を含めて、コクコクと頷く。そして、そのまま錫杖を取り出すと、何度か地面をコツコツとつつき――。
「――『八咫』…………」
――小さく呟いた。
「――あっ! 何か、静かになった?」
「コラキ、お前のスキルか?」
雛子と玲人が、耳に手を当て、キョロキョロと周囲を見渡し、コラキに尋ねると、コラキは錫杖の柄で肩をトントンと叩き、ため息を吐きながら「おう」と頷く。
『? 幻惑系ですか?』
「うーん……、まあ、感覚とか精神を惑わす感じかなぁ? それよりもどうする? あいつ等、正攻法でいくか……、強行突破するか……」
コラキは自信無さげレイに告げると、続けて雛子と玲人の顔を見て、苦笑しながら『魔獣』達を指差し、「どうする?」と尋ねる。
話を振られた雛子と玲人は、一瞬、「えっ」と驚いた様な表情を浮かべたが、そのまま宙に視線を彷徨わせると――。
「えっと、私は……、音楽の成績良くないし……」
「俺は……、声量だけは自信あっけど……」
――第二層:『金二郎サーキット』と同様に、『メタル音楽室』の『魔獣』を倒すには、幾つかの方法がある。
その中でも特に知られているのは――。
一つ目、『歌もしくは、楽器の演奏で、『魔獣』達を感動させる』。
二つ目、『批評家として、『魔獣』達の演奏を雄山風に酷評し、その心をバッキバッキに折る』。
三つ目、『戦闘して勝つ』。
――の、三つである。
「俺も……、音楽は補習組だからなぁ……」
因みに、ペリ、イグルが同級生に漏らした情報によると、コラキ、雛子、玲人と一緒に行ったカラオケは「結構深めの生き地獄」であるらしい。
『うーん……、ミィの『カラースキル』も、伴奏位しか出来ません』
「「「『うーん』」」」
三人は、それから暫くの間話し合いを続け、最終的に――。
「取り敢えず、歌ってみるか?」
「そだねぇ~……」
コラキの、投げやりな提案に従う事となった。
『ジャンルはどうします?』
「バリバリのロックでっ!」
そして、レイと玲人がそんなやり取りを行い、四人は一列に並び、目の前を飛び交う『魔獣』達を睨み付けた。
四人のやり取りを聞いていたのか、『魔獣』達はピタリと空中で動きを止め、興味深げにコラキ達を眺めている。
そんな中、『魔獣』達を掻き分けて、ゆっくりとした動きで姿を現すモノが居た――。
「――っ! 『ベン』が出たぞ!」
――『ベン』……、『楽器型魔獣』が蔓延る第三層の中、一定の確率で存在する『著名音楽家の肖像画型魔獣』である。目から光線、口から炎など、純粋な戦闘能力では、『金二郎』に勝るとも劣らない、『異界小学校』の中ボスとも言われる『魔獣』である。
「って事は……、失敗したら……?」
「――先生達の助けを呼ばなきゃだな……」
雛子が頬を引き攣らせると、コラキもまた、額から汗を流し『ベン』の様子を伺う。
『え、じゃあやめますか?』
「――いや、レイさん……、やりましょうっ! ――俺の雄姿……、見ていて下さいっ!」
玲人はバットをクルクルと振り回すと、グリップをマイクの様に口元に近付ける。
「おぉ……、梧桐君がヤル気だよ? コラキちゃん、私とコラキちゃんで、リズム取るよっ」
玲人のヤル気に触発された雛子は、鼻息を荒くしてボンボンでコラキの頭をファサファサと掻き回す。
「え? あ、ああ……」
雛子と玲人の勢いに押され、コラキも戸惑いながら錫杖を構える。
そして――。
「ペペペペペペペペペペペペ『ペイント・イエロー』……!」
――蚊の鳴く様な、ソプラノボイスの後、コタツはその色を純白から黄色へと変え、同時にコタツの天板がベコリとすり鉢状にへこみ、天板とコタツ布団の隙間から、ニュルニュルリと黄色いコードが、四本飛び出して来た。
『ソレを、武器に繋いでください……』
「えっと、私は二つ使って良いの?」
雛子が二つのボンボンをレイに見せつける様に、小さく振ると、こたつはブンブンと縦に揺れ、『そうです』と文字を表示させる。
こたつは続けて、コラキと玲人にも天板による図解で、黄色いコードとそれぞれの武器との接続方法を示す。
「――じゃあ、俺の防音……解くぞ?」
やがて準備が整った一行は、コラキの確認にコクリと頷き――。
「ででででではぁ……、ササササササササ『サウンド・ウェイブ』ゥゥゥゥゥゥ……」
「いくぞぉっ!」
最後に、玲人の掛け声と共に、作戦が始まった――。
「「「「「――っ!」」」」」
――最初の数秒、『魔獣』達はその身体の芯まで響く重低音に、「これは?」と言いたげにその動きをピタリと止める。
「「「「「――っ?」」」」」
――次の数秒、『魔獣』達に異変が起こり始める。通常、中途半端な演奏や、歌を聞かせると、『メタル音楽室』の『魔獣』達は、憤慨し、一斉に襲い掛かって来るのだが……。
「「「「「――っ? ? ?」」」」」
『楽器型魔獣』達は、ブルブルと小刻みに震え、宙に浮いていたモノは、徐々にその高度を落とし始めていた……。
「「「――っ!」」」
――玲人の歌がサビに入ると、更に数匹の『魔獣』が、地面にポトリ、ポトリと落ちていく。
「――ォォォォォ……っ!」
やがて、『楽器型』の中で、最後に残った『ピアノ型魔獣』は、恨めし気な音色を鳴らしながら、砂になり――。
「――なっ! 何と言う……、何と言う事だっ! 一人が両手で振っているにもかかわらず不揃いな……、それでいて綺麗に連鎖する訳でも無い、不快な、何故か低音な鈴の音っ! ――せめて、それと合わせれば良いのに、一拍外れて響く、リズム感の無い錫杖の音っ! ――単独で聞けばそれなりであろう、重低音なのに……、鈴と錫杖の不快感を助長するかの様な、不自然なバックミュージックっ? ――そして、そして……、その全ての伴奏と全く合わせるつもりの無い……、ただの怪鳥音としか言えない歌声っ! ――わた……しは……、わたし……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
――中ボスと呼ばれた『ベン』は、血の涙を流し、怨嗟の声を上げながら、最後には『ムンク』と言った方が正しいかの様な表情を浮かべると、『パキン』と言う音と共に、真っ二つに割れてしまった……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――マジか……?」
――『異界小学校』から脱出し、担任に口頭報告を終えたコラキ達を、担任は「うわぁ……」と言う表情で見ている。
「えっと……、マジだよ! 先生っ!」
「皇……、お前が言うならそうなんだろうがよぉ……」
担任がドン引きしているのには、一応、理由がある。
ソレは――。
「お前……、不快過ぎて『メタル音楽室』の『魔獣』達が耐え切れねぇって……、一応……新発見だぞ?」
――通常、下手な演奏は逆効果……が通説であったのだが、限度を超えれば……と言う事実が明らかになった為である。
「――えっ! 先生……、じゃあ、俺達、何か賞金とか貰えんすか?」
「「――っ!」」
玲人の発言に、コラキと雛子の表情がパァッと明るくなるが……。
「いや……、どうだろ? ――これから証明とかで時間喰うからなぁ? ――多分、学生っつう事もあるし、金は微妙だべ? 良いとこ、方式に名前が付く……とか?」
ポリポリと、面倒臭そうに頭を掻く担任に、「えぇ~?」と不満気な声をコラキ達が上げると、それまで黙っていたこたつが、ピコンッと音を鳴らし――。
『でも、将来的に講演会とかの要請が来るかもしれませんです』
――そんな文字を表示させた。
コラキ達の不満は、それで一先ず収束し、一行は再びはしゃぎ出す。
担任は、そんな生徒達を、呆れた様な、微笑ましい様な表情で見つめながら、その懐から携帯電話を取り出す――。
「あ、チョリーッスッ! 元気してっか? ――チョイと、頼みてぇんだけど?」
――そして、担任は、「知り合いに調査を頼んだ」と伝えると、コラキ達に下校しても良いと伝えた。
それを受けたコラキ達は、未だ興奮冷めやらずと言った感じで――。
「よしっ! 予定変更だっ! このままカラオケ行かねぇか?」
「お、よいよ、よいよっ! コラキちゃん、ナイス提案だよ!」
「ふふふ……、丁度、歌い足りなかったんだ……、行こ……行きましょうっ、コタツさんっ!」
「ははははははははははははいぃぃぃ、よよよよよよよよよよろしくお願いいたしますぅぅぅ……」
――そのまま、『幻想商店街』にあるカラオケボックスへと足を踏み入れ……………………………………………………………………。
「「「「……ガフゥ……」」」」
――生きた屍と化した……。
どうでも良いですが、段々「コタツ……我が力!」とか、「お前に相応しいコタツは決まった」とか言わせたくなって来ました……、やっぱり駄目か……。




