第十五話:迷宮実習に行こう!(3)
続きです、よろしくお願いいたします。
「様子見……って訳にもいかねぇか……」
「えっ? 何で? 私達、まだ何もしてないよ?」
丸坊主の少年、玲人と、赤みがかった茶髪のアップツイン少女、雛子が動揺しながらも、それぞれの『適性武具』である、黄金色に輝くバットと、鈴の付いた桃色のボンボンを構える。
「――多分……、前の組が討ち漏らしたんだろうな……」
コラキもまた、黒い錫杖を取り出すと、うんざりした様な表情で、そう呟く。
そして、雛子と共に後衛として立っている、白い手足を生やした純白のコタツ、レイに向かって尋ねる。
「あ~ッと……、ハーンさん? 敵……来るから、武器構えた方が良いと思うんだが……?」
すると、レイは手足をバタバタと動かした後、その背中側であろうコタツの天板をコラキ達に向け、文字を表示させる。
『ミィの『適性武具』……、このコタツ……『ホワイト・ハウス』です』
「「「え……? それ……、武……器?」」」
コラキ、玲人、雛子の叫び声が響く中、純白のコタツは小さく上下に揺れると、ヨチヨチと歩き出し、コラキ、玲人を押しのけ最前列に立つ。
『えと、お披露目します……?』
「え? で、でも……、後衛で控えてた方が……?」
ふんぞり返る? こたつに、玲人が心配そうな表情を浮かべ、その歩みを止めようとするが、こたつはプルプルと左右に震え――。
『今後の為に、見ていて下さい』
――と、文字を表示する。
そして、シュッと手足を純白のコタツ内に格納すると、蚊の鳴く様な声を絞り出す。
「ペペペペペペペペペペペペ『ペイント・ブラウン』……!」
そして、次の瞬間――。
「て、天板が……?」
驚く玲人の前で、純白のコタツが、茶色のコタツへと変わり、その天板がふわりと浮かび上がる。
浮かび上がった天板は、そのまま周囲の土を掻き集め、大きな丸い岩へと変化し、やがて高速回転を始めた。
「お、おぉ? コラキちゃん、何か……あれって?」
「ボウ……リング?」
そして、雛子とコラキの声に反応したのか、茶色い岩は『ウサギ型魔獣』の群れに向かって、転がり――。
「ロロロロロロロロロロロロロロ『ロック・ストライク』ゥゥゥゥゥ」
「「「「「――ギィィィィィィッ!」」」」」
――数匹の『ウサギ型魔獣』を押し潰した後、高く舞い上がり、掻き集めた土を生き残った『ウサギ型魔獣』の頭上から落としていく。
「「「「フギィィィィィィィィッ!」」」」
群れをその一投で、ほぼ全滅させた天板は、クルクルと回転しながら、茶色いコタツの真上に帰還すると、そのまま元の位置へと収まる。
「「「……………………」」」
一連の蹂躙劇を、コラキ、玲人、雛子は、ポカンと口を開けたまま、呆気に取られながら見つめ、その後、茶色から純白へと戻っていくコタツに見惚れていた。
そして、純白に戻ったコタツからピコンッと言う音が鳴ると、天板の上に文字が表示される。
『これが、ミィの『カラースキル』です。後、止めお願いです』
「――あっ! 玲人、ひっこっ! いくぞっ! 幻惑ッ!」
コラキが叫び、シャンシャンと錫杖を地面に数度、突き立てると、僅かに残った『ウサギ型魔獣』達が、その場でクルクルと回り始める。
「ひっこ、玲人に『エール』っ!」
「了解だよっ! ――『エール』ッ!」
コラキの指示に、雛子が頷き、その手に持ったボンボンを小躍りしながら振り回し、リンリンと音を鳴らす。その音は、やがて目に見える音符となって、玲人を取り囲む様にフヨフヨと浮かび始める。
「玲人、その後は――」
「分かってんよっ!」
雛子のスキルによって現れた音符を纏った玲人は、一足飛びに『ウサギ型魔獣』達の前に近付くと、ニヤリとスケベ顔を浮かべ――。
「――『抜刀』っ!」
纏った音符を全て、その手に持ったバットに吸い込ませ、バットを振り抜き――。
「「ギィィィィィィ……………………」」
――『ウサギ型魔獣』の残党達を、スッパリ上下二つに切り分けた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「私も、そのコタツ欲しいなぁ……」
『ウサギ型魔獣』達の殲滅後、コラキ達は、第二層への入り口である『昇降口』前で小休止していた。
『今のところ、試作なので、販売は考えて無いそうです』
「ん~、残念だよ……」
そんな二人を少し離れた所から眺めながら、コラキと玲人も雑談を交わしていた。
「どうしよう……、コラキ、俺……、今回は本気中の本気かも……」
「いや……、お前が『勇者』ってのは理解出来たけど……、アレ……、どう見てもコタツなんだけど……良いのか?」
「バ……、お前、分かってねぇよ! 絹の様な手触り、雪の様な白さ……、その全身から溢れ出る温かさ……、どれを取っても最高だろ?」
「――うん……、コタツとして……だけどな?」
そして、五分程経った頃――。
「二人供ぉ、そろそろ行くよぉ?」
「レレレレレレレッツ行くです……」
「ん? 結構仲良くなった?」
文字表示で無く、肉声で意思表示をしたこたつに、コラキが少しだけ驚いた様な表情を浮かべ、雛子へと問い掛ける。
雛子は、そんなコラキの問い掛けに対して、誇らしげに胸を張り、「ふふん」と腕を組み、答える。
「ちょっとねぇ~? 所謂、コタツ仲間って感じ?」
「ははははははははははははいぃぃぃ、そそそそそんな感じ……ですぅぅぅぅぅ」
「へぇ? まぁ、仲が良いのは良い事だよな」
「いつか俺も……」
雛子、レイ、コラキ、玲人は、そのまま立ち上がると、代表してコラキが『昇降口』の扉を開く。そのまま、四人は扉の先へと進み――。
『Huuuuuuuuuu!』
――第二層:『金二郎サーキット』へと、足を踏み入れた。
「んで? どうする?」
玲人は、肩に担いでいたバットを杖代わりにして、そのグリップ先に顎を乗せてコラキに問い掛けると、コラキは目の前に広がる運動場と、そこを走り回る『金二郎像型魔獣』、そして第二層で手こずっているクラスメイト達を見る。
『金二郎サーキット』を攻略する為の方法は二つ、『金二郎』とレースして勝つか、力尽くで全ての『金二郎』を破壊するか……である。
但し、『金二郎』全てを相手取るには、『ランクB』以上の『冒険者』と同等以上の戦闘能力が推奨されている。
「どうするって……、走るしかねぇだろ?」
『――です』
――『冒険者養成学校』では『Sクラス』であっても、戦闘能力としては、平均『ランクD』相当とされる三年S組の生徒達の選択肢は、当然ながらレースに勝つしかない。
そんな訳で、コラキとレイの二人は、『Sランク』である事を、クラスメイト達にも公称していない為、そう提案している。
「やっぱりそうだよねぇ……、私、走るの好きじゃないよ……」
「俺は好きだけどなぁ……、あいつ等、速過ぎんだよ。――皇の『エール』は、攻撃力、防御力、瞬発力は強化出来るけど、速度は……なぁ……」
雛子と玲人は、コラキなら何か良い抜け道を知らないかな程度の気持ちで聞いてみたのだが、コラキから正攻法でいくしかないと告げられ、その難易度にガックリと肩を落とす。
すると、そんな皆の反応に、こたつから「待ってました」とばかりにピコンッと音が鳴る。
『ミ、ミィがやります。――『カラースキル』に丁度良いのが有ります』
「え? 本当、レイちゃん…………って言うか、レイちゃん、やっぱり喋るのより文字出す方が好きなの?」
『――楽なので……』
「ま、まぁ、それよりもその「丁度良いの」って、何だ?」
「お、おぅ、お、俺も……すっげぇ……、すっげぇ興味があるっ!」
雛子の「もっと声が聞きたいなぁ」と言う訴えに、気まずそうに揺れるコタツを、コラキと玲人がフォローする。
そして、レイは「いいいいいい行ってきます」と声を絞り出すと、ヨチヨチと運動場のトラック内に足を踏み入れた。
『Huuuuuuuuuu!』
ヨチヨチと歩くレイの背後に、『金二郎』が近付くと、コタツの天板に『顔文字』が現れ、その『顔文字』がパチパチと『金二郎』に向かってウィンクを送る。
そして、その『金二郎』が、レイの隣に並んだ瞬間――。
『Yeah!』
――レースが始まった。
『Hahhaaaaaa!』
『金二郎』は、レースが始まった時点から、その速度を上げ、チラリと後ろを振り返り、レイを小馬鹿にする様に、ニタリと笑みを浮かべた。
しかし、こたつは……。
「ペペペペペペペペペペペペ『ペイント・クリムゾン』……!」
「あ、レイちゃん、今度は赤だねぇ?」
「せ、扇情的だ……」
「玲人……、大丈夫か……?」
コタツはその色を純白から、真紅に変えると、先程茶色に変えた時とは違い、天板をその場から飛ばさず、クルクルと回転させ始める。
そして、コタツは――。
「フフフフフフフフ『フレア・ブースト』ォォォゥ……」
「「「速っ!」」」
天板と布団の隙間から真紅の炎を噴射し、あっという間に対戦相手の『金二郎』と並んでしまった。
『HuuuYeah!』
背後に居た筈のこたつが、突如として隣に並んだ事に驚いた『金二郎』は、口笛をピューッと吹きながら、「お前、中々やるな」と言いたげにニタリと笑うと、その速度を更に上げる。
しかし、『金二郎』が速度を上げた時には、既にこたつの姿は『金二郎』の視界から消え、その遥か前方を進んでいた。
『Hua?』
そして、次に『金二郎』が声を上げた時には、その『金二郎』の全身に亀裂が入リ始め――。
『これで、二周……です』
――そのまま崩れ去り、後には大量の『意思石』だけが残されていた。
「あのコタツ……、やっぱり欲しいなぁ……」
「俺は……要らねぇ……」
雛子が目を輝かせ、コラキが引き攣った笑みを浮かべていると、圧倒的な大差で勝利したこたつがヨチヨチと四つん這いで戻って来た。
『これ、どうします?』
こたつは、大量の『意思石』をその天板に乗せており、コラキ達にソレを見せる様に尋ねた。
「あ、大丈夫だよ? その辺に纏めておけば、後で監視の先生達が回収してくれるよ?」
「そ、そうッス、だから次の層に行って、サッサとクリアして……、お、お、俺とお茶でもしましょうっ!」
『はい』
「………………俺達も一緒だぞ?」
――そして一行は、今回の実習の目標である第三層へと、足を踏み入れた……。
三話で締められなかった……。




