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現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
第一章:二足の草鞋を履いてやる!
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第十四話:迷宮実習に行こう!(2)

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ。


「「「「「…………………………」」」」」


『冒険者養成学校』、三年S組の生徒達の視線が、とある物体に注がれ、沈黙のままにその動きを見守ってる。


 ――カサカサカサカサゴッ………………カサカサ……。


 生徒達の注目を浴びるソレ――純白の……コタツは、Gを連想させる動きと音を出しながら、教室内を縦横無尽に這い回っている。


 しかし、教室内に流れる異様な空気を気にする事無く、教壇に立つ担任は、パンパンと手を叩き、生徒達に声を掛ける。


「あぁ……、改めて紹介しとくぞぉ? 留学生のレイ・ハーンだ、『冒険者』登録済みでランクは『D』、ジョブは……まぁ、仲良く……なれたら、本人から聞けぇ?」


 ――カサカサカサカサ……。


「――え、先生、それだけッスか?」


「パ、パツキンって話じゃ……?」


 生徒達――主に男子――から、口々に不満の声が上がるが、担任はそれを無視して話を続ける。


「んで……、前から言ってたが、今日の五、六限に『迷宮実習』やるかんな? 『適性武具』忘れた奴は、早めに言えよ? それと、実習前に四、五人でパーティ組むのも忘れんな? じゃあ、ホームルーム終了っ!」


 ――カサカサカサカサ……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「おい……、マジで先生(サッチー)行っちまったぞ……?」


「――この……娘? どうするのよ……」


 ホームルーム終了後、一限開始までの十五分休みに突入し、担任にコタツの件を丸投げされた生徒達は、口々に担任への不満を口走り、置き土産である純白のコタツへの取扱いに戸惑っていた。


 すると、生徒達のそんな不安を感じ取ったのか、純白のコタツはプルプルと震え始め、やがて、上下に小刻みに揺れだした。


「――え? もしかして……、謝ってる?」


「あ、いや、悪いのは先生(サッチー)だし……、気にしないで? ね?」


 ペコペコと上下に動くコタツに、女生徒達がその天板を撫で、「大丈夫」、「仲良くしよう」等と取り囲み始める。


「――何だありゃ……?」


 女生徒達とコタツが、ぎこちなくコミュニケーションを取ろうとする姿に、机の上に座った玲人が、訝しげに呟く。すると、その机の主であるコラキは、大きく息を吐き、気まずそうに玲人に告げる。


「ゴメン……、あれ、一応……? 俺の知り合い……」


 コラキは、内心で「いつからあんな格好を?」と考えながら、純白のコタツを凝視するが、そんなコラキのすぐ目の前に、ニュッと雛子が顔を覗かせ――。


「ありゃ? コラキちゃん、眉間にしわ寄ってるよ? 癖になっちゃうと将来困るよ? 私が解してあげよぉっ!」


 ――眉間をグリグリと捏ね回し始める。


「んで? コラキちゃん、お知り合いだって? ――コタツと知り合いとは……、相変わらずコラキちゃんの交友関係が、分かんないよ?」


 コラキは、雛子にされるがままに眉間を捏ね回されながら、「うーん……」と唸りながら、雛子と玲人に向けて、事情を説明する。


「んん? いや、何か、ペリとイグルが拾ってきちまってなぁ……、いきなりの留学で住むとこ無いっつうから、昨日から居候中……の奴だと思う……」


「思うって……また、アバウトだな? 知り合いだろ?」


 玲人がそう聞き返すと、コラキはまたも「うーん」と唸り、続けて「よしっ」と呟くと、スッと雛子の指を眉間から引き剥がし立ち上がった。


「ん? どしたの?」


「いや、本当に知り合いか、分かんなくてな……、確認する」


 コラキはそのまま、女子達に囲まれ、オロオロ――いや、クルクルと回る、純白のコタツまで近付くと、周囲の女子達に「ちょっと借りるよ?」と謝り、コタツの天板をコンコンと叩く。


「あ~、ハーンさん? 俺です、コラキです。――もし良ければ、あっちで話しませんか?」


 見えているかどうかは分から無いが、コラキは親指で教室後方の自席を指差す。


「……………………………………………………………………」


 コタツは、勢いよく上下に揺れ、了承の意を示す。


 ――カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ。


「おぉっ、来た、来たね、コラキちゃんっ! よいよ、よいよぉっ! 私はコタツらぶだよぉ?」


「――うぇ……、俺は……ちょっと、アレを連想する……」


 雛子と玲人が、純白のコタツが移動する姿に、それぞれの反応を見せていると、コラキは苦笑しながら、二人に向けて純白のコタツを紹介する。


「えっと、こちら……、多分、レイ・ハーンさん。んで、ハーンさん、この二人が俺の親友、雛子と、玲人だ」


「どもっ、ひっこって呼んでね?」


「う、うぃっす、玲人ッス……」


 二人は「見えてるのか?」と疑問に思いながらも、ペコリと頭を下げる。


 すると――。


「えええええええええと、レレレレレレレレレイでですっ!」


 ――ソプラノボイスと共に、コタツの中からニュゥっと白い手が伸び、二人に向けて差し出される。


「――え、えっと、よろしく……で、良いのか?」


 恐る恐る、玲人がその白い手と握手を交わし、何度か上下に振る。


「――っ!」


 そして、玲人が何かの衝撃に目を見開いていると、そんな玲人を突き飛ばし、「次は私」とばかりに、雛子がその手をギュッと握る。


「わぁ……、白い……ふにふに……」


 そして、そのまま一分程経過し……。


「――おい? ひっこ?」


 ひたすらコタツから伸びる手をニギニギしていた雛子の様子が心配になって来たコラキが、恐る恐る雛子に声を掛けると、雛子はカッと目を見開き、コラキに告げる。


「――よい……、よいよっ! コラキちゃん、私、この子、パーティに入れたいっ!」


「――えっ? いや、保護者的な立場としちゃあ、ありがたいけど……、玲人の意見も聞いてみないと……」


 そして、コラキが玲人の意見を求めようと振り返ると、玲人は自分の手の平をジッと見つめ――。


「――コラキ……、皇……、俺……、変だ……、そのコタツを見ると、何だか胸がアツいんだ……」


 ――思い詰めた顔で、そう答えた。


「え? れ、玲人……?」


「オォウ……、流石『勇者』だよ……」


 そんな友人達の反応を、フッと哀愁漂う表情で見ながら、玲人は話を続ける。


「パーティ? 組みたい……、俺は……、そのコタツに入り――いや、コタツを是非ともパーティに入れたいっ!」


 そして、一人の少年の『冒険者養成学校』入学後、十数度目の初恋と共に、純白のコタツは、コラキ達のパーティに迎えられる事となった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その後――。


 一時限目:古文。


『――『ねんごろなり』』


 古文教師の出題に対して、コタツはその天板に文字を浮かべる。


「せ、正解……ですけど……、ですけどっ! ハーンさんっ? 回答は文字でなく、口でお願いします……って言うか、そのコタツどうなってるんですっ?」


 二時限目:英語。


『――『I do not want to work』』


 英語教師の本場の発音を聴かせて? と言う要望に対して、コタツの天板から電子的な音声が流れる。


「はい、良い発音でしたねー? って、違いますよね? 今の、どう考えても、男性の声でしたよね? え? 教材? 教材を流したの? そのコタツ、CD流せるんですか?」


 三時限目:家庭科。


 ――チーンッ!


 聞きなれた音と共に、コタツの天板が開き、中からアツアツのピザが飛び出してくる。


「え、何そのコタツッ! どこ? どこのメーカー?」


 家庭科教師の質問を受け、天板に『ドクトリーヌジバ』の文字が浮かび上がる。


 四時限目:迷宮座学。


「はい、ではインド洋の迷宮、『レムリア』の通称は? はい、ハーンさん」


「…………………………ポテト……」


 ――正解は『Labyrinth・the・Moffmoff』であるのだが……。


「「「「「――寝てるっ?」」」」」


 不正解どころか、居眠りの証明ではあったが、それよりも、コタツから聞こえた、寝言らしき、可愛らしいソプラノボイスに、一同は驚き、声を上げていた。


 ――そんなこんなで五時限目:迷宮実習。


 三年S組の生徒達は、初心者向けの『迷宮』である、『異界小学校』へと来ていた。


 移動用のバスから降りた生徒達が、パーティ毎に整列すると、最後にバスから降りた担任が、名簿と生徒の顔を見比べた後、満面の笑顔で叫ぶ。


「よしっ! お前らぁっ! 気合入れていくぞぉっ!」


 早朝とは打って変わって、上機嫌、ヤル気満々の担任に、生徒達は白い目で睨み付ける。


「ふ、ふふふ……、昼時にエンジェル・メールが来てな? 今のオレは、マジパネェぞ? ――ってな訳で、いつもの事だが説明すんぞ? 今からパーティ毎に十分間隔で『迷宮』に入って、今日は……、そうだな、三層まで行って戻って来い、以上」


 担任はそう告げると、両手をパンパンと打ち鳴らし、最初のパーティに『迷宮』に入る様に促す。


 そんな中、順番的には最後であるコラキ達のパーティは、新規メンバーである純白のコタツ――レイを取り囲み、作戦会議を行っていた。


「んで? 前衛は玲人だろ? 中衛は俺、後衛はひっこだけど、ハーンさんは、どこが良い? っつうか、ジョブの特性だけでも聞いて良いか?」


「そうだね? レイちゃん、レイちゃん、教えて?」


「………………ほぅ……」


 コラキと雛子、そして、頬を赤らめる玲人の顔を見渡しているのか、レイはクルクルと回転し、やがて上下に揺れた。


 そして、天板の上に文字が現れる――。


『――ジョブは、魔法使い系のジョブなので、後衛がよいよです』


「ん? 魔法使い系ってのはありがたいな」


「そだねっ、私達のパーティ、遠距離火力無かったからねぇ……」


 そして、そのまま戦闘時の配置や、簡単なフォーメーションの打ち合わせ等を行った所で――。


「次ぃ、コラキパーティ、行って来い」


 ――お呼びがかかり、コラキ達は『異界小学校』へと足を踏み入れた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ん~、この間はバスからだったけど、歩くとなると結構広いよね?」


「そうだなぁ……」


 雛子とコラキは、そんな会話をしながらチラリと自分達の後ろに目をやる。


 すると――。


「ど、どうですか? 歩きにくくないですか?」


 玲人がコタツ布団の裾を持ち、エスコートする様に、コタツのすぐ前を歩いていた。


 コラキはため息を吐き、足を止めると、呆れた様に口を開く。


「えっと、ハーンさん? 流石に危ないから……、コタツから出た方が、良くないか?」


 雛子と玲人もそれは心配していたらしく、無言ではあるが、コクコクと頷く。


 すると――。


「…………………………」


 ――突如、コタツがプルプルと震え出す。


「え? も、もしかして、言ったら駄目だった? 気を悪くしたなら謝……る……けど……?」


 コラキが謝ろうとすると、コタツの震えは止まり、続いてその場で跳ね上がる。


「――っ!」


「おぉっ?」


 空中でクルクルと回転すると、コタツからジャキンッと言う効果音と共に、白い手足が生えて来た。


 やがて、手足の生えたコタツが着地すると、コタツはその上部から、碧の目をちらつかせながら、ガッツポーズを取る。


「――え、えっと……、それは、心配無用って考えても良いのか?」


 ――コタツが上下に揺れ、コラキの言葉を肯定する。


「ま、まあ、レイちゃんが大丈夫って言ってるから、多分、大丈夫だよ」


「そ、そうだぜ? さっさと終わらせて、皆で何かカフェでも行こうぜ?」


 固まるコラキに、雛子と玲人がそう告げて、一行はバランスが取り辛いのかヨチヨチと動くコタツと共に、再び動き始めた。


 ――そして、暫く歩き、そろそろ第二層への入口が見えて来る……と言う所だった。


「――来たぞっ! ウサギ型………………大群だっ!」


 前衛である玲人が、普段のスケベ顔とは違う、真剣な表情で、そう叫んだ――。

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