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現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
プロローグ:学費を稼げ!
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第二話:私の猫を探して!(2)

続きです、よろしくお願いいたします。

「それでは、幾らか質問させて頂いても、宜しいでしょうか?」


 三白眼の少女――イグルが淹れたコーヒーを勧めながら、褐色肌の少年――コラキは、清楚な雰囲気の依頼人女性――『山手玲奈(やまで れいな)』と言うらしい――に尋ねる。


 玲奈は、コラキの問い掛けにコクリと頷き、コーヒーを一口だけ含んで、喉と唇を湿らせると、ゆっくりと顔を上げた。


「それでは、ま「猫ちゃんのお名前は何て言うの?」………………お願いします」


「え? あ、はい……、『ラ・権三郎』です……」


 玲奈が目の前に、ダルマ状態で重なった兄妹を、引き気味に見つめながら、それでも愛猫の為と言い聞かせ、答える――。


 一方、たれ目の少女――ペリの胸に押し潰された状態のコラキは、不機嫌な表情を浮かべつつ、無言でコーヒーを啜り、イグルに目を向ける。


 すると、イグルは、兄と姉の様子を、事務員用のデスク越しに眺めながら、肩をプルプルと震わせ、笑いをこらえ、報告書へと書き込んでいく。


 コラキは、「ちゃんと書いてるなら良いか……」と、ため息を吐き、ペリを見上げると――。


「――ほら、次……」


 ――そう言って、ペリに目配せする。


「――っ♪ えと……、えっと……、あっ、普段の飼育はどうしてるの?」


「はぁ……、えっと、いつもは……、室内で遊ばせてたんですけど……」


 それから暫くの間、コラキ達は、玲奈に普段の飼育の様子から、居なくなった事に気が付くまでの状況を尋ねていく――。


 玲奈の愛猫『ラ・権三郎』は、室内飼育の猫である。――まだまだ、小さいと言う事もあり、飼育を始めてから今まで、自由に外出させた事は無かったとの事。


 それが今朝、いつもの様に餌をやろうと、リビングで名前を呼んでみるものの、一向にまっしぐらしてくる気配が無い。


 どこかに挟まっているのかと、家中を探してみても、どこにもいない……。


 ――そして、そんな家探しが、二時間ほど続いた時、玲奈は気が付いてしまった……。トイレの小窓が空いており、そこに、愛猫の物と思われる、黒い毛が付着している事に……。


 それから、玲奈は慌てて外に飛び出し、『ラ・権三郎』の名を呼び、駆け回った。


 ――駆け回り、駆け回り、ふと、街の噂を思い出し、藁にも縋る思いで訪れたのが……、コラキが所長を務める、この『天鳥(たかとり)探偵事務所』だった……と言う事らしい……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――はい、ありがとうございます、これで山手さんからお聞きしたい事は全部となります」


「ご協力、ありがとうなのっ!」


「お疲れ様です」


 コラキ、ペリ、イグルの三人が、玲奈の対面にあるソファに並んで座り、動きを揃えて、ペコリと頭を下げる。


 そして――。


「取り敢えずは、ご自宅で連絡をお待ち下さい、何か進展があればご連絡させて頂きます」


 そう言って、コラキは玲奈の手を取り、事務所の入り口まで案内する。


「――どうか……、よろしくお願いいたします……」


 最後に、玲奈はそう言って、頭を下げると、そのまま事務所を後にした――。


「んで? どうするです?」


「どうするって……?」


 玲奈の姿が見えなくなった事を確認すると、イグルがコラキに向けて、そんな質問を投げかけた。


 コラキは、イグルの「分かるだろ? ああん?」と言いたげな顔から、二、三歩遠ざかると、目を泳がせ、答え始めた――。


「えっと、まずは各方面に聞き込み――と言うか、電話かな? 相手は、ペットショップ、保健所、動物病院って所か……」


「――何でなの?」


「ん? もしかしたら、業者にとっ捕まって、売られてたり、事故にあってたり、保護されてたりするかもだろ?」


 来客が居なくなった途端、ソファでゴロツキ始めたペリが、いつの間にか取り出したアイスを頬張りながら、尋ねると、コラキは表情を変えず、そう答えた。


「うぐ……、効率的な感じが、しないでもないですけど、いきなりそんな、最悪の状況を考えてからスタートってのも、モチベーション下がるです……」


「私も……、保健所に追い回された記憶がフラッシュバックするの……」


 青い顔をして身構えるイグルと、頭を抱えてソファでガクガクと震えはじめるペリに対して、コラキは得意満面の笑顔で、「チッチッチ」と人差し指を左右に振る。


「――「男は、絶望から潰していけ、希望は後から積んでいくもんだ」って、おやっさんからのアドバイスだ……」


 その言葉を聞いた瞬間――。


「――っ! やるですっ!」


 目を輝かせたイグルが、サックサクと各所に電話を掛けていく――。


「コラキ……、今のはちょっと、卑怯なの……、イグル……、男でも無いの……」


「――まあ……、嘘は言ってない……、嘘は……」


 正確には――。


『……だから、だから、俺は負けてなんかないっ、今日っ、飲み過ぎて、かみさん達から踏んず蹴られても……、明日っ、二日酔いを面白がられて、娘達から弄ばれても……、泣いたり……、泣いたりなんかするもんかぁぁっ!』


 ――と、続くのだが……、かの人物に一瞬の幻想を抱いているイグルに、その真実を伝えるのは酷な話だと、コラキは肩を震わせ、ペリにも黙っている様に告げる。


 やがて、該当施設全てに確認を取ったイグルは、勝ち誇った顔で――。


「――やったですっ! 『ラ・権三郎』っぽい、子猫はどこにもいないっぽいですっ」


 と、報告した。


「――本当なら……、アレ、『調査員』の、お前(ペリ)がやんなきゃなんだぞ……?」


「えへへ……、次から頑張るの」


 ――「また一歩、『おやっさん』に近付いたですっ」とはしゃぐ末妹に、兄と姉は良心が痛むのを感じながら、密かに反省し、そのままイグルを労う。


 そして――。


「じゃ、俺は依頼人の家を中心に回って来っから、イグルは事務所で待機、ペリは商店街で目撃情報が無いか、聞き込みよろしく」


「「ハーイっ!」」


 そしてコラキとペリは、イグルが電話を掛けている間に、コラキが作り上げた『迷い猫探しています』のチラシを手に、事務所から飛び出す。


 一方のイグルは、ここまでの経過を纏める為に、そして、情報の中継点となる為に、事務所で待機する。


 ――三人は、それぞれの役割に従って、行動を始めた……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 閑静な住宅街……、とある大きな家の壁上に、一匹の三毛猫が寝そべっている。


「――ぶなぁ?」


 三毛猫が、眠気をタップリと残したまま、その片目を開けると――。


「――かぁぁっ!」


 艶やかな毛並みの、真っ黒なカラスが、その三毛猫の前に、舞い降りた。


 カラスは、その片翼をスッと上げると、まるで旧知の仲の様に、三毛猫の頭にポンポンとその片翼を乗せ――。


「かっか、かぁか?」


 ――「ちょっと、良いか?」とでも言わんばかりに、ウィンクした……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「んー、黒猫ですか? ――ちょっと、見かけてないですねぇ……」


 これで、通算何人目であろうか……。


「そうなの……、ご協力、感謝なの……」


 何ら収穫の無い聞き込みにウンザリしながら、ペリは八百屋の奥さんに、チラシを手渡し、「何かあったらよろしくなの」と、頭を下げる。


「ラ・権座衛もーん、ラ・権座えもーん……、長いの、この名前………………あっ、無くなったの……」


 背中に背負ったリュックを探り、手持ちのチラシが無くなった事に気が付き、ペリは一度事務所に戻るか、考えた後――。


「んー、メンドイの……、このまま探すの。えっと、チラシは捌けたから、後は……、猫の気持ちになってみる……? ――うん……、ラゴン、ラゴーン、出て来るのっ! お前は、既に包囲されているのっ!」


 ――犯人逮捕と、迷い猫確保を混同しつつ、ペリは商店街を、四つん這いでうろつき回り、通りがかる青少年と、紳士達を悩ませるのであった……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――電話番……、暇です……」


 事務机に突っ伏して、イグルは一人呟いていた。


 先程から、掛かってくる電話は、コラキからの経過報告と、ペリからのスイーツ情報のみであり、報告書に関しても書き終わってしまった以上、彼女にとって、この待機時間は、電話の前に座ると言う、新手の拷問へと変わってしまっていた。


「んー、ここら辺も、バツ……です?」


 手持ちぶさたで広げてみた地図に、コラキ達から得た情報――未確認と言う情報を記していく。


 すると――。


「――あ、進入禁止区域が、まだです」


 若干古めの……、十年以上前に発行された地図――イグルの手によって、バツ印だらけとなった、その地図の上に、一か所だけ綺麗に残った『〇〇スーパー』の文字……。


「ふむ……」


 イグルは、「どうせ暇だし」と考え、電話を留守電にし、事務所の鍵を掛け、ドアに『クロウズ』と書かれた板を掛けると、そのスーパー跡地を目指して、駆け出した。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「うわ……」


 スーパー跡地に到着したイグルは、目の前の光景に、思わず声を上げる。


「ふぅぅぅなぁぁぁっ!」


 クレーター状に窪んだ、スーパー跡地の駐車場では、一匹の黒い子猫が、溺れる様にもがいていた。


 ――駐車場で……、陸上で……、溺れると言う異様な光景に、イグルはどうやってあの猫を助けようかと、頭を抱え……。


「――取り敢えず、ヘイト見て……、コラキ達を呼ぶですか……」


 ため息を吐くと、自らの手で、両頬を叩いてから、その三白眼を限界まで開き――。


「見せるです……、貸しやがれです……『鷹の目(パラ・サイト)』ッ!」


 その瞬間、イグルの前に半透明のスクリーンが現れた。


「――えっと、コラキは……、ここ、ペリは……、あっ、サボってやがるですっ!」


 イグルは頬をプックリと膨らませて、スクリーンに映る、黒い点と、白い点を、トントンっと、タッチし、すうっと息を吸い込んだ――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ふぅ……、一回戻るか……」


 コラキが、住宅街の壁に寄り掛かり、シャツの襟を緩めると、コラキの背後で「ピンポーン」と言う、間の抜けた音がする。


「――っ!」


 コラキは、その音に気が付き、真剣な顔になると、その音を出したであろう、白い長毛の猫を見つけ、その鋭くなった、三白眼をジッと見つめ、湿ったその鼻をグッと押し込んだ。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あふっ……、ここのクレープはマーヴぇラスなの……」


 ペリが、閉店間際のクレープ屋に駆け込み、大急ぎで注文したチョコミントクレープに、心奪われていると、目の前のクレープ屋から、「ピンポーン」と言う、間の抜けた音がする。


「あ……、バレタの?」


 冷や汗を流しながら、ペリはその音を発し続ける、クレープ屋の店長にそっと近づき、その三白眼を見つめ、脂ぎったその鼻に食べ終えたクレープの包み紙を、押し当て、パァンっと、叩いた。


 そして――。


 同時刻、二つの異なる場所で、異なる口から、舌っ足らずな……、三白眼の少女の声が鳴り響く――。


「「マルタイ発見、進入禁止区のスーパー跡地です、ただ……、ヘイトほぼ限界、『魔獣化』するですっ!」」

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