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現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
第一章:二足の草鞋を履いてやる!
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第十話:うちのポチを鍛えて!(2)

続きです、よろしくお願いいたします。

ふぁふぁいふぁ(ただいま)ふぁふぉ(なの)っ!」


 口いっぱいにジャガバターを詰め込んだペリが、事務所に戻ると、微妙な表情でソファに並んで座るコラキとイグルが目に入って来た。


 ペリはキョトンとしながら、二人の対面のソファに座り、隣に座っていた幼児を見つけ、一瞬だけ頭を傾げ、そのまま「よいしょなの」と呟き、自分の膝に乗せ、ギュッとホールドすると、口に詰め込んでいたジャガバターを一気に飲み干し、問い掛ける。


「そんな顔してどうしたの?」


「――いや、お前……、何事も無かった様に、見ず知らずの子供をぬいぐるみ扱いするんじゃねぇよ……」


「――あ、良いな……」


 幼児を抱きかかえ、キョトンとしたままのペリに、コラキが呆れ顔で、イグルが物欲しそうな顔で答えると、ペリに捕まった幼児が、背中からの感触によって、何かを思い出したのか、小さく「あっ」と叫ぶ。


「えと……、そろそろ、ママがおむかえにくるから、よーちえんにかえるっ!」


「――そっか……、じゃあ、イグル、ペリ、今日はこの子を送ったら家に帰るか?」


「「はぁいっ!」」


 そして、翌日――。


「昨日はどうも、うちの子がお世話になりまして……」


「あぁ、いえいえ、お気になさらず……、こちらも妹達が相手して頂きましたし」


 ――コラキは、前日、幼児を送り届けた際に、保育士に幼児から依頼があった事を伝えた上で、「もし良ければお話を聞かせて下さい」と伝言を頼んでいた。その結果、現在、コラキ達は、幼児の家にお邪魔していた。


 幼児――名は『長崎ながさき 健祐けんすけ』と言うらしい――の母親は、イグル、ペリと遊ぶ健祐の様子を、目を細めながらチラリと見た後、クスクスと笑い、コラキに話し始める。


「――あんなに懐いて……、お宅、ベビーシッター的な業務はやってませんの? 出来れば、毎日お願いしたい位です……っと、それで、何でしたっけ?」


「え? ああ、えっと、昨日、健祐君がウチの事務所に来て――」


 一瞬、コラキは「検討してみるか……?」等と考え、うわの空であったが、健祐の母に用件を尋ねられると、慌てて我に返り、健祐の母に、昨日の出来事――迷子であった事、コラキ達の元に来て、ポチを『魔獣』にしてと頼んで来た事――を、一つ一つ、説明していく。


「――と言う事なんですが、何か……その『つよしくん』に関して知っている事があれば……」


「つよし君ですか? ――確か……、ご近所でも評判になってましたわね……、何でも、飼っていたハムスターを、『魔獣』にして飼いならしているいるとか……」


 その言葉を聞いた、コラキと、『鷹の目(パラ・サイト)』を発動し、会話を録音していたイグルの動きがギシリと固まる。


 何故ならば――。


 通常、『魔獣』となった直後の生物は凶暴化し、時には同種や、下手をすれば我が子にですら襲い掛かる事がある。


 そんな、『魔獣』が、理性的に……、ましてや人に飼い慣らされる事など、通常は有り得ない事である。


 ――幾つかの例外を除いては……。


 コラキとイグルは、その例外の可能性を真っ先に考え、互いに目線を合わせ、コクリと頷き合う。


「すいません、そのつよし君の家を教えて頂けますか?」


 コラキは、「まさかな……」と考えつつも、健祐の母につよし君とやらの家を尋ねる。


 すると――。


「――あっ、なら、ボクがあんないしてあげるっ!」


「――えっと、健祐君、ちょっと危ないかもです……、お留守番「やぁだっ!」」を……」


 ――コラキが『魔獣』となったハムスターを見に行く、と言う話を聞いた健祐が駄々を捏ね始めてしまった。


 イグルは、オロオロと、健祐に「危ないです」と、同行を却下し、コラキと健祐の母に、目で助けを求め、ペリは、そんな健祐の頭に齧り付き、ホフホフと息を送り込んでいる。


「あの……、でしたら、子守の依頼と言う事で……どうでしょう? 私、ちょっと旦那の忘れ物を届けに行かなくてはならなくて……、その間、健祐の……、護衛を兼ねた子守をして頂けませんか? ――その……、つよし君のハムスターの事も、やはり、心配ですし、対応して頂けるならば……、私としても……」


「え? いや……、でも……ですね? もし、俺達の考えている通りなら、結こ「五十万程で宜しいでしょうか?」――やりましょうっ!」


 こうして、条件反射的に依頼を引き受けたコラキ達は、健祐を連れて、件の『つよしくん』の元へと足を運ぶ事になった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あのね? それで、シュゴーってはやかったんだよっ!」


「パウッ!」


 現在、コラキは肩に健祐を担ぎ、その手には犬のリードが握られ、リードの先では小さな白い犬が、ペタペタとコラキの半歩前を歩いている。


「だけどね……? ポチとけんかしちゃって、ポチ……、ハムちゃんにバシンってされたの……」


 健祐の話を聞きながら、コラキは事情を頭の中で整理していく――。


 まず……、『つよしくん』のペットであるハムスターが『魔獣化』したのは間違いないらしい……。


 そして、そのハムスターは、何故か飼い主である『つよしくん』の言う事は聞くらしいが、ハムスターと健祐の飼い犬、コラキの半歩先を歩く小さな白い犬――ポチと、何らかの理由でケンカをしたらしく、ポチを吹き飛ばしてしまったとの事。


「……で、悔しいからポチを強くして欲しい……か?」


「うん……」


「パゥゥゥ……」


 コラキの問いに、健祐はコクリと頷き、チラリとポチを見てそう頷いた。


「まぁ、気持ちは分かるけどな……」


 そして、一行はそのまま散歩代わりにと、寄り道しつつ、『つよしくん』の家に到着した。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あら、けんちゃん? つよしなら、今、ハムちゃん連れて公園に行ってるのよ……、ごめんなさいね?」


 一行が『つよしくん』の家を訪ねると、どうやら一足違いで、『つよしくん』は公園に向かったらしく、『つよしくん』の母親らしき女性に、そう告げられていた。


「――あ、すいません、俺、健祐君のお母様から、子守を依頼された者なんですが、ちょっと、お聞きしたい事がありまして……」


「? はぁ? 何でしょう?」


「実は……、『つよしくん』のペットが『魔獣』になったというお話を聞いて、健祐君もポチをそうしたいと、駄々を捏ねてまして……、もし宜しければ……と言うか、心当たりが有りましたら、その……やり方を教えて頂けないでしょうか?」


『つよしくん』の母親は、最初は子供について来たコラキ達を訝しんでいたが、コラキの「健祐君が駄々を捏ねた」の辺りで、苦笑し――。


「ウチも、つよしに駄々捏ねられて大変だったのよぉ。――あの子も、もう少し、しっかりしてくれれば良いんだけど……、貴方達も、大変ねぇ? ちょっと待っててね?」


 ――この時点で、まさか本当に心当たりがあるとは思っていなかったコラキ達は、目を見合わせて、静かに頷き合う。


「はい、お待たせ、何かね? この業者が『魔獣』を無害化する新薬の研究をしているらしくてね? その試供品を、格安で売って貰ったのよぉ」


 そう言って『つよしくん』の母親は、コラキに怪しげなチラシのコピーを手渡す。


「こ、これは……、ありがとうございますっ!」


 コラキは、ゴクリと喉を鳴らし、お礼を告げると、その足で『つよしくん』が向かったと言う公園を目指した――。


 ――その道中……。


「――どう思う?」


「怪しさマックスなの」


「――って言うか、そんな危なそうな試供品を試すとか、信じられないです……」


「うーん……、ママにそのおくすりかってもらったら、ポチ、まじゅーになります?」


「「「絶対ダメっ!」」」


『つよしくん』の母親の話と、貰ったチラシのコピーから、どうやら『つよしくん』のペットは、怪しげな注射によって『魔獣化』したらしい。


 ――『つよしくん』の母親が、そんな怪しげなモノに手を出した理由はともかくとして、コラキ達は、そのチラシの『私もこれで、ペットを『魔獣』にしました』と言う、怪しげな人物に注目していた。


「――あの人……、まだ懲りてないのか……?」


「ねちっこいの……」


「何がしたいんです?」


 コラキペリ、イグルは、その写真に写った、白衣の人物を見ながら、ため息を吐き、公園への道を急いだ――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「何だありゃ?」


 公園に着いたコラキ達が見たのは、よく分から無い光景であった。


「ほらっ! ハムちゃんっ! うけとめるんだっ!」


「――っ!」


 健祐と同年代らしい男の幼児が、細長い発泡スチロールを茶色に染め、丸太っぽくしたモノを滑り台の上から、その下にいるバレーボール程の大きさのハムスターに向かって転がしている。


「うわー、らくせきだー!」


 茶色の発泡スチロールを受け止めたハムスターに向かって、続けて転がされるのは丸い発泡スチロールを灰色に染め、岩石っぽくしたモノ……。


「ぜぇ……、こんガキャ……ちったぁ……休ませろや……!」


 ゆっくりと転がって来る岩石模様の発泡スチロールを受け止めた巨大ハムスターは、小さな声でそう呟くと、受け止めた岩石模様を投げると同時に、唾を吐き捨てる。


「……どうです、コラキ?」


「むむ……、外見に見合わぬ、渋い声だったの……」


 イグルとペリは、巨ハムを見て、「うわぁ……」と呟くと、コラキの顔を見て判断を待っている。


「――うん、あの中途半端な感じ……、アウトッ! イグル、『鷹の目(パラ・サイト)』で、周囲一キロの監視っ、ペリ、臨戦態勢のまま待機っ!」


「はいですっ!」


「了解したのっ!」


 そう二人に指示した後、コラキはつよしに警戒されない様にと、健祐の手を引き、滑り台まで近付いていく。


「――よおっ!」


「けんちゃん? それと……おにいちゃん、だぁれ?」


「ん? まぁ、けんちゃんの友達……みたいなもんだ、それより、そのハムスターが『魔獣』になったってハムスターか?」


「うんっ! このお注射で、まじゅーになったんだよ?」


 つよしの手に握られたそれには、まだ少し、薬液が残っているらしく、つよしはそれをしっかりと握りしめていた。


「………………実はな? 俺、『魔獣』と話せる『スキル』を持っててさ……、普段は皆、襲ってくるばっかりで、あんまり使った事が無いんだよ……、ちょっと、そのハムちゃんと話してみてもいいかな?」


 どう考えても怪しいコラキのデマカセに、つよしは暫く「うーん」と唸った後……。


「いいよーっ!」


 そう言って、ハムスターを摘み上げ、コラキに手渡した。


「おぅ、すっげぇあっさり……。――あ、ありがとうな? じゃあ、積もる話もあるから、ちょっと、けんちゃんと一緒に、あそこの白いお姉ちゃんと遊んで来な?」


「「うんっ!」」


 そして、テテテとペリに飛び込んでいく子供達を見送ると、コラキはハムスターを顔の前まで摘み上げる。


 そして、そのまま鋭い目線をハムスターに向けると、小さな声で話し掛ける。


「――おぅ……、お前……、話せるんだろ?」


「――なっ! に、兄ちゃん……、何でわかった?」


 コラキは小さく「やっぱりか……」と呟くと、続けてハムスターに問い掛ける。


「お前……、大きさはともかくとして、形は元のままだが……、自分が『伯獣』って自覚はあるか? あの子を……、あの子の家族を騙してどうするつもりだ?」


「? はくじょう? オイオイ、兄ちゃん……、腐ってもこのハムちゃん……、不義理な事はしねぇぜ? 儂の『ハム道』は、義理とハム情で敷き詰められてんでぃ! ――だからこそ、何時間もひたすら繰り返される『探検隊』ゴッコに付き合ってんじゃぁねぇかっ!」


「え? お、おぅ……、何か……悪いな……」


 手の平を上に向け、「てやんでぃ」と泣きながら『探検隊』ゴッコの辛さを語るハムスターに、引き攣った笑みで詫びを入れながら、コラキは「自覚は無いのか?」と呟き、そのまま五分程、ハムスターの愚痴を聞き続ける……。


 その時だった――。


「けんちゃんっ!」


「――っ! イグル、どうしたっ?」


 イグルの叫び声に、コラキが振り返ると、ペリとイグルから少し離れた所、丁度、公園を出てすぐの道に、健祐、つよしがボォッと立っていた。


 そして、そんな健祐の前に突如として現れていた無人のトラック――。


「パウッ! パウッ!」


 健祐の前では、ポチが跳ね回り、袖を引っぱっているが、何故か健祐は動こうとせず……。


「――っ! 間に合わないのっ!」


「クッ……」


 ペリとコラキが駆け出すが、健祐達とトラックの間は後数メートル……、対して、コラキ達との間は、数十メートル……。


 コラキ達が、最悪の事態を想定したその時――。


「――パウッ!」


 ポチが、つよしの手に握られていた注射器を噛み砕き、その中の薬液を飲み干してしまった――。


「「「――ポチっ?」」」


 ギョッとした表情を浮かべるコラキ達を他所に、紫色の煙を上げながら、ポチはトラックと、健祐達の間に立ち塞がり、そして――。

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