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現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
第一章:二足の草鞋を履いてやる!
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第九話:うちのポチを鍛えて!(1)

続きです、よろしくお願いいたします。

「今日はおでんにするですかねぇ♪」


 ――寂れかけた商店街、『幻想商店街』に『ぶらっでぃ』と書かれた看板を掲げた八百屋の前で、制服姿に茶髪ポニーテールの長身、三白眼の少女がつま先で地面を叩き、何かのリズムを刻みながら大根を手に取っている。


 その三白眼の少女――イグルは、店先に並んだ大根の中から、一際大きなモノを手に取ると、スッと背筋を伸ばし、その大根を目線の高さまで持ち上げる。


「――むっ? 我を呼ぶのは……、お前ですっ?」


 と、親友の真似をしながら、大根を刀の様に構え、不敵な笑みを浮かべる。


「あ~、イグルちゃん……、それで良いのかい?」


「――ふぁおっ! は、はい……、それと……、そこの里芋も、お願いするです……」


 ここが店先である事を失念していたイグルは、店主であるおばさんの気まずそうな声で、我に返り、一気に顔を真っ赤に染め上げる。


 そんな、イグルに生温い目線を送りながら、店主のおばさんは大根と里芋をイグルの買物袋に詰め込みながら代金を受け取ると、お釣りの準備をしながら――。


「まぁ……、ウチの息子もそんな時期があったからさ……、気にしないで良いんでない? ほい、お釣り」


「うぅ……、かたじけないです……」


 こういう時に限っては、優しさが痛く感じられ、イグルはお釣りを受け取ると、逃げる様に八百屋を後にした――。


 ――そして、その帰り道の事だった……。


「――キャッ!」


「――ってぇっ!」


 八百屋から逃げ出し、商店街の角を曲がったイグルは、突然の衝撃に思わずよろけ、一歩、二歩と後ずさる。


 その瞬間、イグルの脳細胞はフル回転し、この状況を分析し始める――。


「こ……、これは、もしかすると、伝説の『曲がり角ゴツン』です? ふぉぉ……、つ、遂に、ウチにも、りあびーすとのチャンス到来です?」


 ブツブツと呟くイグルの目には肝心な相手の姿が見えていない。


 そして、衝突の衝撃に耐え切ったイグルとは違い、地面に尻餅を突いてしまった相手は、地面に座り込みながら、呟くイグルに向けて、口を開く。


「――あの……、おこして? おねえちゃん……」


「そ、そうです……、まずは起こしてから……って……、お姉ちゃん?」


 現実に戻って来たイグルの眼下には、近所の幼稚園のスモックを着た男の子がいた……。


 イグルは、内心で「まぁ、そんなもんです……」と項垂れ、その幼児に向かって手を差し伸べ、微笑む。


「あぁ……、ゴメンです……、ぼく?」


「えと、およそみしてたボクもわるかったので、おあいこです!」


 イグルに、スモックに付いた砂を掃ってもらうと、幼児はそのままイグルにペコリと頭を下げ、テテテとまた走り出そうと……して、ピタリとその動きを止める。


「おぁっ! ど、どうしたです?」


 イグルは、熟練のサッカー選手でも対応できるかどうかという、幼児特有の軌道に戸惑いながらも、その幼児に問い掛ける。


「えと、ボク、なんでもやさんにあいたいのっ! おねえちゃん、しらない?」


 差し出されたメモを見て、イグルは「またか……」と、ため息を吐き、幼児に再び微笑みかける。


 そのメモに書かれていたのは、イグル達が営む『天鳥(たかとり)探偵事務所』に行く為の、かなり大雑把な地図であった。


「こんなので、よくここまで来れたです……、ここ、お姉ちゃんのお店ですから、一緒に来るです?」


「――っ! うんっ!」


 パァッと笑顔で頷いた少年の手を引き、イグルは「探偵なんですよ……」と、苦笑しながら事務所に向けて歩き出した。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 イグルと幼児が、古ぼけた三階建てのビルの二階にある『天鳥(たかとり)探偵事務所』に入ると、事務所の中央に置かれたガラステーブルの、更に奥にある焦げ茶色のオフィスデスクでは、褐色肌のツリ目少年、事務所所長のイグルが、黒のオフィスチェアでクルクルと回転していた。


「今、帰ったです……」


「お、イグルお帰り……って……、どうした、その子供……?」


 オフィスチェアの回転を止めたコラキは、イグルと手を繋ぎ、緊張した面持ちの幼児を見て、不思議そうに、顔を傾ける。


「んっと、お客さん? です?」


「客ぅ? 依頼人って事か?」


 コラキの答えに、イグルもまた、「んんっ?」と首を傾げ、話題の中心である幼児の顔を覗き込む。


 幼児は、イグルとコラキの顔を交互に見比べると、緊張した面持ちはそのままに、口を開いた。


「あの、こ、ここ、なんでもやさんですか?」


「ん? んん……、まぁ……、本当は探偵事務所なんだけどなぁ……、一応、何でも屋って言う人も……いたりするかなぁ?」


 コラキは、「はは……」と乾いた笑いを浮かべると、イグルに目線を送り、幼児をソファに座らせる。


「えっと、ぼくはオレンジジュースと、リンゴジュース、どっちが「リンゴっ!」……ふふ……、分かったです」


 そして、コラキは幼児の反対側ソファに座ると、そのまま幼児に尋ねる。


「――で? どうした? 迷子か?」


 幼児はプルプルプルと首を振ると、グッと身を乗り出して、コラキに向かって答える。


「えとね? ボクんちのポチを、強くして欲しいの……」


「はい、リンゴジュースです……」


 幼児は「ありがとうございますっ!」と頭を下げると、夢中になってリンゴジュースに口を付ける。


 イグルとコラキは、その様子を微笑ましく見守りながら、幼児がコップから口を離すまでを待つ事にする。


「ふぉぁ……、あっ、ペリはどうしたです?」


「ん? ああ、何か「おでんの具でトマトは是か非か気になるの」って言って、『ぶらっでぃ』に行ったんだけど、途中で会わなかったか?」


「うぇ……、本気です……?」


「………………トマトは、あまいのだと、いいなとおもいます」


 気が付けば、リンゴジュースを飲み終えたらしい幼児が、ジッと二人を見ていた。


「あ、ああ、悪い……、依頼……だよな? ――で、まずは、どうしてここに?」


 コラキが、少しの間ではあるが、幼児を放置していた事を気まずく思い、苦笑いを浮かべながら幼児の目を見て尋ねると、幼児はその手にギュッと握り締めていたモノを取り出し、コラキに向かって差し出す。


「え、えとね? イクトミくんとこの、おかあさんたちが、「なにかあったら、ここへいきなさい」って、くれたの」


 コラキは、先程イグルも見たと言う、幼児から渡された紙に書かれた地図と、その裏に書かれた「よろしゅう♪」と書かれた文字を見て、またも「はは……」と笑い、イグルにもその裏の文字を見せる。


「う……、コレは……」


「断ったら……、マズイかなぁ?」


 そして、二人は頷き合い、改めて幼児の顔を見る。


「――じゃあ、お話を聞かせてくれるです?」


「何だっけ? ポチを……?」


 幼児は、コラキの確認を兼ねた呟きに反応し、勢いよく答える。


「うんっ! ボクんちのポチを、つよくしてほしいのっ!」


「強く……? ポチって……、やっぱ犬か? 闘犬でもやるのか?」


 幼児は「とうけん?」と、不思議そうな表情を浮かべると、プルプルプルと首を振り否定すると、またもや勢いよく答える。


「えとね? つよしくんとこの、ハムちゃんみたいに、まじゅーにしてほしいのっ!」


 そう言うと、幼児はソファの前に置かれたガラステーブルの上に、五十円玉をコトリと置くと、再度、目を輝かせて、コラキとイグルに告げる――。


「ポチをかっちょいいまじゅーにしてほしいのっ!」


 ――そして、夢見る幼児とは対照的に……、コラキとイグルは引き攣った笑みを浮かべていた……。


 ――因みに、その時……。


「ペリちゃん、トマトのついでに、こっちのトウモロコシ焼いた奴もどうだいっ?」


「――っ! 頂くのっ!」


「なっ、『ぶらっでぃ』……、卑怯だぞッ! ペリちゃん、そんな焼きモロコシによく合う、焼きホタテとかどうだいっ!」


「――っ! 頂かざるを得ないのっ!」


 白髪ふわふわショートボブの、たれ目巨乳少女は、八百屋と魚屋の板挟みに、舌鼓を打ちながら悩んでいた。


 ――――『うちのポチを鍛えて!』Start――――

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