表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
第一章:二足の草鞋を履いてやる!
14/102

第五話:制裁させて!(1)

続きです、よろしくお願いいたします。

13日になった辺りで一話投稿していますので、本日二話目の投稿です。

ご注意ください。

 ――『冒険者養成学校』が、新学期を迎えてから五日が経ち、生徒達は、新学期最初の休日である土曜日を迎えていた。


 土曜日とは言え、学校の敷地内では、休日出勤の教師や、部活動に勤しむ生徒達で賑わっており、そんな様々な活動で活気溢れる敷地の中に、一際、人を集める場所があった。


「はーい、第二、第三コースは、後三本ね!」


 厳しい残暑の太陽光を反射し、キラキラと輝くその場所では、数名の女生徒達が、純粋に、もしくはダイエット目的で、女性顧問が持つホイッスルに合わせて、手足をバタバタと動かし、水を弾いている。


 ――『冒険者養成学校 女子水泳部』……、夏から秋にかけての期間、主に男子生徒から絶大な支持を得る部である。


 因みに、群がる男子生徒が追い払われないのは、「人の目を意識する事で、美は保たれる」と言う、顧問と部長とで決めた方針である。


 そんな名物部の領地――光を反射するプールの隅っこ、第一コースでは、今、二人の少女が、静かに戦いを繰り広げていた。


「ほぁ……、ほぁ……、ふ、ふふふ……、私は、今、十五秒いったの……、これで、私の勝ちなの……」


 一人目の少女――ペリは、プールから浮かび上がるなり、そう告げると、プールの縁に胸を乗せ、乱れた息を整えながら、ドヤ顔を相手に向ける。


 そんなペリに、ドヤ顔を見せつけられた黒地に橙のラインが走った髪を、ショートカットにした二人目の少女は、頬を風船の様に膨らませ、鼻息を荒くしながら、ペリに反論し始める。


「ピュッ、今の絶対、十秒も言ってなかったっ! ――我の目は誤魔化せんぞっ!」


 彼女の名前は『幸ピト』――『天鳥(たかとり)家』の三兄妹とは長い付き合いで、『冒険者養成学校』の一年生でもある。


 ピトは、この春、『冒険者養成学校』に入学した後、今現在行われているやり取りと同様の争いを経て、水泳部に入部していた。


 ペリとピト、二人はかなづちであり、今は「どちらが長く顔を水につけていられるか」と言う勝負にて覇を競っている。


「むっ! 絶対、十五秒なのっ! 指で数えたから間違いないのっ!」


「ピュッ? そ、そんなの、私……じゃなかった、我の魔眼の方が優秀だもんっ!」


 これまで避暑地代わりに部活を利用して来たペリにとって、新入部員であるピトは、ほぼ初めてと言っていいライバルとなっていた。


「それに、えっと……、そだっ! 私の方が、余裕たっぷりなのっ!」


 ペリが、金網フェンス越しに部活の様子を除いている男子生徒達に向けて手を振ると、プルプルと揺れるペリに、男子生徒達の視線が釘付けになる。


「ピュゥッ! そ、そんなの、我だって出来るもんっ!」


 ピトも同様に、男子生徒達に向けて手を振るが、残念ながら一部真似する事がかなわず、男子生徒達からは、生温かい視線と、「成長期、成長期!」と言う励ましの言葉が贈られる。


 しかし、そんな視線の違いに二人が気付くはずも無く、両者は「これも互角か」と、睨めっこ状態を続ける。


 やがて――。


「――はい、馬鹿やってんじゃないっ! 今日の部活は終了だっ! ――とっとと着替えて来い、このあほ娘どもっ!」


 女性顧問の大岡裁きにより、両者の頭にバインダーが叩き込まれる。


「……次こそ、決着付けるのっ!」


「ピュッ! 逃げたら駄目だよ!」


 ペリとピトは、河原で決闘を繰り広げた後のヤンキーの如く、不敵な笑みを浮かべると、プールの縁からプールサイドへと這い上ろう……として断念し、プール端の階段を目指す。


「ほぁ~、シャワー、混んでるの……」


「ピュ……、ペリちゃんが素直に負けを認めないからぁ……」


 二人がヨタヨタとプール端の階段から、プールサイドへと這い上がり、そのままフラフラと、更衣室と繋がるシャワー室に入ると、そこにあるシャワーは全てが使用中であった。


「むぅ……、なら、外で待ってるの……」


「ピュ? わた……我は、大人しくここで待ってる」


 ペリは、「また後でね」と、ピトに向けて、ブンブン手を振ると、そのまま、プールサイドに置いてあるベンチにうつ伏せに倒れ込む。


「ほぁぁぁ……、お日さまが、いい感じ……なの……」


 そして、男子生徒から向けられる視線を気にする事無く、ペリはそのまま寝息を立て始めた――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――リちゃん、ペリちゃん、起きてよ……、皆、もうシャワー終わったよ? ねぇったらっ!」


 時間にして凡そ、二十分、ピトに叩き起こされたペリは、眠気覚ましに思いっ切り背伸びをした後で、ピトに尋ねる。


「――お腹空いたの……、ピトちゃん、何か持ってないの……?」


「ピュ~? やっと起きたと思ったら……、先輩達の言った通りだよ……。はい、チョコバー、部長が食わせて上げてって、くれたよ?」


「ほぉ……、んまぁ……、流石、私の食糧庫(部長)なの、良い仕事なの」


 ピトが差し出したチョコバーを、そのまま口で受け取り、一気に平らげた所で、漸くペリはベンチから立ち上がり、スキップしながらシャワールームへと入っていく。


 そして、それを見届けたピトが、苦笑しながら更衣室に入った時だった――。


「ピュ?」


 ――真っ先に、ピトの目に入って来たのは、真っ青な顔を浮かべる数名の女生徒。次に気付いたのは、荒らされた更衣室……。


 ピトの脳内で、様々な情報が飛び交い、混じり合い、そして、ある結論が導き出され、直後、ピトは――。


「ピャァァァァァァァッ!」


 ――悲鳴を上げた。


 その声に、教員用の更衣室で着替えを済ませていた女性顧問が、「何だ何だ」と駆け込んでくる。


 そして、女性顧問も、更衣室の惨状を見るなり、顔を真っ青にして、状況を理解する。


 そんな中――。


「たっだいまなのっ! 良いシャワー加減だったの♪」


 ――緩い空気を纏ったペリが、シャワーを適当に終えて更衣室に入って来た。


 ペリは、皆からいつもの様な反応が返ってこない事に気付くと、キョトンとした表情を浮かべて、更衣室の入口付近に立ち尽くす、ピトと、女性顧問の顔を、交互に覗き込む。


 すると、顔を真っ青にしたままのピトが、少しだけ涙を浮かべながら、ペリに向かって、何かを伝えようと口を開く。


「し、し、し……」


「し? しーしーなら、一人で行くの」


 ペリの反応に、ピトは「違う」と首を横に振り、再度勢いを付け、告げる。


「下着泥棒が出たんだよっ!」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「えっと、つまり……、どういう事なの?」


「――誰かにロッカーが荒らされてて……、財布とかの貴重品は無事だったんだけど……」


 最後に更衣室に入室したペリは、状況がよく理解出来ていない為、水泳部部長であり、ペリの食糧庫(親友)でもある女生徒――『影平かげひら 智咲ちさき』が、一から十まで、懇切丁寧に教え込んでいる。


「何故か……と言うか……、上下の下着だけが盗まれていた……。そう言う事だな?」


 盗まれた物について、下着だからなのか、盗んだ目的を考えたくないからのか、言い辛そうにしている智咲の言葉を、女性顧問――『磯開いそがい 昭代あきよ』が代弁すると、智咲は恥ずかしそうに顔を真っ赤に染め、頷く。


 ペリが「ほぉ、信号なの」と、ぼんやり考えながら周囲の様子を伺ってみると、被害者は智咲だけでは無く、他にも数名いるらしく、皆、水着のままでもじもじとしている。


「――ピュぁっ! 私もやられたぁ………………」


 良く見れば、ピトも被害にあったらしく、ロッカーを開けた直後、膝から崩れ落ちていた。


「――ペリちゃんも、自分のロッカー確認した方が良いよ……?」


 不安と嫌悪が入り混じった様な表情を浮かべる智咲に促され、ペリも恐る恐るロッカーを開けると――。


「………………私も、やられたの……」


 先程までは何処か他人事だったペリだが、ロッカーを開けた瞬間に襲い掛かって来た嫌悪感に、普段は滅多に見せない怒気のこもった表情を浮かべる。


 そして、顧問である昭代が、「警察に連絡してくる」と告げ、その場から立ち去ると、それまで不安に怯えていた女生徒達から徐々に、犯人に対する怒りの声が上がり始める。


 その声は、次第に広がっていき、やがて、一人の女生徒が、ふと、何かを思い出した様に「はっ」と、顔を上げ、怒りを顕わに頬を膨らませているペリに、視線を向ける。


 そして――。


「――ねぇ……、ペリちゃんの家って……、探偵さんだったよね?」


「? はいなの……?」


「で……、コラキ先輩もそうなんだよね?」


 その女生徒の、鬼気迫る表情に、ペリは後退りつつ、コクコクと頷く。


 すると、その女生徒が目を大きく見開き、周囲の女生徒がザワザワと騒ぎ始める。


「じゃあさ……、後で有志でお礼するから……ペリちゃん家で、犯人捕まえてくれない? ――私……、警察に渡す前に……、どうしても犯人に一撃食らわせてやりたいのっ!」


 微笑みながらも、青筋を立てる女生徒の手の平には、丸く圧縮された火球がいつの間にか握られている。


「ふぁ? ふぁぁ?」


 咄嗟のお願いに、ペリの脳内はパンク寸前となっている。


 しかし、そんなペリを他所に、火球の女生徒以外の女生徒からも、口々に「それ良い」等の声が上がり始め――。


「――そうだよ……、よりによってアタシ等にケンカ売るとか、ナメすぎだよねっ!」


「一発……、いや、象に踏ませてやる……」


「やろう、やってやろうよっ、皆っ! ――ねっ? ペリちゃん、お願いっ!」


 水泳部一同の視線が、ペリに集中する。


 ――普段、皆からこの様に頼りにされる事が少ないペリは、不慣れなこの状況に……。


「あ、う、え、ふぇ? の、の……」


 目を回し、混乱していた。


 すると、その状況をマズイと感じたピトは、一旦ペリを下がらせ、皆を落ち着かせようと考え、一歩を踏み出したが、時すでに遅く――。


「え、ふぇふぇふぇ……」


 目を回したままのペリは、ピトが止め様とする手に気付かず、混乱する頭のままで、その胸を右拳でポヨンと叩き、胸から右拳へと伝わる反動に逆らわず、勢いのままに、人差し指を上に、中指をその下にした状態の右拳を、チョキの形で前に突き出し、左拳を腰に当て――。


「ま、任せるのっ! え、えっと……。――あっ! じ、じっちゃんの罪を数えろなのっ!」


 ――混乱のままに、そう叫んだ……。


 ――――緊急依頼:『下着泥棒に制裁を!』Start――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ