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現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
第一章:二足の草鞋を履いてやる!
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第四話:インターミッション(2)

続きです、よろしくお願いいたします。

ちょっとした閑話と言うか、外伝と言うか、趣味的な話と言うか。

以前出て来た、Sランク冒険者のお話です。

 ――コラキ達が、夏休み最後の依頼で、微妙な失敗をしてしまってから、はや六日。


 早朝、蝉の鳴き声が響く『砦が丘』の坂を、三人の少年少女がトボトボと歩いている。


 三人の真ん中に立つ、褐色肌の少年――コラキは、道中のコンビニでゲットした、安っぽい扇子をパタパタと扇ぎ、「イケる、イケる」と呟いている。


「コラキィ……、怖いから黙るのぉ……」


 そんなコラキの横に並んで歩く、ふわふわショートボブの、たれ目、巨乳の少女――ペリは、制服であるブラウスの胸元を大きく開き、風を取込む様にブラウスをパタパタと動かしながら、コラキに抗議する。


「ペリ、こっちの方が日陰です、涼しいですよ?」


 コラキを挟んで、ペリと反対側を歩く、茶髪ポニーテールの、三白眼、長身の少女――イグルは、目を細め、「こっちへおいでぇ」と、ペリを日陰に手招きしている。


「後……、少しなの……」


  本日は『冒険者養成学校』の始業式であり、そこの学生である三人は今、眠気と残暑に抗いながら、『砦が丘』の頂上に存在する学び舎を目指している。


 三人の周囲には、同様に坂を上りながら、校舎の立地や、蝉の鳴き声に怨嗟の声を上げる生徒達が蠢いている。


 ――やがて、三人が校舎内に入ると、ガンガンに冷房の効いた空気が、三人の周囲に渦巻いていた熱気を吹き飛ばしてくれる。


「――ふぅっ! じゃあ、また後でなっ!」


 校舎内に入ったコラキは、その瞬間、ムクムクと背筋を伸ばし、ペリとイグルに眩い笑顔でそう告げると、スキップしながら、自分の教室を目指していった。


「――萎びコラキ……」


「どっかにスイッチでもあるです?」


 ペリとイグルは、相も変らぬコラキの変貌ぶりに首を傾げ、それぞれの教室へと歩いていった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ひゃっはぁっ!」


 冷房の効いた校舎を歩いている内に、コラキの気分は最高潮になっていた。


 そして、踊る様に自席に座ると、コラキの元に、いつもの二人がやって来る。


「うぃっす! 早いな?」


「おうっ、初日だしなぁ……、それと、早朝だと少し涼しいしな……」


 二人の内の一人、丸坊主のスケベ顔少年――玲人(れいじ)は、ご機嫌のコラキとハイタッチすると、「ほい」と、いつもの様にスポーツドリンクを差し出す。


 受け取ったコラキが「サンキュー」と言って、乾いた喉を潤していると、そんなコラキの髪に、もう一人の少女――ひっこが手を突っ込む。


「うーん、ご機嫌だねぇ……、百度っ!」


 そんないつものやり取りから始まり、三人は夏休みをいかに過ごしたかなど、雑談を楽しみ始めた。


 そんな中、ひっこが不意に、「あ」と呟き、コラキに向けて、質問する。


「――そう言えば、田中のお婆ちゃんの話を聞いてみたかったんだけど……」


「?」


 ひっこの目は、暗に「『Sランク』の情報って、聞いていいの?」と言っている様だった。


 コラキは、ひっこの興味津々と言った表情に苦笑し、チラリと時計を見て、始業式の開始までまだ、大分時間がある事を確認すると、携帯電話を取り出し、何処かに電話を掛け始める。


 やがて、通話を終えたコラキは、ひっこの頭を軽く撫で――。


「婆ちゃんの許可は取ったから、聞いていいぞ? ――どうせ、あの人、使ってみたいから『偽装機能』使ってるだけだし、バレても良いってさ」


「ん? さっきから、何の事だ?」


 話に付いていけない玲人が、不思議そうにコラキとひっこの間で視線を彷徨わせていると、それまで言いたい事を我慢していたひっこが、嬉しそうに、『幻想商店街』の一画でたばこ屋を営む『田中のお婆ちゃん』が、実は『Sランク冒険者』である事を話していく。


「へぇ……、それ、俺も聞きたい……」


 玲人が何気なくそう呟くと――。


「わ、私も……」


 いつの間にか、玲人の隣に立っていた眼鏡の少年が呟き――。


「え、じゃ、じゃあ、儂もぅ……」


 更にその隣に立っていた少女が、立ち上がり――。


 ――気が付けば、登校済みのクラスメイト達が、コラキ達の周囲に集まっていた。ここに居るのは、皆、『冒険者』候補であり、身近な高ランク『冒険者』の話には興味津々である。


 そんなクラスメイト達を見ると、コラキは苦笑交じりに――。


「――じゃあ、『Sランク』昇格と同時に、二つ名が付いた話でも……良いか?」


 ――そう答えると、クラスメイト達は皆一斉に頷いた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――『異界小学校 第二層』――


 一面平米程の階層一面に黄土色の楕円形の白線が引かれた地面が広がっている。


 その中を、二人の『冒険者』が、恐る恐ると言った感じで歩いている。


「――こ、ここが……、第二層?」


 二人組の一人、タンクトップに、ハーフパンツのラフな格好をした、見た目二十代の青年が、その手に槍を持ち、キョロキョロと周囲を見渡している。


「イェア……」


 一方で、ラフな格好の青年の隣を、これまたオドオドと歩く、迷彩服を来たドレッドヘアの青年もまた、銃を構えキョロキョロとしている。


「――っ! い、居たぞ……」


「イェーアー?」


 ――通称『金二郎サーキット』と呼ばれるこの階層には、一種類の『魔獣』しかいない。


『Huuuuuuuuuu!』


『Pararira!』


 ソレは、背中に大量の石を背負い、両手で何かの本を持ちながら走る姿から『金二郎』と呼ばれる、石像の『魔獣』。


 この『金二郎』が背負う石、そして身体を構成する石でコンクリートを作ると、そのコンクリートは、高い強度、耐久性、水密性を持ち、まるで意思を持つかの様に使用者が決めた形を取るまで硬化しない、硬化後は体積変化が少ないなどの効果が得られる。


 そんな訳で、この『金二郎』から採れる『意思石』は、建設業、芸術家等からの需要が非常に高く、当然の如く、高値で取引される。


「こ、これで、オイラ達の借金も……」


「――イェアッ!」


 彼等は、『冒険者』登録したてのFランク『冒険者』である。それぞれが、『ランサー』、『ガンナー』と言う、戦闘職であるが、特に『冒険者養成学校』に入る訳でも無く、普通に進学、普通に就職し、普通の生活を送っていたのだが、ある時、パチンコにハマり、行き付けのパチンコ屋で怪しげな男性から金を借りてしまった事が切っ掛けで大量の借金を持ってしまい……、返済に困った挙句、一攫千金を狙い……、今に至る。


「う、うし……、じゃあ、手筈通り、お前が撃って、突っ込んで来た奴を、俺が刺す……で、良いか?」


「――イェあ……じゃない、了解ッス」


 そして、二人は『サーキット』内を走る、大量の『金二郎』の内、一匹に狙いを定め、発砲する。


「や、やったっス! 当たったっ!」


「ほっほぅ! スキルすげぇっ!」


 ――初撃の的中に喜ぶ二人であるが……、『金二郎』を相手にする場合、大抵の『冒険者』なら知っている討伐手順がある。


 その手順とは、適当な『金二郎』の隣を走り、ウィンクを二回送ると、その『金二郎』がレースを挑まれたと判断する。そのまま、その『金二郎』と、『サーキット』二周のレースを行って勝つと、その場で『金二郎』が崩れ去り、残った『意思石』を大量に獲得出来る。


 そして、禁じ手……と言うよりは、悪手が一つある。


 ――それは、何も考えずに、その辺の『金二郎』に攻撃する事である。


 それを実行すると、その時、その階層に居る『金二郎』の全てが……敵対する。


 ――と言う事で……。


「な、何だあれ……、しゅ、集団で?」


「ひっ! こ、ここは、基本タイマンじゃなかったのかよっ!」


『『『『『『Hahhaaaaaa!』』』』』』


 二人組は、大量の『金二郎』に追い掛けられていた。


「やだ……、やだよ……、母ちゃんっ!」


「もぉ、ギャンブルなんてしねぇよぉ……、しねえからぁ……」


『『『『『『Huuwahhuuuuu!』』』』』』


 そして、二人組と『金二郎』達の距離が、数メートル程に縮まった、その時――。


「ふんふんふん、ふふんふーん♪」


 舌っ足らずな鼻歌と共に、二人組と『金二郎』達の間に、大きな亀裂が走った。


「――はっ……?」


「え、え、え?」


 動揺する二人組の前には、いつの間にか、両手にその身と同じ位の大きさのヨーヨーを持つ、一人の少女と、手押し車を押す一人の老婆が立っていた――。


 老婆の身長は百三十程、白髪をひっつめ髪にして、ベージュ色のカーディガンを羽織り、くるぶし丈の、紺色のロングスカートを吐き、少し曲がった腰で悠然と立っている。


 一方の、身長百五十前後であろう少女は、銀色の髪を、耳の上でシニヨン状に纏め、そのシニヨンから零れる髪を三つ編みにして垂らし、更にその上から三度笠を被り、膝丈のアオザイの様な服を着ていた。


 呆然と少女を見つめる二人組の視線に気付いた少女は、シニヨンから伸びる二房の長い三つ編みをふりふりと動かしながら、口を開く。


「――んにゃっはぁん? もしかしてぇ、君達が、ギルド嬢の説明も聞かずに、『サーキット』行ってくるって飛び出したおバカさん達かにゃん?」


 少女は、猫の様に口をすぼめると、そのまま、人好きのする笑顔を浮かべ、二人組の事をジッと、その目を大きく開き、見つめている。


「――え、えっと……、多分、はい……」


「いぇあ……」


 二人組がコクコクと頷くと、少女は、プクッと頬を膨らませて、二人組に告げる。


「――んもぉっ! ダメだよん? たまたま、キーラちゃん達が間に合ったから良かったけど、一歩間違ったら……んね?」


 ――駄々を捏ねる様に、ヨーヨーを振り回す少女の周囲では竜巻が起こり、その余波で数体の『金二郎』が破壊されていく。


 唖然とする二人組を他所に、『キーラ』と名乗った少女は「にゃっ!」と、何かを思い出した様に呟くと、老婆に振り返る。


「んニャッと……、待たせちゃって、ゴメンにぇ? おバカさん達、生きてたし、これから開始でいいかにゃん?」


 すると、老婆は自身の身長より僅かに高い少女の頭に手を伸ばし、柔らかい笑顔で――。


「ハイハイ……、お婆ちゃんはソレでいいよぉ? キーラちゃんは、そこの坊や達をよろしくねぇ?」


「んにゃぁ……、婆ちゃんのおてて、良い匂~い……、キーラちゃん、がんばるっ!」


 そして、老婆はゆっくりと、手押し車を押しながら、亀裂を回り込んで来た『金二郎』に立ち向かっていく。


「――え、ちょ、婆さんっ?」


「危ないッスよっ!」


 二人組が必死に止めようと前に出た瞬間、二人の前に、少女――キーラの持つヨーヨーが立ち塞がる。


 キーラは、相変わらず猫を彷彿とさせる笑顔のまま、二人に告げる。


「――これより先は、『冒険者ギルド』の要請により、『Sランク』第十位、『三度笠』が立会い人を務める、田中さんの『Sランク』認定試験の場となります。――んにゃんで、おバカさん達、邪魔しちゃいにゃんよ?」


 唖然とする二人組を他所に、老婆は尚も前進する。


『『『『『『Hahhaaaaaa!』』』』』』


 そして、老婆に襲い掛かる『金二郎』達――。


「「――あぁっ!」」


「あらやだよぉ……、こんなお婆ちゃんに、いけめんが、こんなに……ねぇ?」


 しかし、老婆は穏やかに微笑むと、慌てず、ゆっくりと、手押し車の蓋を開く。


 そこに入っていたのは、大量の――『義歯(いれば)』。


「えーっと、何だったかねぇ……。――あぁ、そうだ『百聞一見』だったねぇ」


 老婆が何かのスキルを発動させると、老婆に襲い掛かろうと向かって来る『金二郎』達の全身に、老婆をデフォルメした様なマークが浮かび上がる。


「ふんふんふん、ふふんふーん♪」


 この辺りで、老婆の勝ちを確信したのか、何があっても自分なら対処できると言う自身からなのか、キーラが鼻歌を口ずさみ始める――。


『『『『『『Hahhaaaaaa?』』』』』』


 突如として、自分達の全身にびっしりと浮かび上がった、デフォルメ老婆のマークに、『金二郎』達も動揺し始める。


「えーっと、後は……、そぉそぉ『プログラム』だったかねぇ?」


 老婆が続けて別のスキルを発動させると、手押し車の中に入っていた『義歯』が、ふわりと宙に浮きあがる――。


「「ヒィッ!」」


 その異様な光景に、二人組は思わず、後退り、互いの身体を抱きしめる。


「ふーふんふーふん、ふーふふ、ふふふふふーん♪」


 そして、その間も少女は鼻歌を続ける――。


「――ふぅ、よっこいしょッと……、後は……あぁ、『OK』だったかねぇ?」


 老婆は、手押し車から全ての『義歯』が出ていったのを確認すると、手押し車の蓋を閉じ、その上に座る。


 そして、『金二郎』達と、二人組にとっての悪夢は、そこから始まった――。


「ふんふんふん、ふふんふーん♪」


 老婆の手押し車は、老婆が座った直後から、自動的に動き始め、『金二郎』の群れに向かって走りだした。


 その老婆の周囲には、老婆を守る様に浮く『義歯』の群れ――。


『『『『『『Huuwahhuuuuu!』』』』』』


 手押し車に乗ってやって来た老婆に、『金二郎』達は、獲物を見つけたと言わんばかりに襲い掛かる。


 すると、手押し車は突如、くるくる回転し始める。


「ふんふんふん、ふふんふーん♪」


 そして、その進行と、回転に合わせる様に、『義歯』も手押し車の周囲を回り始め、やがて、その歯をカチカチカチカチカチカチカチカチと鳴らし始める。


「ふんふんふん、ふふんふーん♪」


『Huuuuuuuuuu!』


 そして、異様な光景にもめげず、一匹の『金二郎』が、老婆に飛び掛かった時だった――。


 ――バクンッ!


 突如、『義歯』の数個が『金二郎』に付けられた、デフォルメ老婆のマークに齧り付き、そして――。


『HuuuWa!』


 ――一瞬、光ったかと思えば、その直後、噛み付かれた『金二郎』は炭と化していた。


「「――え?」」


「ふーふんふーふん、ふーふふ、ふふふふふーん♪」


 そこからは、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。


 くるくる回転する手押し車の上で、正座してお茶を飲む老婆、その周囲を飛び交い、『金二郎』達を炭化させていく『義歯』の群れ、泣き叫ぶ『金二郎』達と、二人組、そして、その間、ずっと鼻歌を口ずさみ続ける『Sランク』第十位、『三度笠』のキーラ……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「こうして、新人冒険者の救出は無事終了したんだが、そいつ等、深いトラウマが植え付けられたらしくてさ……、あの童謡を聞くと、ガクガク震えて、漏らす様になっちまったらしいんだ、で、それを面白がったウピ――じゃない、『冒険者ギルド』のお偉いさんが、二つ名を付けたって事らしいぜ?」


 ――コラキが話し終えると、丁度時間となった様で、予鈴が鳴る。


 コラキは、始業式の開始前にと、慌ててトイレに駆け込んでいった。


 残されたクラスメイト達は、何とも言えない表情を浮かべ――。


「――俺、今度から田中のお婆ちゃんに、ちゃんと挨拶する……」


「私も……」


「儂もぅ……」


 ――口々にそう呟き、クラスの結束を深めるのであった……。

基本バトル少な目でいこうと思っていますが、たまに書きたくなるので、ご容赦ください。

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