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現世鳥の三枚者  作者: ひんべぇ
第四章:門出!
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第八話:旅立つ者へ!(3)

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――『冒険者養成学校 卒業記念試合』。通称『告白戦』。


 卒業式が行われる前。早朝から開始され、午前中いっぱいを使って行われるこの試合は、敷地内にある第一~第六運動場を利用して行われている。


 そんな数ある『告白戦』も開始から三時間がたち、ここ――第三運動場でも、ひとつの試合が行われていた。


 ぶつかり合うは男子生徒と女子生徒。そのうち、男子生徒――『二年A組』結城・カイザー・輝は『鎚士』と言う戦闘職である。ジョブに恵まれた彼は、『A組』でありながらもその戦闘能力は『S組』に匹敵する実力の持ち主であった。


 彼は一年時は『S組』であったが、自らを強者であると多大に勘違いし、努力を怠り、二年進級時に『A組』へと落とされた。


 しかし――彼はそれでも強かった。彼は去年の『告白戦』で、『S組』でありながらも、直接の戦闘能力に乏しい、『戦闘支援職』の見女麗しい先輩に目を付けた。


 ――出した要望は『頬にキス』。


 当然、彼は勝った。そしてあの手この手とさまざまな手段を駆使して、見事その先輩を手に入れた。


 それから一年。彼は件の先輩にも飽きてしまい、去年と同じ、この時期に、ふたたび同じような条件を持つ『先輩』に目を付けた。――もちろん、彼氏とは言わないが、微妙な距離の男子生徒がいることも承知の上である。


 ――学校内の人間に感づかれないように動くのは面倒だが、この『遊び』は彼にとって、止めることなどできないものであった。


 そんな歪んだ欲望を胸に秘めて戦鎚を肩に担いでいた結城少年はいま――


「――は?」


 グルリと体を反転させながら、その『先輩(獲物)』を見上げていた。


 ――時は少しだけさかのぼり、試合開始十五分前。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――で、要望はなんだって?」


 チアリーディング用の衣装を身にまとった雛子に、コラキはそわそわしながら話しかけていた。


「えっとね、『頬っぺたにキスして』だってさ」


 右ひざを曲げ、左足を伸ばし、ゆっくりと体をほぐしながら、雛子はコラキに答える。そして、雛子の回答を聞き、ギョッとした表情を浮かべるコラキを満足そうに見ると、雛子は立ち上がってコラキの髪を揉みしだく。


「大丈夫だよ? 私、絶対に勝ってみせるんだから!」


 フンッと胸の前で両こぶしを握りしめる雛子を、コラキはどこか不安そうに見つめ、口を開いた。


「なあ、本当に……大丈夫か? あいつ、ちょいちょい悪い話聞くやつだろ?」


 ――当の少年は隠し通しているつもりであるが、結城少年の悪行は現在の三年生にはかなり知れ渡っている。


「うん。――でも大丈夫!」


『まもなく第三運動場にて、『卒業生の皇さんと、二年生の結城……君の試合が開始されます。選手のおふたり、ならびに観戦希望の方は急いで第三運動場までお越しください』


「あ、もう時間だね。――じゃあ、コラキちゃん、行ってきます!」


 最後にもう一度、コラキの髪をぐしゃぐしゃにかき回してから、雛子は第三運動場に作られたリングへと向かった。


「へへ、先輩、よろしくお願いしやっす!」


「……うん」


 パッと見は愛嬌のある少年。イケメンと言っても良い。それが結城に対する印象であるが、彼の悪評を知っている雛子は、その細い曲線を描いたまぶたの奥にある、醜いモノにすぐ気が付いた。


 ――上から下、下から上へと、雛子の体をなめまわす不快な視線に。


『それでは両者、中央へ!』


 きゃあきゃあと騒ぐ同級生の女子と違い、言葉少なで、笑顔すら向けて来ない雛子に対して内心で舌打ちしながら、結城は中央の白線まで進んでいく。


「――あれ?」


 その時、結城はわずかばかりの違和感を抱く。しかし結城はその違和感――『自分の意識外で雛子が大きく前に動いていた』と言うことに気が付かず。――『まあ良いか』と戦鎚を肩に担ぐ。


『では、試合――』


 一瞬だけ。結城はこのあとに訪れるであろう『遊び』を想像し、現実の雛子から目をそらした。


 ――それが欲望のせいか、油断のせいか。


『始め!』


 戦士として生まれ変わってしまった雛子には、一切関係なかった。


「――ぅわっぷ?」


 そうして開幕直後。


「なんだ……? ボンボン?」


 雛子は、自身の武器であるはずのボンボンを、結城の顔面に向けて投げつけていた。


「なんっすか、せんぱぁい? 実は負けたいんスか?」


 クックと笑いながら、結城はボンボンを軽く戦鎚の柄で振り払い、地面にポテンと転がったボンボンを、その足で踏みつける。そして雛子の武器を奪ったことで、自身の勝ちが確実であると確信し、一瞬だけ下衆な笑みを浮かべる。


「君……笑顔が汚いね……?」


「――あぁ?」


 なんどかボンボンを踏みつけた結城の耳に、雛子の声が届く。しかし、顔を上げた結城の前にはすでに雛子はおらず――


「――合成スキル『ヨァレール・パゥワ』」


 直後、シャランっと言う音がして、結城の視界が背中に走る衝撃とともに、わずかに暗転する。


「んだよ……これ」


 しかし結城はすぐに立ち直り、意識をしっかりと保つために頭を左右に振る。


「うん。成功……」


「あん、先輩……?」


 気が付けば、雛子はふたたび勇気の前に姿を現していた。


「――やっぱり背後からって言うのは、格好悪いし、正面からぶつかってあげるよ?」


「は? はは、先輩、やっぱり負けたいんだ? そうなんだ?」


 結城は「ちょろいな」と思いつつ、ゆっくりと前進しようとして――ようやくその異常に気が付いた。


「『纏神楽(リニア)』……。――これは……まだまだ……だね」


「せん……ぱい? 先輩って……『戦闘支援職』だよね?」


 結城の前には、パチパチと足もとから朱い火花を放つ雛子が立っており、結城はその姿に目を丸くしていた。雛子はそんな結城を気にもとめず――チラリと、リング横で待機するツリ目の少年を見る。


「ふふ……驚いてる、驚いてる」


 雛子はあんぐりと口を開ける少年を満足そうに見たあと、ようやく視線を結城に移し、にらみ付ける。そしてゆっくりとした動作で、半身の構えを取ると突き出した手のひらをクイクイっと動かし、結城を招くような動作をする。


「おいで? 私が……先輩として、君の腐った根性、粉砕してあげる!」


 雛子はニッコリと……。試合が始まってから初めて、結城に向けてほほ笑みかける。――状況さえ違えば、結城もまた、そのほほ笑みにほほ笑みで返したであろう。


 しかし――


「な……なめんなぁぁぁぁぁ!」


 ふっと、小馬鹿にした様な雛子に……。自分の獲物でしかなかったはずの雛子の挑発に……。結城は耐え切れず、両手で戦鎚の柄を持ち、地面を強く蹴――


「――あぁ?」


 ろうとしたところで、グルリと景色が回る。


「――は?」


 グルリと空へと移る視界をながめながら……。結城はいつの間にか近付き、自らを見下ろしている雛子を目にする。


 わけが分からず、結城は唯一自由に動く目で、自身に起きた異常を探る。すると、チラリと視界に入って来た自らの足に、先ほど踏み付けていたボンボンがうねうねと絡みついていた。


 結城は考える。みっともないことだが、自分はボンボンを踏んで滑ったのかと。しかし直後、ボンボンが自分の足もとから徐々にはい上がってくる光景と感触に、いや違うと――そう考えなおし、それを行った犯人であろう雛子をにらみ付ける。


「どうかな? 『イソギンチャク型』の『魔獣』、ボンちゃんだよ?」


 雛子は結城が足もとのソレに気が付いたと判断して、その顔に浮かんでいた疑問を解消してあげる。結城はその答えに、表情をカッと赤く染め、考える――『こんな『魔獣』はすぐさま蹴散らして、それからすぐに態勢を整えて、痛い目に合わせてやる』と……。そして雛子を見て、下衆な笑みを浮かべる。


「――っ!」


 しかし、その考えはすぐに引っ込んでしまった。その理由は、踏ん張ろうと、床に向けて動かそうとした足に感覚が全くないこと、そしてその原因である『魔獣』と、『魔獣』の体から伸びるなにかと、最後にその時見えた雛子の手であった。


 雛子の手には白い――リングの床と同色の紐が握られており、その紐の先には足もとのボンボン――『魔獣』へとつながっている。おそらくは先ほど転んだ時も、あの紐で指示を出していたのだろう。


「――てっめ」


 ――『こざかしい真似をしやがって』。


 そう言い掛けた結城の腹に、そっと雛子の手が添えられる。


「じゃあね? えっと……誰君だっけ? まあいっか、『スアレス』……」


「――っがっ?」


 そして――結城は全身に電気が走ったかのような衝撃と、ジワッと湿気を帯びていくズボンの感触を最後に記憶して気を失い、卒業式の残り半日を保健室で過ごすこととなってしまった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「なあ、どういうことだ?」


 試合終了直後。コラキは速攻で携帯電話を手にしていた。


『えぇっと……どれのこと?』


「まずは……あの移動法。あれ、なに?」


 コラキは、予備動作なしで滑るようにリングを動き回った雛子を思い出し、それについて質問を投げかける。


『あ! あれな? なんかさ、『朱雷』でなんか遊べないかなっていろいろ試してたらさ、なんでかリニアっぽい移動が出来るようになっちゃってなぁ……。それを教えてみた』


 きっと、電話の向こうでは「てへっ」と、舌を出しているんだろう。コラキはそんなことを考え、ちょっとだけイラッとして、現実から目を背けたあと、さらに問いかける。


「あの合成スキルって……なに……?」


『ん? いや、去年……いろいろあってな? そん時にこう――『力合わせて』! みたいに試したらいい感じに出来あがっちまってさぁ……。まあ、相手から力を吸い上げて自分の攻撃に上乗せするって、ある意味じゃロマンスキルだろ? それを雛子ちゃんと悠莉たちで、さらにこう……なっ?』


 ――なにが、「なっ?」だよ……。と、ズキズキと痛んでくるこめかみを押さえながら、コラキは「じゃあ」と最後の質問をぶつける。


「あとは、なに……したの?」


『……………………精神論? 的な? ぶっちゃけ、勝てば官軍……的な? せっかく『魔獣たらし』なんてあるんだし、うまく利用できないかなあって……。うん……良かれと……。本当に……良かれと思ったんだよ……』


 受話口から聞こえてくる声が、ドンドン小さくなっていく。この反応から考えるに、おそらく『やり過ぎた』と言う自覚はあるらしい。


 コラキは、雛子が無事勝てたこともあり、微妙に文句をつけ難く感じていた。そして――


「さ、俺も準備しようかな……」


 いまだ『ごめんよぉ』と懺悔の言葉を放つ受話口から耳を離し、『切』ボタンを押すとその件について、それ以上考えることを放棄した。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――後日、どうしても不安が拭えなくなったコラキは、雛子に聞いてみた。「戦闘に対する心構えは?」と……。


 ちなみに、以前の雛子なら――


「え? 皆を守るために頑張る……かな?」


 と答えていたが、現在は――


「え? 皆を守るために、相手を出し抜いて、全力を出させる前に心を折ること……だよね!」


 ――この日、コラキの悩みの種がまたひとつ増えたのであった。

なにげに百話。

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