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「視線」シリーズ

視線のその先

作者:

一応「視線」(http://ncode.syosetu.com/n4081bo/)の続編となっています。そちらを先に読まれた方が分かりやすいかもしれません。

 タカオミ は 呪文「眼鏡買えよおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!!!」 を となえた


(ピロリロリーン)えっちゃん が 仲間になった !


 タカオミ は ラウンドフレームのメガネ を わたした


 えっちゃん が ラウンドフレームのメガネ を 装備した


(ピロリロリーン)視力 が 1.5 上がった !  かわいさ が 50 上がった !


 『“彼氏”にジョブチェンジできます。よろしいですか?』・・・はい


 『本当によろしいですか?』・・・はい


 タカオミ は “彼氏” に なった !




 ……なんつって。




「なあ、タカオミよ」

 なんてくだらないことを回想していた俺はふと我に返った。

「なんだ、タダキヨ?」

 タダキヨは俺の数少ない友達だ。購買で買ったらしいやきそばパンがその手に握られている。

「なぜ俺が今やきそばパンを食っているのか、分かるか?」

 タダキヨはパンを持った左手を俺に突き付ける。

「いきなり何を言い出すんだ」

「なぜこの3限目と4限目の間の!10分しかない休み時間に!わざわざ!やきそばパンを!独りで!食っているか分かるか、と聞いているんだ」

 突き付けられたやきそばパンを手で押し戻す。

「厭味な言い方だな……。腹が減ったからじゃないのか?」

 適当に流そうとするとタダキヨはだんっ、と机に拳を叩きつけた。

「お前に彼女が出来たからだよッ!」

 ……訂正しよう。タダキヨは俺のたった一人の友達だ。

 ちなみにそれはタダキヨにとっても同じである。

「お前が!出来たばっかりの彼女と!二人で!お昼を!食べるとか言うから!」

「……ああ、まあなんというか、うん。すまん」

「一言で片付けてんじゃねぇよ!!」

 タダキヨは悲壮な顔をして叫ぶ。涙すら滲んでいるように見えるのは気のせいだろうか。うん気のせいだな、気のせい。

 俺は今日の昼休み、眼鏡が可愛いえっちゃんといっしょに屋上で昼飯を食べる予定だ。つまり、普段俺と昼飯を食べているタダキヨは必然的に独りになる。

「だからこうしてお前がいるうちに昼飯を食って、ぼっち飯を避けようとしてんじゃねぇか!」

「タダキヨ……」

 必死なのは分かるが、お前今隣の女子に可哀想なものを見るような目で見られてるぞ。

 可哀想なタダキヨ。またリア充への道が遠のいたな。ちょっとネガティブで僻みっぽくて人見知りで顔面が残念で顔面も残念でかつ顔面が残念でその上顔面が残念なことを除けば、良い奴なんだけどなぁ。

「……お前今ものすごく失礼なことを考えてなかったか?」

「何を言ってるんだ、俺とお前は固い絆で結ばれた素晴らしい親友じゃないか!俺がお前に対して『顔面が残念』なんて思うはずないだろ?」

「おい待ててめぇ、今さりげなく他人をブサメン呼ばわりしたな!?」

 おっといかん、思ったことが口に出てしまったようだ。

「言っておくがな」

 タダキヨはニヤリとして俺を指差す。

「お前よりはイケメンだぞ?」

「えっ、それはないわ」


 俺たちの間に沈黙が降りた。


「それはないわ」

「二回も言うな畜生が!冗談だっつの流せよ!何でガチで答えてんだよ!」

「いやそれはほら、俺たちは固い絆で結ばれた素晴らしい親友」

「今ほどお前の友達になったことを後悔したことはねぇよ!」

「じゃあ親友やめますか」

「ごめんなさい許してください」

 速攻で謝るタダキヨ。机が無かったら土下座していたくらいの勢いだ。

「よし、許す。やっぱりお前は俺の唯一無二の親友だな」

「……何となく腑に落ちないがまあそうだな、友よ」

 がちっと握手を交わしてタダキヨとの友情を確かめあったところで、四限目を告げる鐘が鳴った。

「……」

 半分以上残ったやきそばパンを手にしたタダキヨの腹から、ぐぎゅるるるるるぅぅぅと音が響く。これは腹が減ってどうしようもなくなるレベルだなぁ昼休みに残りを食べなければ。

「と、ときにタカオミ、やっぱり昼休みここに残るわけには……」

 そっと後ろを振り返ると、えっちゃんと目が合った。

 “お・ひ・る・た・の・し・み・だ・ね♪”

 唇でそう言ってえっちゃんは微笑み、俺はこっそり拳を握り締める。すまんタダキヨ、俺にはあの笑顔を裏切ることなんて出来ないぜ……。

「さぁ授業始めるぞ~、っておいどうしたそこ?早く戻れ」

「あ、すいません」

 先生に言われタダキヨが席を立つ。席を追われていた女子ブサイクが座りながら舌打ちし、その小さな背中がビクッと震えた。

 ……可哀想なタダキヨ。



 昼休み。

 断腸の思いでタダキヨを教室に残し、俺は意気揚々と屋上へ向かった。

「えっちゃんとぉ~♪おっひるぅ~♪」

 頬が緩むのを抑え切れない。多分相当に気持ち悪い顔をしているのだろうが、まあ仕方ない。だって幸せなんだもの、うふふ。

 日当たりの良い場所を確保したところで、屋上のドアが開いた。顔を覗かせたのは愛しのえっちゃんだ。

「――ごめん、遅くなっちゃった。待った?」

「ううん、全然待ってないよ。今来たところだから」

 お決まりのやりとりまで始めてしまう勢いだ。こうして彼女が出来るまでは街中でこんなやりとりをしているカップルを見る度歯軋りしていたものだが、今なら彼らの幸せさ加減も分かるというものだ。

「じゃあ、食べよっか」

 俺の正面にえっちゃんが腰を下ろす。芝生の敷いてあるこの屋上はお昼を食べるのに最適だ。まあ、だからこそいつも俺たちのようなカップルで溢れていて場所取りに苦労するわけだが。

「タカオミくん、さっきは何話してたの?なんか握手してたけど」

 えっちゃんは可愛い。ラウンドフレームの銀縁メガネは彼女の温和な顔立ちによく似合っていた。フレームの奥から覗くやわらかな眼差しが今日も俺の心を射止める。ちなみに今日下の方で二つ結びにしてもらったのは俺の趣味です。グッジョブ俺の彼女。

「ちょっと聞いてる?お~い」

 ひらひら、と視界を彼女の白い指が踊った。

「あ、ごめん」

「大丈夫?君ってホントよくぼーっとしてるよね……」

「いやぁ、えっちゃんに見蕩れちゃっててさ」

「何言ってるの、もう。褒めたって何も出ないんだからね?」

 出ました!えっちゃんの膨れっ面いただきました!俺はしっかりと脳のメモリーに保存してフォルダに隔離し保護をかける。ただでさえ少ない脳の容量は彼女のことでいっぱいだ。

「ごちそうさまでした、これで俺は明日も一日生きていけます」

「何の話かな……?」

 君はいい加減自分の魅力、というか破壊力に気付くべきだと思う。

「まあちょっとね。タダキヨと友情を確かめ合ってただけだよ」

 そういえば、確か途中から顔面の話になってたな。

「タダキヨよりはさ、俺の方がイケメンだと思わない?」

「うん、まあそれはそうだね」

 即答された。……可哀想なタダキヨ。

「でも、タカオミくんも別に格好良くないよね」

「え?」

「うーん、何ていうのかな……フツメン?」

「ふぐぅおッ!?」

 思わぬところからナイフを投げられた。そんなやわらかい笑顔で俺を刺さないでくれえっちゃん。これでも俺は君の彼氏なんだ……!

「別にイケメンじゃなくたって、タカオミくんはちゃんと私の彼氏だよ?」

 と思ったら刺さったのはキューピットの矢だったようだ。にこにこと微笑むえっちゃんに後光が射して見える。

 本当にこんなフツメンの俺を拾ってくれてありがとうございます。あなたは俺の女神です。メガネだけに。

「えっと……面白くないよ」

「!?」

 心の中で崇めていたつもりが途中から声に出ていたらしい。我ながら少し苦しいかとは思っていたが、そんなにはっきり言わなくてもいいじゃないか……。

 まあ“面白そうだから”とかいう理由で俺と付き合っちゃうような娘だからな。笑いに対して求めるモノは他の人よりも高いんだろう。

「まあそれは置いといて」

「置いとくのか……」

 容赦ないなえっちゃん。

「さて、今日は何の日でしょう?」

「え?」

「制限時間は……私がお弁当食べ終わるまでね」

 そう言うなりえっちゃんはなぜか俺の弁当を奪い取り、物凄いスピードで食べ始めた。

「馬鹿な……!」

 箸は目にも止まらぬスピードで動き続けているのにえっちゃん自身は至って涼しい顔で食べ続けている。というか微笑みさえ浮かべている。

 そういやえっちゃん、結構よく食べるんだよなぁ……っていかんいかん。早く考えないと俺の昼飯ライフがなくなってしまう。

「今日は確か……5月27日だよな」

 国民の休日系はありえない。俺の誕生日もえっちゃんの誕生日もまだ先。付き合って一ヶ月目の記念日は一週間前に無事迎えてプレゼントも贈った。ちなみにチョイスしたのはネコの肉球がプリントされた布ペンケースで、えっちゃんはそれを大事に使ってくれているはずだ。

 うーむ、と唸っているそばで俺の弁当はひょいパクひょいパクと着実にえっちゃんの胃袋に吸収されていく。だめだ、分からない。こうなると何か別の記念日か?小松菜の日か百人一首の日か……それとも意表をついて陸軍記念日か!?メガネの日は10月01日だしな……。

 そこまで考えたところでえっちゃんの箸が止まった。

「はい残念。時間切れでーす」

「俺の昼飯が……」

 ご飯粒まで余すところなくたいらげられ、空になった箱だけが俺の手元に残された。すまない母さん、弁当を守り切れなかったよ。だがこれほど綺麗に食べられたならむしろ本望というものだ。

「それで一体何の日なの?さっぱり分からないんだけど」

「うん、多分分からないだろうと思って聞いたから」

 何……だと……。俺の弁当は食われる運命にあったということなのか?ああ神よ、なんと無慈悲な仕打ちをしてくれるんだ。

「ごめんごめん。私のお弁当あげるから許して?」

「Oh,my God !」

「無駄に滑らかな発音だけど……それは要らないってことでいいのかな?」

「すみません口が滑っただけです超欲しいですどうかお恵みください」

 ちなみに“Oh,my God”はキリスト教的な考えからきた「ああ神様、何てことをするんだ!」という意味だが、“Thank my God”の日本語訳は「ありがたや」となっていて、俺にはどう想像しても仏教徒か神道信者のおばばさまにしか感じられない。

 俺は少し大きめの弁当箱を前に手を合わせた。

「ありがたや、ありがたや……」

「普通に食べられないのかなタカオミくんは」

 ぱかっと蓋を開けると、中には光り輝く白ごはんと彩り豊かなおかずがつまっていた。エビフライにからあげ、卵焼きにプチトマトにブロッコリーとまるで狙ったかのように俺の好みを突いてきている。あれ、これむしろご褒美じゃね?すまん母さん、今までずっと言えなかったけど、俺弁当にミックスベジタブルを入れられるのは苦手なんだ。グリンピースが嫌いだからとかじゃない、箸で食べにくいからだ。だってあれ一粒ずつしか食べられないじゃないか。ああいうものを入れるならスプーンをつけるべきだと俺は思うね。まあともかく、あれとこれを交換できたのは幸運と言っていい。親不孝な息子をお許しください。

「それじゃあいただきま」

「あ、ちょっと待ってタカオミくん」

 箸を伸ばそうとしたところでえっちゃんがその手を留める。

「え、えっちゃん……!」

 ひどい、あんまりじゃないか。こんなにうまそうなお弁当が目の前にあるのに食べさせてくれないなんて。俺の腹の虫はもう限界なんだ……!

「そんなお預けされた犬みたいな目で見られても……」

「わん!」

 俺はさっとお手をしてみせる。人間は飢えると犬にでもなれるらしい。

「何ならおかわりもしますぜ、姐さん」

「いや別に要らないし。あのね、よく見てタカオミくん」

 視線を動かすと、えっちゃんのお箸には卵焼きが。

「嘘だろ……あれだけ食べておいてまだ食べるっていうのか?」

「人を食いしん坊みたいに言わないでくれるかな」

 いや少なくとも俺よりは食べるだろ。誰だよ、この間ラーメン屋連れてったら五杯もたいらげてから「替え玉頼んでもいい?」って言ったのは。曇った眼鏡ではふはふ食べてるのが可愛かったからうっかりおごっちゃったけどさ。おかげで今月は金欠で、母さんに弁当を作ってもらって食費を抑えているのだ。

「そんなことより。ほら、あーん」

「え?」

 思わず声を上げた瞬間口の中に卵焼きの味が広がった。何となくバターの風味がする。こんなところまで俺好みとは、お主なかなかやるな。

「どう?」

「おいしいです」

「そう、よかった。じゃあはい、あーん」

「いやちょっと待って、これはどういうもがっ!」

 ち、畜生……からあげがうますぎてなんも言えねぇ。

「あ、次エビフライください」

「はいはい、あーん」

 とそんなことをやっているうちに俺はえっちゃんのお弁当を完食した。

「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末さまでした」

 えっちゃんは満足そうににっこり笑って蓋を閉じた。

「で、一体なんでこんなことを?」

 腹が膨れて少し冷静になった俺は改めて彼女に尋ねる。

「今日はね、一ヶ月の記念日なんだ」

「一ヶ月?」

「分からない?」

 俺が頷くと、えっちゃんはおもむろに眼鏡を外してみせる。

「じゃあ、これならどうかな」

 眼鏡……あ、もしかして。

「眼鏡を買って一ヶ月ってこと?」

「うん、半分正解」

 えっちゃんはそう言って眼鏡を掛け直した。彼女によく似合っているそれを買ったのは初デートの時だ。

「まあもう半分は分からなくて当然。今まで言ったことなかったから」

 何なんだ、もう半分って。他に何かあったっけ?

「コホン。ええと……今日はですね、“私がタカオミくんを好きになった日”なのです」

 えっちゃんが俺を好きになった日?

「……つまり最初の一週間は好きじゃなかったと」

「ちょっ、どうしてそこに反応するかな。っていうか当たり前でしょ?あんな変な告白しておいて」

 あ、変だったんですか。反応からして成功したもんだとばっかり思ってました。

「まあそれはそれとして、記念してお弁当を作ってきたわけですよ」

「最初からそのつもりで持ってきたのかよ……」

「そうだよ?」

 何てこった。俺の弁当を食べたのも計画通りだったってわけか。えっちゃん、恐ろしい娘……!

「っていうか気付こうよ。私いつもこんな大きなお弁当食べないでしょ?」

 ええまあ、それはそうですね。その代わり休み時間にパンやらお菓子やらたくさん食べてますけどね。

「大体、タカオミくんのお昼ごはんを全部食べちゃうわけないじゃない」

 本当に食いしん坊なんだなぁ、としか思わなかった俺が悪いんでしょうか。そうですか。

「でも、好きになったってなんで?」

 記念すべき初デートには違いないが、特に何かした覚えも言った覚えもないぞ。

「タカオミくんにとっては何でもない当たり前のことだったんだろうけどね。私かなり目が悪くなってて、あんまり周りが見えてなかったでしょ?」

「まあ、おかげでかなり恥ずかしい過ちも犯しましたけどもね」

 そのぼうっとした視線を恋する乙女の瞳だと勘違いしたのはまだ記憶に新しい苦い思い出である。おかげで今の関係があるわけだが。

「あの日もすごく危なっかしく歩いてて。そしたらタカオミくん、隣でずっと声を掛けながら歩いてくれたの。ここ段差あるからね、とか」

「そうだったっけ?」

 ほとんど無意識にやっていたのか、あまり覚えていない。第一あの時の俺は女の子との初デートにテンパっていたし。

「じゃあそれがきっかけで?」

「ううん、違うよ」

「あ、違うんですか」

 紛らわしいなぁもう。てっきり『優しいところにキュンときちゃった☆』的な流れかと思いましたよ。

「まあ今はタカオミくんのそういうところも好きだけどね」

 えっちゃんははにかむように笑ってみせる。

「そ、それはどうも……」

 よせやい、照れるじゃないか。

「でね、タカオミくんったら可笑しいんだよ」

「え?」

「気をつけろって言ったくせに、自分でその段差に蹴躓くの」

 えっちゃんは思い出したようにふふっと笑った。

「ああ……そういやあの日はやけに転んだっけ」

 えっちゃんに『大丈夫?』なんて聞かれてものすごく恥ずかしかった記憶がある。

「で、本当に面白い人だなぁって思って、好きになったんだ」

「さいですか……」

 さっぱり分からん。えっちゃんのツボは不思議なところにあるようだ。

「そういえば、タカオミくんは私のどこが好きなの?」

 えっちゃんは小首を傾げる。

 そんなのは決まっている。アレしかない。

「眼鏡だよ」

「……今なら怒らないでいてあげるから、真面目に言ってくれる?」

「いや、ネタじゃないからね」

 ごほん、と咳払いをして俺は言った。


「――眼鏡の似合う、可愛くて優しい君が好きです」


「……よかった」

 えっちゃんはほっとしたように息を吐いた。

「なに?」

「もし最初の告白の台詞がそれだったら、タカオミくんとは付き合えてなかったと思うよ」

「ええっ!?」

 せっかく真面目に告白したのにその反応ですか。

「だって面白くないし」

 つん、とそっぽを向くえっちゃん。

「どんだけ笑いを求めてるんだよ……」

 あれですか、フツメンだからですか。イケメンと違ってユーモアがないとモテない感じですか。

「でも今ならちゃんと素直に受け止められるから大丈夫」

「ならいいけど」

 いつのまにかそんな危険な橋を渡っていたというのか……。えっちゃんとの会話は命懸けだ。

 でも今と昔で何が違うんだろう。そう思っているのが伝わったのか、えっちゃんはいたずらっぽく笑って答えた。

「今はね、タカオミくんが私を好きでいてくれてることがちゃんと分かるから」

「そういうもんですか」

「そういうものだよ。だってそうじゃなくちゃ本気かどうか分からないし。君はいちいち気障ったらしい台詞を選びすぎなの」

 えっちゃんは呆れたように溜息をついてみせる。

「え、だって格好良い方がよくない?」

「イケメンだったらね」

「ぐはッ!?」

 忘れた頃にまた刺された。畜生……これがフツメンの宿命か……。

「ごめんごめん、冗談だってば」

 やめてくれ本当に。俺の精神がもたないから。

「どうせイケメンじゃないですよーだ」

「拗ねないでよ。別に格好良くなくたっていいじゃない」

「げふッ!?」

 また刺されてしまった。『やめて!もうタカオミくんのライフはゼロよ!』なんて声が脳内で響く。

「全くもう……あのねぇ、タカオミくん」

 えっちゃんはもう一度大きく溜息を吐いて言った。

「私は格好良くないタカオミくんが好きなの」

「……ほんとに?」

 俺は涙の滲む目でえっちゃんを見上げる。

「ほんとだよ」

「ほんとにほんと?」

「ほんとにほんと。信じて」

「ほんとにほんとにほんと?」

「……しつこいよ、タカオミくん。本当だってば」

「じゃあちょっとネガティブで僻みっぽくて人見知りで顔面が残念で顔面も残念でかつ顔面が残念でその上顔面が残念でも、好きになる?」

「……」

 えっちゃんは黙った。黙ってしまった。

「……えっちゃん?」

「ごめん。それはちょっと無理かな」

 えっちゃんは目を逸らしてそう言った。




「……可哀想なタダキヨ」





今頃教室で独りやきそばパンを食べているであろう友を思い、俺はそっと涙を流すのだった。




どうも、昨日の強風にあおられて前髪が目に突き刺さってぎゃあああぁぁぁあああとなり、髪切ろうかな……と真剣に考えた鮃です。

私の眼鏡は基本ずり落ちているので役に立たないんですよね……。ちなみに目を守る最後の砦であるはずのところの睫毛は、私の場合逆さまに生えているので時おり目をぶっ刺してくる最大の敵です。

三年前別の用件で眼科に行ったとき、

「ひどい逆さ睫毛だねぇ。このまま放っておくと眼球が傷付いて視力が落ちたり病気になったりするかもよ?」

と言われ内心びびりました。

「床屋感覚でときどき切りにくる?」

「え、睫毛を?睫毛をですか?」

「そうだよ」

とまで言われそんなにひどいのか……なんて思ったものですが。ビューラーとかで直そうかな。


まあそれはさておき。

勢いとテンションだけで書き上げたお話なので今回も低クオリティですが、その辺は目をつぶってください。

しかし私コメディだと恐ろしいくらい筆が進むんですね。初めて知りました。勢いでそのまま書けるってのが大きいんでしょうか。あんまり難しいことを考える必要もないですし。とかいいつつぐちゃぐちゃした面倒くさい展開を書くのも大好きだったりしますが。


前回は「俺」と「彼女」だったのですが、今回名前が付きました。ちなみにえっちゃんの外見はこんな感じ(http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=40269497)です。

タカオミは過去の中二病を匂わせるようなキャラクターを目指したのですがどうでしょう?彼のせいで話がどんどん横にそれて大変でしたよもう。普段の恋愛モノであればえっちゃんとタカオミがいちゃいちゃして終わればそれでいいんですが、今回はコメディなので敢えてそこからずらしていきました。えっちゃんのツボが不思議なのはそのせいです。

ちなみにこの二人、モデルは私の友人カップルです。まるっきり一緒ではないですが、テンションは大体こんな感じ。タダキヨのモデルは私です、女だけど(笑)

彼をオチに使うのは最初から決めていたんですが、ちょっと微妙な終わり方をしたような気も……可哀想なタダキヨ。


まあそんなわけで、お粗末さまでした!

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[良い点] テンポが良くてサクサク読めました! ラブコメディなるものを今まであまり読んでいなかったのですが、初心者の私でも楽しめる作品です。 (えっちゃんとタカオミくんの甘酸っぱいやりとりに思わずにや…
[一言] 読ませて頂きました。 私、やっぱり鮃さんの作品大好きです。 でも、こんなにリア充の作品をニヤニヤしながら読めるのは、私がリア充なのか、ただ歳を取ったからなのか? えっちゃん可愛いですね。 こ…
[良い点] 可哀想なタダキヨw [一言] こちらはほんわり暖かい気持ちにさせられました。 可哀想なタダキヨ、友達に恵まれているのか? 甘甘カップルの話にもキュンと来たり。 鮃さんは読ませるのが上手…
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