ぼくという存在
母親の顔は覚えている。
父親の顔は覚えていない。
もしかしたら、生まれたばかりにあっているのかもしれないし――生まれてから一度も見たことないかもしれない。
……その母親も、ぼくが思春期に入る頃に死んだ。
空虚さが心に残った。
ぼくは知人の家に預けられたが、彼らとぼくは違う。
血のつながりはなく、ぼくは彼らに軒を借り、あとは自分でなんとかするような――そんな生活を送った。
はたちを迎えると、ぼくは当然のように独り立ちをした。
そこがぼくの母親と彼らの、契約の期限だったから。
……けれどぼくは、自分に執着はなく、生きるすべは身に着けていても、生きる意志はとても薄かった。
ぼくには不思議な力があった……。
けれどそれは、不思議ではあってもおかしいものではない。
世界はもう、おかしくなっている。
だからなのか、この世界では時折――本当に時々――不思議な力をもって生まれる。
その力はさまざまだ。
人を癒す。人を殺す。火を起こす。水を出す。光を発する。光を呑み込む。手元のものを移動させる。ものを引き寄せる。
ぼくの持つ『力』は、ぼくの持つ本来の力を増長させることだ。
足が速くなったり、目がよく見えたり……そんな感じ。
そんな力も相まって、少し変わった仕事をしたりすることも多かった。
もちろん、普通の仕事をすることも多かったけど。
仕事をして、その日金を稼いで、生活をする。
それで多分、適当に生きていくんだろうなぁ、と思いながら――
――どこかでこの日々を疎んでいた。
ぼくはきっと、死にたかったのだ。
あるいは、今のぼくを殺したかっただけかもしれないけれど。
……それでも、ぼくはきっと、死にたかった。
このまま、生き続けたくはなかった……
だからそう、このおかしくなった世界で――
ぼくは危険を承知で、あの仕事を引き受けた。
『死ねるかもしれない』と感じながら。
『こうやって死ぬのもいいな』と思いながら。
『ぼくは死ぬとき、何を思うのだろう』と夢想しながら。
ぼくはあの仕事を引き受けた。
『とある少女を護衛せよ|(ただし、今回の護衛は一人のみ)』
……それが、運命的なまでにぼくを変えることも知らずに――
――ぼくは死ぬために、その仕事を引き受けた。




