届かない手紙
それを思い出したのは偶然だった。
いっそ、必然だと思えたら良かったのだけれど。
令和の時代になっても私は手紙を書く。
LINEやメール、そうでなくとも電話を使えばどれだけ離れていても意思の疎通なんて容易いけれど。
それでも、私は自分の文字を相手に見せるのが好きだったから。
だから私は手紙を書く。
友達に笑われても、書き続けている。
「あっ」
そんな折に。
私はふと思い出す。
自分が自分じゃない時代。
LINEどころか、電話もない時代。
大切な人に書いた手紙を。
「そっか。出せなかったんだ」
死んじゃったから。
私が。
「思い出すもんね。前世って」
我ながら呆れる。
大切な人が誰だったかも思い出せないのに、その行動ばかりどうにも記憶に残り現世まで引っ張られているなんて。
「ちょっとだけ。本当にちょっとだけ、ね」
我ながら呆れる。
宛先もない手紙を書いてみるなんて。
当時……というと少し変だけれど。
可能な限り当時を思い出しながら。
「あぁ」
顔も名前も思い出せない。
どんな人だったかも分からない。
けれど、とっても大切だったことだけは覚えている。
だから、きっと。
『生まれ変わっても、必ずあなたに会いに行きます』
こんな結びを書いてしまうのだろう。
「馬鹿みたい」
くすくす笑いながら、私は宛名も書かずにポストへ出す。
こんなもの戻ってきて当然だけれど。
と言うより戻ってくるはずのものなんだけれど。
――手紙は結局戻ってこなかった。
*
手紙を出してから一週間ほどして。
近所のお爺さんが亡くなったと聞いた。
子供の頃に数度会ったばかりのお爺さん。
子供が好きなのか、いつもニコニコと見つめていた。
「穏やかな顔で亡くなられたの」
伝え聞いて私はぽつりと呟く。
「この町にはもうあのお爺さんは居ないんですね」
特に意味のない言葉。
受け取り手もおらず、風で流れていくばかり。
LINEが鳴る。
見れば彼氏からの連絡だ。
「行かないと」
はい。
いってらっしゃい。
そんな声を受けながら、私はポストの脇を通りすぎた。




