第8章:宮殿での絆
雪明かりに包まれたヴァルディア宮殿の朝。
ミサは昨夜より少し落ち着いた心で目を覚ます。
窓の外には白銀の景色が広がり、冷たくも美しい光が差し込んでいた。
「おはようございます、ミサ様」
エリナが朝食を運びながら、にこやかに声をかける。
栗色の髪をきちんと束ね、柔らかい茶色の瞳を細めて微笑む姿は、見ているだけで安心感を与える。
「おはようございます……」
ミサは少し照れくさそうに微笑みながら、昨日の緊張を思い返す。
「昨日より、少し落ち着けそうです」
エリナはやさしくうなずき、トレーを置く。
「よかったですわ。無理に頑張る必要はありません。少しずつで大丈夫です」
静かなノックの音が客室の扉から聞こえた。
「どうぞ」
ミサが答えると、扉がゆっくり開き、イザベルが顔を覗かせる。
長身で引き締まった体格、凛とした姿勢、黒く長い髪を一つに束ね、深い赤茶色の瞳が鋭くも優しく光る。
黒い鎧は軽装ながら、戦士としての筋肉としなやかさを際立たせていた。
「ミサ様、失礼いたします。今日は私もご一緒します。宮殿内を案内しながら、色々お手伝いできればと思います」
ミサは少し驚きながらも、心の中で安心感を覚えた。
「……はい、よろしくお願いします」
廊下を歩きながら、ミサは少しずつイザベルに質問する。
「イザベルさん……どうして私の護衛騎士になったんですか?」
イザベルは少し考え込み、落ち着いた声で答える。
「……レオンハルト様の判断です。私は彼を信頼していますし、ミサ様を守ることが最善だと命じられました」
ミサは少し驚きながらも、胸の奥で安心感が広がる。
「……ありがとうございます。頼りにしています」
イザベルは頷き、肩越しに柔らかく視線を送った。
「これからずっと、守ります、ミサ様」
廊下を進む二人は、宮殿内の広間でレオンハルトと護衛たちに出会った。
カイル、エドワード、ルーカス――最初こそ警戒していたが、ミサの穏やかな挨拶に少しずつ笑みを返す。
「おはよう、ミサ」
レオンハルトは落ち着いた声で呼びかける。
「少しずつ慣れてきたか?」
ミサは頷き、微笑み返す。
「はい……昨日よりは、少しだけ」
昼食時には、イザベルが自然とミサの隣に座る。
「宮殿の生活にはまだ戸惑うことも多いでしょう。遠慮なく私に聞いてください」
ミサは頷き、少し口を開く。
「ありがとうございます……イザベルさんがそばにいてくれると、心強いです」
エリナも加わり、食後にはお茶を飲みながら笑顔の会話が続く。
昨日の緊張や怖さ
宮殿での暮らしの戸惑い
これからどうやって慣れていこうか
少しずつ、ミサは言葉にできるようになり、心が和らいでいく。
「皆さん、優しいですね……」
小さな声で言ったミサに、イザベルは柔らかく微笑み、肩に軽く手を置く。
「これから、ずっと守ります、ミサ様」
外にはまだ雪がちらついていたが、ミサの胸には少しずつ暖かい光が灯り始めていた。
宮殿での生活――人々との絆――
ここで、少しずつ心を開き、強くなれる予感が、静かに芽生え始めたのだった。