第6章:国王陛下との対面
雪明かりに包まれたヴァルディア宮殿の朝。
昨夜はレオンハルトの言葉に励まされ、安心して眠ることができたミサは、ゆっくりと目を覚ます。
客室に入ってきたのは、清楚な装いの若い女性メイド。
栗色の髪をきちんと束ね、落ち着いた瞳で微笑む。
「おはようございます。今から国王陛下にお会いになるので、お召し物を整えさせていただきますね」
ミサは少し戸惑いながらも頷く。
「えっと……はい、お願いします」
メイドは柔らかな手つきで旅装束を整え、宮廷服を手渡す。
「初めての宮廷服でしょう?緊張なさることはありません。私が手伝いますから」
ミサはほっと息をつく。
「ありがとうございます……」
鏡の前でメイドが髪を整え、服の裾や袖を丁寧に直す。
「お似合いですわ。落ち着いた雰囲気がとてもよく出ています」
ミサは少し頬を赤らめ、照れくさそうに微笑む。
「……そうでしょうか……」
メイドはにこやかにうなずき、声を落ち着かせる。
「堂々としていれば、自然と相手に好印象を与えられます。今から国王陛下にお会いになられるのですから、緊張されるのは当然です」
「よろしければ、私も廊下までご一緒してお導きします」
「……お願いします」
こうして準備を終えたミサは、少し凛とした姿で客室を出る。
廊下に足を踏み入れると、レオンハルトがすでに待っていた。
黒髪に赤い瞳――冷たくも強い視線を持つ青年だ。
「緊張することはない。私が傍にいる」
その言葉だけで、ミサの心は少し安堵する。
騎士たちが彼の後ろに控え、警戒しながらも整列している。
体格の良いカイルは屈強な腕を組み、鋭い目で周囲を見渡す。
長身のエドワードは端正な顔立ちで、落ち着いた雰囲気を纏っている。
そして笑みを絶やさないルーカス――少年のようなあどけなさもありつつ、目には芯の強さが光る。
ミサは初めて顔を合わせる騎士たちを、ちらりと目で追いながら少し緊張する。
やがて広間の扉が目の前に現れる。
大理石の床に反射する光、壁に掛けられた王家の紋章、重厚なカーテン――
その奥に、威厳ある姿の国王が椅子に座していた。白髪交じりで、深い緑色の瞳が静かにこちらを見つめる。
ミサは深くお辞儀をし、声を震わせながら呼びかけた。
「国王陛下、はじめまして。桐原美沙と申します。よろしくお願いいたします」
国王はゆっくりと立ち上がり、落ち着いた声で応じる。
「グランベル王国でうまくいかなかったそうだな」
ミサはうつむき、声を潜める。
「はい……私は力を発揮できず、結果として追放されてしまいました」
レオンハルトは国王の隣に立ち、静かに視線を送る。
「だが、ここヴァルディアで安心して過ごさせる。我々が見守る」
国王は短く頷き、柔らかく微笑む。
「なるほど。ここで静かに力を蓄えなさい。私も注視している」
ミサは深くお辞儀を返し、感謝の意を込めて答える。
「はい、国王陛下……ありがとうございます」
こうして、初めての宮殿での正式な挨拶を終え、レオンハルトに導かれ客室へ戻るミサ。
静寂と朝日の温かさに包まれ、少しの勇気と希望が胸に芽生えた。
今日から始まる、新しい生活の第一歩を、確かに踏み出したのだった。