第5章:客室での夜と安らぎ
客室に案内され、暖炉の柔らかい光に包まれながら、ミサは肩の力を抜く。
雪と馬で冷え切った体が少しずつ温まる中、メイドがにこやかに声をかけた。
「お食事の用意も整っております。どうぞお召し上がりください」
豪華に並べられた料理に少し戸惑うミサ。
しかし隣に座るレオンハルトが、静かに微笑む。
「無理に急いで食べる必要はない。まずはゆっくり体を温めることだ」
ミサは頷き、スープを口に運ぶ。
温かい味が体に染み渡り、旅の疲れと緊張が少しずつ解けていく。
食事をとりながら、レオンハルトはふと目を向けて言った。
「明日、国王陛下――父に会いに行こう」
ミサは少し驚き、うつむきながらも返す。
「……はい、国王陛下に……」
レオンハルトは優しく笑い、手を軽く握る。
「今夜はここでゆっくり休めばいい。焦る必要はない」
その言葉に、心の奥にふっと安心が広がる。
「……そうですね、少し休みます」
食事を終えると、レオンハルトは立ち上がり、で部屋を出て行った。
ミサは一人残され、静かに頷く。
窓の外には雪がしんしんと降り積もり、宮殿の静寂が包む。
少しの不安はあるものの、レオンハルトの言葉が心の支えになっていた。
メイドに促され、湯気の立つ浴室へ向かう。
体を湯船に沈めると、冷え切った体がじんわり温まり、筋肉の疲れもほぐされていく。
「……温かい……」
思わず小さくつぶやき、今日の出来事を振り返る。
雪の中での出会い、騎士たちの存在、追放された過去。
不安はあるが、ここでは少なくとも自分を見守る存在がいると感じられた。
湯船から上がり、柔らかなナイトガウンに身を包むと、ベッドに横たわる。
暖炉の残り火と雪景色の静けさに包まれ、心も体もゆっくりと安らいでいく。
「……明日は、国王陛下に会う……」
少しの緊張は残るが、レオンハルトの言葉と、今夜の静かな時間が心に安心感をもたらしていた。
こうして、初めての宮殿での夜を、穏やかに明かすことができた。