第四章:宮殿での初日
客室の椅子に腰を下ろしたミサは、暖炉の柔らかい光に包まれながら深く息をついた。
雪と馬の疲れが体中に残っているが、肩越しに感じる黒髪と赤い瞳のレオンハルトの存在が、不思議と心を落ち着かせる。
「少し休むといい」
レオンハルトは優しく微笑みながら言う。
ミサは頷き、差し出された温かい飲み物を手に取り、一口ずつ体に染み渡るのを感じた。
しばらくすると、部屋の扉がノックされる。
「王子、客室の安全は確保済みです」
カイルの落ち着いた声が聞こえる。銀髪の彼は、依然として警戒心を緩めない。
ダリウスは長身でがっしりとした体つき、黒い髪に鋭い目を持ち、部屋の隅で周囲を警戒している。
セリオは柔和な顔立ちだが、観察力が鋭く、部屋の隅々まで目を配る。
レオンハルトは「皆、ここで待っていてくれ」と一声かけると、カイルたちは静かに従い、少し距離を置いて部屋の外に控える。
ミサは心の中で、まだ彼らに信用されていないことを感じた。しかし、レオンハルトの揺るがぬ信頼は確かに存在する。
「……この人は、きっと私を守ってくれる」
心の中で小さくつぶやき、疲れた体を椅子にもたせかける。
休息の時間が過ぎると、レオンハルトはそっと立ち上がり、「そろそろ宮殿内を案内しよう」と声をかける。
ミサはまだ少し緊張していたが、レオンハルトの手を借りながら立ち上がる。
騎士たちは依然として距離を保ちながら、整列して後ろに控える。
宮殿内を歩きながら、ミサは広大な空間に圧倒される。
天井の高さ、絵画や装飾の豪華さ、暖炉のぬくもり。
それらすべてが、前にいたグランベル王国の冷たさとは対照的で、心に安心感をもたらす。
レオンハルトは穏やかに話しかける。
「ここでは無理をする必要はない。疲れたら休めばいい」
その言葉に、ミサは少し肩の力を抜くことができた。
まだ聖女としての力は覚醒していない。
しかし、追放された過去とは異なり、周囲には守ってくれる人々がいる。
そして、黒髪で赤い瞳の青年――レオンハルト――の存在が、未来への希望を少しずつ膨らませていた。